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えっ、がん、解決? [医学・医療短信]

がんという難題に"解決の見通し"

がん死は2050年ごろから減少に転じる

この50年間で、がんの診断および治療は目覚ましく進歩した。

一方、わが国におけるがん死亡は、年齢を調整すると減少傾向にあるものの、実数としては男女とも今なお増加し続けている。

これほど診断・治療が進歩しても増え続けるがんに打開策はあるのか。

長年にわたりがんの研究と教育に携わってきた、公益財団法人札幌がんセミナー理事長で北海道大学名誉教授の小林博氏は「がんという難題に"解決の見通し"が見えてきた」と語る。

わが国のがん研究は、近い将来どのように進展していくのか。

今年で91歳、「がん研究人生」は65年以上になる同氏に展望を聞いた。

50年前はがんと診断されたら"敗戦"

小林氏は、約50年前のわが国におけるがん診療の状況について、「いかに誤診が多かったか」と振り返る。

当時、同氏らは全国の大学・主要病院における7万1,922例(1948~52年の1万5,006例と1958~62年の5万6,916例)の剖検例を対象にがんに関する診断の実態調査を行った。

結果、前後の10年間に診落(みお)とし率が最も高かったのは胆道・胆囊がんで85.8%、73.7%。膵がんも診落とし率が80.0%、60.2%と高かった。

診落とし率が低い乳がんや子宮がんでも、約10%の診落としがあったことが報告されている。

「当時は、がんと診断されたら、がんとの闘いは"敗戦"。

しかも混戦状態で、がんではないものをがんと診過ぎるような時代だった」(同氏)。

現在では、画像の診断精度が目覚ましく進歩したことなどにより、こうした誤診はまず見られなくなった。

がん死亡年齢・罹患年齢が延びてきた

診断技術の進歩や検診の普及などでがんの早期発見が可能となり、がんの5年生存率が60〜70%と向上したことに加え、死亡年齢、罹患年齢はともに延長している。

宮城県では、2015年に始まった全国的ながん登録に先駆けて、地域がん登録事業を開始していた。

そのため、小林氏は2015年3月に同県の1978年以降のがん罹患年齢のデータを得ることができた。

そのがん罹患年齢の推移をがん死亡年齢と比較すると、両者が非常によく似た平行線を描いていることが分かる。

がん罹患年齢が30年間に男性で8年、女性で10年延長している一方で、がん死亡年齢は50年間でそれぞれ11.4年、14.9年延びている。

同氏は「当初は、がんの早期診断が可能となったために、がん罹患(発見)年齢は若くなっていると想像していた。

しかし、がんはむしろ遅く見つかるという思いがけないデータだった」と指摘した。

もちろん、がん死亡年齢が大きく延びてきた背景には、医学の進歩やがん治療成績の向上がある。

同氏は、近年注目されているがん免疫療法などに大きな期待を寄せつつも、

「端的に言って治療の進歩の恩恵は"個人レベル"、"臓器レベル"で大きく見られたとしても、全体レベルではあまり目立ったものになっていない。

要するに死亡年齢の延びは罹患年齢の延びの結果である」と考察。

年齢調整をすると、がん罹患年齢は若年化している半面、高齢化の影響が若年化の変動を大きく凌駕していることも指摘した。

老化とがんの共存

では、なぜがん年齢の高齢化が起きるのか。

小林氏は「原因を究明することは実際に難しい」としつつも、

その要因として

① 禁煙をはじめ生活習慣改善の成果
② 社会環境の改善(大気汚染など)
③ 予防医学の進歩(特に感染症の予防)
④ 物心ともに豊かになった成果−などを挙げた上で、

根本には「社会の成熟化」「人口の高齢化」があると指摘した。

「がんで死ぬ」ことが「寿命で死ぬ」ことに近づきつつある。

同氏は「高齢者、特に超高齢者ではがんと無理に闘う必要がなくなった、あるいは必ずしも闘って勝たなければならない相手ではなくなってきた。

よって、人類にとり大きな問題だったがんはなお死亡原因のトップなのだが、実質的な意味で"解決の兆し"、あるいは"その可能性"が見えてきたといえるのではないか」と考察した。

がんで逝くのも悪くはない

小林氏は、日本人の全死因に占めるがんの割合は大きいが、がん全体の障害調整生存年数(DALY)は比較的小さいことについても指摘した。

全死因に占めるがんの割合は31.9%であるのに対し、神経・精神系疾患では1.6%と極端に小さい。

ところが全疾患のDALYを100%とすると、がんのDALYは18.5%であるのに対し、神経・精神系疾患のDALYは20.7%に上る。

障害調整生命年(英: disability-adjusted life year、DALY)とは、病的状態、障害、早死により失われた年数を意味した疾病負荷を総合的に示すもの。

残された家族にとっても、高齢者のがんは一定の区切りをつけてくれるという意味では、延々と苦しみが続く疾患に比べて必ずしも憎むべき存在ではない。

「がんで逝くのも悪くはない」。

あくまでも一学究の考察の所産としてだが、同氏はそう考えている。

がん細胞は全て基本的に遺伝的に不安定であるために、時間がどれくらいかかるかは別として、結果的に悪性化の方向に向かう。

そのため早期発見が必須となる。

同氏は「細胞のがん化は、長く生きるものにとってやむをえない必然的な現象といえる。

『老い』が避けえないように、『がん』もまた避けえないものならば、がんという病は永遠。だが、がん死は2050年ごろから減少に転じるであろう」と予測した。(髙田あや)

Medical Tribune 2018年04月18日配信
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