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乳酸=疲労物質説は大マチガイ? [医学・医療短信]

「乳酸=疲労物質」は前時代的誤解

◎運動後の筋肉痛

運動などで激しく体を動かしていると、血液のなかに乳酸がふえてくる。

その現象が実験的に確かめられてわかったのは、100年も前のことである。

以来、乳酸の血中濃度が高まるのが疲労の原因―とされてきた。

「運動がある強度に達すると、乳酸がふえ始める。

エネルギーとして使う糖質が不完全燃焼するためである。

糖質の燃えカス・老廃物の乳酸が血液中に増加することが、肉体疲労の原因であり、運動後に起こる筋肉痛も乳酸蓄積が原因である」

─というのが、一昔前までの生理学の学説で、高校の保健体育の教科書にも載っていた。

乳酸=疲労物質説はよく知られた健康常識だったから、いまでもそう信じている人が少なくない。

そう言ったり、書いたりしているコメントに接することも、ままある。

だが、近年の運動生理・生化学的研究によって、乳酸=疲労物質説は完全に否定された。

◎乳酸はエネルギー源

乳酸は老廃物どころか、体の有効なエネルギー源なのだという。

エネルギーは、細胞のミトコンドリアで糖や脂肪から合成される。

このとき糖の分解によって乳酸ができる。

急激な運動をすると、糖の分解が活発化してさらに多くの乳酸ができる(乳酸の血中濃度が高まる)。

運動に用いる筋肉には、無酸素で瞬発力を生み出すが、持久力のない「速筋」と、瞬発力はないが、酸素を消費して持久力を生み出す「遅筋」がある。

乳酸をエネルギー源として利用するしくみをもつのは遅筋のほうで、乳酸の生成と酸素の供給のバランスがとれていれば、運動は楽に続けられる。

ウォーキングなどの有酸素運動がそれだ。

だが、酸素の供給が間に合わないと、使われない乳酸が血液中にふえてくる。

持久力が失われる。

一方、速筋は、糖質からエネルギーを取り出して乳酸を作りだすのに、酸素を必要としないしくみになっている。

いつでもすぐ発動できる(瞬発力を作り出す)が持久力はない。

激しい筋肉運動が長続きしないのは、そのためだ。

◎ニコニコペースのメカニズム

高血圧の運動療法は、運動強度を最大酸素摂取量の50%に保ちながら行うと、最も効果的であることが実証されている。

WHO(世界保健機関)も推奨するその「アラカワ・メソッド」について、提唱者の荒川規矩男・福岡大学医学部名誉教授はこう話している。

「体内に必要なだけ酸素があれば、運動で使われる糖分は完全燃焼し、乳酸はできません。

つまり軽い運動をやっている間は血液中の乳酸はふえないのです。

ところが、運動がある強度を超えると、急に乳酸がふえ始めます。

それが最大酸素摂取量の50%を超えたあたりなのです。

裏返せば、最大酸素摂取量の50%以下であれば、〈疲労物質〉といわれる乳酸が血液中に蓄積されず、楽に運動を続けられるわけです。私たちは、それを〈ニコニコペース〉と呼んでいます。」(『名医が治す』マキノ出版刊)

「運動が最大酸素摂取量の50%を超えると乳酸がふえ始める」のも、

「最大酸素摂取量の50%以下の運動であれば楽に運動を続けられる」のも事実だが、

それは、「疲労物質といわれる乳酸が血液中に蓄積されない」からではなく、血液中の乳酸の生成と消費がスムーズに行われているからなのである。

話はまったく逆だったのだ。

言い換えると、乳酸がたまるから疲労するのではなくて、疲労した体には乳酸がたまっている。

乳酸は疲労の原因ではなく、結果なのである。

「乳酸が疲労物質なら運動後もずっと残っているはず。

でも実際は運動から1時間もすれば元のレベルに戻ってしまう。

疲労物質ではない何よりの証拠。疲労はもっと複合的な要素で起こる」

と、「乳酸代謝・運動と疲労」を研究テーマとする、八田秀雄・東京大大学院教授。

◎乳酸と乳酸菌

ちなみに、「乳酸」という名称は、牛乳などの糖質を発酵させてチーズやヨーグルトを作るさいに生じ、「酸味」をもつ物質であることに由来する。

人の体のなかでできる乳酸は、乳酸菌とは関係なく、前に記したように、細胞でエネルギーが生成されるとき、糖質が分解されて生じる。

人の体内の乳酸菌は、ご存じのとおり腸内の善玉菌の最も代表的な一つで、免疫力を高めるなどさまざまに有用なはたらきをしてくれる。
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