SSブログ

昼間の眠気の真相 [医学・医療短信]

新社会人を襲う昼間の眠気の真相
内村直尚 / 久留米大学教授

梅雨入りが始まっています。

毎年この少し前の時期から、私が勤めている久留米大学病院の睡眠外来では、4月に就職したばかりの新社会人の受診者が増えてきます。

彼らの多くは「昼間の耐えられない眠気」を訴えます。

中には業務時間の会議中や上司と話しながら居眠りをしてしまい、上司の命令で受診したという深刻な事例もあります。

なぜこの時期に新社会人の受診者が増えるのでしょうか。

中学校を境に始まる日本人の夜型化

彼らがなぜ睡眠外来を受診したのかという答えは、極めてシンプルです。

睡眠不足だからです。

睡眠不足を甘く見てはいけません。

医学的には「睡眠不足症候群」という病名が付く、立派な病気です。

しかも、とりわけ新社会人の睡眠不足は、現在の日本社会が抱える子供の生活の夜型化という社会的な問題と無縁とは言えません。

文部科学省が小学5年~高校3年を対象に2014年11月に行った「睡眠を中心とした生活習慣と子供の自立等との関係性に関する調査」というデータがあります。

全国の公立学校から学年ごとに100校ずつ選んで実施し、計771校の2万3139人から回答を得たものです。

その結果から子供たちの就寝時間を見てみると、小学生は85.4%が午後11時までに就寝していますが、中学1年になると59.8%に減り、2年で45.6%、3年で22.6%にまで激減します。

高校生はさらに減少して16.4%になります。

つまり中学3年以降は、おおむね夜型生活となっているのです。

それでも中学、高校時はまだ校則や生徒指導が厳しいため、朝の起床時間はある程度厳守されています。

ところが、講義の出欠チェックが甘く、場合によっては代返でごまかせてしまう大学に入学すると、朝の起床時間を守る必要がなくなり、生活のリズムは大きく崩れ始めます。

1人暮らしならばなおさらです。

夜遅くまで友人と遊び歩く、あるいは飲酒する。自室でネットサーフィン、スマートフォンでチャットやゲームに興じ、就寝するのは午前3~4時。

そして朝は午前9~10時に起床ということも珍しくないでしょう。

にもかかわらず、4月に新社会人として勤務が始まると、大学生時代の起床時間前には会社に到着していなければなりません。

必然的に睡眠時間は3~4時間程度になります。

日常生活を円滑に送るために、成人はおおむね6~7時間の睡眠が必要とされていますので、明らかな睡眠不足となるわけです。

睡眠不足を悪化させる休日の「寝だめ」

さらにこうした睡眠不足が続くと、往々にして休日にこれを解消しようとします。

いわゆる「寝だめ」です。

しかし、実はこれが睡眠不足症候群を悪化させます。

ヒトの体内では生体リズムを調節する作用と催眠作用を持つメラトニンというホルモンが分泌されています。

メラトニンは起床後に日光を浴びると分泌量が減少し、そこから約16時間後に分泌量が増加し始めます。

つまり、ヒトは起床から16時間たたないと眠くならないといえます。

日曜日の正午に起床した場合、再び眠りにつけるのは翌日の午前4時。

こうなれば月曜日の業務中は当然、眠気に襲われるでしょう。

そもそもヒトは「寝だめ」、つまり睡眠の「貯金」はできません。

一方で、睡眠不足という名の「借金」の一部を、後の睡眠時間延長で「返済」することはできます。

しかし、この返済も生体リズムを考慮すると、1日当たり最大2時間程度が限界です。

成人に望ましい睡眠時間は1日6~7時間だと言いましたが、平日に毎日1時間不足するだけで、週末2日間に睡眠時間を1日2時間ずつ延長しても「債務超過」状態なのです。

不眠より治療が困難な睡眠不足

睡眠不足症候群は、不眠症と違って治療薬はありません。

就寝時間を早めるのが治療の要ですが、長年の生活習慣は容易に変更できないことを多くの人が自覚しているでしょう。

そこで、まず私たちが睡眠不足症候群の患者さんに実施してもらうのが、就寝と起床の時刻を記録する「睡眠日誌」を1カ月程度つけることです。

実際に目で見ることで恒常的な睡眠不足の深刻さを自覚してもらい、生活習慣の改善を促します。

これで改善する患者さんは良いのですが、本人のみでは無理なケースもあります。

例えば、患者さん本人が寝ようとしても、同居家族が深夜までこうこうと電気をつけて大音量でテレビを見ている場合や、職場の都合で帰宅時間が遅くなる場合などです。

このようなケースでは、家族や職場の上司に来院してもらい、協力を求めることもあります。

睡眠不足症候群は、生活の変化などがあれば、新入社員に限らず起こり得ます。

しかも、睡眠リズムの変更が定着するまでには最低1カ月は必要です。

もし、あらかじめ生活リズムの変更が予想されているならば、1カ月以上前から睡眠リズムの改変に取り組むことが何よりも大切です。
   ×   ×   ×
「眠りを知れば人生危うからず」

睡眠に悩みを抱える人は多いと思いますが、「たかが睡眠」と思っていませんか? 

それは大間違いです。睡眠は、生活習慣病や精神疾患などの健康問題だけでなく、産業事故や交通事故などの社会問題とも密接に関係しているのです。

私は、1981年に日本初の睡眠外来を設置した久留米大学病院で、日々睡眠に悩む患者の治療にあたっています。

長年の経験を基に、人にとって睡眠がどれだけ重要なのかをお伝えしたいと思います。

【聞き手=ジャーナリスト・村上和巳】=毎日新聞 医療プレミア 

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:健康

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。