SSブログ

整形外科の痛みにオピオイドは必要か [医学・医療短信]

整形外科の痛みにオピオイドは必要か
東京新宿メディカルセンター脊椎脊髄センター長 川口浩


 研究の背景:オピオイドは国の恥?

 先日、ついに担当編集者から「幅広く話題を扱うように」というご指導を受けてしまった。

 そうはいっても、私は6年ほど前に東大整形外科の教授選に落選して以来、すっかりグレてしまっている。

 世の中に恐いものが、家内以外に存在しない。

 いつも、とんでもないことばかり考えている。

 自分では崇高だと思っている持論が、人が聞くと荒唐無稽、無意味に過激で公序良俗に反するらしい。

 私が「幅広く話題を扱う」と、間違いなくボツである。

 私は酒が弱く外飲みは超苦手だが、家飲みは唯一の生きがいである。

 家飲みしながらご高説を垂れるのが何よりの至福のときである。

 家飲みに付き合ってくれている恐い人から、

「そんなことは絶対に外でしゃべるな」と、いつもくぎを刺されている。

 自制心がなくなる前に肝硬変で死んでほしいと願っているに違いない。

 というわけで、今までは強固な自制心を持って、「ロコモ」や「プレガバリン」などの当たり障りのない陳腐な小ネタにとどめてきた。

 注・運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態を「ロコモティブシンドローム(略称:ロコモ、和名:運動器症候群)」といいます。
  進行すると介護が必要になるリスクが高くなります。 ロコモは筋肉、骨、関節、軟骨、椎間板といった運動器のいずれか、あるいは複数に障害が起こり、「立つ」「歩く」といった機能が低下している状態をいいます。
 進行すると日常生活にも支障が生じてきます。
 2007年、日本整形外科学会は人類が経験したことのない超高齢社会・日本の未来を見据え、このロコモという概念を提唱しました。

 運動器とは、身体運動に関わる骨、筋肉、関節、神経などの総称です。

 プレガバリンは、神経障害性疼痛に用いられる医薬品。商品名リリカ。

 今回は、担当編集者と恐い人のご意向を勘案して、「麻薬と整形外科」というマイルドな話題にする。

 紹介する論文は、整形外科では超メジャー疾患である慢性腰痛と変形性関節症痛の患者を対象とした、オピオイド(麻薬性鎮痛薬)と非オピオイド鎮痛薬とのランダム化比較試験(RCT)である。

 これらの疾患の国際治療ガイドラインでは、総じてオピオイド鎮痛薬の使用には否定的である。

 背景には、薬物依存、過剰摂取による死者数の増加が挙げられる。

 特に米国では深刻な社会問題となっており、例の大統領は「国の恥だ」とまで明言している。

 研究のポイント:オピオイドと非オピオイドで鎮痛効果に差なし

 Minneapolis Veterans Affairs(ミネアポリス退役軍人医療センター)のシステムで実施された前向き非盲検試験で、中等度から重度の慢性的な腰痛、および変形性膝関節症、変形性股関節症による痛みを有する患者240例(平均年齢58.3歳、男性208例、女性32例)が、オピオイドまたは非オピオイドの2群にランダムに割り付けられた。
 
 薬物依存、過剰摂取の患者は除外されているが、両群の薬剤の選択肢が多岐にわたり、前向き試験というよりも実臨床試験の様相がある。

 オピオイド群は、速効性モルヒネまたはオキシコドンまたはヒドロコドン/アセトアミノフェン配合剤から始めて、持効性モルヒネまたはオキシコドンまたは経皮的フェンタニルに進み、モルヒネ換算で100 mg/日までの漸増を許可している。

 非オピオイド群はアセトアミノフェンおよび非ステロイド抗炎症薬(NSAID)から始めて、必要に応じて三環系抗うつ薬、ガバペンチノイド、局所鎮痛薬、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、およびトラマドールに進む。

 主要アウトカムはBPI(Brief Pain Inventory)スケール(全般的な痛み)で、主として電話調査によって1〜3カ月ごとに、1年間モニターされた。

 1年後、全般的なBPIスケールは、オピオイド群と非オピオイド群の間で有意差はなかった(3.4 vs 3.3、P=0.58)。

 副次アウトカムである疼痛の強度はオピオイド群の方が非オピオイド群よりも有意に高かった(4.0 vs 3.5、P=0.03)が、この臨床的意義は境界線上であった。

 全体の有害事象に群間差はみられなかったが、投薬と関連する有害事象は、オピオイド群で有意に高かった。

 私の考察:非オピオイド抵抗性の痛みに対する治療レジメン開発を

 慢性的な腰痛、および変形性関節症痛に対するオピオイドの鎮痛作用に対する否定的な結論で、予想通り有害事象の増加が指摘されている。

 ほとんどの国際治療ガイドラインを支持する結果といえる。

 さて、オピオイドによる鎮痛療法については、わが国と欧米ではかなりの差がある。

 帝京大学整形外科主任教授の河野博隆氏によると、一般的に日本では麻薬は「悪い薬」という認識によるアレルギー反応があるため、患者1人当たりの麻薬使用量は欧米の10分の1以下であるらしい。

 また、術後疼痛コントロールにおける整形外科医の麻薬使用量は、外科医と比べてもはるかに少ないということである。

 整形外科医がオピオイドを用いるのは、骨転移症例におけるがん性疼痛がほとんどであるが、日本の整形外科医は「がん」と距離を置く傾向が強く、骨転移診療は多くの整形外科医が自分とは関わりのない領域と考えているのが実状である。

 今の日本で実際に骨転移の疼痛管理に携わっているのは、緩和ケア医と放射線科医であろう。

 現在、日本において慢性疼痛に適応を有するオピオイドは、トラマドール、ブプレノルフィン、リン酸コデイン、塩酸モルヒネ、フェンタニル製剤である。非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬処方の指針としては、日本ペインクリニック学会のガイドライン(初版と改訂第2版)があるが、推奨度/エビデンスレベルは、慢性腰痛および変形性関節症痛ともに2Bと低評価である。

 推奨用量についても、初版のモルヒネ換算120mg/日から、第2版では60mg/日(上限は90mg/日)に減少している。

 整形外科の多くの患者の主訴は疼痛である。

 街で覚えていない患者に声をかけられたときは、「痛みはどうですか?」と答えておくと、だいたい話が通じる。

 問題は、一般的な非オピオイド鎮痛薬に抵抗性の患者が実臨床の現場では多く存在することである。

 事実、本論文においても、活性対照であるはずの非オピオイド鎮痛薬(アセトアミノフェン、NSAID、当然ながらガバペンチノイド)も、これら整形外科一般疾患の慢性疼痛には無効であるか、有効性は最小限であるという結果は注目すべきではある。

 現場としては、乱用防止を守りつつ、強オピオイドを含めた疼痛治療レジメンの開発が待たれる。

 さて、自身の存在自体が「国の恥」であることを気付いていないどこかの大統領と比べて、わが国のファーストレディー、アッキーは立派である。

 首相夫人の立場で公然と「医療用大麻の解禁」を訴えたときにはブッ飛んだ。

 本件だけではなく、自分がフェアで正しいと考える多くの活動を、夫とは独立した個人として、確信犯的に遂行する姿勢には、私は心からの敬意を表し、陰ながら応援している。

 最近、愛媛だの大阪だのの陳腐な案件で、取るに足りない揚げ足取りによって現政権の雲行きが怪しいので、アッキーが首相夫人の立場を利用できるのも短いかもしれない。

 周りの雑音に左右されないで、堂々と、立場を利用して、自身の主張を発信し続けてほしい。

 旦那の方も、訳の分からない魑魅魍魎の連中相手に無駄な時間を使っているよりも、さっさと辞めてアッキーと家飲みでもしていた方が、数倍、健康的な人生である。

 一族の悲願である改憲は遠のくかもしれないが、彼がやらなくても、最近の日本は戦闘国家になる資質を十分に持っている。

 タレントの不倫バッシング、アッキーや佐川氏の国会招致など、魔女裁判のように公衆にさらすことで「溜飲を下げる」ことを社会正義と信じて疑わない。

 メディアに躍らせされているだけの、日本人のチープなポピュリズムこそが、日本を戦闘国家に走らせる元凶であることを気付くべきである。

「世論」という大義をもっと冷静になって再考すべき時代である。

 これくらいなら怒られないだろう。

 『MedicalTribune』 2018年04月23日
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:健康

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。