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ピロリ菌感染のほうが予後良好 [医学・医療短信]

ピロリ菌のほうが予後良好

ヘリコバクター・ピロリ (Helicobacter pylori)。

ヒトなどの胃に生息するらせん型のグラム陰性微好気性細菌。

単にピロリ菌(ピロリきん)と呼ばれることもある。

1983年、オーストラリアのロビン・ウォレンとバリー・マーシャルにより発見された。

ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)感染は胃がんの発生リスクとなることがわかっている。

WHO(世界保健機関)は、「H. pyloriは煙草なみの発がん物質」といい、H. pyloriが胃がんを引き起こすメカニズムを解明した畠山昌則・東京大教授(病因・病理学)は、「胃がんの99%はピロリ菌感染が原因です」と明言している。

日本ヘリコバクター学会は、胃がん予防のため、胃の粘膜にピロリ菌がいる人は全員、薬で除菌することを勧めている。

宮地和人・獨協医科大学日光医療センター外科診療科長は、胃がん手術後の症例におけるヘリコバクター・ピロリ感染の有無と菌量による予後への影響を比較検討。

ヘリコバクター・ピロリ感染による胃がんと、そうでない胃がんとでは、胃がん手術後の予後が異なることを、ことし2月に開催された第14回日本消化管学会で報告した。

「ヘリコバクター・ピロリ感染を伴う症例の方が術後の5年生存率は有意に高く、菌量が多いほど高かった」と。

1995年に台湾の研究グループから胃がん手術後の予後に関して、H. pylori感染を伴う症例の方が予後が良好であるとの報告があった。

さらに、ドイツ、中国、米国、日本からもH. pylori陽性者の方が術後の予後が良好であるとする報告があった。

そこで宮地医師らは、同センターにおける胃がん手術後の200例を対象としてH. pylori陰性群(98例)と陽性群(102例)について比較検討を行った。


これまではH. pyloriの感染の有無のみを比較検討している報告が多かったが、今回は胃がん背景粘膜でのH. pylori感染を培養法で測定し、感染の有無だけでなく菌量の多寡に関しても検討した。

両群の背景に差は見られなかった。

リンパ節転移のある陽性群で5年生存率高い

結果、5年生存率はH. pylori陰性群(29%)に比べて陽性群(50%)で有意に高かった。

菌量による比較では、陰性、微量+少量、中等量+大量と、菌量が多くなるほど5年生存率も高いという結果であった。

早期がん、進行がんにおける比較ともに、陽性群の方が5年生存率が高く、進行がんでは有意差が見られた(陰性群21.1% vs.陽性群36.7%、P=0.038)。

リンパ節転移に関しても、転移の有無にかかわらず5年生存率は陽性群で高く、特に転移あり例では陰性群16.8% vs.陽性群36.8%と有意差が認められた。

宮地医師は、

「今回の検討ではH. pyloriの菌量が多いほど予後は良好であった」と述べ、

「陽性群で予後が有意に良好だった因子は、

② 進行胃がん
②リンパ節転移陽性
③ 腹膜播種陰性
④ 肝転移陰性−であった」と説明した。

H. pyloriはCOX-2の発現を誘導しない

宮地医師らはさらに、胃がんと胃がん背景組織におけるCOX-2 mRNAの発現についても検討を行った。

COX-2は胃がんや大腸がんの発現、炎症に関連する因子である。

結果、がん組織と正常組織(非がん部)におけるCOX-2 mRNAの発現量については、正常組織の4.91に比べてがん組織では5.14と多かった。

正常組織ではH. pylori感染の有無によりCOX-2 mRNAの発現量に差は見られず、H. pylori感染がCOX-2の誘導を行っていないことが分かった。

また、アスピリンによりCOX-2の発現を抑制した場合、H. pylori除菌後の発がんが見られなかったとの報告などもあり、COX-2に関連した発がん過程にH. pylori感染の影響は小さいことが示唆されている。

 宮地医師は、

「さまざまな予後関連因子があるが、今回の検討ではH. pylori感染例は進行がんやリンパ節転移例で予後が良好であった。

特にリンパ節は細胞免疫の働く場であることから、H. pyloriの感染は細胞免疫に影響を及ぼしている可能性が考えられる」と結んだ。
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