便秘と下剤に関する誤解 [健康常識ウソ・ホント]
健康常識ウソ・ホント(36)
便秘と下剤に関する誤解
サマセット・モームの『作家の手帳』のなかに下のような一節を見つけた。
<産婦人科学の教授が、その講義のはじめに言った。
「諸君、女とは、一日に一度ミクチュレート(放尿)し、一週に一度デフィケート(排便)し、一月に一度メンスツルエート(通経)し、一年に一度パーテュレート(出産)し、そうして機会あるときはいつでもコピュレート(交尾)する動物である」
ぼくは均整のとれた、しゃれた文章だと思う。>(中村佐喜子訳=新潮文庫)
大いにためらいながら引き写したが、手帳にこの文言を記した1894年、モームはロンドンの医学校の3年生だった。
女性のみなさま、時代の古さと作家の若さに免じて、大々的セクハラをお許しください。
さて、本論。
冗談半分とはいえ、「1日に1度の放尿」はいくらなんでもあまりにも少なすぎる。
いったいに女性はそれを我慢しがちで、そのため膀胱炎などの尿路感染症を起こしやすい。
で、そうした病気はチャスティティ・ディジーズ(慎み深いための病気)と呼ばれる。
起きているときは2~3時間に1回、膀胱をカラッポにするのが、健康上のだいじな心がけである。
「1週に1度の排便」というのも、少ない。
便秘は気分的にうっとうしいだけでなく、体にもよくない。
便秘と不眠は、老人の二大愁訴といわれるが、若い人にもけっこう多い。
厚生労働省の国民健康調査によれば、便秘に悩む人は660万人、それを隠している人や自覚のない人を含めると、1000万人を超えるのでは…と推測される。
10後半から30代前半の女性に最も多く、40~50%を占めている。
便秘には「何日間排便がなければ便秘である」といった明確な定義はない。
一般的には、排便が週に1回程度だったり、薬がないと排便できなかったりするような状態だと便秘、と考えられている。
毎日排便しないといけないと思っている人もいるようだが、3日に1度でもそのあとスッキリするのであれば問題ない。
毎日出ていても、スッキリしないとか、ガスがたまっておなかが張るなど、不快症状があるようだと、ちと問題あり。
食物繊維や水分をバランスよくとると、便のかさがふえたり、軟らかくなったりして、出やすくなる。
適度な運動─とくにゴルフやテニス、ラジオ体操など体をひねる運動―も効果的だ。
しかし、糞闘努力の甲斐もなく、ウンに見放される日が続くと、下剤に頼りたくなる。
ところが、その下剤の乱用が便秘をいっそう悪化させてしまう。
下剤は「出なくて苦しい」状態を一時的に改善するもので、便秘そのものを治す薬ではない。
どうにも苦しいときに薬を使うのはかまわないが、下剤を使うことに慣れると、便意を感じて、トイレに行き、排便するという腸のリズムが失われる。
下剤はあくまでも急場の対処法、一時的使用を原則とすべき薬だ。
市販の下剤のうち最も種類が多いアロエやセンナ、大黄が成分として配合されている「アントラキノン系下剤」は、大腸を刺激することによって便意を生じさせる。
長期使用で効きがわるくなったり、大腸の自発的な動きが弱ったりする欠点がある。
大腸の粘膜が黒ずむ大腸メラノーシス(大腸黒皮症)も発生しやすくなる。
アロエ、センナ、大黄は、自然の成分の生薬なので安心感があるが、長期連用は控えたほうがよい。
だが便秘に詳しくない先生にかかると、下剤の大半を占めるアントラキノン系下剤を処方されることが多い。
便秘の名医、松生恒夫・松生クリニック院長は、漢方薬を下剤として選ぶさい、大黄などの含有量はごく少量で、効果が得られる「防風通聖散」を第一選択にしているという。
2012年、便秘治療薬としては約30年ぶりに発売された「アミティーザ」は、小腸に作用し、便に含まれる水分をふやし、便を軟らかく移動しやすくする。
慢性便秘に広く効果があり、長く飲んでも効きがわるくなる心配が少ない。
便秘を正しく理解し、根本的に治したいと思われるなら、松生恒夫著『排便力をつけて便秘を治す本』(マキノ出版刊)のご一読をお勧めしたい。
健康総合ニュースサイト「One's Life」2015年3月7日掲載の「コラム」より再録。
同サイトは、美容・ヘルスケア・妊娠・介護福祉に関するニュースや体によい食事のレシピなど、健康・医療に関する情報を日々発信している。
拙稿の過去の掲載分は同サイトの「特集」→「コラム」でお読みいただけます。
便秘と下剤に関する誤解
サマセット・モームの『作家の手帳』のなかに下のような一節を見つけた。
<産婦人科学の教授が、その講義のはじめに言った。
「諸君、女とは、一日に一度ミクチュレート(放尿)し、一週に一度デフィケート(排便)し、一月に一度メンスツルエート(通経)し、一年に一度パーテュレート(出産)し、そうして機会あるときはいつでもコピュレート(交尾)する動物である」
ぼくは均整のとれた、しゃれた文章だと思う。>(中村佐喜子訳=新潮文庫)
大いにためらいながら引き写したが、手帳にこの文言を記した1894年、モームはロンドンの医学校の3年生だった。
女性のみなさま、時代の古さと作家の若さに免じて、大々的セクハラをお許しください。
さて、本論。
冗談半分とはいえ、「1日に1度の放尿」はいくらなんでもあまりにも少なすぎる。
いったいに女性はそれを我慢しがちで、そのため膀胱炎などの尿路感染症を起こしやすい。
で、そうした病気はチャスティティ・ディジーズ(慎み深いための病気)と呼ばれる。
起きているときは2~3時間に1回、膀胱をカラッポにするのが、健康上のだいじな心がけである。
「1週に1度の排便」というのも、少ない。
便秘は気分的にうっとうしいだけでなく、体にもよくない。
便秘と不眠は、老人の二大愁訴といわれるが、若い人にもけっこう多い。
厚生労働省の国民健康調査によれば、便秘に悩む人は660万人、それを隠している人や自覚のない人を含めると、1000万人を超えるのでは…と推測される。
10後半から30代前半の女性に最も多く、40~50%を占めている。
便秘には「何日間排便がなければ便秘である」といった明確な定義はない。
一般的には、排便が週に1回程度だったり、薬がないと排便できなかったりするような状態だと便秘、と考えられている。
毎日排便しないといけないと思っている人もいるようだが、3日に1度でもそのあとスッキリするのであれば問題ない。
毎日出ていても、スッキリしないとか、ガスがたまっておなかが張るなど、不快症状があるようだと、ちと問題あり。
食物繊維や水分をバランスよくとると、便のかさがふえたり、軟らかくなったりして、出やすくなる。
適度な運動─とくにゴルフやテニス、ラジオ体操など体をひねる運動―も効果的だ。
しかし、糞闘努力の甲斐もなく、ウンに見放される日が続くと、下剤に頼りたくなる。
ところが、その下剤の乱用が便秘をいっそう悪化させてしまう。
下剤は「出なくて苦しい」状態を一時的に改善するもので、便秘そのものを治す薬ではない。
どうにも苦しいときに薬を使うのはかまわないが、下剤を使うことに慣れると、便意を感じて、トイレに行き、排便するという腸のリズムが失われる。
下剤はあくまでも急場の対処法、一時的使用を原則とすべき薬だ。
市販の下剤のうち最も種類が多いアロエやセンナ、大黄が成分として配合されている「アントラキノン系下剤」は、大腸を刺激することによって便意を生じさせる。
長期使用で効きがわるくなったり、大腸の自発的な動きが弱ったりする欠点がある。
大腸の粘膜が黒ずむ大腸メラノーシス(大腸黒皮症)も発生しやすくなる。
アロエ、センナ、大黄は、自然の成分の生薬なので安心感があるが、長期連用は控えたほうがよい。
だが便秘に詳しくない先生にかかると、下剤の大半を占めるアントラキノン系下剤を処方されることが多い。
便秘の名医、松生恒夫・松生クリニック院長は、漢方薬を下剤として選ぶさい、大黄などの含有量はごく少量で、効果が得られる「防風通聖散」を第一選択にしているという。
2012年、便秘治療薬としては約30年ぶりに発売された「アミティーザ」は、小腸に作用し、便に含まれる水分をふやし、便を軟らかく移動しやすくする。
慢性便秘に広く効果があり、長く飲んでも効きがわるくなる心配が少ない。
便秘を正しく理解し、根本的に治したいと思われるなら、松生恒夫著『排便力をつけて便秘を治す本』(マキノ出版刊)のご一読をお勧めしたい。
健康総合ニュースサイト「One's Life」2015年3月7日掲載の「コラム」より再録。
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