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なぜ? 昼食後睡魔 [医学・医療短信]

誰も逃れられない「昼食後睡魔」の理由
内村直尚 / 久留米大学教授

 毎日、昼食後に眠気を感じる人は少なくないはずです。

 一般的にこの理由は「食後は消化のために胃に血流が集中し、脳の血流が低下するため」と理解されているようです。

 もしその通りならば、朝食後や夕食後にも同様の眠気に襲われてしかるべきです。

 しかし、そのような訴えを耳にすることはほとんどありません。

 そもそも毎食後に眠くなるようでは日常生活に支障が出てしまうでしょう。

 昼食後の眠気がなぜ生じるのか。

 体内時計が定めた覚醒低下の時間帯

 2017年にノーベル医学生理学賞をアメリカ人研究者3人が受賞しました。

 そのテーマは「概日リズムを制御する分子メカニズムの発見」でした。

「概日リズム」とは、生物が体内に備えている時間測定機能(体内時計)によって、日常生活が約24時間周期に規定されることです。

 この体内時計の仕組みにより、ヒトは昼間活動し、夜間は睡眠で休息をとり、それに応じて臓器などの活動もリズムが保たれています。

 実はこの体内時計をより詳しく調べていくと、ヒトの覚醒レベルは朝の起床直後から急上昇し、昼前に右肩下がりに低下していきます。

 そして、午後2~3時ぐらいに覚醒レベルが最も低くなります。

 その後、再び夜に向けて覚醒レベルが上昇し、午後9時前後を境に再び低下していきます。

 つまり体内時計の働きで、昼食後の午後2~3時は誰もが眠くなってしまう時間なのです。

 神経伝達物質「オレキシン」の影響

 もう一つ、昼食後に眠くなる科学的な理由があります。

 それは日本人の研究者が1990年代後半に発見した「オレキシン」という脳内神経伝達物質の一種が関係しています。

 オレキシンは主に、「空腹時の食欲増進」と「覚醒の維持」の二つの働きを持つことが知られています。

 オレキシンはヒト以外の動物の脳内にもあり、「食事を取る」という行動と密接な関係があります。

 動物は、おなかがすいたら食べ物を探さなくてはなりません。

 特に肉食動物や大昔のヒトにとっては「食事を取る=狩りを行う」ことです。

 つまり空腹時はオレキシンにより覚醒が維持される必要があるのです。

 そして、食後は体内で作られるオレキシンの量(分泌量)が低下します。

 このように、昼食後の時間帯は、体内時計の仕組みとオレキシンの作用が、共に覚醒低下に向けて働く時間帯なのです。

夜間の十分な睡眠と昼寝で予防

 避けようのないこの昼食後の眠気は、仕事や学業に励む人にとっては面倒なものです。

 これを防ぐ方法は、二つあります。

 一つは、夜間に6~8時間の睡眠をしっかり取ることです。

 夜間に十分な睡眠を取れていない人は、当然ながら昼食後に眠気を強く感じます。

 もう一つの予防法は昼寝です。

 ただし、昼寝の時間は30分までにとどめる必要があります。

 昼寝のコツ

 睡眠は、脳も体も眠る「ノンレム睡眠」で始まり、その後、脳は起きていても体が眠っている「レム睡眠」へと移行します。

 ノンレム睡眠は眠りの深さに応じて4段階に分けられます。

 最も深い4段階目の睡眠は、早ければ眠り始めてから30分後に到達してしまいます。

 4段階目のノンレム睡眠から起きた直後は、体は起きているのに脳は眠気を引きずってボーっとした「睡眠慣性」という状態です。

 この時に活動すると、不注意でミスをしたり、思わぬ事故を起こしたりするなどの悪影響が出かねません。

 ですから、4段階目のノンレム睡眠に到達する前に起きるのが昼寝のコツです。

 昼休みの一部を昼寝に当てよう

 昼寝に適した時間帯は、日中の覚醒レベルが最も低下する午後2~3時です。

 しかし、その時間帯に昼寝をするのは難しいでしょう。

 そこで、昼休みの一部を昼寝に当ててみましょう。

 完全に横になる必要はなく、椅子に座って机に伏せた状態でいいのです。

 短時間の昼寝でも、脳の活動は低下し、疲労回復と眠気の解消に役立ちます。

 これにより、脳はリフレッシュし午後の業務や学業の能率がアップするはずです。

【聞き手=ジャーナリスト・村上和巳】=「毎日新聞 医療プレミア」より転載。

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昼間の眠気の真相 [医学・医療短信]

新社会人を襲う昼間の眠気の真相
内村直尚 / 久留米大学教授

梅雨入りが始まっています。

毎年この少し前の時期から、私が勤めている久留米大学病院の睡眠外来では、4月に就職したばかりの新社会人の受診者が増えてきます。

彼らの多くは「昼間の耐えられない眠気」を訴えます。

中には業務時間の会議中や上司と話しながら居眠りをしてしまい、上司の命令で受診したという深刻な事例もあります。

なぜこの時期に新社会人の受診者が増えるのでしょうか。

中学校を境に始まる日本人の夜型化

彼らがなぜ睡眠外来を受診したのかという答えは、極めてシンプルです。

睡眠不足だからです。

睡眠不足を甘く見てはいけません。

医学的には「睡眠不足症候群」という病名が付く、立派な病気です。

しかも、とりわけ新社会人の睡眠不足は、現在の日本社会が抱える子供の生活の夜型化という社会的な問題と無縁とは言えません。

文部科学省が小学5年~高校3年を対象に2014年11月に行った「睡眠を中心とした生活習慣と子供の自立等との関係性に関する調査」というデータがあります。

全国の公立学校から学年ごとに100校ずつ選んで実施し、計771校の2万3139人から回答を得たものです。

その結果から子供たちの就寝時間を見てみると、小学生は85.4%が午後11時までに就寝していますが、中学1年になると59.8%に減り、2年で45.6%、3年で22.6%にまで激減します。

高校生はさらに減少して16.4%になります。

つまり中学3年以降は、おおむね夜型生活となっているのです。

それでも中学、高校時はまだ校則や生徒指導が厳しいため、朝の起床時間はある程度厳守されています。

ところが、講義の出欠チェックが甘く、場合によっては代返でごまかせてしまう大学に入学すると、朝の起床時間を守る必要がなくなり、生活のリズムは大きく崩れ始めます。

1人暮らしならばなおさらです。

夜遅くまで友人と遊び歩く、あるいは飲酒する。自室でネットサーフィン、スマートフォンでチャットやゲームに興じ、就寝するのは午前3~4時。

そして朝は午前9~10時に起床ということも珍しくないでしょう。

にもかかわらず、4月に新社会人として勤務が始まると、大学生時代の起床時間前には会社に到着していなければなりません。

必然的に睡眠時間は3~4時間程度になります。

日常生活を円滑に送るために、成人はおおむね6~7時間の睡眠が必要とされていますので、明らかな睡眠不足となるわけです。

睡眠不足を悪化させる休日の「寝だめ」

さらにこうした睡眠不足が続くと、往々にして休日にこれを解消しようとします。

いわゆる「寝だめ」です。

しかし、実はこれが睡眠不足症候群を悪化させます。

ヒトの体内では生体リズムを調節する作用と催眠作用を持つメラトニンというホルモンが分泌されています。

メラトニンは起床後に日光を浴びると分泌量が減少し、そこから約16時間後に分泌量が増加し始めます。

つまり、ヒトは起床から16時間たたないと眠くならないといえます。

日曜日の正午に起床した場合、再び眠りにつけるのは翌日の午前4時。

こうなれば月曜日の業務中は当然、眠気に襲われるでしょう。

そもそもヒトは「寝だめ」、つまり睡眠の「貯金」はできません。

一方で、睡眠不足という名の「借金」の一部を、後の睡眠時間延長で「返済」することはできます。

しかし、この返済も生体リズムを考慮すると、1日当たり最大2時間程度が限界です。

成人に望ましい睡眠時間は1日6~7時間だと言いましたが、平日に毎日1時間不足するだけで、週末2日間に睡眠時間を1日2時間ずつ延長しても「債務超過」状態なのです。

不眠より治療が困難な睡眠不足

睡眠不足症候群は、不眠症と違って治療薬はありません。

就寝時間を早めるのが治療の要ですが、長年の生活習慣は容易に変更できないことを多くの人が自覚しているでしょう。

そこで、まず私たちが睡眠不足症候群の患者さんに実施してもらうのが、就寝と起床の時刻を記録する「睡眠日誌」を1カ月程度つけることです。

実際に目で見ることで恒常的な睡眠不足の深刻さを自覚してもらい、生活習慣の改善を促します。

これで改善する患者さんは良いのですが、本人のみでは無理なケースもあります。

例えば、患者さん本人が寝ようとしても、同居家族が深夜までこうこうと電気をつけて大音量でテレビを見ている場合や、職場の都合で帰宅時間が遅くなる場合などです。

このようなケースでは、家族や職場の上司に来院してもらい、協力を求めることもあります。

睡眠不足症候群は、生活の変化などがあれば、新入社員に限らず起こり得ます。

しかも、睡眠リズムの変更が定着するまでには最低1カ月は必要です。

もし、あらかじめ生活リズムの変更が予想されているならば、1カ月以上前から睡眠リズムの改変に取り組むことが何よりも大切です。
   ×   ×   ×
「眠りを知れば人生危うからず」

睡眠に悩みを抱える人は多いと思いますが、「たかが睡眠」と思っていませんか? 

それは大間違いです。睡眠は、生活習慣病や精神疾患などの健康問題だけでなく、産業事故や交通事故などの社会問題とも密接に関係しているのです。

私は、1981年に日本初の睡眠外来を設置した久留米大学病院で、日々睡眠に悩む患者の治療にあたっています。

長年の経験を基に、人にとって睡眠がどれだけ重要なのかをお伝えしたいと思います。

【聞き手=ジャーナリスト・村上和巳】=毎日新聞 医療プレミア 

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WHO、トランス脂肪酸の排除 [健康小文]

WHOがトランス脂肪酸の排除を計画

 世界保健機関(WHO)は5月14日に、世界の加工食品から工業的に製造されたトランス脂肪酸を段階的に排除するための戦略的行動指針「REPLACE」を発表した。

 WHOによると、トランス脂肪酸の摂取による心血管疾患で毎年5万人超が死亡していることから、トランス脂肪酸を排除することは人々の健康と生命を守るための鍵になるという。

 WHO事務局長のTedros Adhanom Ghebreyesus氏は「加工食品に含まれるトランス脂肪酸を排除ための指針"REPLACE"を実行することを各国の政府に要求する。

 "REPLACE"の6つの戦略的行動を実行することで、食品からトランス脂肪酸を排除し、世界的な心血管疾患との戦いに勝利することができる」と述べている。

 非感染性疾患死の減少を推進

 工業的に製造されたトランス脂肪酸は、マーガリンなどの固形植物油やスナック菓子、焼成食品、揚げ物などに含まれる。

 製造業者は他の油よりも保存期間が長くなることからトランス脂肪酸を使用するが、風味やコストを変えずにより健康的な油を使用することもできる。

 "REPLACE"は、加工食品から工業的に製造されたトランス脂肪酸を迅速、完全、持続的に排除する6つの戦略的行動から成る。

●REview:工業的に製造されるトランス脂肪酸の原材料および必要な政策転換について展望する

●Promote:トランス脂肪酸をより健康的な脂肪や油に切り替える

●Legislate:トランス脂肪酸を排除するための規制措置を講じる

●Assess:食料品に含まれるトランス脂肪酸の量およびトランス脂肪酸の消費量の変化を評価、監視する

●Create:政策立案者、生産者、供給者、国民にトランス脂肪酸が健康に及ぼす悪影響に関する認識を促す

●Enforce:政策と規制のコンプライアンスを強化する

 幾つかの高所得国では、加工食品に含有できるトランス脂肪酸の量を法的に規制することで排除に成功した。

 また一部の国では、工業的に製造されたトランス脂肪酸の主な原料である部分水素添加油脂の使用を全国的に禁止している。

 トランス脂肪酸を最初に制限したデンマークでは、加工食品に含まれるトランス脂肪酸の量が劇的に低下し、心血管疾患死は経済協力開発機構(OECD)加盟国と比べてより急速に減少した。

 工業的に製造されたトランス脂肪酸を世界の食料品から排除することは、WHOの2019~23年の戦略的計画である第13回総合事業計画案(GPW13)の最優先目標の1つとなっている。

 GPW13は5月21~26日にジュネーブで開催される第71回世界保健総会の議題にも挙げられている。

 国際連合は持続可能な開発目標の一環として、世界の非感染性疾患による死亡を2030年までに3分の1に減少させることを目標としている。

 工業的に製造されたトランス脂肪酸を世界的に排除することで、この目標が達成できる可能性があるという。(大江 円)

 「 medical tribune」2018年05月21日

トランス脂肪酸は、構造中にトランス型の二重結合を持つ不飽和脂肪酸。

トランス脂肪酸は天然の動植物の脂肪中に少し存在する。

水素を付加して硬化した部分硬化油を製造する過程で多く生成される。

マーガリン、ファットスプレッド、ショートニングはそうして製造された硬化油である。

他にも特定の油の高温調理やマイクロ波加熱(電子レンジ)によっても多く発生することがある。

また天然にはウシ、ヒツジなど反芻動物の肉や乳製品の脂肪に含まれる。

LDLコレステロールを増加させ心血管疾患のリスクを高めるといわれ、2003年に世界保健機関(WHO)/国際連合食糧農業機関(FAO)合同専門委員会よって1日1%未満に控えるとの勧告が発表され、一部の国は法的な含有量の表示義務化、含有量の上限制限を設けた。

日本では、製造者が自主的に取り組んでいるのみであるが、同じように目標値が設定されている飽和脂肪酸の含有量が[1]増加している例が見られる。

パン、ケーキ、ドーナツ、クッキーといったベーカリー、スナック菓子、生クリームなどにも含有される。

他にもフライドポテト、ナゲット、電子レンジ調理のポップコーン、ビスケットといった食品中に含まれ、製造者の対策によって含有量が低下してきた国もあれば、そうでない国もある。

そうした食品を頻繁に食べれば、トランス脂肪酸を摂取しすぎることもある。
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安倍さん、大丈夫ですか? [健康小文]

 安倍晋三・首相の苦闘がつづいている。

 体調は大丈夫なんだろうか。

 2007年、第一次安倍内閣の首相を辞任したときの理由の大きな一つは「体調不良」。

 発表された病名は「機能性胃腸障害」だった。

 内視鏡検査では何ら異常は見つからないのに、胃もたれ、胃の痛み、胸やけ、下痢などの胃腸症状が続く病態を示す病名だ。

 以前はそうした病態はたいてい大抵「慢性胃炎」と診断された。

 内視鏡で見て、炎症があれば、もちろんのこと、なくても「慢性胃炎」といわれた。

 1998年、ローマで開かれた欧州消化器病学会で、「内視鏡検査では異常は認められないが、長期間にわたって胃腸症状が出没し、原因不明のものは、<ファンクショナル・ディスペプシア>と呼ぼう」と決められた。

 日本の消化器関連の学会もそれを受けて、「機能性ディスペプシア」という病名をつくった。

 ディスペプシアは、英和辞典には「消化不良」とあるが、医学的には「上腹部消化管症状」を意味する。

 わかりにくい病名だと、「機能性胃腸症」を推す意見もあったが、「機能性ディスペプシア」に決まったそうだ。

 だが、安倍さんの主治医も、そのカタカナ病名は使わなかった。

 その後、安倍さんは、本当の病名は「潰瘍性大腸炎」と公表された。

 大腸の粘膜に炎症が生じ、潰瘍や糜爛(びらん)ができ、激しい腹痛や下痢、粘血便(血液や粘液、ウミなどが混じった便)が出る、原因不明の難病だ。

 同じように腸管に炎症が生じ、下痢などの症状が起こる病気の、クローン病と合わせて「炎症性腸疾患」と呼ばれる。

 潰瘍性大腸炎の炎症は、大腸だけに限られるが、クローン病では口から肛門までの消化管のすべてに炎症が起こる可能性がある(一般的には小腸から大腸にかけてが多い)。

「潰瘍性大腸炎は、焼夷弾で焼け野原。クローン病はテロリストが仕掛けた爆弾。一点集中したところに深い穴があく」と、専門医はたとえる。

 どちらも活動期(再燃期)と緩解期を繰り返すタイプが最も多い。

 活動期の程度は軽症、中等症、重症、劇症に分類される。

 軽症は下痢の回数が1日4回以下で、血便などの程度も軽く、全身症状はない。

 重症になると、1日10回以上もトイレに行き、食事もできなくなる。

 栄養がとれないからげっそりやせる。

 潰瘍性大腸炎は、1859年、イギリスで初めて報告された。

 わが日本は幕末、安政の大獄や桜田門外の変が起こったころだ。

 クローン病は、1932年、ニューヨークのマウントサイナイ病院の内科医、バーナード・クローンが報告した。

 日本人には少ない病気だったが、近年急増している。

 現在の患者数は、潰瘍性大腸炎約16万人、毎年5000人程度増加している。

 クローン病の患者数は約4万人以上。

 どちらも自己免疫疾患といわれている。

 自己免疫疾患とは、病気に対抗し体を守る免疫反応のしくみが乱れ、自分自身の体を攻撃してしまう病気。

 自己抗体が関節を攻撃すると関節リウマチになるように、炎症性腸疾患では、大腸などの腸管を攻撃する。

 もう一つ、重要なのは食事で、食生活の欧米化(動物性脂肪の摂取量の増加)につれて、潰瘍性大腸炎もクローン病も増えている。

 特にクローン病には食生活の影響が大きいことが、厚労省研究班の食事調査で明らかにされた。

 一方、潰瘍性大腸炎で特徴的なのはストレスで、病気になる前、あるいは病気が再燃する前に、非常に苦悩した症例が多いという。

 そう聞くと、つい、あの首相辞任時の憔悴しきった感じの安倍さんを思い出す。

 昨今、テレビで見る安倍さんにはあの面影は、ほとんどうかがえない。

 いま、いくつかよく効く新薬ができて、そのなかの一つが安倍さんにも著効を呈し、寛解同然の状態であるという。

 なお、潰瘍性大腸炎もクローン病も、平均寿命は普通の人と変わらない。
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発症時刻不明な脳梗塞、どうする? [医学・医療短信]

発症時刻不明な脳梗塞でも治療対象に

脳梗塞の発症直後は薬物治療が基本で、「血栓溶解療法」、「抗血小板療法」、「抗凝固療法」、「脳保護療法」などが行なわれます。

「血栓溶解療法」は、血管に詰まった血栓を、t-PA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)という薬で溶かし、血流を再開させる方法です。

「抗血小板療法」は血小板の働きを抑えて、血液が固まるのを防ぐ治療法です。

現在のところ日本で臨床的に用いられているt-PA製剤はすべて、遺伝子組み換え組織型プラスミノゲン・アクチベーター(rt-PA:アルテプラーゼ静注療法)です。

t-PA治療は、起こって4.5時間以内、カテーテル(細い管)を使用して詰まった血栓を除去する血管内治療は8時間以内の患者さんが対象となります。

この限られた時間内に専門病院を受診し治療を受けられるかどうかが、その後の経過を左右するのです。

発症時刻が不明の脳梗塞では、最終未発症時刻(元気であることが確認された最終時刻)をもって発症時刻とすることとなっており、朝目が覚めたら麻痺していたという症例の多くはrt-PA製剤の適応になっていません。

しかし、欧州脳卒中協会年次集会で発表されたWAKE-UP試験では、発症時刻が不明の脳卒中急性期で、MRI拡散強調画像に脳梗塞を示す信号変化が認められない患者において、rt-PA静注による血栓溶解療法とプラセボ投与を比較した結果、rt-PA群の方が90日後の機能的転帰が良好でした。

結果は、N Engl J Med(2018年5月16日オンライン版)に掲載されました。

熊本市民病院内科の橋本洋一郎先生の解説をご紹介します。

指針を変える可能性

現在、脳梗塞超急性期治療では、発症4.5時間以内のアルテプラーゼ静注療法、発症6時間以内の機械的血栓回収療法のエビデンスが確立している。

しかし、この2つの治療法を大きく変える可能性がある報告が発表された。

DAWN研究(N Engl J Med 2018; 378: 11-21)、DEFUSE3研究(N Engl J Med 2018; 378: 708-718)、さらに今回発表されたWAKE-UP試験である。

DAWN研究は発症時刻不明例を含む最終健常確認時刻から6〜24時間、DEFUSE3研究は最終健常確認時刻から6〜16時間の内頸動脈または中大脳動脈M1(主幹部)閉塞による急性期脳梗塞で、神経徴候あるいは灌流低下領域と虚血コア体積のミスマッチを有する例を対象に、内科治療+血管内治療と内科治療単独とを比較したランダム化比較試験(RCT)で、血管内治療の追加が3カ月後のmodified Rankin Scale(mRS)スコアを改善させた。

これらの結果を踏まえて、日本脳卒中学会(幹事学会)、日本脳神経外科学会、日本脳神経血管内治療学会の3学会は「経皮経管的血栓回収機器の適性使用指針改訂第3版」を作成、公表した。

一定の条件を満たせば、血管内治療の適応が6時間以内から16時間あるいは24時間以内に拡大されることとなった。

「rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法 適正治療指針 第二版(2012年10月、2016年9月一部改訂)」 では、「rt-PA静注療法は、発症から4.5時間以内に治療可能な虚血性脳血管障害患者に対して行う(エビデンスレベルⅠa、推奨グレードA)」「発見時刻は発症時刻ではない。発症時刻が不明な時には、最終未発症時刻をもって発症時刻とする(エビデンスレベルⅣ、推奨グレードA)」となっている。

24時に就寝し、朝7時に目が覚めたら麻痺が出ていたという症例では、MRI所見などから発症4.5時間以内が推定されても、最終未発症時刻が24時なのでアルテプラーゼが投与できない。

わが国で恩恵を受ける患者が多い

 今回のWAKE-UP試験では、発症時刻が不明の脳梗塞で、MRIの画像所見(DWI-FLAIRミスマッチ)で、発症から4.5時間以内と推定される症例に対してアルテプラーゼ静注療法を行ったところ、プラセボ群に比べて3カ月後の転帰良好例が増えることが示された。

この研究はDWIが撮影できるMRIがあれば実施可能な治療法であり、この結果に基づいて指針が変更されれば、人口に対するMRI数が世界で最も多いわが国で恩恵を受ける患者が多くなると考えられる非常に重要な結果である。

DWI-FLAIRミスマッチとはどのようなものであろうか。

わが国では睡眠中発症および発症時刻不明の脳梗塞患者へのrt-PA静注療法の適応拡大を目指した多施設共同試験THAWS が進行中である。

WAKE-UP試験の結果から、わが国におけるガイドラインの改訂、当局との交渉による適応拡大などが進むかどうかが今後の課題となってくる。

今回の結果から欧米でのガイドラインの改訂、あるいはアルテプラーゼの適応拡大を当局が認可するかどうかを見守っていきたい。

私は40年前の学生時代に神経内科の講義を鹿児島大学第三内科で受けたが、井形昭弘教授は「神経疾患は"分からない、治らない、諦めない、の3ない"だ」と言われた。

しかし、私が医学部に入学した1975年に日本で導入開始されたCT、その後の神経超音波検査、MRI、SPECTの登場で、脳梗塞を含めた多くの神経疾患もだいぶ分かるようになり、治せるようにもなり、疾患の病勢・再発をうまく調整できるようにもなり、諦めなくてもよくなってきた。

発症時刻が不明でもMRIの画像所見(DWI-FLAIRミスマッチ)から発症4.5時間以内であることが示唆される脳梗塞患者ではアルテプラーゼが有効となる可能性が高くなるので、わが国でDWI-FLAIRミスマッチのある脳梗塞症例に対してアルテプラーゼで治療できるようになることを期待している。

「Medical Tribune」2018年05月23日

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認知症になっても役に立てる [医学・医療短信]

 地域医療に取り組む医師で作家の鎌田實さんが、認知症について温かく話している。
 
「蝶の眠り」というすてきな映画をみた。

 韓国の女性監督チョン・ジェウンが、日本のスタッフとキャストとともに、美しい映画をつくった。

 中山美穂が演じるのは、人気小説家。

 夫と別れた後、精力的に執筆を続けていたが、母親と同じ遺伝性アルツハイマー病に侵される。

 病の進行を不安に思いながら、韓国から来た小説家志望の留学生にサポートしてもらいながら、小説を書き上げる。

 「アルツハイマーになっても小説を書くことも、人を愛することもできる。美しく、やさしく、可能性に満ちた映画だ」

 この映画についてコメントを求められ、ぼくはそんな文章を寄せた。

 今回は認知症について考えてみたい。

 主人公は「遺伝性アルツハイマー病」ということになっているが、アルツハイマー病の患者さんの一部には、遺伝子が関係しているものもある。

 家族性アルツハイマー病は40代など若いときに発症する傾向がある。

 アルツハイマー病は、アミロイドβというたんぱく質がシミのように脳細胞に沈着し、脳細胞が硬くなって働かなくなってしまう。

 家族性アルツハイマー病の人は、いくつかの遺伝子変異があり、アミロイドβを異常につくってしまうことがわかっている。

 しかし、その遺伝子をもっているからといって、必ず発症するわけではない。

 遺伝子はスイッチがオフになっていると働き出さないといわれている。

 スイッチを入れる原因は、慢性炎症である。

 つまり、慢性炎症を防ぐことが、遺伝子があってもアルツハイマー病を発症させないカギを握っていることになる。

 慢性炎症とは、簡単にいうと炎症の症状が長期的に続くことをいう。

 切り傷が赤くはれて熱をもつのは急性炎症だが、慢性炎症はがんや動脈硬化、アルツハイマー病などの進行に関係するといわれている。

 糖尿病があると慢性炎症を起こしやすくなる。

 だから、認知症の発症を抑えるために、糖尿病にならないようにすることも大切なのだ。

 歯周病も慢性炎症を起こすので要注意。

 最近、注目されている骨ホルモンのオステオカルシンは、骨密度を高めるだけでなく、膵臓(すいぞう)に作用して糖尿病を改善・予防する働きがあることが報告されている。

 このオステオカルシンの分泌を促すには、かかと落としのような骨に衝撃を与える運動がいい。

 背筋を伸ばして立ち、かかとを上げて3秒キープした後、ストンとかかとを床に落とす。

 注意点は、(1)背筋を伸ばす(2)かかとを上げて3秒(この時フラフラする人は、何かにつかまってもよい)(3)かかとからドンと落ちること

 これを1日30回ほど続けると、骨粗鬆(こつそしょう)症の予防になり、認知症の予防にもつながる。

 毎日の生活では、緑黄色野菜をたくさん食べることも大切だ。

 野菜に含まれる色素は、抗酸化力をもっており、慢性炎症を抑えてくれる。

 つまり、適度な運動習慣を身につけて、血糖値を上げないこと、野菜を食べることがポイントになる。

 そのうえで、認知症をおそれすぎないこともぼくは大事だと思う。

 名古屋には「おれんじドア も~やっこなごや」という認知症当事者の会がある。

 51歳のときに認知症と診断された山田真由美さんは、

「認知症になっても、人の役に立つことができる」という思いで代表をしている。

 こういう意識が大事なのだと思う。

 ぼくには、63歳の若年性認知症の男性の友人がいる。

 時々メールのやりとりをしているが、彼は認知症に負けないためには、閉じこもっていてはいけないという信念をもっている。

 若年性アルツハイマー病と診断されて13年がたつが、いまも1人暮らし。

 積極的に外出しながら人生を楽しんでいる。

 彼は「認知症患者にも満ち足りた生活がある」と言う。

 そのために、(1)ないものねだりをしない(2)小さな目標を立てて達成感に浸る(3)好きなこと、楽しいことを見つけて実行する--を心がけているという。

 こうした当事者たちの声は、ぼくたちに勇気を与えてくれる。たとえ認知症になっても、認知症イコール不幸ではないことを忘れないようにしたい。

 毎日新聞2018年5月20日東京朝刊「さあこれからだ」 
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物忘れが多い。本当に「認知症」? [健康短信]

物忘れが多いうちの母は本当に「認知症」?

その場しのぎ”の認知症ケアはもう古い

ペホス / 認知症ケア・コミュニケーション講師

母親:あんた、今日の晩ご飯は?

息子:いらないってさっきも言ったよ。何回聞くんだよ。

母親:あら、そう?

息子:しっかりしてくれよ……。

 お母さんとこのやり取りをした息子さん(30代)に、「私の母は『認知症』なんでしょうか?」と相談されました。

 話を聞くと、お母さん(70代)は日常生活をきちんと送れていて、物忘れはあるものの、年相応の物忘れのように思えました。

 そこで、「お母さんが『認知症』ではないかと疑っているようですが、どんな発言や行動からそう思うのでしょうか?」と尋ねたところ、次のような答えが返ってきました。

 ▽「ご飯はいるのか?」って毎日聞かれます。「いる」「いらない」ってその都度返事をしているのに、しょっちゅう聞き返されるのでイライラします。

 ▽テレビのリモコンの使い方を説明しても、僕の説明の半分も覚えていません。だから結局、毎回使い方を教えるはめになります。

 ▽きれい好きだったのに、家にほこりがたまっていても気にしなくなりました。本人は「掃除はしている」と言うのですが、本当かどうか……。

 息子さんが「ひょっとして『認知症』じゃないか?」と疑いたくなるのもうなずけます。しかし、ここに落とし穴があります。

 本当に「認知症」が原因なのか? という疑問

 息子さんの体験を、「認知症」の可能性を考えながら見ると、次のように推定できます。

(1)返事をしているのに、しょっちゅう聞き返してくる(記憶力の低下)

(2)伝えたことを、半分ぐらいしか理解していない(理解力の低下)

(3)きれい好きだったのに、ほこりがたまっていても気づかない(性格の変化)

 「記憶力の低下」「理解力の低下」「性格の変化」は、「認知症」が原因で起こる症状で、息子さんの心配も無理はありません。

 もちろん、可能性はあるかもしれませんが、わたしはあえて「『認知症』ではないのでは?」と見るようにしています。

 「認知症」に限ったことではありません。

 人は「○○ではないか?」と見当をつけると、当てはまる情報に照準を合わせたがる傾向があります。

 しかし、「認知症」の可能性が高いとしても、「認知症」ではない可能性も考えながら話を聞くことで、違う見方ができます。
 
 両方の視点からバランスのとれた見方をして、その人の行動を理解することが大切です。

 そこで、息子さんに次のような観点をお伝えしました。

 その行動は「認知症」が原因ではないかも?

(1)返事をしているのにしょっちゅう聞き返す

 ここで鍵になったのは「しょっちゅう」というフレーズでした。

 「毎回ではない」ということです。実際、息子さんに聞くと、「聞き返されない時もある」ということでした。

 であるなら、単純に「返事が聞こえていない」可能性があります。

 息子さんに「はっきり聞こえる声で返事していますか?」と聞くと、

「出かける準備をしながらだし、ちょっとイライラしながら返事をしているので、もしかしたらよく聞こえていないかもしれません」とのことでした。

(2)伝えたことの半分ぐらいしか理解しない

 ポイントは「僕の説明の半分も覚えていないんですよ」という点。

 つまり、半分は理解しているけれど、半分はあいまいにしか理解していない可能性です。

 年齢を重ねると、聞いたことを理解するスピードが遅くなります。そのため、早口の説明を理解しにくくなることがあります。

 そこで、「ゆっくり丁寧に説明していますか?」と尋ねると、「ああ、またか!と思うこともあり、早口でぞんざいな説明だったかもしれません」と言います。

(3)きれい好きだったのに、ほこりがたまっていても気づかない

 お母さんはほこりに気づかないようですが、「掃除はしている」と言っています。

 可能性として、白内障などによる視力低下が起きているのかもしれません。

 視界に「もや」のようなものがかかっているように見えるので、単純にほこりが見えないことが考えられます。

「お母さんは白内障と言われていませんか?」と尋ねると、「そういえば1年前、手術するほどではないが、白内障があると聞いたことがあります」とのことでした。

 認知症かどうかは医師の診断で判断を

 このように、息子さんの体験から、「(声が小さくて)聞こえていない」「(話が)早すぎてわからない」「(白内障で)見えていない」という可能性を考えることができました。

 その後、お母さんは病院で受診し、医師は「年齢相応の物忘れで、『認知症』ではありません」と診断したそうです。

 一見「認知症」に見える行動が、別な理由で起きた可能性を考えることも、「認知症ケア」では大切です。

 ※「認知症」の原因疾患は80種類以上あると言われています。

 認知症という単純表記で正確さを欠く記述にならないように、小欄では、さまざまな疾患が原因で起こる総称としての認知症を、かぎかっこ付きの「認知症」と表記します。
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認知症VS多様性スコア [健康短信]

認知症に備える 偏食せず何でも食べる

「認知症予防に効果的」と言われる食材はたくさんあるが、何をどのように食べればいいのだろうか。

 最新の研究では、「偏食せず何でも食べる人」ほど認知機能が下がるリスクが低いという結果が出た。

 愛知県大府市に住む佐々木直子さん(89)は、90代目前の今も、毎日のように新聞記事を切り抜いたり体操教室に通ったりして元気に過ごしている。

 5月のある日の朝食は、茶わん1杯のご飯に卵焼き、焼きニンニク、大根や菜っ葉の漬物、焼きのり……と盛りだくさん。

 実家が魚屋だったことから、今もサバのみそ煮などの魚料理が大好きだ。

 毎日200ミリリットルの牛乳を飲むことも欠かさない。

「元気の源はよくかんで何でも食べること。戦時中に育ったから、食べ物のありがたみがよくわかる」と笑う。

 大府市にある国立長寿医療研究センターでは、地域の高齢者約2300人を対象に、1997年から大規模な追跡調査を実施。

 認知症予防に関する研究を幅広く続けている。

 食事に関する研究もその一つで、魚や乳製品を食べることは、認知症につながる認知機能低下を抑える効果があるという研究結果が出た。

 中でも2016年にセンターが発表した研究成果では、佐々木さんのように偏食せず何でも食べると、認知機能低下を抑えることが示された。

 何でも食べることがなぜ認知症予防に効果的なのか。

 同センターに、調査を担当する「NILS-LSA活用研究室」の大塚礼室長(42)を訪ねた。

 ●抗酸化・炎症、鍵に
 「『認知症予防に効果的』とされている食材はいろいろありますが、前提として、食事だけでは認知症は防げません。

 遺伝のほか運動や生活環境など複数要因の一つとして食生活も関わってくるという考え方をしてほしい」。

 大塚さんはそう話す。その上で、

「これまでのさまざまな研究データから、抗酸化作用や抗炎症作用のある栄養素が効果的ということが言えます」と解説する。

 認知症には複数のタイプがあり、たとえば、国内の認知症患者の6割以上を占めると言われる「アルツハイマー型認知症」は、脳細胞の酸化ストレス(体がさびることによる悪影響)が発症に関係すると考えられている。

 抗酸化・抗炎症作用のある栄養素を含む食材は、こうした酸化ストレスや炎症から脳を守る効果があるという。

 また、「脳血管性認知症」は、脳梗塞(こうそく)や脳出血によって引き起こされることもある。

 そのため、動脈硬化予防や血圧低下に効果のある食事が発症リスクを抑えると見られる。

 とはいえ、たとえば魚が効果的だとしても、毎日魚だけを食べるわけにはいかない。

 栄養素同士の組み合わせもある。

 だからこそ「何をどう食べるか」という食生活のスタイルが重要となる。

 ●「地中海食」を推奨

 海外の研究結果を基に国際的に推奨されているのは、イタリア料理に代表される「地中海食」だ。

 魚や野菜、果物、オリーブ油、ワインといった抗酸化・抗炎症作用のある食品が多い。

「オリーブ油を使った料理やワインなんて日常的に食べたり飲んだりしていない」という人は、和食にするよう意識するといいという。

 魚や野菜、豆類をバランスよく取れて、地中海食と同様に認知症の発症リスクを下げるとする国内研究がある。

 ただし、和食はみそやしょうゆなどで塩分を多く取りがちで、脳血管性認知症の要因となる高血圧や動脈硬化のリスクが高まるため、減塩を心がけることが必要という。

 ●品数多いほど効果

 さらにわかりやすいのが、冒頭で紹介した「何でもいいからとにかく多品目を食べる」という食生活スタイル。

 国立長寿医療研究センターが16年に発表した研究結果では、一度の食事でより多い品目を食べている「多様性の高い食事」の人ほど、認知機能低下のリスクが下がることが分かった。

 研究では、60~81歳の570人について、連続3日間の食事の献立を記録。

 穀類や野菜類、肉類などそれぞれの食品群の品目の多さで1回の食事の「多様性スコア」を計算した。

 たとえば、朝食をパンとコーヒーだけで済ませる人ほどスコアが低く、みそ汁やご飯、漬物、卵焼きなど、品数や使われた食材の種類が多い人ほどスコアが高くなる。

 スコアが最も低いグループに比べて、最も高いグループは、認知機能低下のリスクが44%低くなるという結果が出た。

 一つ一つの栄養素の摂取量やバランスを常に意識することは難しくても、幅広い食材をいつも取ることを心がける。

 毎日少しずつ違う食べ物を取り入れていくことから食生活上の予防を始めたい。

 研究によると、多様性スコアが高い人ほど果物や乳製品、豆類、肉、魚などをより多く食べていたという。

 加齢に伴い、男女共通して果物や乳製品の摂取量は下がる傾向にあり、女性に限っては豆類も食べる量が減っていた。

 果物や乳製品などを意識してメニューに加えることで、より効果的に多様性のある食事が取れることになる。

 食事の多様性を保つためには、献立を考えたり複数の食材を購入して準備したりと、複雑な工程をこなす必要もある。

 大塚さんは「手のかかったものをきちんと食べることは、栄養素とはまた違った面から認知機能への好影響があるとも考えられる」と話した。【塩田彩】

毎日新聞2018年5月20日 東京朝刊
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アルツハイマー病の超早期治療 [医学・医療短信]

朝丘雪路さん(82歳)がアルツハイマー型認知症のため4月27日に死去していたことが19日、分かった。

アルツハイマー病の発症前治療に関する論文を読んだ。

アルツハイマー病の超早期治療に挑む

 アルツハイマー病(AD)は記憶障害などの進行性の認知機能障害を主徴とする神経変性疾患で、病理学的変化が10数年から20年かけて進行し、症状が出現したときには既に病理学的変化はかなり進行している。

 ADの根本的治療は、発症メカニズムに即して症状の出現前を対象とする方向にあるという。

 東京大学大学院神経病理学分野教授の岩坪威氏に聞いた。

 脳画像や体液バイオマーカーを探索

 ADの病理学的特徴としては、大脳皮質の神経細胞脱落、神経原線維の変化、老人斑の出現が挙げられる。

 1980年代に病理学的研究が進み、老人斑の主成分であるアミロイドβ(Aβ)や神経原線維の変化の主成分であるタウ蛋白質が同定された。

 また、1990年代には遺伝学研究の進歩により、家族性ADの研究からAβがADの病因であること(アミロイド仮説)、タウ蛋白質は細胞死から認知症症状の発現のメカニズムに関わることが立証された。

 アカデミアにおいて発見されたAD発症メカニズムに基づき、1990年代末には製薬企業がAβとタウ蛋白質を標的として、それらが凝集・蓄積する過程を抑制する疾患修飾薬の開発に取り組み始めた。

 岩坪氏は「ADの治療では、その発症メカニズムを知り、症状が軽度または不完全な軽度認知機能障害(MCI)の段階、さらには病理的な変化は起きているが無症状のプレクリニカルADの段階で治療を開始し、神経細胞の変性を抑え、少しでも進行のスピードを抑制することが理想である。

 疾患修飾薬の効果を正確に判定するには、臨床症状や認知機能の変化が少ない初期のADの精密な自然歴を知り、早期の無症候段階で脳に凝集・蓄積するAβを評価、測定する指標が必要となる」と説明する。

 診断には認知機能、臨床評価が最も重要であるが、検査結果はばらつきが大きい。

 そのため、安定して脳の神経細胞の変性を反映するバイオマーカーを併用することで早期から正確な評価ができる。

 また、ADの臨床症状の出現を代理して予測するサロゲートマーカーの開発も非常に重要となる。

アミロイドPETでAβ蓄積を非侵襲的に可視化

 そこで2004年に、MCIを中心とする早期段階のADの自然歴を明らかにし、ADの臨床症状の出現を代理して予測する脳画像や体液バイオマーカーを探索し、症状とバイオマーカーの併用によりその後の進行度を予測、評価することを目的とした多施設共同の縦断的臨床研究ADNIが米国で開始された。

 2004~09年のADNI第1期(ADNI-1)では57施設でADに進行する可能性が高い健忘型MCI 400例、軽症AD 200例、認知機能健常高齢者200例を目標に被験者がリクルートされ、2007年に819例(健忘型MCI 398例、軽症AD192例、認知機能健常高齢者229例)が組み入れられた。

 当初、構造的MRIを用いた脳容積の測定、フルオロデオキシグルコース(FDG)-PETを用いた脳糖代謝画像、脳脊髄液中のタウ蛋白質とAβ1-42などが、バイオマーカーとして測定されたが、途中から一部の被験者に11C-PiBを用いたアミロイドPETによるアミロイドイメージングが行われた。

 2009~11年のADNI"Grand Opportunities"( ADNI GO)では18F-AV45を用いたアミロイドPETが行われるようになり、2011~16年のADNI第2期(ADNI-2)からは全例にアミロイドPETが施行されるようになった。

 ADNI第3期(ADNI-3)が2016年から5年間の予定で現在進行中である。

「タウ蛋白質が蓄積する疾患としてはAD以外にも何種類かの変性型認知症があるが、AβはADあるいはその初期段階を表す必須の指標である。Aβの脳内蓄積を非侵襲的に可視化することが可能になったことから、ADNIでのアミロイドPETの導入はAD病理の進行過程を知る上で大きなインパクトとなった」と言う。

 日米のMCI進行パターンは類似

 日本で疾患修飾薬の治験を開始するには、ADNIと同様の画像・バイオマーカーを用いた研究が不可欠と考えられた。

 そこで、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)橋渡し促進技術開発プログラム、厚生労働省認知症対策総合研究と企業コンソーシアムが協力したpublic-private partnership(PPP)として医師・研究者主導国家的臨床研究プロジェクトJ-ADNIが2007年に始まった。

 J-ADNIでは2008~12年の3年8カ月間に全国38臨床施設で710例をスクリーニングし、ADに進行する可能性が高い後期健忘型MCI 234例、軽症AD 149例、認知機能健常高齢者154例、計537例が組み入れられた。

 半年から1年ごとにMRIによる脳形態画像、FDG-PETによる脳糖代謝画像、11C-PiBまたはBF-227を用いたアミロイドPETイメージング、脳脊髄液検査、ApoE遺伝子型検査、種々の臨床・認知機能検査を行い、3年間(ADは2年間)フォローアップし、2014年3月に終了した。

 日米の認知機能検査データを比較したところ、アミロイド陽性の後期健忘型MCIの認知機能障害検査に基づく進行パターンは両国で非常に類似していることなどが明らかになった。

 J-ADNIで得られたデータは科学技術振興機構National Bioscience Database Centerのヒトデータベースに登録され、研究用に広く公開され、活用が始まっている。

 プレクリニカルADを対象とした予防治験も開始

 次世代の治験としては、MCIよりもさらに前段階のプレクリニカルAD(アミロイドなどの病理学的変化は陽性だが、無症候である時期)を対象に、疾患修飾薬が認知機能の正常域からの低下を食い止められるかどうかを検討する予防治験が開始されている。

 2014年に開始されたAnti-Amyloid Treatment in Asymptomatic Alzheimer's Disease(A4)研究は米国、カナダ、オーストラリア、日本が参加し、アミロイドPET陽性のプレクリニカルADを対象に、抗Aβモノクローナル抗体solanezumabの有効性と安全性を4.5年間追跡して検討する二重盲検ランダム化比較試験である。

 わが国からは岩坪氏ら東京大学の研究グループが参加、2017年12月に世界で1,169人の被験者組み入れが終了した。

 岩坪氏は「A4はその後に続くプレクリニカルADを対象とした抗Aβ薬の治験のプロトタイプとして重要な意味を持っている。

 今後、ADの予防治験の対象は認知機能健常者になるため、治験を行う上で被験者の登録システム(registry)が鍵になる」と言う。

 米国では一般高齢者に対する認知症研究の啓発活動が熱心に行われ、インターネットを活用したregistryも進んでいる。

 治験に興味を持った人が、簡単なスクリーニングを受けて登録できるシステムが構築されている。

 日本でも2017年から認知症外来をベースとするオレンジレジストリー、健常者を主対象としたインターネットベースの登録システムIROOP(Integrated Registry Of Orange Plan)が開始された。

 また学会を中心とするPPPとして、治験に適格な条件を備えた被験者を多数登録した「トライアル・レディ・コホート」を国際的な連携のもとに構築するプロジェクトも構想されている。

 同氏は「抗Aβ薬をはじめとする疾患修飾薬で最大の効果を得るためには、超早期の治療が必要である。

 その対象となる一般の健常高齢者にAD、認知症の重要性を理解していただき、興味を持たれた方は治験にも積極的に参加してほしい」と呼びかけている。(大江 円)

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加齢黄斑変性の意外な関連 [健康短信]

加齢黄斑変性に車の排気ガスが関連

 日本で増加が続く加齢黄斑変性(AMD)は、加齢の他に喫煙や太陽光など種々の要因が発症・増悪に関連すると考えられている。

 帝京大学眼科学准教授の三村達哉氏は、AMDと揮発性有機化合物(VOC)の関連に着目。

 AMDの病態に自動車由来VOCの曝露が関与していることを、第122回日本眼科学会(4月19〜22日)で報告した。

 自動車由来VOCの尿中代謝産物が有意に高値

 VOCは大気中で気体となる有機化合物の総称で、ベンゼン、トルエンなど100種類以上が存在する。

 VOC発生源は塗料や廃棄物処理などさまざまであるが、自動車の場合は主にガソリンである。

 VOCは生体毒性を有するものが多く、発がん性、遺伝毒性、神経障害などの悪影響を及ぼすことが知られている。

 しかし、これまでAMDとの関連についての報告はなかった。

 三村氏はVOC濃度が高い国ほどAMDの罹患率が高いこと、米国の州別に見るとVOC排出量とAMD罹患率に関連が認められたことから、VOC排出量が多いエリアに所在する帝京大学病院のAMD患者とVOCとの関連について検討した。

 対象は未治療のAMD患者40例(平均年齢73.9±7.2歳)で、白内障患者10例、健康人10例を対照とした。

 3群間で年齢や性、基礎疾患、喫煙歴に有意差は認められなかった。

 自動車由来VOCのうち体内毒性を有するベンゼン、トルエン、スチレン、キシレンの尿中代謝産物5つを検査対象とし、各代謝産物の尿中クレアチニンに対する濃度比と、健康人の平均値に対する増加率を算出。

 それらをAMD群と対照群(白内障患者+健康人)の2群間で比較した。

 5つの尿中代謝産物のうち、2-メチル馬尿酸(トルエン・キシレン由来)とマンデル酸塩(スチレン・エチルベンゼン由来)の濃度比および増加率が、AMD群で有意に高かった。

 白内障患者、健康人では2-メチル馬尿酸の濃度比はともに正常値であった。

 他の3つの代謝産物は、AMD群で濃度比と増加率が高値であったものの有意差はなかった。

 AMD群と健康人で各尿中代謝産物の平均濃度および変動率を比較したところ、2-メチル馬尿酸、3-メチル馬尿酸、マンデル酸塩でAMD群が有意に高かった。

 以上の結果から、同氏は「AMDの病態には自動車由来VOCの曝露が関与している可能性が示唆された」と述べた。

 詳細な機序は不明であるが、体内に取り込まれたVOCがTCAサイクルを抑制し、黄斑の老化を促進させている可能性があるという。
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