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認知症になっても役に立てる [医学・医療短信]

 地域医療に取り組む医師で作家の鎌田實さんが、認知症について温かく話している。
 
「蝶の眠り」というすてきな映画をみた。

 韓国の女性監督チョン・ジェウンが、日本のスタッフとキャストとともに、美しい映画をつくった。

 中山美穂が演じるのは、人気小説家。

 夫と別れた後、精力的に執筆を続けていたが、母親と同じ遺伝性アルツハイマー病に侵される。

 病の進行を不安に思いながら、韓国から来た小説家志望の留学生にサポートしてもらいながら、小説を書き上げる。

 「アルツハイマーになっても小説を書くことも、人を愛することもできる。美しく、やさしく、可能性に満ちた映画だ」

 この映画についてコメントを求められ、ぼくはそんな文章を寄せた。

 今回は認知症について考えてみたい。

 主人公は「遺伝性アルツハイマー病」ということになっているが、アルツハイマー病の患者さんの一部には、遺伝子が関係しているものもある。

 家族性アルツハイマー病は40代など若いときに発症する傾向がある。

 アルツハイマー病は、アミロイドβというたんぱく質がシミのように脳細胞に沈着し、脳細胞が硬くなって働かなくなってしまう。

 家族性アルツハイマー病の人は、いくつかの遺伝子変異があり、アミロイドβを異常につくってしまうことがわかっている。

 しかし、その遺伝子をもっているからといって、必ず発症するわけではない。

 遺伝子はスイッチがオフになっていると働き出さないといわれている。

 スイッチを入れる原因は、慢性炎症である。

 つまり、慢性炎症を防ぐことが、遺伝子があってもアルツハイマー病を発症させないカギを握っていることになる。

 慢性炎症とは、簡単にいうと炎症の症状が長期的に続くことをいう。

 切り傷が赤くはれて熱をもつのは急性炎症だが、慢性炎症はがんや動脈硬化、アルツハイマー病などの進行に関係するといわれている。

 糖尿病があると慢性炎症を起こしやすくなる。

 だから、認知症の発症を抑えるために、糖尿病にならないようにすることも大切なのだ。

 歯周病も慢性炎症を起こすので要注意。

 最近、注目されている骨ホルモンのオステオカルシンは、骨密度を高めるだけでなく、膵臓(すいぞう)に作用して糖尿病を改善・予防する働きがあることが報告されている。

 このオステオカルシンの分泌を促すには、かかと落としのような骨に衝撃を与える運動がいい。

 背筋を伸ばして立ち、かかとを上げて3秒キープした後、ストンとかかとを床に落とす。

 注意点は、(1)背筋を伸ばす(2)かかとを上げて3秒(この時フラフラする人は、何かにつかまってもよい)(3)かかとからドンと落ちること

 これを1日30回ほど続けると、骨粗鬆(こつそしょう)症の予防になり、認知症の予防にもつながる。

 毎日の生活では、緑黄色野菜をたくさん食べることも大切だ。

 野菜に含まれる色素は、抗酸化力をもっており、慢性炎症を抑えてくれる。

 つまり、適度な運動習慣を身につけて、血糖値を上げないこと、野菜を食べることがポイントになる。

 そのうえで、認知症をおそれすぎないこともぼくは大事だと思う。

 名古屋には「おれんじドア も~やっこなごや」という認知症当事者の会がある。

 51歳のときに認知症と診断された山田真由美さんは、

「認知症になっても、人の役に立つことができる」という思いで代表をしている。

 こういう意識が大事なのだと思う。

 ぼくには、63歳の若年性認知症の男性の友人がいる。

 時々メールのやりとりをしているが、彼は認知症に負けないためには、閉じこもっていてはいけないという信念をもっている。

 若年性アルツハイマー病と診断されて13年がたつが、いまも1人暮らし。

 積極的に外出しながら人生を楽しんでいる。

 彼は「認知症患者にも満ち足りた生活がある」と言う。

 そのために、(1)ないものねだりをしない(2)小さな目標を立てて達成感に浸る(3)好きなこと、楽しいことを見つけて実行する--を心がけているという。

 こうした当事者たちの声は、ぼくたちに勇気を与えてくれる。たとえ認知症になっても、認知症イコール不幸ではないことを忘れないようにしたい。

 毎日新聞2018年5月20日東京朝刊「さあこれからだ」 
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