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整形外科の痛みにオピオイドは必要か [医学・医療短信]

整形外科の痛みにオピオイドは必要か
東京新宿メディカルセンター脊椎脊髄センター長 川口浩


 研究の背景:オピオイドは国の恥?

 先日、ついに担当編集者から「幅広く話題を扱うように」というご指導を受けてしまった。

 そうはいっても、私は6年ほど前に東大整形外科の教授選に落選して以来、すっかりグレてしまっている。

 世の中に恐いものが、家内以外に存在しない。

 いつも、とんでもないことばかり考えている。

 自分では崇高だと思っている持論が、人が聞くと荒唐無稽、無意味に過激で公序良俗に反するらしい。

 私が「幅広く話題を扱う」と、間違いなくボツである。

 私は酒が弱く外飲みは超苦手だが、家飲みは唯一の生きがいである。

 家飲みしながらご高説を垂れるのが何よりの至福のときである。

 家飲みに付き合ってくれている恐い人から、

「そんなことは絶対に外でしゃべるな」と、いつもくぎを刺されている。

 自制心がなくなる前に肝硬変で死んでほしいと願っているに違いない。

 というわけで、今までは強固な自制心を持って、「ロコモ」や「プレガバリン」などの当たり障りのない陳腐な小ネタにとどめてきた。

 注・運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態を「ロコモティブシンドローム(略称:ロコモ、和名:運動器症候群)」といいます。
  進行すると介護が必要になるリスクが高くなります。 ロコモは筋肉、骨、関節、軟骨、椎間板といった運動器のいずれか、あるいは複数に障害が起こり、「立つ」「歩く」といった機能が低下している状態をいいます。
 進行すると日常生活にも支障が生じてきます。
 2007年、日本整形外科学会は人類が経験したことのない超高齢社会・日本の未来を見据え、このロコモという概念を提唱しました。

 運動器とは、身体運動に関わる骨、筋肉、関節、神経などの総称です。

 プレガバリンは、神経障害性疼痛に用いられる医薬品。商品名リリカ。

 今回は、担当編集者と恐い人のご意向を勘案して、「麻薬と整形外科」というマイルドな話題にする。

 紹介する論文は、整形外科では超メジャー疾患である慢性腰痛と変形性関節症痛の患者を対象とした、オピオイド(麻薬性鎮痛薬)と非オピオイド鎮痛薬とのランダム化比較試験(RCT)である。

 これらの疾患の国際治療ガイドラインでは、総じてオピオイド鎮痛薬の使用には否定的である。

 背景には、薬物依存、過剰摂取による死者数の増加が挙げられる。

 特に米国では深刻な社会問題となっており、例の大統領は「国の恥だ」とまで明言している。

 研究のポイント:オピオイドと非オピオイドで鎮痛効果に差なし

 Minneapolis Veterans Affairs(ミネアポリス退役軍人医療センター)のシステムで実施された前向き非盲検試験で、中等度から重度の慢性的な腰痛、および変形性膝関節症、変形性股関節症による痛みを有する患者240例(平均年齢58.3歳、男性208例、女性32例)が、オピオイドまたは非オピオイドの2群にランダムに割り付けられた。
 
 薬物依存、過剰摂取の患者は除外されているが、両群の薬剤の選択肢が多岐にわたり、前向き試験というよりも実臨床試験の様相がある。

 オピオイド群は、速効性モルヒネまたはオキシコドンまたはヒドロコドン/アセトアミノフェン配合剤から始めて、持効性モルヒネまたはオキシコドンまたは経皮的フェンタニルに進み、モルヒネ換算で100 mg/日までの漸増を許可している。

 非オピオイド群はアセトアミノフェンおよび非ステロイド抗炎症薬(NSAID)から始めて、必要に応じて三環系抗うつ薬、ガバペンチノイド、局所鎮痛薬、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、およびトラマドールに進む。

 主要アウトカムはBPI(Brief Pain Inventory)スケール(全般的な痛み)で、主として電話調査によって1〜3カ月ごとに、1年間モニターされた。

 1年後、全般的なBPIスケールは、オピオイド群と非オピオイド群の間で有意差はなかった(3.4 vs 3.3、P=0.58)。

 副次アウトカムである疼痛の強度はオピオイド群の方が非オピオイド群よりも有意に高かった(4.0 vs 3.5、P=0.03)が、この臨床的意義は境界線上であった。

 全体の有害事象に群間差はみられなかったが、投薬と関連する有害事象は、オピオイド群で有意に高かった。

 私の考察:非オピオイド抵抗性の痛みに対する治療レジメン開発を

 慢性的な腰痛、および変形性関節症痛に対するオピオイドの鎮痛作用に対する否定的な結論で、予想通り有害事象の増加が指摘されている。

 ほとんどの国際治療ガイドラインを支持する結果といえる。

 さて、オピオイドによる鎮痛療法については、わが国と欧米ではかなりの差がある。

 帝京大学整形外科主任教授の河野博隆氏によると、一般的に日本では麻薬は「悪い薬」という認識によるアレルギー反応があるため、患者1人当たりの麻薬使用量は欧米の10分の1以下であるらしい。

 また、術後疼痛コントロールにおける整形外科医の麻薬使用量は、外科医と比べてもはるかに少ないということである。

 整形外科医がオピオイドを用いるのは、骨転移症例におけるがん性疼痛がほとんどであるが、日本の整形外科医は「がん」と距離を置く傾向が強く、骨転移診療は多くの整形外科医が自分とは関わりのない領域と考えているのが実状である。

 今の日本で実際に骨転移の疼痛管理に携わっているのは、緩和ケア医と放射線科医であろう。

 現在、日本において慢性疼痛に適応を有するオピオイドは、トラマドール、ブプレノルフィン、リン酸コデイン、塩酸モルヒネ、フェンタニル製剤である。非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬処方の指針としては、日本ペインクリニック学会のガイドライン(初版と改訂第2版)があるが、推奨度/エビデンスレベルは、慢性腰痛および変形性関節症痛ともに2Bと低評価である。

 推奨用量についても、初版のモルヒネ換算120mg/日から、第2版では60mg/日(上限は90mg/日)に減少している。

 整形外科の多くの患者の主訴は疼痛である。

 街で覚えていない患者に声をかけられたときは、「痛みはどうですか?」と答えておくと、だいたい話が通じる。

 問題は、一般的な非オピオイド鎮痛薬に抵抗性の患者が実臨床の現場では多く存在することである。

 事実、本論文においても、活性対照であるはずの非オピオイド鎮痛薬(アセトアミノフェン、NSAID、当然ながらガバペンチノイド)も、これら整形外科一般疾患の慢性疼痛には無効であるか、有効性は最小限であるという結果は注目すべきではある。

 現場としては、乱用防止を守りつつ、強オピオイドを含めた疼痛治療レジメンの開発が待たれる。

 さて、自身の存在自体が「国の恥」であることを気付いていないどこかの大統領と比べて、わが国のファーストレディー、アッキーは立派である。

 首相夫人の立場で公然と「医療用大麻の解禁」を訴えたときにはブッ飛んだ。

 本件だけではなく、自分がフェアで正しいと考える多くの活動を、夫とは独立した個人として、確信犯的に遂行する姿勢には、私は心からの敬意を表し、陰ながら応援している。

 最近、愛媛だの大阪だのの陳腐な案件で、取るに足りない揚げ足取りによって現政権の雲行きが怪しいので、アッキーが首相夫人の立場を利用できるのも短いかもしれない。

 周りの雑音に左右されないで、堂々と、立場を利用して、自身の主張を発信し続けてほしい。

 旦那の方も、訳の分からない魑魅魍魎の連中相手に無駄な時間を使っているよりも、さっさと辞めてアッキーと家飲みでもしていた方が、数倍、健康的な人生である。

 一族の悲願である改憲は遠のくかもしれないが、彼がやらなくても、最近の日本は戦闘国家になる資質を十分に持っている。

 タレントの不倫バッシング、アッキーや佐川氏の国会招致など、魔女裁判のように公衆にさらすことで「溜飲を下げる」ことを社会正義と信じて疑わない。

 メディアに躍らせされているだけの、日本人のチープなポピュリズムこそが、日本を戦闘国家に走らせる元凶であることを気付くべきである。

「世論」という大義をもっと冷静になって再考すべき時代である。

 これくらいなら怒られないだろう。

 『MedicalTribune』 2018年04月23日
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骨折予防にサプリは効くか? [医学・医療短信]

米・骨折予防でサプリの非推奨を継続
USPSTFが2013年の勧告を改訂

 米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、2013年に発表した「成人の骨折予防を目的としたビタミンDおよびカルシウム(Ca)のサプリメント摂取」についての勧告を改訂した。

 2013年以降に発表された報告を合わせて解析した結果「地域在住の成人に対し、骨折の予防(初発予防、以下同)を目的にビタミンDおよびCaサプリの単独あるいは併用摂取を推奨するためのエビデンスは十分でない」との結論に達し、従来通り「骨折予防目的でのビタミンD、Ca摂取を推奨しない」こととした。

 全文はJAMA(2018; 319: 1592-1599)に掲載された。

低用量摂取では有意な予防効果なし

 高齢化に伴い、疾患や死亡の主な原因として骨粗鬆症性骨折が注目されている。

 米国内の骨粗鬆症性骨折件数は、2005年の200万件から2025年には300万件超に増加するとみられている。

 加えて、大腿骨近位部骨折から1年以内に患者の約40%は自立歩行が困難となり、約60%は日常生活での介助が必要となる。

 1年以内の死亡率は20~30%で、女性より男性で有意に高いと報告されている。

 そこで、USPSTFは2013年以降に発表されたビタミンDまたはCa日の摂取と骨折の関連を検討した論文に関してシステマチックレビューを行った。

 システマティック・レビュー(systematic review)=文献をくまなく調査し、ランダム化 比較試験(RCT)のような質の高い研究のデータを、出版バイアスのようなデータの偏り を限りなく除き、分析を行うこと。根拠に基づく医療(EBM)で用いるための情報の 収集と吟味の部分を担う調査である。

 システマチックレビューの結果を見ると、ビタミンD 400IU/日以下の単独摂取試験(2件)では骨折アウトカムに有意差は生じなかったのに対し、高用量摂取試験(①初回20万IU、その後10万IU/月摂取②4カ月間隔で10万IU摂取)では一部の骨折アウトカム(結果、成果)でのみ有意な低下が示された。

 Ca単独摂取の2試験(①1,200mg/日②1,600mg/日)ではCa摂取による骨折アウトカムの有意差は示されなかったが、両試験とも検出力が不十分であった。

 ビタミンDとCaのサプリを併用した2試験のうち、3万6,282例を対象としたWomen's Health Initiative(WHI)試験(ビタミンD3 400IU/日+Ca 1,000mg/日)では、いずれの骨折アウトカムについてもプラセボ群とサプリ群で有意差が認められなかった。

 もう1件の試験(ビタミンD 700IU/日+Ca 500mg/日)では、大腿骨近位部骨折に関する有意差は見られなかったが、非椎体骨折についてはサプリ群で有意に低下していた。

 サプリ摂取による害の検討では、全死亡および心血管疾患発症率への影響は見られなかった。

 腎結石に発症率ついては、2~4年間のCaサプリ単独摂取では上昇が見られなかったのに対し、4~7年間に及ぶビタミンDとCaの併用摂取では有意に上昇していた。

 勧告骨子は2013年版から変化なし

 USPSTF(米国予防医学専門委員会)は前記の方法で得られた最新のエビデンスに基づき、2013年に発表した勧告の改訂を行った。

 今回の勧告内容は前回とほぼ同じで、下記の3項目となった。

①地域在住の男性および閉経前女性における骨折予防を目的としたビタミンDおよびCaの単独あるいは併用摂取のベネフィットと害のバランスを評価するには、現行のエビデンスでは不十分

②地域在住の閉経後女性における骨折予防を目的としたビタミンD 400IU/日超およびCa 1,000 mg/日超の摂取のベネフィットと害のバランスを評価するには、現行のエビデンスでは不十分

③地域在住の閉経後女性における骨折予防を目的としたビタミンD 400IU/日以下およびCa 1,000mg/日以下の摂取は推奨されない(推奨度D)

 ただし、この勧告は地域在住の無症候の成人を対象としており、骨粗鬆症性骨折の既往を有する者、転倒リスクの上昇が認められる者、骨粗鬆症またはビタミンD欠乏症と診断されている者には適用されないと明記している。(古川忠広)

Medical Tribune 2018年04月25日
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その痛み、天気痛かも? [医学・医療短信]

 「天気痛」とは、もともと持っていた頭痛・めまい・気分障害などの症状が、天気の変化により顕著になる状態をさします。

 天気が悪くなるとひどくなる慢性の痛み・症状は、天気痛かもしれません。

 痛み・症状の改善には、天気痛のメカニズムを知り、適切に対処することが重要です。

国内で約1000万人が悩む「天気痛」とは
痛みがひどくなるのは天気のせいだった!?

 「前線や台風が近づくと頭痛がする」「雨が降ると関節が痛む」など、天気痛の症状はさまざまです。

 天気が下り坂になると痛む人もいれば、天気が回復に向かうと痛む人もいます。

 天気痛に悩む人は、日本では約1000万人にのぼると推定されています。

 気圧、気温によって痛むのは天気痛のおそれが

 天気のどういった要素に影響を受けるかは、元の病気や症状により異なります。

 一般的には、下のような影響を受けることがあると、知られています。

 ① 病名 ②影響を受ける事象 ③症状

 ① 片頭痛 ②気圧の低下、上昇。③痛みが生じる

 ① 緊張型頭痛、頸椎症、肩こり、変形性関節症、腰痛症 ②気圧や気温の低下 ③痛みが強くなる

 ① 関節リウマチ ②気圧の低下、湿度の上昇 ③腫れや痛みが悪化する。(気圧低下の3日後が顕著)

 ① 繊維筋痛症 ②気圧の低下、気温や湿度 ③痛みがひどくなる

 このほかにも、めまい・メニエール病、耳の症状(耳の奥がツーンとする、耳鳴りがする、聞こえが悪くなった感じがするなど)、気管支ぜんそく、古傷の痛み、更年期障害、認知症の副症状(徘徊や暴言など)、うつ・不安症(神経症)なども、天気に症状が左右されることがあります。

 慢性の痛みは脳を変えてしまう

 痛みがくり返されるようになると、脳の「扁桃体」や「前頭前野」、「海馬」といった部分が変容すると考えられています。

 脳の「扁桃体」は不安や恐怖を感じるとストレスホルモンを分泌させ、交感神経を興奮させます。

「前頭前野」は感情や行動を抑制する働きがあり、「海馬」は記憶などに関わる部分です。

 痛みがくり返されると、脳の「扁桃体」が過敏になり、「前頭前野」や「海馬」が萎縮するため、本来ならば痛みと感じないことを痛みと感じたり、不安・恐怖や身体反応が大きくなったりするのです。

 このような脳の変容を防ぐために、強い痛みが出た場合はなるべく早い段階でその痛みを取り除くことが重要です。

天気痛の症状をチェックしよう

 次の項目に当てはまるものが多ければ、天気痛の可能性が高いといえます。

*ただし、当てはまるからといって必ずしも天気痛とは限りません。

□なんとなく、雨が降りそうだとわかる
□季節の変わり目は具合が悪い
□寒さが苦手。冷え性だ
□乗り物酔いしやすい
□耳鳴りしやすい。耳抜きが苦手
□過去に首を傷めたことがある
□ストレスが多い

天気痛が起こるメカニズムとは?

内耳のセンサーが敏感な人がなりやすい

 人間の内耳(耳の奥)には、外からかかる気圧の変化を感知するセンサーがあります。

 天気痛を発症する人は、生まれつき内耳が敏感な人が多いと考えられていますが、ケガや事故をきっかけに、内耳のセンサーの感度が変化することで発症するケースもあると思われます。

痛みのメカニズムは変化する

 天気痛が起きる原因については研究が進められている段階ですが、次のメカニズムによって引き起こされるのではないかと考えられています。

基本的なメカニズム

天気(気圧など)が変化する

内耳にある気圧センサーが過剰反応、脳へ伝達

a交感神経が興奮し、血流悪化 →b興奮した筋肉が末梢神経を圧迫・損傷=痛みが発生

c血管の収縮が進み、さらに血流が悪化→

d天気の変化などのストレスが続くことでa→cが繰り返される。=痛みの悪循環に

 また、このような痛みがくり返されると、交感神経の活動が弱まり、神経伝達物質であるノルアドレナリンの放出量が少なくなります。

 すると末梢神経は、少なくなったノルアドレナリンをできるだけキャッチしようと、受容体を増やします。

 そのため、天気の影響が末梢神経にダイレクトに伝わるようになると推測されています。

 たとえば、「雨が降ると古傷が痛む」というケースは、このようなメカニズムで起きていると考えられます。

新幹線や飛行機、高層ビル……日常にある気圧変化にも注意
 
 高速移動する乗り物や高層ビルのエレベーター、地下鉄、大型ドーム型建造物などでも、気圧の変化が生じています。

「天気痛」の引き金になるので、内耳が敏感な人は、できるだけ避けるといいでしょう。

 天候による気圧変化を調整し、鼓膜にかかる圧力をコントロールできる特殊な構造を持つ耳栓もあるので、そういったものを使うのもよいでしょう。

 新幹線は、トンネル通過中に台風並みの気圧変化が起きますが、真ん中あたりの車両だと気圧変化が比較的少なくすみます。

 飛行機は近年、従来よりも気圧変化が少ない機体での運行も始まっているので、予約するときに確認してみるのもいいでしょう。

天気と痛みの関連を知ることが予防の第一歩
まずは激しい痛みが出るのを防ぐ

 天気痛の治療は、3つのステップで進めます。

<ステップ1>自分の痛みが天気の影響を受けることを知り、服薬などの対策をし、痛みを防ぐ。

<ステップ2>痛みを強く感じずにすむように客観的にとらえる方法を身につけていく。

<ステップ3>慢性痛の原因になっている、根本の病気の治療に取り組む。

 激しい痛みがある状態では、その痛みに耐えることで精一杯になってしまい、根本の病気の治療に取り組む余裕が持てません。

 まずは痛みを防ぐことで、痛みを恐れる気持ちがやわらぎ、自分の痛みを客観的にとらえることが可能になります。

 そして、この段階で初めて、慢性痛の原因になっている病気の治療にも本腰を入れて取り組めるようになるのです。

まずはセルフケアで予防を

 いきなり痛みをゼロにしようとせず、まずは激しい痛みが出ないようにすることを目標に、次のような対処法を実践してみましょう。

○「痛み日記」をつける

 「天気」「気圧の変化」「日記」「痛み」「運動」「睡眠」などの6項目を毎日記録します。

 「日記」にはその日の出来事、感じたストレス、服用した薬、痛み以外の症状やその症状が出たタイミングを、「痛み」は0(痛みなし)から10(今までで最大の痛み)で記入し、自分の痛みのパターンを分析します。

○天気予報をチェックする

 天気や気圧の変化がわかれば、服薬のタイミングや生活ペースを調整できます。気象庁の予想データがわかる体調管理アプリ『頭痛ーる』を活用するのもおすすめです。

○首回りのストレッチを行う

 首回りの筋肉をやわらかくしておくと、筋肉の血流がよくなるとともに、内耳の血流がよくなり、気圧変化に対してセンサーが過敏に反応しなくなると考えられています。

 治療中の人は主治医に相談しながら、1日1~3回程度を目安に行いましょう。

※痛みやしびれが出ないように、筋肉が少し伸びて気持ち良く感じる程度に。

 息を吐くときに伸びを感じるのがポイント。1カ所につき30秒~1分程度を目安に。

※ストレッチ監修/櫻井博紀(常葉大学保健医療学部准教授、愛知医科大学学際的痛みセンター理学療法士)

【あごの下・首のストレッチ】

 下あごのラインに沿って両手を当て、真上に持ち上げます(後ろに倒すのではなく真上に)。

 あごを持ち上げたまま、首を45度くらい左右へ回旋させます。

【首の後ろ・横のストレッチ】

 右手を頭の左側に乗せ、頭を右側に倒し、手の重みで頭と首を、横・斜め前に伸ばします。手で力を加えないように注意し、反対側も同様に行います。

○薬を飲むタイミングを見直す

 痛みの予兆であるめまいを生じたり、天気の変化により痛みが出ると予想されたりする場合には、早い段階で抗めまい薬を飲むと、内耳のセンサーが天気の変化に対して過剰反応するのを防げることもあります。

 医師に相談してみるとよいでしょう。

○漢方薬を使う

 体質や症状によっては漢方薬を併用することで治療効果が高まることもあります。

 自己判断で飲むのは控え、現在治療中の人は主治医に、治療を受けていない人は薬剤師に相談を。
日々の生活習慣の見直しも忘れずに

 天気痛を防ぐには、自律神経の働きを整えることも重要です。

 そのためには、朝食を必ず食べる、軽めのランニングやウォーキングなどの運動をする、入浴は湯船につかる、寝る前にはスマートフォンやパソコンの使用は避ける、といった生活習慣を日頃から心がけるとよいでしょう。

監修:佐藤純(愛知医科大学 学際的痛みセンター客員教授)
「みんなの健康ライブラリー」2018年3月掲載より (C)保健同人社   
毎日新聞 医療プレミア 2018年4月25日

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海外旅行中の医療 [医学・医療短信]

海外旅行中の病院 どう探す?どう使う?

大型連休が始まる。

海外旅行をされる人も多いでしょう。

海外で病気になったり、けがをしたりしたら、どのように病院にかかったらいいでしょうか。

濱田篤郎・東京医科大学教授(渡航者医療センター所長)のお話をご紹介します。

「武器よさらば」とミラノの病院

 海外の病院が舞台になる小説に、アーネスト・ヘミングウェーの「武器よさらば」があります。

 時は第一次大戦の最中、場所はイタリアのミラノ。

 主人公のアメリカ人兵士が戦場で足に大けがをし、ミラノの病院に担ぎ込まれます。そこで旧知のイギリス人看護婦と再会し、二人は恋に落ちます。

 異国での入院生活にもかかわらず、主人公は夢のような日々を過ごすのです。

 この小説にでてくる病院は、ヘミングウェー自身が第一次大戦中にけがをして運ばれたミラノの病院がモチーフになっています。

 アメリカ赤十字社がイタリアに滞在するアメリカ人兵士のために開設した病院で、院内では英語が通用し、自国スタイルそのままの入院生活が送れたのです。

 不満第1位は言葉の問題

 こんな病院があれば海外でも安心して受診できますが、実際は現地の人がかかる病院や診療所を利用するのが一般的です。

 では、海外の医療施設を受診する際にどんな問題点があるのでしょうか。

 私たちは、海外の医療施設にかかったことのある人を対象に、「何が不満だったか」を調査したことがあります。

 第1位には「言葉が通じない」という点が挙げられました。

 日本でも医師に自分の症状を伝え、説明を聞くにはかなりの神経を使いますが、これが外国語であれば、なおさらです。

 もし、滞在する街に日本人や日本語の話せる医師がいれば、そこを受診するのもいいでしょう。

 また、最近は日本人の多く滞在する街に、日本語の通訳が常駐する医療施設が増えています。

 こうした情報は、外務省ホームページの「世界の医療事情」や「海外邦人医療基金<リンク:http://www.jomf.or.jp/>」のホームページなどに掲載されています。

 ボディーランゲージの効用

 日本語が通じる医療施設がない場合は、英語を話す医師を探すことをお勧めします。

 英語であれば、片言でも会話のできる人は多いと思います。

「星の王子様」の著者、サン・テグジュペリは、第二次大戦中、母国フランスからアメリカに亡命していました。

 この期間、彼は原因不明の発熱を起こし、現地の病院を何度も受診していたのですが、彼は英語をほとんど話せませんでした。

 このため、診察を受ける時は必ず通訳者を同伴していました。

 それがかなわない時は、身ぶり手ぶりを交えて、片言の英語で医師と会話をしたそうです。

 このボディーランゲージを使う方法は日本からの渡航者にもお勧めしています。

 高額な医療費への対策

 不満第2位は医療費の問題

 日本の医療費もかなり高いのですが、国内では健康保険があるので、実際にかかった費用の3割分だけを支払います。

 しかし、海外で医療施設にかかると、そのままの金額を請求されるため、高いと感じるのです。

 また、欧米の病院で手術を受けると、驚くほど高い料金を請求されることもあります。

 たとえば、アメリカのニューヨークで虫垂炎の手術を受けると、医者によっては200万円近い料金を請求してくることもあるのです。

 こうした医療費の問題を解決するためには医療保険を利用します。

 海外旅行の場合は旅行保険に加入するのが一般的な方法です。

 ただし、旅行保険は既に国内で治療している病気の医療費を支払ってくれないことが多いので、その場合は日本の健康保険を利用します。

 日本の健康保険も、海外でかかった医療費のうち、日本で医療を受けた時と同等の金額を還付してくれます。

 医療レベルは大丈夫か

 もう一つ、医療レベルの問題への不満。

 これは、発展途上国で医療施設を利用した人からよく聞かれました。

 海外でも発展途上国となると、受診前から「医療レベルは大丈夫か?」という不安があります。

 そんな気持ちのまま受診し、担当医の対応が悪かったり、院内の医療機器が古かったりすると、「この病院のレベルは低いのではないか?」と感じてしまうようです。

 海外の病院で医療レベルを判断する基準として、アメリカの非営利団体「Joint Commission International」が実施している病院認定があります。

 日本でも最近はいくつかの病院がこの認定を取得しています。

 海外でこの認定を取得している医療施設であれば、医療レベルやサービス面では一定のレベルに達していると考えていいでしょう。

 また、先に紹介した外務省ホームページの「世界の医療事情」に紹介された医療施設も、大使館の医務官が医療レベルなどを調査しています。

 医療施設の探し方

 それでは具体的に、どのように滞在先の医療施設を探したらいいのでしょうか。

 海外旅行などで短期間、海外に滞在する場合にお勧めの方法は、海外旅行保険のアシスタンスサービスの利用です。

 保険に加入していることが条件になりますが、まず、保険会社のコールセンターに電話を入れます。これは通常、料金無料で、日本語を話すオペレーターが対応してくれます。

 滞在地や病状などを伝えると、滞在地近辺にある保険会社の提携病院などが紹介されます。

 こうした病院は一定の医療レベルがありますし、保険会社と提携していれば、医療費の支払いも安心です。

 また、日本語を話すスタッフが働いている病院が多く、言葉の面でも不自由なくかかれるでしょう。

 長期滞在するときは

 仕事や留学で長期間滞在する場合は、滞在先でホームドクターを見つけ、日ごろの健康管理を受けておくことをお勧めします。

 ホームドクターとは、内科、外科、小児科など全ての診療に対応してくれる医師のことで、海外にはかなりの数がいます。

 こうした医師に日ごろからかかっておけば、急病になった時も迅速に対応してくれます。

 滞在する町にどんなドクターがいるかは、先にご紹介した外務省や海外邦人医療基金のホームページをご参照ください。

 日本式の医療施設も増加中

 ヘミングウェーの利用したミラノの病院は、戦争中、アメリカ人兵士を専門に診療するために開設されました。

 その後もアメリカは、自国民のための医療施設を世界各地に設置しています。

 アメリカ人以外の診察もしますが、基本は自国民保護が目的です。

 最近は、中国や東南アジアに、日本からの渡航者を対象とした医療施設が次々に設置されています。

 そこには日本語を話すスタッフがおり、日本式の医療を提供してくれます。

 こうした医療施設が増えていけば日本の渡航者も安心ですが、現地の人がかかる医療施設の受診方法も、ぜひ、覚えておいてください。 

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胃がんと内視鏡 [医学・医療短信]

胃がん克服の思いが内視鏡の技術革新を生んだ
画像診断の50年の進歩

医学のこれまでの50年は、CT、MRI、超音波診断装置、内視鏡など人体内部を非侵襲的に見る技術の進歩だと言い換えることができる。

わが国の技術が世界を席巻している消化器内視鏡を取り上げたい。

約50年前に消化器内視鏡の診療、開発に携わり始めた長廻紘氏(元・群馬県立がんセンター院長)に振り返ってもらった。

目まぐるしい技術革新の繰り返し

約50年前の1966年、胃カメラは過去最高の販売台数を記録していた。

胃カメラは、先端に仕込まれた小型カメラを胃内に挿入しストロボ撮影する診断機器。

リアルタイムで観察できない上、意図した部位を撮影できなかったものの、

「初めて胃の中を鮮明に見られるようになり、早期胃がんの発見が可能になった。消化器内視鏡の歴史を変えた技術だった」と長廻氏。

しかし、翌年には坂道を転がり落ちるように販売台数が落ち込み始めてしまう。

胃カメラ隆盛の陰で消化器内科医と診断機器メーカーが共同で開発を進めていたファイバースコープが製品化され台頭してきたからだ。

ファイバースコープは光を伝える性質を持つ光ファイバーを利用しており、柔軟に曲げられるため屈曲している消化管の観察には最適の素材だった。

米国のHirschowitzがアイデアを実現化し1961年に臨床成績を発表している。

1962年にはファイバースコープが輸入され国産化の開発競争が始まる。

1964年にはファイバースコープ付き胃カメラが製品化。

胃内を直接観察できるようになるとともに、意図した部位を画像として記録することも可能になった。

これにより胃カメラ時代は終焉を迎えることになる。

"ビッグバン"を起こした内視鏡

ファイバースコープはその特性から、胃内にとどまらず観察の領域を広げていくことになる。

十二指腸、膵臓、胆囊、そして肛門から逆行して大腸から小腸へと未知の領域を暴いていった。

消化管にとどまらず気管支鏡の開発にもつながるほど、画期的な技術革新だった。長廻氏は「簡単な原理だが、医学に与えた影響は大きい。

広大な宇宙がビッグバンで誕生したようにファイバースコープが消化管、気管支へと非侵襲的観察の領域を広げた。

主要疾患のほとんどは身体内部に患部が存在し、内部(内臓)を見ることができなかった時代の診断学は半人前以下だったかもしれない。

「そこに風穴を開けたのが消化器内視鏡だった」と強調する。

また、「胃カメラ以降のエネルギーが日本発のコロノスコープ、小腸鏡、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)を進展させた。

これらの成果を多くの人に知ってもらうため、数多くの教科書を執筆し新技術の普及に努めた」と。

なぜ、これほどまで消化器内視鏡の開発には熱気があったのだろうか。

それは、日本には胃がん患者が多かったからだ。

胃がん克服という大きな命題に対して、

「胃がんをこの目で見たい」という思いが消化器内視鏡の開発競争を生んだ。

ちなみに、ファイバースコープの開発者であるHirschowitzの内視鏡は世界に先駆けて製品化されたにもかかわらず、その後、姿を消している。

「米国では胃がん患者が少なかったので、日本人の研究者ほど熱意がなかったのかもしれない」と同氏は考えている。

ファイバースコープはその後、電子スコープ内視鏡に取って代わられ、さらにハイビジョン内視鏡システムへと進化を遂げた。

消化管の「暗黒大陸」と言われた小腸もダブルバルーン内視鏡が開発され、全容が解明されている。

さらにカプセル内視鏡が臨床応用されるなど、非侵襲的観察の技術革新はまだまだ終わらない。(牧野勇紀)

『Medical Tribune』2018年04月13日配信
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胃がんの新しいガイドライン [医学・医療短信]

胃がんGLの改訂ポイントを解説~薬物療法編~
複数の新薬の登場で大幅な改訂に

2018年1月、約4年ぶりに「胃癌治療ガイドライン」(日本胃癌学会編集)が改訂された。

化学療法の分野では、複数の新規薬剤が登場してレジメンの選択肢が増えたことを踏まえ、大幅な改訂が行われた。

注・レジメン(regimen)= 《養生法の意》。がん治療で投与する薬剤の種類や量、期間、手順などを時系列で示した計画書。

同学会胃癌治療ガイドライン検討委員会第5版作成委員会委員で国立がん研究センター東病院消化管内科医長の設楽紘平氏が、化学療法の分野における改訂ポイントについて、第90回日本胃癌学会(3月7~9日)で報告した。

「推奨されるレジメン」と「条件付きで推奨されるレジメン」に大別

設楽氏は、化学療法領域における主な改訂点として、まず治療レジメンが「推奨されるレジメン」と「条件付きで推奨されるレジメン」に大別されたことを挙げた。

 「推奨されるレジメン」は、エビデンスの根拠となる各臨床試験の適格基準を満たすような全身状態が良好な患者を対象としており、各レジメンは

① 第Ⅲ相試験により、臨床的有用性〔全生存期間(OS)における優越性または非劣性〕が示されたもの

② 特定の患者に対する2つ以上の第Ⅱ相試験で臨床的有用性が再現されたもの

③ 複数の第Ⅲ相試験で対照群に用いられるなど、標準治療の1つとして考えられるもの-のうち1つ以上を満たすものとされた。

「推奨されるレジメン」には、第4版では3つの推奨度分類(推奨度1~3)が記載されていたが、改訂版ではこれを廃止。

Minds診療ガイドライン作成マニュアルVer.2.0に準じたエビデンスレベル(A~Dの4段階)を併記している。

「推奨されるレジメン」は、一次治療ではHER2陰性の場合、S-1+シスプラチン(CDDP)、カペシタビン(Cape)+CDDP、SOX〔S-1+オキサリプラチン(OHP)〕、CapeOX(Cape+OHP)、FOLFOX〔フルオロウラシル(5-FU)+レボホリナートカルシウム+OHP〕が、HER2陽性の場合、Cape+CDDP+トラスツズマブ、S-1+CDDP+トラスツズマブが推奨された。

また二次治療では、HER2の状態にかかわらずパクリタキセル(PTX)毎週投与法+ラムシルマブ(RAM)が推奨された。

 HER2陰性例の一次治療に新たに加わったSOX、CapeOX、FOLFOXについては、エビデンスレベルB(効果の推定値に中程度の確信がある)としているが、最近の大規模比較試験でも対照群の治療として用いられており、シスプラチンを含まないために大量輸液を要さず簡便な治療法とされる。

FOLFOXは特に経口摂取不能の場合などの選択肢となる。

三次治療にニボルマブ登場、新薬開発が厳しい現況も

また三次治療における重要な変更点では、設楽氏は免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-1抗体ニボルマブが推奨されるレジメンとしてエビデンスレベルAとされたことを指摘した。

第Ⅲ相多施設共同プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験

ATTRACTION-2では、日本人を含むアジア人を対象に、ニボルマブ群の有効性・安全性がプラセボ群を対照として検証された。

その結果、ニボルマブ群のプラセボ群に対するOSの有意な延長(ハザード比0.63)が認められた。

注・ハザード比=統計学上の用語。臨床試験などで使用する相対的な危険度を客観的に比較する方法。

有害事象の発現率も両群で同様だった。

わが国では、2017年9月に同薬の「がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発胃がん」への適応拡大が承認されている。

現在、同じく抗PD-1抗体であるペムブロリズマブや抗PD-L1抗体アベルマブについても、治療ラインやPD-L1発現の意義、化学療法との併用療法などを検討する幾つかの第Ⅲ相大規模臨床試験が進行中である。

同氏は「二次治療におけるペムブロリズマブ単剤の有効性を検証したKEYNOTE-061試験や三次治療におけるアベルマブの有効性を検証したJAVELIN Gastric 300試験の結果が既に公表されており、いずれも統計学的に十分な生存延長効果は示せなかった」と報告。

今後公表される詳細な試験結果が待たれるとした。

さらに新規分子標的治療薬についても、多数の第Ⅲ相試験が行われているが、同氏は「最近報告された22件の第Ⅲ相試験結果のうち、ポジティブな結果が得られたのは5件のみだった」と述べ、胃がん領域では新薬の開発が難航していることを指摘した。

ただし、現在も多数の大規模臨床試験が進行中であるという。

「条件付き」推奨レジメンは患者の状態や社会的要因などを考慮し選択

「条件付きで推奨されるレジメン」は、患者の病態や年齢、臓器機能、合併症といった全身状態、さらに通院時間や費用などの社会的要因、患者の希望などを考慮した上で選択できるレジメンとして呈示された。

同委員会で腫瘍内科医6人中5人(70%以上の一致)のコンセンサスが得られた化学療法レジメンに限定されている。

なお「『推奨されるレジメン』の用量やスケジュールを変更して用いることと、『条件付きで推奨されるレジメン』を用いることのどちらがよいのかについては、多くの場合にいまだ明確になっていない」と設楽氏は述べた。

「条件付きで推奨される化学療法レジメン」の一次治療には、タキサン系薬剤を含むレジメン、オキサリプラチンを含む化学療法とトラスツズマブの併用療法などが挙げられた。

CQが大幅に増設

クリニカルクエスチョン(CQ)については大幅に増設され、切除不能例に関しては10問、周術期補助化学療法に関しては4問が設定された。

CQ16「切除不能進行・再発胃癌の二次治療において単独療法は推奨されるか?」については、推奨文として「切除不能進行・再発胃癌の二次治療において単独療法を条件付きで推奨する」と記載している。

「ラムシルマブは、高血圧・腫瘍出血・血栓症などの副作用が起こり得るため、適切な患者選択が重要である」と設楽氏は述べた。

また同氏は、「条件付きで推奨される化学療法レジメン」の二次治療の1つとして挙げられているnab-パクリタキセル毎週投与(あるいはラムシルマブ併用療法)について、アルコール不耐症例などでラムシルマブ+パクリタキセル(毎週法)併用療法が適応とならない場合には治療選択肢の1つとなると紹介。

「nab-パクリタキセル3週置き投与は、条件付き推奨レジメンにも入っていない」と指摘した。

さらに同氏は私見として、実臨床では、持続性の神経障害がある場合にはイリノテカンやラムシルマブ単剤療法を、どうしても脱毛症を拒む患者にはラムシルマブ単剤療法を選択するなど、患者と個別に話し合いながら治療を選択すべきだ、とした。

またCQ23~26で解説されている術後補助化学療法については、2012年に韓国を中心に実施されたCLASSIC試験の結果を踏まえて、治癒切除されたStageⅢ胃がんの術後補助化学療法としてCapeOX療法が推奨に加わった(エビデンスレベルA)。

第4版で初めて術後補助化学療法として推奨されたS-1については、StageⅡ/Ⅲ胃がんに対するS-1の優越性を証明したACTS-GC試験の結果を受けて、StageⅡ胃がんに対してはS-1による有害事象の低減を目的に、1年の投与期間を半分にした治療法の非劣性試験が行われた。

昨年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2017)では、同試験の中間解析の結果が報告されたが、S-1の1年間投与に対する6カ月間投与の非劣性を示すことは困難と判定され、同試験は早期無効中止となった。

この結果を受け、改訂版では「現時点ではS-1単独療法1年間あるいはCapeOXなどのオキサリプラチン併用療法6カ月間」の術後補助化学療法を推奨している。

一方、日本がん臨床試験推進機構(JACCRO)は、StageⅢの治癒切除胃がんに対する術後補助化学療法としてのS-1+ドセタキセル併用療法とS-1単独療法の第Ⅲ相ランダム化比較試験(JACCRO GC-07、START-2)を実施。

S-1+ドセタキセル併用療法の無再発生存期間がS-1単独療法に比べて有意に良好であることが判明したことから、JACCROは昨年9月に同試験の有効中止を発表した。

本結果が今後公表される予定であり、同氏は「今後、START-2の結果を踏まえて、われわれはウェブ上でのガイドライン改訂速報版の公開について検討する必要があるだろう」と展望した。

さらに欧米では標準治療とされる術前補助化学療法については、わが国ではいまだその意義が確立されていない。

改訂版では、切除可能胃がんに対する術前補助化学療法は条件付き(高度リンパ節転移症例)での推奨としている。

同氏は「現在は大型3型・4型胃がんに対する術前S-1+シスプラチン併用療法の第Ⅲ相比較試験の結果が解析待ちの状況であるほか、術前あるいは周術期補助化学療法に関する複数の臨床試験が進行中であり、今後、ガイドラインでもアップデートする必要がある」とした。(髙田あや)   
『Medical Tribune』 2018年3月30日 配信
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コレステロールと認知症の関係 [健康短信]

コレステロールが認知症リスクを下げる?

85~94歳の超高齢者は、コレステロール値が高いと、認知症のリスクが低下するという研究調査がアメリカで発表された。

石蔵文信・大阪大学招へい教授(人間科学研究科未来共創センター)の以下のような投稿を新聞のニュースメールで読んだ。

 コレステロールは健康被害の代名詞のような存在だが、半面、体の重要な構成要素の源であり、多くのホルモン、特に性ホルモンやストレスに関係するステロイド系ホルモンの原料となる大切な物質だ。

 とはいえ、特に小さな粒であるLDLコレステロールが過剰になると血管の内皮にたまって「粥状(じゅくじょう)硬化」(プラーク)となり、心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞の原因となる。

 で、コレステロール値が高い人にはそれを下げる薬が処方される。

 コレステロール値を下げる薬には、

▽食事から取り込んだ脂肪を腸で吸収するのをじゃまする薬

▽吸収された脂肪分がコレステロールにならないようにする薬

▽コレステロールの排出を促す薬

 --などがある。

 遺伝的にコレステロールが高くなる病気の人以外は、食事など生活習慣を整えることで正常になるはずだが、おいしいものが満ちあふれている現代社会ではなかなか難しいだろう。

 過剰なコレステロールは血管病変の元凶

 血管内皮にコレステロールがたまると、なぜ動脈硬化から心筋梗塞や脳梗塞につながるのか。

 動脈硬化とは、血管が土管のように硬くなる状態。

 石灰化といって、石のように動脈が硬くなる患者さんもいるが、日本人で動脈が石のようになる方はまれ。

 土管というよりは、粥(かゆ)のようなものがたまる粥状硬化が一般的だ。

 動脈の3層構造のうち、タマネギの薄皮のような内膜と、平滑筋の集まった中膜の間にコレステロールが粥状にたまる。

 LDLコレステロールは粒が小さく、内膜を通ってたまりやすいので悪玉と呼ばれている。

 薄皮1枚の下にたまったコレステロールが何かの衝撃(ストレス)を受けて破れると、そこで血が固まるため、血管が詰まって心筋梗塞や脳梗塞を起こす。

 薄皮が大動脈で裂けると大動脈解離だ。

 このように、過剰なコレステロールは血管病変の元凶となるが、総コレステロール値の上昇が、認知機能低下リスクの「低さ」と関連するという研究結果が発表され、話題になっている。

 アメリカの研究者が、循環器の大規模調査で有名な「フラミンガム研究」をもとに、研究登録時に認知機能が正常だった1900人のデータを解析した。

 結果は「Alzheimer's & Dementia(アルツハイマー病)」2018年3月4日オンライン版に掲載された。

 高いコレステロール値が認知機能維持と関係

 それによると、中年期と比べて総コレステロール値が上昇すると、75~84歳の高齢者は、研究登録時から10年後までに、「認知機能低下のリスク」が50%高くなったが、85~94歳の高齢者ではリスクが32%も低くなるという予想外の結果が出た。

 また、脂質改善薬に認知機能低下を予防する効果があることもわかったが、年齢が上がるにしたがってその効果は弱くなるという。

 研究者は「因果関係がわかっていないので、超高齢者のコレステロール値を無理に上げようとしないように」と注意を促している。

 なぜこのような結果になったのだろうか? 

 研究者はさらにこうもつけ加えている。

「85歳になると、突然コレステロールが健康に良いものになるわけではない。

 85歳まで長生きできるような人は、高コレステロールの悪影響から身を守ってくれる何らかの因子を兼ね備えている可能性が高い」

 私も理由を考えてみた。

 平均寿命を超えて85歳まで生きてきた人は、普通の人より元気なのは確かだ。

 体力的、肉体的にも優れたものを持ち、精神的にも前向きだろう。

 恐らくやりたいことをやり、食べたいものを食べてきたのではないだろうか。

 その意味では、むしろ健康に関して無頓着な人かもしれない。

 健康に気を使うのは大切だが、食べたいものまで制限するとストレスがたまる。

 気にしなければコレステロール値は上がるかもしれないが、ストレスは少ない。

 このように、細かいことを気にしないストレスフリーな生活習慣が、認知機能低下のリスクを低くする要因の一つになったのかもしれない、と私には思える。

 加齢と肉体の衰えはどうしようもない。

 であれば、心の健康を重視して、楽しく生きたいものだ。
 
 毎日新聞 2018年4月11日配信

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えっ、がん、解決? [医学・医療短信]

がんという難題に"解決の見通し"

がん死は2050年ごろから減少に転じる

この50年間で、がんの診断および治療は目覚ましく進歩した。

一方、わが国におけるがん死亡は、年齢を調整すると減少傾向にあるものの、実数としては男女とも今なお増加し続けている。

これほど診断・治療が進歩しても増え続けるがんに打開策はあるのか。

長年にわたりがんの研究と教育に携わってきた、公益財団法人札幌がんセミナー理事長で北海道大学名誉教授の小林博氏は「がんという難題に"解決の見通し"が見えてきた」と語る。

わが国のがん研究は、近い将来どのように進展していくのか。

今年で91歳、「がん研究人生」は65年以上になる同氏に展望を聞いた。

50年前はがんと診断されたら"敗戦"

小林氏は、約50年前のわが国におけるがん診療の状況について、「いかに誤診が多かったか」と振り返る。

当時、同氏らは全国の大学・主要病院における7万1,922例(1948~52年の1万5,006例と1958~62年の5万6,916例)の剖検例を対象にがんに関する診断の実態調査を行った。

結果、前後の10年間に診落(みお)とし率が最も高かったのは胆道・胆囊がんで85.8%、73.7%。膵がんも診落とし率が80.0%、60.2%と高かった。

診落とし率が低い乳がんや子宮がんでも、約10%の診落としがあったことが報告されている。

「当時は、がんと診断されたら、がんとの闘いは"敗戦"。

しかも混戦状態で、がんではないものをがんと診過ぎるような時代だった」(同氏)。

現在では、画像の診断精度が目覚ましく進歩したことなどにより、こうした誤診はまず見られなくなった。

がん死亡年齢・罹患年齢が延びてきた

診断技術の進歩や検診の普及などでがんの早期発見が可能となり、がんの5年生存率が60〜70%と向上したことに加え、死亡年齢、罹患年齢はともに延長している。

宮城県では、2015年に始まった全国的ながん登録に先駆けて、地域がん登録事業を開始していた。

そのため、小林氏は2015年3月に同県の1978年以降のがん罹患年齢のデータを得ることができた。

そのがん罹患年齢の推移をがん死亡年齢と比較すると、両者が非常によく似た平行線を描いていることが分かる。

がん罹患年齢が30年間に男性で8年、女性で10年延長している一方で、がん死亡年齢は50年間でそれぞれ11.4年、14.9年延びている。

同氏は「当初は、がんの早期診断が可能となったために、がん罹患(発見)年齢は若くなっていると想像していた。

しかし、がんはむしろ遅く見つかるという思いがけないデータだった」と指摘した。

もちろん、がん死亡年齢が大きく延びてきた背景には、医学の進歩やがん治療成績の向上がある。

同氏は、近年注目されているがん免疫療法などに大きな期待を寄せつつも、

「端的に言って治療の進歩の恩恵は"個人レベル"、"臓器レベル"で大きく見られたとしても、全体レベルではあまり目立ったものになっていない。

要するに死亡年齢の延びは罹患年齢の延びの結果である」と考察。

年齢調整をすると、がん罹患年齢は若年化している半面、高齢化の影響が若年化の変動を大きく凌駕していることも指摘した。

老化とがんの共存

では、なぜがん年齢の高齢化が起きるのか。

小林氏は「原因を究明することは実際に難しい」としつつも、

その要因として

① 禁煙をはじめ生活習慣改善の成果
② 社会環境の改善(大気汚染など)
③ 予防医学の進歩(特に感染症の予防)
④ 物心ともに豊かになった成果−などを挙げた上で、

根本には「社会の成熟化」「人口の高齢化」があると指摘した。

「がんで死ぬ」ことが「寿命で死ぬ」ことに近づきつつある。

同氏は「高齢者、特に超高齢者ではがんと無理に闘う必要がなくなった、あるいは必ずしも闘って勝たなければならない相手ではなくなってきた。

よって、人類にとり大きな問題だったがんはなお死亡原因のトップなのだが、実質的な意味で"解決の兆し"、あるいは"その可能性"が見えてきたといえるのではないか」と考察した。

がんで逝くのも悪くはない

小林氏は、日本人の全死因に占めるがんの割合は大きいが、がん全体の障害調整生存年数(DALY)は比較的小さいことについても指摘した。

全死因に占めるがんの割合は31.9%であるのに対し、神経・精神系疾患では1.6%と極端に小さい。

ところが全疾患のDALYを100%とすると、がんのDALYは18.5%であるのに対し、神経・精神系疾患のDALYは20.7%に上る。

障害調整生命年(英: disability-adjusted life year、DALY)とは、病的状態、障害、早死により失われた年数を意味した疾病負荷を総合的に示すもの。

残された家族にとっても、高齢者のがんは一定の区切りをつけてくれるという意味では、延々と苦しみが続く疾患に比べて必ずしも憎むべき存在ではない。

「がんで逝くのも悪くはない」。

あくまでも一学究の考察の所産としてだが、同氏はそう考えている。

がん細胞は全て基本的に遺伝的に不安定であるために、時間がどれくらいかかるかは別として、結果的に悪性化の方向に向かう。

そのため早期発見が必須となる。

同氏は「細胞のがん化は、長く生きるものにとってやむをえない必然的な現象といえる。

『老い』が避けえないように、『がん』もまた避けえないものならば、がんという病は永遠。だが、がん死は2050年ごろから減少に転じるであろう」と予測した。(髙田あや)

Medical Tribune 2018年04月18日配信
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ピロリ菌感染のほうが予後良好 [医学・医療短信]

ピロリ菌のほうが予後良好

ヘリコバクター・ピロリ (Helicobacter pylori)。

ヒトなどの胃に生息するらせん型のグラム陰性微好気性細菌。

単にピロリ菌(ピロリきん)と呼ばれることもある。

1983年、オーストラリアのロビン・ウォレンとバリー・マーシャルにより発見された。

ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)感染は胃がんの発生リスクとなることがわかっている。

WHO(世界保健機関)は、「H. pyloriは煙草なみの発がん物質」といい、H. pyloriが胃がんを引き起こすメカニズムを解明した畠山昌則・東京大教授(病因・病理学)は、「胃がんの99%はピロリ菌感染が原因です」と明言している。

日本ヘリコバクター学会は、胃がん予防のため、胃の粘膜にピロリ菌がいる人は全員、薬で除菌することを勧めている。

宮地和人・獨協医科大学日光医療センター外科診療科長は、胃がん手術後の症例におけるヘリコバクター・ピロリ感染の有無と菌量による予後への影響を比較検討。

ヘリコバクター・ピロリ感染による胃がんと、そうでない胃がんとでは、胃がん手術後の予後が異なることを、ことし2月に開催された第14回日本消化管学会で報告した。

「ヘリコバクター・ピロリ感染を伴う症例の方が術後の5年生存率は有意に高く、菌量が多いほど高かった」と。

1995年に台湾の研究グループから胃がん手術後の予後に関して、H. pylori感染を伴う症例の方が予後が良好であるとの報告があった。

さらに、ドイツ、中国、米国、日本からもH. pylori陽性者の方が術後の予後が良好であるとする報告があった。

そこで宮地医師らは、同センターにおける胃がん手術後の200例を対象としてH. pylori陰性群(98例)と陽性群(102例)について比較検討を行った。


これまではH. pyloriの感染の有無のみを比較検討している報告が多かったが、今回は胃がん背景粘膜でのH. pylori感染を培養法で測定し、感染の有無だけでなく菌量の多寡に関しても検討した。

両群の背景に差は見られなかった。

リンパ節転移のある陽性群で5年生存率高い

結果、5年生存率はH. pylori陰性群(29%)に比べて陽性群(50%)で有意に高かった。

菌量による比較では、陰性、微量+少量、中等量+大量と、菌量が多くなるほど5年生存率も高いという結果であった。

早期がん、進行がんにおける比較ともに、陽性群の方が5年生存率が高く、進行がんでは有意差が見られた(陰性群21.1% vs.陽性群36.7%、P=0.038)。

リンパ節転移に関しても、転移の有無にかかわらず5年生存率は陽性群で高く、特に転移あり例では陰性群16.8% vs.陽性群36.8%と有意差が認められた。

宮地医師は、

「今回の検討ではH. pyloriの菌量が多いほど予後は良好であった」と述べ、

「陽性群で予後が有意に良好だった因子は、

② 進行胃がん
②リンパ節転移陽性
③ 腹膜播種陰性
④ 肝転移陰性−であった」と説明した。

H. pyloriはCOX-2の発現を誘導しない

宮地医師らはさらに、胃がんと胃がん背景組織におけるCOX-2 mRNAの発現についても検討を行った。

COX-2は胃がんや大腸がんの発現、炎症に関連する因子である。

結果、がん組織と正常組織(非がん部)におけるCOX-2 mRNAの発現量については、正常組織の4.91に比べてがん組織では5.14と多かった。

正常組織ではH. pylori感染の有無によりCOX-2 mRNAの発現量に差は見られず、H. pylori感染がCOX-2の誘導を行っていないことが分かった。

また、アスピリンによりCOX-2の発現を抑制した場合、H. pylori除菌後の発がんが見られなかったとの報告などもあり、COX-2に関連した発がん過程にH. pylori感染の影響は小さいことが示唆されている。

 宮地医師は、

「さまざまな予後関連因子があるが、今回の検討ではH. pylori感染例は進行がんやリンパ節転移例で予後が良好であった。

特にリンパ節は細胞免疫の働く場であることから、H. pyloriの感染は細胞免疫に影響を及ぼしている可能性が考えられる」と結んだ。
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初の「アジア版大腸癌GL」 [医学・医療短信]

初の「アジア版大腸癌GL」で注目される"左右差

2017年11月、欧州臨床腫瘍学会アジア大会において、初の「アジア版大腸癌治療ガイドライン」が公表された。

3月22日に開かれたメディアセミナーでは、同ガイドライン(GL)策定の中心メンバーである国立がん研究センター東病院消化管内科長の吉野孝之氏、および愛知県がんセンター中央病院薬物療法部部長の室圭氏が、大腸がんの"左右差"に関する最新トピックスや、同GLが日本の実臨床に与える影響などについて解説した。

大腸がんで参考にされている三つのGLの特徴は?

 吉野氏は初めに、アジア版大腸癌治療GL作成の経緯と概要について報告した。

 同氏によると、大腸がん治療で参考とされているGLには、

① 大腸癌研究会(日本)が作成する「大腸癌治療GL」
② 米国25施設のがんセンターを中心に策定した全米総合がん情報ネットワーク(NCCN)のGL
③ ESMO(欧州癌治療学会議)のGL―がある。

①は大腸がん治療全般について網羅的に記載されているが、改訂の頻度は数年間隔であり、薬物療法については日本で保険適用された薬剤を中心に記載している。

一方、②は年に複数回改訂されており、同GLで推奨した新薬の多くは米食品医薬局(FDA)が承認している。

③については、改訂の頻度は2~3年間隔であるが、エキスパートのコンセンサス会議を経て最新のエビデンスに基づいた内容を記載しており、①~③の中では「最もコンセンサスに踏み込んでおり、至適療法を提示する内容になっている」(同氏)。

① の日本の大腸癌診療GLは、どちらかというと②に近く、③ほど踏み込んだ内容になっていないのが特徴だという。

"原発部位による違い"を盛り込んだ初のアジア版GL策定へ

ESMO(欧州癌治療学会議)のGLについては、2016年に改訂版が刊行されている。

しかし、同GL作成時にエビデンスとして用いられたデータは、93%が欧米人患者を対象としたものである。

さらに、2016年版GL公表後、「大腸がんの左右差」と予後および治療効果との関連性が指摘されるようになった。

そのため、吉野氏らは転移性大腸がんの管理に関して、世界初となるアジア版大腸癌GLを策定することを2016年12月に決断。

同GL作成に当たっては、アジア各国(中国、韓国、マレーシア、シンガポール、台湾)の臨床腫瘍学会協力の下に、日本臨床腫瘍学会とESMOが主導した。

一般的にこうしたGLの策定には数年を要するが、同GLの作成は急ピッチで行われ、昨年11月に公表された。

同GLでは参考文献のうち、アジア人が著者のものが65.5%を占めている。

また、欧米人とアジア人で薬剤の治療効果には大差はないものの、有害事象の発現頻度には注意が必要なことから、アジア人で発現頻度が高い薬剤に関しては適正使用に関する記載を追加している。

さらに日本(アジア)で使用経験が多い薬剤についての記載も追加。

最新のトピックスである大腸がんの左右差(原発巣の部位による違い)を踏まえて、アジア人患者に適した治療アルゴリズムを提示しているという。

アジア版大腸癌GLを日本の臨床にどのように生かすか

次に室氏は、「アジア版大腸癌GLを日本の臨床にどのように生かすか」について解説した。

大腸癌研究会のGLは2016年版が最新版だが、同氏は同GL作成委員会の化学療法領域責任者でもある。

大腸がんの占拠部位別の罹患率は、右側が約30%、左側が約70%である。

区分別に罹患率を見ると、右側は盲腸(7%)、上行結腸(14%)、横行結腸(9%)、左側は下行結腸(5%)、S状結腸(26%)、直腸(39%)となっている。

また、大腸がんの右側と左側で臨床的な特徴に違いがあることは以前から知られている。

肛門から遠い右側では腸の内容物がまだ液状であるため、症状が出にくい。

そのため、右側で発症した大腸がんは比較的大きな腫瘍が多く、ステージも進行している例が多い。

一方、左側で発症した大腸がんは肛門に近いため、出血などの症状が確認しやすく、より早期に発見されることも多いため、比較的ステージが進行していない例が多い。

罹患率としては右側が増加傾向にあり、女性、高齢者で多いという特徴もあるという。

さらに、右側では大腸がんの悪性度が左側に比べて悪いことも知られている。

遺伝子的背景として、右側では代表的な予後不良因子とされるや遺伝子変異が多い。

加えて、大腸がんの右側と左側では遺伝子変異の分布が異なることから、薬剤の感受性に関わる因子が大きく異なることも明らかになってきた。

2016年以降、予後・薬剤効果の左右差に関する報告が相次ぐ

こうした大腸がんの左右における予後および薬剤の感受性の違いは、近年相次いで報告されている。

2016年の米国臨床腫瘍学会では、切除不能大腸がんの一次治療におけるFOLFOX/FOLFIRI療法に対する抗上皮成長因子受容体(EGFR)抗体セツキシマブまたは抗血管内皮細胞増殖因子(VEGF)抗体ベバシズマブの併用療法の安全性と有効性を比較した第Ⅲ相試験の探索的解析の結果が発表。

全体として原発病巣が左側の場合は右側に比べて治療成績が良く、かつ抗EGFR抗体の治療効果が高いことなどが示された。

さらに昨年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2017)では、切除不能・進行再発大腸がんに対する化学療法+ベバシズマブと化学療法+抗EGFR抗体の有効性を比較検討した6試験を用いて、原発巣の位置別に治療効果を後ろ向きに解析した統合解析の結果が示された。

この結果からも、大腸がんでは左側と右側で予後、薬剤の効果が違うことが示された。

そのため、大腸がんの左右差に関して一定のコンセンサスが得られるようになったという。

国内の大腸癌治療GLにも"左右差"を盛り込む予定

これらの背景を踏まえて、アジア版大腸癌GLではRAS遺伝子野生型であれば、左側では「2剤併用化学療法+抗EGFR抗体薬」、右側では「3剤/2剤併用化学療法+ベバシズマブ」を推奨した。

このアジア版大腸癌GLを受けて、愛知県がんセンター中央病院では現在、ステージⅣ期(切除不能)大腸がんの一次治療の治療方針として、全身状態・年齢・合併症・本人(家族)の希望に加え、RAS遺伝子の状況および原発巣の位置(右側か左側か)を総合的に勘案して治療を決定しているという。

ただし、こうした原発巣の部位を考慮した治療選択については、国内の大腸癌治療GLにはまだ記載されていないこともあり、国内の臨床医では"支持しない"との見解も存在する。

「右側原発の患者であっても抗EGFR抗体に著効した経験があるので、一概に原発巣の位置で治療を決めることはできない」といった意見もある。

そこで大腸癌研究会は、今年7月に開催される第89回同研究会で大腸がんの左右差による治療選択を盛り込んだGLの改訂案を提示し、来年1月には改訂版を刊行する予定という。

今後は各がん種でアジア版GLを作成予定

大腸がんの一次治療に関する展望として、室氏は「近い将来、遺伝子変異検査が導入される」と指摘した。

大腸がんでは患者の約 10%で変異が認められ 、同変異例では治療成績が不良かつ抗EGFR抗体薬の治療効果が期待し難いことなどが明らかになってきているためだ。

また、同氏は「間もなく一部の大腸がんには免疫チェックポイント阻害薬が臨床応用される。血液を用いた遺伝子検査の実現も近い」と展望した。

最後に、同氏は「大腸がんに端を発したアジア版GLの策定については、他のがん種にも広げていこうという動きが急速に進展している」と報告。

今年11月には、進行胃・食道がんGLのアジア版(責任者は同氏)を刊行する予定であることに加え、進行非小細胞肺がんのアジア版GLについても年内の刊行を予定している。

さらに来年には、進行膵がん、肝臓がん、胆道がんのアジア版GLを刊行。

その後、前立腺がん、リンパ腫、神経内分泌腫瘍、乳がんについても順次刊行していく予定という。(髙田あや) Medical Tribune 2018/04/20 配信
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