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便秘と下剤に関する誤解 [健康常識ウソ・ホント]

健康常識ウソ・ホント(36) 

便秘と下剤に関する誤解

サマセット・モームの『作家の手帳』のなかに下のような一節を見つけた。

<産婦人科学の教授が、その講義のはじめに言った。

「諸君、女とは、一日に一度ミクチュレート(放尿)し、一週に一度デフィケート(排便)し、一月に一度メンスツルエート(通経)し、一年に一度パーテュレート(出産)し、そうして機会あるときはいつでもコピュレート(交尾)する動物である」

 ぼくは均整のとれた、しゃれた文章だと思う。>(中村佐喜子訳=新潮文庫)

大いにためらいながら引き写したが、手帳にこの文言を記した1894年、モームはロンドンの医学校の3年生だった。

女性のみなさま、時代の古さと作家の若さに免じて、大々的セクハラをお許しください。

さて、本論。

冗談半分とはいえ、「1日に1度の放尿」はいくらなんでもあまりにも少なすぎる。

いったいに女性はそれを我慢しがちで、そのため膀胱炎などの尿路感染症を起こしやすい。

で、そうした病気はチャスティティ・ディジーズ(慎み深いための病気)と呼ばれる。

起きているときは2~3時間に1回、膀胱をカラッポにするのが、健康上のだいじな心がけである。

「1週に1度の排便」というのも、少ない。

便秘は気分的にうっとうしいだけでなく、体にもよくない。

便秘と不眠は、老人の二大愁訴といわれるが、若い人にもけっこう多い。

厚生労働省の国民健康調査によれば、便秘に悩む人は660万人、それを隠している人や自覚のない人を含めると、1000万人を超えるのでは…と推測される。

10後半から30代前半の女性に最も多く、40~50%を占めている。

便秘には「何日間排便がなければ便秘である」といった明確な定義はない。

一般的には、排便が週に1回程度だったり、薬がないと排便できなかったりするような状態だと便秘、と考えられている。

毎日排便しないといけないと思っている人もいるようだが、3日に1度でもそのあとスッキリするのであれば問題ない。

毎日出ていても、スッキリしないとか、ガスがたまっておなかが張るなど、不快症状があるようだと、ちと問題あり。

食物繊維や水分をバランスよくとると、便のかさがふえたり、軟らかくなったりして、出やすくなる。

適度な運動─とくにゴルフやテニス、ラジオ体操など体をひねる運動―も効果的だ。

しかし、闘努力の甲斐もなく、ウンに見放される日が続くと、下剤に頼りたくなる。

ところが、その下剤の乱用が便秘をいっそう悪化させてしまう。

下剤は「出なくて苦しい」状態を一時的に改善するもので、便秘そのものを治す薬ではない。

どうにも苦しいときに薬を使うのはかまわないが、下剤を使うことに慣れると、便意を感じて、トイレに行き、排便するという腸のリズムが失われる。

下剤はあくまでも急場の対処法、一時的使用を原則とすべき薬だ。

市販の下剤のうち最も種類が多いアロエやセンナ、大黄が成分として配合されている「アントラキノン系下剤」は、大腸を刺激することによって便意を生じさせる。

長期使用で効きがわるくなったり、大腸の自発的な動きが弱ったりする欠点がある。

大腸の粘膜が黒ずむ大腸メラノーシス(大腸黒皮症)も発生しやすくなる。

アロエ、センナ、大黄は、自然の成分の生薬なので安心感があるが、長期連用は控えたほうがよい。

だが便秘に詳しくない先生にかかると、下剤の大半を占めるアントラキノン系下剤を処方されることが多い。

便秘の名医、松生恒夫・松生クリニック院長は、漢方薬を下剤として選ぶさい、大黄などの含有量はごく少量で、効果が得られる「防風通聖散」を第一選択にしているという。

2012年、便秘治療薬としては約30年ぶりに発売された「アミティーザ」は、小腸に作用し、便に含まれる水分をふやし、便を軟らかく移動しやすくする。

慢性便秘に広く効果があり、長く飲んでも効きがわるくなる心配が少ない。

便秘を正しく理解し、根本的に治したいと思われるなら、松生恒夫著『排便力をつけて便秘を治す本』(マキノ出版刊)のご一読をお勧めしたい。

健康総合ニュースサイト「One's Life」2015年3月7日掲載の「コラム」より再録。

 同サイトは、美容・ヘルスケア・妊娠・介護福祉に関するニュースや体によい食事のレシピなど、健康・医療に関する情報を日々発信している。

拙稿の過去の掲載分は同サイトの「特集」→「コラム」でお読みいただけます。
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腰痛治療が180度変わった! [健康常識ウソ・ホント]

健康常識ウソ・ホント(34) 

腰痛治療のコペルニクス的転回


腰痛の大半は背骨に関係しているもので、非常に強く痛む急性期と、鈍い痛みが長くつづく慢性期の二つに分けられる。

治療法の方針は、急性期にはなるべく背骨に負担をかけないこと。

「死んだつもりで寝ていなさい」というのが、ごく近年までえんえんと信じられてきた整形外科の「常識」だった。

ドイツ人が、魔女の一撃(ヘキセンシュス)と呼ぶ、ぎっくり腰などの急性腰痛は、一撃をくらったとたん、動けなくなる。

痛みが治まるまではひたすら安静を保つよう指導された。

ところが、安静期間が長くなるほど治りが遅くなり、再発を招きやすく、腰痛が慢性化することがわかって、いまは「動ける範囲内で動く」が世界の常識になっている。

日本整形外科学会と日本腰痛学会が5年がかりでまとめた『腰痛診療ガイドライン2012』にも、

「急性腰痛は、痛みがなくなるまで安静にするのではなく、できるだけ早く体を動かす」とある。

なぜ、安静がよくないのか? 

「大きな理由の一つとして<髄核>のずれが考えられます」と、東京大医学部附属病院22世紀医療センターの松平浩特任教授(運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座)。

背骨は30個以上の短い骨(椎骨)のつながりで、椎骨と椎骨の間には薄い円盤状の椎間板がはさまっている。

椎間板の中央には、ゼリー状の髄核があり、それを線維輪という硬い組織が囲んでいる。髄核の特徴は移動しやすいことなので、パソコン作業などで長時間前かがみの姿勢を続けると、髄核が椎間板の後ろ側に向かってずれてくる。

一方、長時間の立ち仕事などでは髄核は椎間板の前側に向かってずれる。

ぎっくり腰も、くしゃみや重い物を持ち上げるといった急な動作によって、髄核がずれて起こる。

髄核が大きくずれて線維輪が傷つくと、線維輪には神経の末端が接しているため、激痛が生じる。

髄核がよりいっそう大きくずれて、線維輪を突破して外に飛び出した状態が、椎間板ヘルニアだ。

ぎっくり腰や慢性腰痛の場合、椎間板ヘルニアほど髄核は大きくずれてない。適切に体を動かせば元の位置に戻すことができる。

痛いからといって安静を保ちすぎると、髄核のずれが元に戻りにくくなり、痛みが慢性化し、新たに線維輪が傷ついて強い痛みが再発する。

髄核のずれを戻すには、腰を反らすか、かがめるシンプルな体操が効果的。

髄核が後ろ側にずれた前かがみの作業などのあとは、足を軽く開き、上体をゆっくり反らす。息を吐きながら1~2回、繰り返す。

髄核が前側にずれた長時間の立ち仕事のあとなどは、イスに腰かけ、足を肩幅より広めに開き、ゆっくり背中を丸める。これも息を吐きながら1~2回繰り返す。

歯みがきになぞらえて「腰みがき」と名づけた、このシンプル体操を日常の習慣にすれば、腰痛の予防・改善効果が得られる。

腰痛の8割以上は原因不明、心配し過ぎるとかえって悪化しやすい。

しかし、がん、骨折、ヘルニアなど原因のある腰痛は、早く見つけて元の病気を治さなければいけない。

自分の腰痛はどちらかの見分け方、ぎっくり腰や慢性腰痛を自分で治す方法など、松平浩著『「腰痛持ち」をやめる本』(マキノ出版)は、最新の調査研究に基づく最良のガイドブックだ。
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花粉症は「超清潔症候群」? [健康常識ウソ・ホント]

健康常識ウソ・ホント(33) 

花粉症は「超清潔症候群」?


ことしもまた涙と鼻水の季節がやってきた。

春風に乗って数十㌔もの空中を飛んでくる直径およそ30㍈(0.03㍉)の微粒子の花粉に泣かされる人が、国民の3割=4000万人にも達する。

いつからこんなことになったのか?

欧米ではヘイフィバー(枯草熱)という名で200年も昔から知られていた花粉症が、日本で最初に報告されたのは1960年、東大の荒木英斉医師によるブタクサ花粉症の症例だった。

次いで63年、東京医科歯科大の斎藤洋三医師がスギ花粉症を報告した。

だが当時の患者数はまだ微々たるものだった。

それが70年代末から80年代初めにかけて社会問題化するほど爆発的にふえた。

花粉症だけではない。アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、じんましん、アレルギー性鼻炎、気管支ぜんそく……、現代人はアレルギー軍団の大攻勢にさらされている。

どうしてこんなことになったのか?

食生活の欧米化、食品添加物の増加、大気汚染、林業の荒廃(スギ林の放置)による花粉の激増、家屋の気密性(ダニの増加)など、いくつもの原因説が指摘されている。

それぞれが一因であることはたしかだが、主因とするには充分ではない。

そこへ提起されたトレンドな説が、「衛生仮説」「寄生虫説」「蓄膿症説」である。

衛生仮説は、英国の疫学者、ストラカンが提唱した。

乳幼児期の生活環境が清潔でないほど(免疫系の発達を促し)アレルギーになりにくいという説だ。

それを裏づけるものとして、年上のきょうだいの多い子や、家畜を飼っている農家の子には、そうでない子に比べて、花粉症や湿疹が明らかに少なかった─などの大規模調査の結果が報告されている。

回虫などの寄生虫の感染率の減少が、花粉症の激増を招くことになった、と主張するのは藤田紘一郎・東京医科歯科大名誉教授らだ。

日本人の寄生虫感染率は、昔からずっと60~70%だったが、1950年ごろから急激に減少し、スギ花粉症が発見された63年は感染率が10%を切り、75年以降は0.1~0.02%とほとんどゼロ推移している。

花粉症などのアレルギー性疾患は、体内でスギ花粉のようなアレルゲン(抗原)に対する抗体=IgE(免疫グロブリンE)が産生されることが原因で起こる。

寄生虫に感染したときも同じようにIgEが産生される。が、そこに大きな違いがある。

アレルゲンに対する抗体=特異的IgEが、肥満細胞などの免疫系の細胞と結合すると、セロトニンやヒスタミンが放出されて、クシャミ、鼻水などのアレルギー症状が起こる。

寄生虫によって産生される抗体=非特異的IGEは、肥満細胞と結合してもヒスタミンを放出しない。活性のないIgEなのだ。

非特異的IgEが圧倒的に多く肥満細胞を埋めつくすと、仮に特異的IgEができても行き場がないから、アレルギーは起こらない。

三つめの蓄膿症説は、アレルギー性鼻炎の専門医、大橋淑宏・大阪市立大助教授(当時)に聞いた。

アレルギーを起こしやすい体質かどうかを決めるのは、免疫に関与する2種のヘルパーT細胞、Th1、Th2のバランスだ。

慢性副鼻腔炎(蓄膿症)のような細菌感染の機会が多いと、Th1がふえる。

衛生的な環境で育つと、アレルギーのもとになるTh2がふえる。

昔の子どもはみんな青っぱなを垂らしていたように蓄膿症がとても多かったが、いまはそんな子は見られず、アレルギー性鼻炎の子が激増した。

Th1とTh2のバランスが逆転したからだ。

以上、三つの説の共通点は、清潔過ぎる生活環境が免疫系に影響し、アレルギーが起こりやすくなったという、いわば「アレルギー=超清潔症候群」説だ。

しかし、だからといって、いまさら不潔な環境に戻せるわけでもないし、仮に戻したならばこんどは感染症がどっとふえて、乳幼児死亡率がぐんと上がるだろう。

痛しかゆし。文明とはやっかいなものだ。


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コレステロール「善玉」「悪玉」の真偽 [健康常識ウソ・ホント]

健康常識ウソ・ホント(32) 

コレステロール「善玉」「悪玉」の真偽

ごく最近まで、ある種のコレステロールは世界中で忌み嫌われた健康の大敵だった。

コレステロールにはいくつか種類があるが、そのなかの一つ「LDL」は、動脈硬化を促進し、心筋梗塞や脳梗塞の危険を高める「悪玉」と決めつけられ、別の一つ「HDL」は、反対に動脈硬化を防ぐ役目をする「善玉」と持ち上げられた。

これが長い間の世界の常識であり、血中コレステロール値の「悪玉は低く、善玉は高く」が健康管理の最も重要な心得の一つだった。

だが、このところ、悪玉が高くても、善玉が低くても、全然気にしなくてもよい、というようなことになってきた。それはなぜか?

その前に、LDLとは? HDLとは? についてちょっと─。
コレステロールは、脂肪の一種だからそのままでは“水と油”で血液には溶けない。

そのため血液中ではたんぱく質と結合した形になっていて、その結合の形を「リポたんぱく」という(リポ=脂肪)。

シュークリームにたとえると、クリームに当たるのがコレステロール、皮がたんぱく質、というわけだ。

代表的なリポたんぱくにはカイロミクロン、VLDL(超低比重リポたんぱく)、LDL(低比重リポたんぱく)、HDL(高比重リポたんぱく)の4種類がある。

カイロミクロンは比重が最も小さく、軽くて大きい。VLDLはそれに次いで比重が小さい。

この二つのリポたんぱくは、形が大きくて細胞の中に入ることができないので、肥満などには関係するが、血中コレステロールについては直接問題にはならない。

LDLは比重が小さく中型で、HDLは比重が大きくて小型である。

コレステロールの多くは肝臓でつくられるが、LDLは肝臓から組織へコレステロールを運び、一方、HDLは組織からコレステロールを引き出して肝臓に持ち帰る。

LDLが多ければ多いほど血管の壁にコレステロールがたまり、動脈硬化が進み、HDLはそれとは逆のはたらきをする(と、考えられていた)。

で、「悪玉」のLDLをふやさないため、バターや肉の脂身、卵の黄身などコレステロールの多いものを避けるのが、健康的食生活の絶対条件とされた。

厚生労働省が定めたコレステロールの摂取基準値は、18歳以上の男性は1日当たり750㍉㌘未満、女性は600㍉㌘未満。

心臓病が断トツに多いアメリカの食事指針はもっとずっとシビアで1日300㍉㌘未満だった。それがここへきて大きく様がわりした。

2015年5月、厚労省は5年ぶりに改定した「食事摂取基準」で、コレステロールの基準を撤廃した。

日本動脈硬化学会は、「食事で体内のコレステロール値は大きく変わらない。食事からコレステロールを多くとれば、体内で作る量を減らすなどの調整するしくみがある」と解説した。

米農務省も、「食事中のコレステロールの摂取と血中コレステロールの、明らかな関連を示すエビデンス(証拠)がない。これまで推奨してきたコレステロール摂取の制限をなくす」と発表した。

そもそもコレステロールは体の細胞を作る必要不可欠な成分である。

「コレステロールは高くてもよい。コレステロールが高いほうが長生きする」という説は20~30年前から医学界の一部では何回も出ている。それがようやく大勢を占めるようになったわけだ。

日本人の総死亡率とコレステロール値との関係をみると、コレステロール値の高いグループは総死亡率が低く、コレステロール値の低いグループのほうが総死亡率が高い。

これまではLDLそのものが動脈硬化を進めるといわれていたが、それもウソだった。

動脈硬化の直接的な原因は、酸化し変性したLDLが、血管内のマクロファージ(大食細胞)に取り込まれて死滅することであり、LDLが高いから酸化LDLがふえるのではなくて、喫煙や糖尿病がLDLを酸化させるということがわかった。

HDLは高いほどいいというのも、必ずしも正しくない。HDL値と総死亡率の関係をみると、男性でいちばん長生きしているのは40~44、ちょっと低めなくらい、女性では高くても低くても有意差はない。

以上、コレステロールの「悪玉」「善玉」説のウソ・ホントを駆け足で辿った。   

なお、詳しくは、別のブログ「健康1日1話」の「コレステロールに関する朗報」と「コレステロールに関する声明」を━。サイト内検索に  コレステロール と打ち込むと出てきます。
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「ふぐは食いたし命は惜しし」の来歴 [健康常識ウソ・ホント]

健康常識ウソ・ホント(31)  

「ふぐは食いたし命は惜しし」の来歴

あら何ともなや 昨日は過ぎて 河豚汁(ふくとじる)   松尾芭蕉

河豚汁(ふぐじる)の われ生きている 寝覚(ねざめ)かな   与謝蕪村

河豚汁は、ふぐの肉を実に入れたみそ汁。

江戸時代のふぐ料理はほとんどこれだったという。芭蕉も蕪村も、ふぐ刺し(テッサ)やふぐちり(テッチリ)、ふぐの空揚げの味は知らなかったわけだ。

調理法も限られ、調理の管理もきわめて不十分。

当たると命にかかわるから「鉄砲」と恐れられたご禁制の魚だったが、その美味はよく知られ、広くひそかに食されていた。

「五十にて鰒(ふぐ)の味知る一夜かな」の作者、小林一茶は、50歳になるまではおっかながって口にしなかったようだが、いったんその味を知るや、

「鰒(ふぐ)食はぬ奴には見せな不二の山」と豹変している。

明治の世になっても、命がけの一面は変わらなかったので、

夏目漱石は、「嘘(うそ)」を河豚汁にたとえて、

「その場限りで祟(たた)りがなければこれほど旨(うま)いものはない。しかし、中毒(あたっ)たが最後苦しい血も吐かねばならぬ」といっている。(小説『虞美人草』)

フグの毒は、肝臓と皮の裏の粘膜、そして、卵巣に最も多い。フグでさえやはりメスのほうが毒を余分にもってるわけだ(へへへ…)。

フグ毒の本体は、明治42(1909)年、東京衛生試験所の田原良純博士によって明らかにされた。

フグの学名テトロドンと毒のトキシンをくっつけて、その毒素を「テトロドトキシン」と名づけたのも同博士である。

テトロドトキシンは、無色・無味・無臭、その毒性は青酸カリの200倍とも500倍とも、あるいは850倍ともいわれる、すさまじい猛毒だ。

一種の神経毒で、もし当たると、早くて30分、遅くても5時間で手足がしびれ、口がきけなくなり、最後は息ができなくなって、死ぬ。

「ふぐ(河豚・鰒)は食いたし命は惜しし」

このことわざの意味を、『広辞苑』は、

「おいしい河豚料理は食いたいが、中毒の危険があるので食うことをためらう。転じて、やりたいことがあるのに、危険が伴うので決行をためらう。」と注釈している。

前記のように、別名の「テッポウ(鉄砲)」や「テッサ(鉄砲刺し」「テッチリ(鉄砲ちり鍋)は、当たると命がないという洒落である。

「うまいけどこわい!」、「こわいけど、うまい! 食いたい!」。

この切実なダブルバイント(二重規範)ゆえに、「河豚食う無分別、河豚食わぬ無分別」といわれる。

「あら何ともなや─」の芭蕉の句や「われ生きている─」の蕪村の句には、

理性は「食うな!」と命じ、心情は「食いてぇよ!」と訴える、アンビバレンス(反対感情両立)的苦悩に折り合いをつけて舌つづみを打った一夜が明けて、

「ああ、よかった!」と喜ぶ心があふれているようだ。

「鰒汁(ふぐじる)に又(また)本草(ほんぞう)のはなしかな」という宝井其角の句は、その美味を賞味しながらも、つい解毒法の話になってしまう情景を詠んだものだろう。

「本草」とはいうまでもなく薬物学のこと。

残念ながらテトロドトキシンの解毒剤はいまだにできてない。

だいぶ以前に東大農学部のグループが、テトロドトキシンの抗体を開発したと聞いたことがあるが、あれはどうなったのだろう。

いま、ネットで検索してみたが、まだ実用化はされてないようだ。

いまも年間20~30件のフグ中毒が発生し、死者も出ている。

もっとも、そのほとんどは素人料理か無免許の料理人の手によるもので、プロ(ふぐ調理師)が調理したものなら心配無用。

なお、フグの皮に多いコラーゲンには、血中コレステロールを下げる作用があるというが、フグ料理屋の勘定書はしばしば血圧を上昇させる。

「ふぐは食いたし、財布は軽し」「カネもないのにふぐ食う無分別」である。

「一笑一若・一怒一老」の生理的真実 [健康常識ウソ・ホント]

健康常識ウソ・ホント(30)  

「一笑一若・一怒一老」の生理的真実


「一笑」と「一怒」の「一」はわかる。

「一若」と「一老」の「一」がよくわからない。1日か? 1月か? 1年か? 

いや、そんな決まった時間のことではなく、この「一」は、比喩のようなもので、1回笑えばそのぶんだけ若返り、1回怒ればそのぶんだけ老けこんでしまう―というのだろう。

そう。怒れば年をとり、笑えば若くなる。

つまり怒りは体に悪い、笑いは健康によい。

大脳生理学者も、「不快感、怒り、恐れはいわば戦時体制の心構え」と説いている。(時実利彦『人間であること』=岩波新書)。

怒ると、自律神経の一つの「戦時用」の交感神経系が緊張し、心臓の拍動が激しくなり、血管が収縮し、血圧が上がり、気管支が拡張し、瞳孔が開き、消化液の分泌が減少し、肝臓から糖分が血中に流れ出て燃やされる…というように体内で「さまざまな戦闘状況」が展開される。

結果、体力を消耗し、胃が痛くなったりもする。

もともと血圧が高かったり、心臓に病気をもっていたりすると、激しく怒ったとたん、重大な変調を招くことさえある。

東洋医学の古典『素問霊枢』にも、

「怒れば肝を害し、おびゆれば心を害し、憂うれば肺を害し、考えれば胃を害す」とあるそうだ。

心身症やストレス性の病気の原理を言い当てた至言だろう。

しかし、怒りを無理やり抑え込んでばかりいると、これも心と体によくない。

神経症、高血圧、糖尿病、胃潰瘍、狭心症、腎硬化症などの誘因になるという。

たまには焼酎でも飲んで、酔っぱらって、夜更けのガード下あたりで、

「〇〇のバッキャロー!」なんて適当に発散したほうがよさそうだ。

一方、笑いは血管を柔軟にし、血圧を下げ、心臓、肺、胃腸など内臓器官の働きをスムーズにし、ホルモンの分泌を盛んにする。

笑えば、血管が開き血圧が下がり、心臓、肺、胃腸など内臓器官がスムーズにはたらき、ホルモンの分泌が盛んになる。

よく知られている研究だが、漫才などで大笑いしたあとは、がん患者のNK(ナチュラルキラー)細胞の活性度が上昇した。

NK細胞は、免疫を担うリンパ球の一つ。感染症のウイルスやがん細胞をやっつける力をもっている。

関節リウマチの女性患者に落語を1時間聞いてもらったら、症状を増悪させる物質(インターロイキン6)が減少し、痛みが楽になったという研究報告もある。

「笑おう会」という会の「効能書」にはこうある。

「ときに呵々大笑すれば、横隔膜の上下運動を促し、腹中のコリをとき、消化・吸収・排泄をよくする。胸中のうっぷんを去り、胸筋をやわらげ、心筋梗塞の予防となる」

一つ、つけ加えると、横隔膜の上下運動は、呼吸と血行も促進する。

だからよく笑う人は血色がいい。

笑声は痙攣(けいれん)の一種だからそのあとに弛緩(しかん)がきて、緊張が緩和する。

大声で笑えば筋肉の緊張がゆるみ、人間関係の緊張も緩和される。

こんなにいろいろとよく効いて、副作用がまったくなくて、いくら使っても減らない薬なんてあるものじゃない。

しかも、それでタダなのである。

「笑」という字は「咲」と同じで、花が開くのを「花笑」ともいう、と漢和辞典にある。

新しい年、大いに笑って、花を咲かせようではありませんか。

追記。

「一怒一老・一笑一若」は、中国のことわざで、原音だと、一笑(イシャオ)一若(イルオ)一怒(イヌ)一老(イラオ)となるそうです。
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「年寄りの冷や水」は是か非か? [健康常識ウソ・ホント]

健康常識ウソ・ホント(29) 

「年寄りの冷や水」は是か非か?


いろはカルタ。

昔はどこの家にもあり、正月遊びの定番だった。

「犬も歩けば棒に当たる」ではじまる「江戸いろは(犬棒カルタ)」の「と」は、「年寄りの冷や水」である。

意味は説明するまでもないだろうが、念のため『広辞苑』をめくってみた。

「年寄の冷水(体の衰えた老人が生水を飲むことから)老人に不似合いな危ういことをするたとえ。また、老人が差し出たふるまいをすることをいう。」=『広辞苑』第六版。

衛生環境のわるいところの「生水」に気をつけなければならないのは、老人だけではない。

また、「冷え万病説」を説く医師にいわせると、「冷や水」がよくないのはわかりきったことだろう。老若男女を問わず。

だが、水を飲むことの大切さは、それとは別だ。

年寄りだろうが、赤ん坊だろうが、水は「いのちの素」である。

なにも食べなくても、水だけ飲んでいれば3~4週間は生きていられるが、水を1滴も飲まなかったら4日で死んでしまう。

体の中の水分すなわち体液の量は、新生児は体重の約80%、成人男性は約60%、女性は約55%だ。

女性は男性よりも体に脂肪が多いので、そのぶん水分の割合が少なくなる。

そして年をとるにつれてしだいにへって、老人では体重の50%かそれ以下になる。

つまり人の一生を体液量の推移でみると、80%-50%=30%ということになる。

で、「老化とは乾燥の過程である」といわれる。

体の中の水分は、体温の調節、全身の組織への栄養と酸素の供給、組織からの老廃物の排出などの役目を果たしている。

体重の2~3%に相当する水分が失われると、体温上昇が目立ちはじめ、循環機能に影響が出る。

汗をかいたとき、それと同量の水を飲まないと、脱水状態を招き、体温が上がり、体力を消耗する。

ひどい場合は熱中症になり命にかかわる。

そこまでいかなくても、汗をかき、尿が濃くなると、尿路結石(腎臓結石、尿管結石、膀胱結石)ができやすい。

尿酸の体外への排出が悪くなるから痛風発作も起こりやすい。

どちらも中高年の男性に特に多い病気である。ゴルフのとき、コースへ出る前などは忘れずに水を飲んでおくべきだ。

炎天下、のどをカラカラにしながら(そのほうがあとのビールがうまい、などといって)、プレイに励むなど生命知らずの蛮勇といわねばならない。

水分の不足で意外と気がつかないのが、便秘、食欲不振、乳幼児の夏季熱。

水をたっぷり飲むようにしたら便秘が治ったとか、夜泣きする赤ちゃんに水を飲ませたら泣きやんだなど、よく聞くはなしである。

心筋梗塞や脳梗塞のような血管の詰まる病気が朝方起こりやすいのも、体内の水分不足が大きな一因といわれる。

寝ている間の発汗や不感蒸泄で体内の水分がへり、血液が濃縮し、血栓ができ、血管が詰まりやすくなるというわけ。

これを防ぐため夜寝る前と、朝起きがけに水を飲むように勧められる。

水分の摂取がきびしく制限される、ある種の腎臓病や心臓病の人を除いて、だれでも1日約2.5㍑の水分の補給が必要だ。

「年寄りの冷や水」の原句は、「年寄りの礼水(れいすい)」であり、後世の人が「礼水」を「冷水」と書き違えたか、「礼水(あやみず)」を「冷水(ひやみず)」と聞き違えたのだろうという説もある。

水のおかげで長生きできたのだから、水に礼をいわねばならぬという意味だそうだ。

国語学的にはどうか知らないが、生理学的には一理ある説だ。

水をきちんと飲めば、皮膚の老化も防ぐ。

これがホントの水もしたたるよい男、だ。
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「接してもらさず」はナンセンス [健康常識ウソ・ホント]

健康常識ウソ・ホント(28)

「接してもらさず」はナンセンス


正月の晩には、♪年の始めの例(ため)しとて マツタケ立てて…と歌にもうたわれているように、正月の晩の祭典が家ごとに行われることになっている(笑)。

これを「ひめはじめ」というのはご存じのとおりである。

「歳時記」を開いてみると、

ほこ長し天が下照る姫はじめ   望一

なんて、ずいぶん威勢のいい句もあれば、

埋火(うもれび)にあるほとぼりやひめ始   草太郎

と、いささか精力減退気味の一句もある。

この埋もれ火型男性に、昔から信奉?されてきた「健康常識」が、れいの「接してもらさず」である。

周知のようにこれは貝原益軒の「養生訓」から出た言葉で、原文はこんなふうである。

「孫真人が千金方に、房中補益の説あり。

年四十に至らば、房中の術を行うべしとて、その説、すこぶるつまびらかなり。

その大意は、四十以後、血気ようやく衰うるゆえ、精気をもらさずして、ただしばしば交接すべし。

かくのごとくすれば、元気へらず、血気めぐりて、補益となる、といえるこころなり」(『養生訓』巻四)

40過ぎると、だんだん精力が衰えてくるので、もう射精はしないようにして、セックスはちょいちょいやるべし。

そうすれば、ホルモンがへらず、体内をめぐるから、精力が衰えない。

―というアドバイスである。

中国唐時代の医家、孫真人の著書『千金方』は、千金よりも尊い人の生命を救うための処方箋(しょほうせん)として重んじられた。

いまから1000年以上も昔の唐代の人の40歳は、生理年齢的にみて現代人の何歳ぐらいに当たるだろうか?

50歳、いや、60歳は超えるのではないだろうか。

だとしたら、その年になって「血気(生命を維持する身体の力。血液と気力)ようやく衰える」のは、まあ自然な老化現象といえるだろう。

そういう人はもう精液をもらしてはいけない。

しかし、交接はしばしば行うほうがよい、

もらさなかった精液は体中をめぐって元気の素になるだろう。

孫先生も、その説を受け売りした益軒先生も、そう信じておられたわけである。

外分泌と内分泌の違いを知らなかった時代の人が考えそうなナンセンスな説である。

もらさなかった精液が体をめぐるなんてことはありえない。

また、精液自体、そんなにまでしてケチらなきゃならないようなものではない。

精液の97%は水で、残り3%のほとんどは精子に栄養を補給するための栄養素(たんぱく質、糖質、ビタミン、ミネラルなど)と生理活性物質のプロスタグランディンで、その栄養的価値は唾液と大差ない。

そして射精で消費されるエネルギーは、せいぜい50~70㌔㌍。

これは階段を10段くらい上がる程度でしかない。

つまり階段を10段も上がると息切れしてフーフーいうような人や、ツバを吐くのもモッタイないと思う人でなかったら、エネルギー消費という点で射精をセーブする必要はまったくないのである。

だいいち、それでは相手に対しても失礼ではないか。

手抜き投球の途中降板みたいなものではないか。

やはり出すべきものは、景気よく出したほうがよい。ボーナスのように……。
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「夢は逆夢」、「朝夢は正夢」、どちら? [健康常識ウソ・ホント]

健康常識ウソ・ホント(27)  

「夢は逆夢」、「朝夢は正夢」、どちら?


初夢や金も拾はず死にもせず   夏目漱石

初夢というのは、いつみた夢か?

諸説ある。

元旦の目覚める前にみた夢。

元日の夜みた夢。

二日の朝か夜にみた夢、など。

ま、どれでも縁起のいい夢を「初夢」とすればよいのではないか。

もっとも、普通、夜中にみた夢は思い出せない。

頭に残るのは、目覚める前の夢だ。

夢には吉夢もあれば悪夢もある。

認知症の人や知的障害の強い人は、あまり夢をみない。

不安神経症やうつ病の人はあまりよい夢をみないそうだ。

よい夢、おもしろい夢をみているうちは、心身ともに健康といえるようだ。

夢をみるのは、レム睡眠(脳は目覚めている状態)のとき。

夢の続きで目が覚めると、脳はそれ以前に覚醒していたわけだから、頭がスッキリして気分がいい。

夢の中に出てきた人の数が多いほど幸せな気分になる。

人間は群居性の強い動物だからだ。

男性は女性より少なくとも3倍、セックスの夢をみる。

相手は見ず知らずの女性であることが多い。

女性がみる性的な夢はたいてい知っている男性だ──と、アメリカの精神医学者が書いている。

本当だろうか?

いまはもうそんなことを言ったり、したりする人は少ないのかもしれないが、吉夢のベストスリーは「一富士、二鷹、三なすび」で、「吉夢をみるための作法として宝船の絵を枕の下に敷いて寝る」と俳句歳時記にはある。

反対に凶夢をみないためには、人の悪夢を食うという想像上の動物、貘(ばく)を描いた紙を枕の下に敷いたそうだ。

「しかし、悪夢は決して悪いものではありません」

と、水口清一・ホロンネット会長が話している(雑誌『壮快』2010年2月号)。

「寝ている間に、脳内では日常生活で見て、聞いて、考えて、得られた情報の整理が行われています。

多くの悪夢もまた、この情報を整理する過程で生じるものです。

悪夢を見ることが、一種のストレス解消にもなっています。

いわばそれは夢でデトックス(毒出し)を行っているようなものです。

ですから、悪夢を見たからといって、動揺する必要はありません。

頭が余計な情報を整理しているだけだと考えればよいのです」

――であるならば、

「夢は逆夢」についての「ことわざ辞典」の注釈、

「夢は事実の反対になってあらわれるものだから、不吉の夢も気にすることはない。悪い夢をみたとき、祝いなおすのにいうことば」―も、もっともな助言といえるようだ。

また、「朝夢は正夢」ともいう。これはどうか。

精神科医の平本憲孝先生は、ユング心理学による夢の分析、夢の解釈にもとづき、こういっている。

「精神状態と夢の内容は深く関連し合っていて、夢からさまざまなメッセージが読み取れます。

わかりやすくいうと、病状が悪化すると悪い夢が多くなり、よくなってくると、いい夢が多くなります。

だからといって、悪夢は必ず悪いメッセージを含んでいるとか、悪いことが起こる予兆だとか決めつけることはできません。

そういう単純化を許さないところが、夢の難しいところであり、面白いところでもあるのです」

ところで、

「夢」という語は、①はかないもの、②空想的な願望、に対して③将来実現したい願い─の比喩的表現としても用いられる。

英語のドリーム、ドイツ語のトラオム、フランス語のレーヴなども同じであるようだ。

③の意味の夢については、古今東西、じつに多くのさまざまな名言が残されている。

その一つ─。

どうすれば夢を実現することができますかとよく人から聞かれる。自分でやってみることだと私は答えている。=ウォルト・ディズニー
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「やけどにチンク油、ぬかみそ」は、絶対ダメ!! [健康常識ウソ・ホント]

健康常識ウソ・ホント(26)  

「やけどにチンク油、ぬかみそ」は、絶対ダメ!!

冬はやけどの季節だ。

やけどの重症度は、深さと広さで決まる。

深さは、表皮のみの「第Ⅰ度」、真皮まで及んだ「第Ⅱ度」、さらに深い「第Ⅲ度」と分けられる。

広さ(面積)は、からだ全体の体表面積に対して何%にあたるかという比率であらわす。目安としては、手のひらの面積がその人の体表面積の1%に相当する。

治療は、やけどの広さや深さによって異なるが、どんな程度のやけどでも、応急処置としてはまず冷やすこと。

水道の水を30分から1時間ジャブジャブかけてしっかりと冷やし切る。

皮膚が赤くなっただけの「第Ⅰ度」の1%くらいのやけどだったら、それだけで治る。

衣服の上から熱湯をあびたら、服の上から流水をかける。

無理に服をぬぐと、衣服にくっついた皮膚が一緒にはがれてしまうことがある。

昔は、やけどをして医者に行くと、白いどろっとした塗り薬(チンク油)を塗られた。

医学の教科書にも載っている治療法だったから、いまでもお年寄りの内科の先生なんかだとやっているかもしれない。

だが、それをやられると、やけどの深さがわからなくなる。

本格的な治療の妨げになるだけでなく、カサブタができ、細菌感染を起こしやすい。

で、チンク油を落とす。これが痛い。

ネットで「チンク油」を検索すると、

「ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説 

チンク油 亜鉛華に等量のオリーブ油を混和したもので、やけど、できものなど皮膚の炎症の際に患部を保護するための油剤として広く用いられる」とある。

時代遅れの大マチガイといわねばならない。

『広辞苑』に「チンク油」が登場するのは、1983年発行の第三版から。

「チンク油 同量の酸化亜鉛と植物油(主にオリーブ油)とを混和したもの。収斂(しゅうれん)作用があり、皮膚の急性炎症に使う」という語釈は、2008年の第六版まで変わっていない。

やけども皮膚の急性炎症の一種ではあるが、やけどにチンク油は、ダメです。

医者に行くほどではない「やけどのくすり」となると、ぬかみそ、みそ、しょうゆ、食用油、ジャガイモの汁、キュウリの輪切り、アロエ、朱肉……まあ、じつにいろいろさまざまな家庭療法が言い伝えられている。

全部、ダメ! 

わざわざバイ菌をくっつけるようなものだし、治りも遅くなる。

とにかく「やけどの特効薬」は、水!

しっかり水で冷やしたあとでも水疱が残りジュクジュクしているときは、皮膚科へ。

そうしてやけどが治ったら、跡を残さないケアが大切だ。

それにはまずビタミンC。ビタミンCには色素沈着を抑える効果がある。

食事やサプリメントでの摂取のほか、ビタミンCのローションを塗ればより効果的。

大敵は紫外線。紫外線を浴びると、跡の色が濃くなる。

衣服などで紫外線からやけど跡を守ろう。

ともあれ、いちばんのだいじは「予防」。

ストーブ、魔法瓶、油料理……しっかり気をつけてください。とくにお子さまに!

ところで、「やけど」は、

〔広義では、危険なことにのめり込んで手痛い損害を受ける意にも用いられる。例「円相場で大やけどした」〕=『新明解国語辞典』というように比喩としてもつかわれる。

こちらのクスリは、金と時間と友情だろう。

むろん「予防にまさる治療なし」は、この場合もいえる金言である。
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