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胃がんの新しいガイドライン [医学・医療短信]

胃がんGLの改訂ポイントを解説~薬物療法編~
複数の新薬の登場で大幅な改訂に

2018年1月、約4年ぶりに「胃癌治療ガイドライン」(日本胃癌学会編集)が改訂された。

化学療法の分野では、複数の新規薬剤が登場してレジメンの選択肢が増えたことを踏まえ、大幅な改訂が行われた。

注・レジメン(regimen)= 《養生法の意》。がん治療で投与する薬剤の種類や量、期間、手順などを時系列で示した計画書。

同学会胃癌治療ガイドライン検討委員会第5版作成委員会委員で国立がん研究センター東病院消化管内科医長の設楽紘平氏が、化学療法の分野における改訂ポイントについて、第90回日本胃癌学会(3月7~9日)で報告した。

「推奨されるレジメン」と「条件付きで推奨されるレジメン」に大別

設楽氏は、化学療法領域における主な改訂点として、まず治療レジメンが「推奨されるレジメン」と「条件付きで推奨されるレジメン」に大別されたことを挙げた。

 「推奨されるレジメン」は、エビデンスの根拠となる各臨床試験の適格基準を満たすような全身状態が良好な患者を対象としており、各レジメンは

① 第Ⅲ相試験により、臨床的有用性〔全生存期間(OS)における優越性または非劣性〕が示されたもの

② 特定の患者に対する2つ以上の第Ⅱ相試験で臨床的有用性が再現されたもの

③ 複数の第Ⅲ相試験で対照群に用いられるなど、標準治療の1つとして考えられるもの-のうち1つ以上を満たすものとされた。

「推奨されるレジメン」には、第4版では3つの推奨度分類(推奨度1~3)が記載されていたが、改訂版ではこれを廃止。

Minds診療ガイドライン作成マニュアルVer.2.0に準じたエビデンスレベル(A~Dの4段階)を併記している。

「推奨されるレジメン」は、一次治療ではHER2陰性の場合、S-1+シスプラチン(CDDP)、カペシタビン(Cape)+CDDP、SOX〔S-1+オキサリプラチン(OHP)〕、CapeOX(Cape+OHP)、FOLFOX〔フルオロウラシル(5-FU)+レボホリナートカルシウム+OHP〕が、HER2陽性の場合、Cape+CDDP+トラスツズマブ、S-1+CDDP+トラスツズマブが推奨された。

また二次治療では、HER2の状態にかかわらずパクリタキセル(PTX)毎週投与法+ラムシルマブ(RAM)が推奨された。

 HER2陰性例の一次治療に新たに加わったSOX、CapeOX、FOLFOXについては、エビデンスレベルB(効果の推定値に中程度の確信がある)としているが、最近の大規模比較試験でも対照群の治療として用いられており、シスプラチンを含まないために大量輸液を要さず簡便な治療法とされる。

FOLFOXは特に経口摂取不能の場合などの選択肢となる。

三次治療にニボルマブ登場、新薬開発が厳しい現況も

また三次治療における重要な変更点では、設楽氏は免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-1抗体ニボルマブが推奨されるレジメンとしてエビデンスレベルAとされたことを指摘した。

第Ⅲ相多施設共同プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験

ATTRACTION-2では、日本人を含むアジア人を対象に、ニボルマブ群の有効性・安全性がプラセボ群を対照として検証された。

その結果、ニボルマブ群のプラセボ群に対するOSの有意な延長(ハザード比0.63)が認められた。

注・ハザード比=統計学上の用語。臨床試験などで使用する相対的な危険度を客観的に比較する方法。

有害事象の発現率も両群で同様だった。

わが国では、2017年9月に同薬の「がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発胃がん」への適応拡大が承認されている。

現在、同じく抗PD-1抗体であるペムブロリズマブや抗PD-L1抗体アベルマブについても、治療ラインやPD-L1発現の意義、化学療法との併用療法などを検討する幾つかの第Ⅲ相大規模臨床試験が進行中である。

同氏は「二次治療におけるペムブロリズマブ単剤の有効性を検証したKEYNOTE-061試験や三次治療におけるアベルマブの有効性を検証したJAVELIN Gastric 300試験の結果が既に公表されており、いずれも統計学的に十分な生存延長効果は示せなかった」と報告。

今後公表される詳細な試験結果が待たれるとした。

さらに新規分子標的治療薬についても、多数の第Ⅲ相試験が行われているが、同氏は「最近報告された22件の第Ⅲ相試験結果のうち、ポジティブな結果が得られたのは5件のみだった」と述べ、胃がん領域では新薬の開発が難航していることを指摘した。

ただし、現在も多数の大規模臨床試験が進行中であるという。

「条件付き」推奨レジメンは患者の状態や社会的要因などを考慮し選択

「条件付きで推奨されるレジメン」は、患者の病態や年齢、臓器機能、合併症といった全身状態、さらに通院時間や費用などの社会的要因、患者の希望などを考慮した上で選択できるレジメンとして呈示された。

同委員会で腫瘍内科医6人中5人(70%以上の一致)のコンセンサスが得られた化学療法レジメンに限定されている。

なお「『推奨されるレジメン』の用量やスケジュールを変更して用いることと、『条件付きで推奨されるレジメン』を用いることのどちらがよいのかについては、多くの場合にいまだ明確になっていない」と設楽氏は述べた。

「条件付きで推奨される化学療法レジメン」の一次治療には、タキサン系薬剤を含むレジメン、オキサリプラチンを含む化学療法とトラスツズマブの併用療法などが挙げられた。

CQが大幅に増設

クリニカルクエスチョン(CQ)については大幅に増設され、切除不能例に関しては10問、周術期補助化学療法に関しては4問が設定された。

CQ16「切除不能進行・再発胃癌の二次治療において単独療法は推奨されるか?」については、推奨文として「切除不能進行・再発胃癌の二次治療において単独療法を条件付きで推奨する」と記載している。

「ラムシルマブは、高血圧・腫瘍出血・血栓症などの副作用が起こり得るため、適切な患者選択が重要である」と設楽氏は述べた。

また同氏は、「条件付きで推奨される化学療法レジメン」の二次治療の1つとして挙げられているnab-パクリタキセル毎週投与(あるいはラムシルマブ併用療法)について、アルコール不耐症例などでラムシルマブ+パクリタキセル(毎週法)併用療法が適応とならない場合には治療選択肢の1つとなると紹介。

「nab-パクリタキセル3週置き投与は、条件付き推奨レジメンにも入っていない」と指摘した。

さらに同氏は私見として、実臨床では、持続性の神経障害がある場合にはイリノテカンやラムシルマブ単剤療法を、どうしても脱毛症を拒む患者にはラムシルマブ単剤療法を選択するなど、患者と個別に話し合いながら治療を選択すべきだ、とした。

またCQ23~26で解説されている術後補助化学療法については、2012年に韓国を中心に実施されたCLASSIC試験の結果を踏まえて、治癒切除されたStageⅢ胃がんの術後補助化学療法としてCapeOX療法が推奨に加わった(エビデンスレベルA)。

第4版で初めて術後補助化学療法として推奨されたS-1については、StageⅡ/Ⅲ胃がんに対するS-1の優越性を証明したACTS-GC試験の結果を受けて、StageⅡ胃がんに対してはS-1による有害事象の低減を目的に、1年の投与期間を半分にした治療法の非劣性試験が行われた。

昨年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2017)では、同試験の中間解析の結果が報告されたが、S-1の1年間投与に対する6カ月間投与の非劣性を示すことは困難と判定され、同試験は早期無効中止となった。

この結果を受け、改訂版では「現時点ではS-1単独療法1年間あるいはCapeOXなどのオキサリプラチン併用療法6カ月間」の術後補助化学療法を推奨している。

一方、日本がん臨床試験推進機構(JACCRO)は、StageⅢの治癒切除胃がんに対する術後補助化学療法としてのS-1+ドセタキセル併用療法とS-1単独療法の第Ⅲ相ランダム化比較試験(JACCRO GC-07、START-2)を実施。

S-1+ドセタキセル併用療法の無再発生存期間がS-1単独療法に比べて有意に良好であることが判明したことから、JACCROは昨年9月に同試験の有効中止を発表した。

本結果が今後公表される予定であり、同氏は「今後、START-2の結果を踏まえて、われわれはウェブ上でのガイドライン改訂速報版の公開について検討する必要があるだろう」と展望した。

さらに欧米では標準治療とされる術前補助化学療法については、わが国ではいまだその意義が確立されていない。

改訂版では、切除可能胃がんに対する術前補助化学療法は条件付き(高度リンパ節転移症例)での推奨としている。

同氏は「現在は大型3型・4型胃がんに対する術前S-1+シスプラチン併用療法の第Ⅲ相比較試験の結果が解析待ちの状況であるほか、術前あるいは周術期補助化学療法に関する複数の臨床試験が進行中であり、今後、ガイドラインでもアップデートする必要がある」とした。(髙田あや)   
『Medical Tribune』 2018年3月30日 配信
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