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迷惑な鳥、厄介な鳥 [医学・医療短信]

ただいま愛鳥週間中(5月10日~16日)。

野鳥を通して自然保護の大切を伝える週間である。

鳥類保護連絡協議会が設けた。

だが、人生いろいろ、男もいろいろ、女もいろいろ、鳥だっていろいろ……。

なかには迷惑な鳥もいる。

最たる一つが、動物から人にうつる「動物由来感染症」のもとになる鳥だ。

動物由来感染症は、人も動物も重症になるもの、動物は無症状で人が重症になるもの、その逆で人は軽症でも動物は重症になる病気など、病原体によってさまざま。

鳥関連でよく知られているのは、高病原性インフルエンザ(H5N1)とオウム病である。

高病原性インフルエンザ

犬、ネコ、キツネなどからうつる。

ニワトリへの感染流行で、人もまれに感染発生。

オウム病

部屋で飼うインコの糞で感染し、お年寄りがひどい発熱。

動物園でも集団感染。

2017年、2人の妊産婦が死亡した。

オウム病による妊産婦の死亡報告は国内初。

オウム病は「クラミジア・シッタシ」(以下「C.シッタシ」)という細菌による感染症だ。

C.シッタシは乾燥に強く、環境中で長期間、感染力を保つ。

感染している鳥のフンなどに混じってC.シッタシが排出され、それが乾いて粉じんとなったものをヒトが吸い込むことで感染する。

1~2週間の潜伏期間の後、急な発熱とせきで発症し、頭痛や筋肉痛を伴う。

頑固なせき、粘ついたたんが出るなどの呼吸器症状があり、肺炎を引き起こすことも多い。

初期の治療が不適切だと重症化して死に至ることがある。

厚生労働省によると、現在の届け出制度が始まった1999年4月以降、2017年4月10日までに冒頭の妊産婦を含めて計388人の感染が報告され、そのうち8人が死亡している。

ウイルスのような性質の細菌

国立感染症研究所の安藤秀二ウイルス第一部第五室長はC.シッタシについて、

「ウイルスのような性質を持った特殊な細菌」と説明。

細菌は一般的に、適した環境になると自ら分裂して増殖する。

しかし、C.シッタシはウイルスと同じように人や動物の細胞に寄生しないと増えることができない。

C.シッタシはまず、感染した動物の細胞表面に取り付き、異物を取り込む細胞の働きを誘発して細胞内に入り込む。

そして、動物の細胞のエネルギーを使って分裂・増殖する。

約48~72時間かけて一つの細胞内で十分に増殖すると、細胞膜を壊して細胞外に飛び出す。

その後さらに別の細胞表面に取り付いて、次々に増殖を繰り返す。

ヒトへ感染した場合は、まず鼻やのどの上気道の細胞で増殖し、だんだんと気管や肺の下気道へと感染を進めていく。

感染源は鳥

オウム病の感染源は鳥と考えていい。

ヘラジカの出産に携わった川崎市の動物園の職員5人が発症した例があるが、これはきわめてまれな例だ。

また、ヒトからヒトへの感染については、海外での報告例はあるが、医学的に証明されたものはない。

感染研などのまとめでは、国内で報告のあったヒトへの感染例の約60%がペットに多いオウム・インコ類からの感染だ。

ハトを含めたその他の鳥が20%、感染源が不明な例も約20%ある。

鳥類臨床研究会によると、オウム・インコ類のC.シッタシ保菌率は、

▽ボウシインコ10.8%、▽ラブバード6.2%、▽オカメインコ3.8%。▽セキセイインコ2.7%。▽ヨウム1.7%。

不顕性感染の鳥も菌を排出

鳥がオウム病に感染しているかどうかは、フンと血液を混ぜた検体を検査機関に送ると2~3週間で結果が出る。

不顕性感染も多く、その場合はC.シッタシが排出されたりやんだりするため、フンは5~10日分が必要だ。

鳥がオウム病を発症すると、体温を保つために羽を立てて膨らんで動かなくなったり、食欲不振、嘔吐(おうと)や下痢、結膜炎や鼻汁が出たりする。

悪化すると、肺炎を起こして苦しいために大きく体を動かして呼吸をしたり、肝障害を起こすことでフンのうち通常は白いおしっこの部分が黄色や緑色になったりするなどの症状が出る。

治療にはテトラサイクリン系かマクロライド系のヒト用の抗菌薬を鳥の体に合わせて約45日間飲ませる。

ただ、C.シッタシが細胞内に潜伏していると抗菌薬の効力が及ばず、体外にも排出されない。

このため、症状がなくなりC.シッタシの排出が止まっても、完全に鳥の体内からC.シッタシがいなくなったかどうかはわからない。

獣医師は、年に1~2回は検査を受けることを勧める。

感染率の高いドバト 野鳥にも注意

オウム病の感染源となるのはペットの鳥だけではない。

14年2月下旬~3月上旬、川崎市内の社会福祉施設でオウム病の集団発生があった。

入所者と職員の計12人が発熱し、そのうち6人が肺炎を発症した。

肺炎患者4人の、のどの粘膜などからC.シッタシが検出された。

感染源は施設の換気扇フードに巣を作ったドバトだった。

そのフンからも同じ遺伝子配列のC.シッタシが検出された。ドバトの保菌率は20%ともいわれる。

家の周りでドバトが巣を作るなどしていたら、注意が必要だ。

また、ドバトに限らず、鳥のフンがたくさん落ちているような所には近寄らない方がいい。

治療や予防方法は?

ヒトがオウム病にかかってしまった場合、治療にはテトラサイクリン系やマクロライド系、ニューキノロン系の抗菌薬が有効だ。

妊婦や子供にはテトラサイクリン系やニューキノロン系は副作用の懸念があり使用できないが、マクロライド系は使える。

一方で、一般に肺炎を起こすことで知られる肺炎球菌や黄色ブドウ球菌などに使うβラクタム系の抗菌薬は効かない。

ここ数年のオウム病の年間報告数は全国で10例未満。

オウム病は症状だけでは診断がつきにくく、医師がオウム病を疑わない可能性もある。

オウム病は治せる病気だが、治療が遅れると、重症肺炎になったり、呼吸器で増えたC.シッタシが血中に流れ出て全身に回り多臓器不全になったりするおそれがある。

きちんと対応しないと死亡することもある。

鳥を飼っている人で高熱や呼吸器症状が出た場合は、必ず医師に鳥を飼っていることを伝えてほしい。

鳥を飼うときの注意点。

C.シッタシを含んだフンが乾いて飛散しないうちに、こまめに掃除をする。

▽換気をしっかりする▽一緒に食事をしたり、口移しで餌を与えたり、キスをしたり、布団に上げたりするような濃厚接触は避ける。

▽鳥に触ったり世話をしたりした後は必ず手を洗う。

これらは、免疫能が低下している妊産婦や高齢者などに限らず、健康な大人も子供も同じだ。

オウム病をむやみに怖がるのではなく、感染や重症化のリスクを減らすために、どういう病気なのかを知り、鳥との適切な付き合い方を知ることが大切だ。

毎日新聞2017年5月7日「藤野基文 / 医療プレミア編集部」を参照。
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