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初の「アジア版大腸癌GL」 [医学・医療短信]

初の「アジア版大腸癌GL」で注目される"左右差

2017年11月、欧州臨床腫瘍学会アジア大会において、初の「アジア版大腸癌治療ガイドライン」が公表された。

3月22日に開かれたメディアセミナーでは、同ガイドライン(GL)策定の中心メンバーである国立がん研究センター東病院消化管内科長の吉野孝之氏、および愛知県がんセンター中央病院薬物療法部部長の室圭氏が、大腸がんの"左右差"に関する最新トピックスや、同GLが日本の実臨床に与える影響などについて解説した。

大腸がんで参考にされている三つのGLの特徴は?

 吉野氏は初めに、アジア版大腸癌治療GL作成の経緯と概要について報告した。

 同氏によると、大腸がん治療で参考とされているGLには、

① 大腸癌研究会(日本)が作成する「大腸癌治療GL」
② 米国25施設のがんセンターを中心に策定した全米総合がん情報ネットワーク(NCCN)のGL
③ ESMO(欧州癌治療学会議)のGL―がある。

①は大腸がん治療全般について網羅的に記載されているが、改訂の頻度は数年間隔であり、薬物療法については日本で保険適用された薬剤を中心に記載している。

一方、②は年に複数回改訂されており、同GLで推奨した新薬の多くは米食品医薬局(FDA)が承認している。

③については、改訂の頻度は2~3年間隔であるが、エキスパートのコンセンサス会議を経て最新のエビデンスに基づいた内容を記載しており、①~③の中では「最もコンセンサスに踏み込んでおり、至適療法を提示する内容になっている」(同氏)。

① の日本の大腸癌診療GLは、どちらかというと②に近く、③ほど踏み込んだ内容になっていないのが特徴だという。

"原発部位による違い"を盛り込んだ初のアジア版GL策定へ

ESMO(欧州癌治療学会議)のGLについては、2016年に改訂版が刊行されている。

しかし、同GL作成時にエビデンスとして用いられたデータは、93%が欧米人患者を対象としたものである。

さらに、2016年版GL公表後、「大腸がんの左右差」と予後および治療効果との関連性が指摘されるようになった。

そのため、吉野氏らは転移性大腸がんの管理に関して、世界初となるアジア版大腸癌GLを策定することを2016年12月に決断。

同GL作成に当たっては、アジア各国(中国、韓国、マレーシア、シンガポール、台湾)の臨床腫瘍学会協力の下に、日本臨床腫瘍学会とESMOが主導した。

一般的にこうしたGLの策定には数年を要するが、同GLの作成は急ピッチで行われ、昨年11月に公表された。

同GLでは参考文献のうち、アジア人が著者のものが65.5%を占めている。

また、欧米人とアジア人で薬剤の治療効果には大差はないものの、有害事象の発現頻度には注意が必要なことから、アジア人で発現頻度が高い薬剤に関しては適正使用に関する記載を追加している。

さらに日本(アジア)で使用経験が多い薬剤についての記載も追加。

最新のトピックスである大腸がんの左右差(原発巣の部位による違い)を踏まえて、アジア人患者に適した治療アルゴリズムを提示しているという。

アジア版大腸癌GLを日本の臨床にどのように生かすか

次に室氏は、「アジア版大腸癌GLを日本の臨床にどのように生かすか」について解説した。

大腸癌研究会のGLは2016年版が最新版だが、同氏は同GL作成委員会の化学療法領域責任者でもある。

大腸がんの占拠部位別の罹患率は、右側が約30%、左側が約70%である。

区分別に罹患率を見ると、右側は盲腸(7%)、上行結腸(14%)、横行結腸(9%)、左側は下行結腸(5%)、S状結腸(26%)、直腸(39%)となっている。

また、大腸がんの右側と左側で臨床的な特徴に違いがあることは以前から知られている。

肛門から遠い右側では腸の内容物がまだ液状であるため、症状が出にくい。

そのため、右側で発症した大腸がんは比較的大きな腫瘍が多く、ステージも進行している例が多い。

一方、左側で発症した大腸がんは肛門に近いため、出血などの症状が確認しやすく、より早期に発見されることも多いため、比較的ステージが進行していない例が多い。

罹患率としては右側が増加傾向にあり、女性、高齢者で多いという特徴もあるという。

さらに、右側では大腸がんの悪性度が左側に比べて悪いことも知られている。

遺伝子的背景として、右側では代表的な予後不良因子とされるや遺伝子変異が多い。

加えて、大腸がんの右側と左側では遺伝子変異の分布が異なることから、薬剤の感受性に関わる因子が大きく異なることも明らかになってきた。

2016年以降、予後・薬剤効果の左右差に関する報告が相次ぐ

こうした大腸がんの左右における予後および薬剤の感受性の違いは、近年相次いで報告されている。

2016年の米国臨床腫瘍学会では、切除不能大腸がんの一次治療におけるFOLFOX/FOLFIRI療法に対する抗上皮成長因子受容体(EGFR)抗体セツキシマブまたは抗血管内皮細胞増殖因子(VEGF)抗体ベバシズマブの併用療法の安全性と有効性を比較した第Ⅲ相試験の探索的解析の結果が発表。

全体として原発病巣が左側の場合は右側に比べて治療成績が良く、かつ抗EGFR抗体の治療効果が高いことなどが示された。

さらに昨年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2017)では、切除不能・進行再発大腸がんに対する化学療法+ベバシズマブと化学療法+抗EGFR抗体の有効性を比較検討した6試験を用いて、原発巣の位置別に治療効果を後ろ向きに解析した統合解析の結果が示された。

この結果からも、大腸がんでは左側と右側で予後、薬剤の効果が違うことが示された。

そのため、大腸がんの左右差に関して一定のコンセンサスが得られるようになったという。

国内の大腸癌治療GLにも"左右差"を盛り込む予定

これらの背景を踏まえて、アジア版大腸癌GLではRAS遺伝子野生型であれば、左側では「2剤併用化学療法+抗EGFR抗体薬」、右側では「3剤/2剤併用化学療法+ベバシズマブ」を推奨した。

このアジア版大腸癌GLを受けて、愛知県がんセンター中央病院では現在、ステージⅣ期(切除不能)大腸がんの一次治療の治療方針として、全身状態・年齢・合併症・本人(家族)の希望に加え、RAS遺伝子の状況および原発巣の位置(右側か左側か)を総合的に勘案して治療を決定しているという。

ただし、こうした原発巣の部位を考慮した治療選択については、国内の大腸癌治療GLにはまだ記載されていないこともあり、国内の臨床医では"支持しない"との見解も存在する。

「右側原発の患者であっても抗EGFR抗体に著効した経験があるので、一概に原発巣の位置で治療を決めることはできない」といった意見もある。

そこで大腸癌研究会は、今年7月に開催される第89回同研究会で大腸がんの左右差による治療選択を盛り込んだGLの改訂案を提示し、来年1月には改訂版を刊行する予定という。

今後は各がん種でアジア版GLを作成予定

大腸がんの一次治療に関する展望として、室氏は「近い将来、遺伝子変異検査が導入される」と指摘した。

大腸がんでは患者の約 10%で変異が認められ 、同変異例では治療成績が不良かつ抗EGFR抗体薬の治療効果が期待し難いことなどが明らかになってきているためだ。

また、同氏は「間もなく一部の大腸がんには免疫チェックポイント阻害薬が臨床応用される。血液を用いた遺伝子検査の実現も近い」と展望した。

最後に、同氏は「大腸がんに端を発したアジア版GLの策定については、他のがん種にも広げていこうという動きが急速に進展している」と報告。

今年11月には、進行胃・食道がんGLのアジア版(責任者は同氏)を刊行する予定であることに加え、進行非小細胞肺がんのアジア版GLについても年内の刊行を予定している。

さらに来年には、進行膵がん、肝臓がん、胆道がんのアジア版GLを刊行。

その後、前立腺がん、リンパ腫、神経内分泌腫瘍、乳がんについても順次刊行していく予定という。(髙田あや) Medical Tribune 2018/04/20 配信
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