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胃がんと内視鏡 [医学・医療短信]

胃がん克服の思いが内視鏡の技術革新を生んだ
画像診断の50年の進歩

医学のこれまでの50年は、CT、MRI、超音波診断装置、内視鏡など人体内部を非侵襲的に見る技術の進歩だと言い換えることができる。

わが国の技術が世界を席巻している消化器内視鏡を取り上げたい。

約50年前に消化器内視鏡の診療、開発に携わり始めた長廻紘氏(元・群馬県立がんセンター院長)に振り返ってもらった。

目まぐるしい技術革新の繰り返し

約50年前の1966年、胃カメラは過去最高の販売台数を記録していた。

胃カメラは、先端に仕込まれた小型カメラを胃内に挿入しストロボ撮影する診断機器。

リアルタイムで観察できない上、意図した部位を撮影できなかったものの、

「初めて胃の中を鮮明に見られるようになり、早期胃がんの発見が可能になった。消化器内視鏡の歴史を変えた技術だった」と長廻氏。

しかし、翌年には坂道を転がり落ちるように販売台数が落ち込み始めてしまう。

胃カメラ隆盛の陰で消化器内科医と診断機器メーカーが共同で開発を進めていたファイバースコープが製品化され台頭してきたからだ。

ファイバースコープは光を伝える性質を持つ光ファイバーを利用しており、柔軟に曲げられるため屈曲している消化管の観察には最適の素材だった。

米国のHirschowitzがアイデアを実現化し1961年に臨床成績を発表している。

1962年にはファイバースコープが輸入され国産化の開発競争が始まる。

1964年にはファイバースコープ付き胃カメラが製品化。

胃内を直接観察できるようになるとともに、意図した部位を画像として記録することも可能になった。

これにより胃カメラ時代は終焉を迎えることになる。

"ビッグバン"を起こした内視鏡

ファイバースコープはその特性から、胃内にとどまらず観察の領域を広げていくことになる。

十二指腸、膵臓、胆囊、そして肛門から逆行して大腸から小腸へと未知の領域を暴いていった。

消化管にとどまらず気管支鏡の開発にもつながるほど、画期的な技術革新だった。長廻氏は「簡単な原理だが、医学に与えた影響は大きい。

広大な宇宙がビッグバンで誕生したようにファイバースコープが消化管、気管支へと非侵襲的観察の領域を広げた。

主要疾患のほとんどは身体内部に患部が存在し、内部(内臓)を見ることができなかった時代の診断学は半人前以下だったかもしれない。

「そこに風穴を開けたのが消化器内視鏡だった」と強調する。

また、「胃カメラ以降のエネルギーが日本発のコロノスコープ、小腸鏡、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)を進展させた。

これらの成果を多くの人に知ってもらうため、数多くの教科書を執筆し新技術の普及に努めた」と。

なぜ、これほどまで消化器内視鏡の開発には熱気があったのだろうか。

それは、日本には胃がん患者が多かったからだ。

胃がん克服という大きな命題に対して、

「胃がんをこの目で見たい」という思いが消化器内視鏡の開発競争を生んだ。

ちなみに、ファイバースコープの開発者であるHirschowitzの内視鏡は世界に先駆けて製品化されたにもかかわらず、その後、姿を消している。

「米国では胃がん患者が少なかったので、日本人の研究者ほど熱意がなかったのかもしれない」と同氏は考えている。

ファイバースコープはその後、電子スコープ内視鏡に取って代わられ、さらにハイビジョン内視鏡システムへと進化を遂げた。

消化管の「暗黒大陸」と言われた小腸もダブルバルーン内視鏡が開発され、全容が解明されている。

さらにカプセル内視鏡が臨床応用されるなど、非侵襲的観察の技術革新はまだまだ終わらない。(牧野勇紀)

『Medical Tribune』2018年04月13日配信
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