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発症時刻不明な脳梗塞、どうする? [医学・医療短信]

発症時刻不明な脳梗塞でも治療対象に

脳梗塞の発症直後は薬物治療が基本で、「血栓溶解療法」、「抗血小板療法」、「抗凝固療法」、「脳保護療法」などが行なわれます。

「血栓溶解療法」は、血管に詰まった血栓を、t-PA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)という薬で溶かし、血流を再開させる方法です。

「抗血小板療法」は血小板の働きを抑えて、血液が固まるのを防ぐ治療法です。

現在のところ日本で臨床的に用いられているt-PA製剤はすべて、遺伝子組み換え組織型プラスミノゲン・アクチベーター(rt-PA:アルテプラーゼ静注療法)です。

t-PA治療は、起こって4.5時間以内、カテーテル(細い管)を使用して詰まった血栓を除去する血管内治療は8時間以内の患者さんが対象となります。

この限られた時間内に専門病院を受診し治療を受けられるかどうかが、その後の経過を左右するのです。

発症時刻が不明の脳梗塞では、最終未発症時刻(元気であることが確認された最終時刻)をもって発症時刻とすることとなっており、朝目が覚めたら麻痺していたという症例の多くはrt-PA製剤の適応になっていません。

しかし、欧州脳卒中協会年次集会で発表されたWAKE-UP試験では、発症時刻が不明の脳卒中急性期で、MRI拡散強調画像に脳梗塞を示す信号変化が認められない患者において、rt-PA静注による血栓溶解療法とプラセボ投与を比較した結果、rt-PA群の方が90日後の機能的転帰が良好でした。

結果は、N Engl J Med(2018年5月16日オンライン版)に掲載されました。

熊本市民病院内科の橋本洋一郎先生の解説をご紹介します。

指針を変える可能性

現在、脳梗塞超急性期治療では、発症4.5時間以内のアルテプラーゼ静注療法、発症6時間以内の機械的血栓回収療法のエビデンスが確立している。

しかし、この2つの治療法を大きく変える可能性がある報告が発表された。

DAWN研究(N Engl J Med 2018; 378: 11-21)、DEFUSE3研究(N Engl J Med 2018; 378: 708-718)、さらに今回発表されたWAKE-UP試験である。

DAWN研究は発症時刻不明例を含む最終健常確認時刻から6〜24時間、DEFUSE3研究は最終健常確認時刻から6〜16時間の内頸動脈または中大脳動脈M1(主幹部)閉塞による急性期脳梗塞で、神経徴候あるいは灌流低下領域と虚血コア体積のミスマッチを有する例を対象に、内科治療+血管内治療と内科治療単独とを比較したランダム化比較試験(RCT)で、血管内治療の追加が3カ月後のmodified Rankin Scale(mRS)スコアを改善させた。

これらの結果を踏まえて、日本脳卒中学会(幹事学会)、日本脳神経外科学会、日本脳神経血管内治療学会の3学会は「経皮経管的血栓回収機器の適性使用指針改訂第3版」を作成、公表した。

一定の条件を満たせば、血管内治療の適応が6時間以内から16時間あるいは24時間以内に拡大されることとなった。

「rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法 適正治療指針 第二版(2012年10月、2016年9月一部改訂)」 では、「rt-PA静注療法は、発症から4.5時間以内に治療可能な虚血性脳血管障害患者に対して行う(エビデンスレベルⅠa、推奨グレードA)」「発見時刻は発症時刻ではない。発症時刻が不明な時には、最終未発症時刻をもって発症時刻とする(エビデンスレベルⅣ、推奨グレードA)」となっている。

24時に就寝し、朝7時に目が覚めたら麻痺が出ていたという症例では、MRI所見などから発症4.5時間以内が推定されても、最終未発症時刻が24時なのでアルテプラーゼが投与できない。

わが国で恩恵を受ける患者が多い

 今回のWAKE-UP試験では、発症時刻が不明の脳梗塞で、MRIの画像所見(DWI-FLAIRミスマッチ)で、発症から4.5時間以内と推定される症例に対してアルテプラーゼ静注療法を行ったところ、プラセボ群に比べて3カ月後の転帰良好例が増えることが示された。

この研究はDWIが撮影できるMRIがあれば実施可能な治療法であり、この結果に基づいて指針が変更されれば、人口に対するMRI数が世界で最も多いわが国で恩恵を受ける患者が多くなると考えられる非常に重要な結果である。

DWI-FLAIRミスマッチとはどのようなものであろうか。

わが国では睡眠中発症および発症時刻不明の脳梗塞患者へのrt-PA静注療法の適応拡大を目指した多施設共同試験THAWS が進行中である。

WAKE-UP試験の結果から、わが国におけるガイドラインの改訂、当局との交渉による適応拡大などが進むかどうかが今後の課題となってくる。

今回の結果から欧米でのガイドラインの改訂、あるいはアルテプラーゼの適応拡大を当局が認可するかどうかを見守っていきたい。

私は40年前の学生時代に神経内科の講義を鹿児島大学第三内科で受けたが、井形昭弘教授は「神経疾患は"分からない、治らない、諦めない、の3ない"だ」と言われた。

しかし、私が医学部に入学した1975年に日本で導入開始されたCT、その後の神経超音波検査、MRI、SPECTの登場で、脳梗塞を含めた多くの神経疾患もだいぶ分かるようになり、治せるようにもなり、疾患の病勢・再発をうまく調整できるようにもなり、諦めなくてもよくなってきた。

発症時刻が不明でもMRIの画像所見(DWI-FLAIRミスマッチ)から発症4.5時間以内であることが示唆される脳梗塞患者ではアルテプラーゼが有効となる可能性が高くなるので、わが国でDWI-FLAIRミスマッチのある脳梗塞症例に対してアルテプラーゼで治療できるようになることを期待している。

「Medical Tribune」2018年05月23日

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