花粉症は「超清潔症候群」? [健康常識ウソ・ホント]
健康常識ウソ・ホント(33)
花粉症は「超清潔症候群」?
ことしもまた涙と鼻水の季節がやってきた。
春風に乗って数十㌔もの空中を飛んでくる直径およそ30㍈(0.03㍉)の微粒子の花粉に泣かされる人が、国民の3割=4000万人にも達する。
いつからこんなことになったのか?
欧米ではヘイフィバー(枯草熱)という名で200年も昔から知られていた花粉症が、日本で最初に報告されたのは1960年、東大の荒木英斉医師によるブタクサ花粉症の症例だった。
次いで63年、東京医科歯科大の斎藤洋三医師がスギ花粉症を報告した。
だが当時の患者数はまだ微々たるものだった。
それが70年代末から80年代初めにかけて社会問題化するほど爆発的にふえた。
花粉症だけではない。アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、じんましん、アレルギー性鼻炎、気管支ぜんそく……、現代人はアレルギー軍団の大攻勢にさらされている。
どうしてこんなことになったのか?
食生活の欧米化、食品添加物の増加、大気汚染、林業の荒廃(スギ林の放置)による花粉の激増、家屋の気密性(ダニの増加)など、いくつもの原因説が指摘されている。
それぞれが一因であることはたしかだが、主因とするには充分ではない。
そこへ提起されたトレンドな説が、「衛生仮説」「寄生虫説」「蓄膿症説」である。
衛生仮説は、英国の疫学者、ストラカンが提唱した。
乳幼児期の生活環境が清潔でないほど(免疫系の発達を促し)アレルギーになりにくいという説だ。
それを裏づけるものとして、年上のきょうだいの多い子や、家畜を飼っている農家の子には、そうでない子に比べて、花粉症や湿疹が明らかに少なかった─などの大規模調査の結果が報告されている。
回虫などの寄生虫の感染率の減少が、花粉症の激増を招くことになった、と主張するのは藤田紘一郎・東京医科歯科大名誉教授らだ。
日本人の寄生虫感染率は、昔からずっと60~70%だったが、1950年ごろから急激に減少し、スギ花粉症が発見された63年は感染率が10%を切り、75年以降は0.1~0.02%とほとんどゼロ推移している。
花粉症などのアレルギー性疾患は、体内でスギ花粉のようなアレルゲン(抗原)に対する抗体=IgE(免疫グロブリンE)が産生されることが原因で起こる。
寄生虫に感染したときも同じようにIgEが産生される。が、そこに大きな違いがある。
アレルゲンに対する抗体=特異的IgEが、肥満細胞などの免疫系の細胞と結合すると、セロトニンやヒスタミンが放出されて、クシャミ、鼻水などのアレルギー症状が起こる。
寄生虫によって産生される抗体=非特異的IGEは、肥満細胞と結合してもヒスタミンを放出しない。活性のないIgEなのだ。
非特異的IgEが圧倒的に多く肥満細胞を埋めつくすと、仮に特異的IgEができても行き場がないから、アレルギーは起こらない。
三つめの蓄膿症説は、アレルギー性鼻炎の専門医、大橋淑宏・大阪市立大助教授(当時)に聞いた。
アレルギーを起こしやすい体質かどうかを決めるのは、免疫に関与する2種のヘルパーT細胞、Th1、Th2のバランスだ。
慢性副鼻腔炎(蓄膿症)のような細菌感染の機会が多いと、Th1がふえる。
衛生的な環境で育つと、アレルギーのもとになるTh2がふえる。
昔の子どもはみんな青っぱなを垂らしていたように蓄膿症がとても多かったが、いまはそんな子は見られず、アレルギー性鼻炎の子が激増した。
Th1とTh2のバランスが逆転したからだ。
以上、三つの説の共通点は、清潔過ぎる生活環境が免疫系に影響し、アレルギーが起こりやすくなったという、いわば「アレルギー=超清潔症候群」説だ。
しかし、だからといって、いまさら不潔な環境に戻せるわけでもないし、仮に戻したならばこんどは感染症がどっとふえて、乳幼児死亡率がぐんと上がるだろう。
痛しかゆし。文明とはやっかいなものだ。
花粉症は「超清潔症候群」?
ことしもまた涙と鼻水の季節がやってきた。
春風に乗って数十㌔もの空中を飛んでくる直径およそ30㍈(0.03㍉)の微粒子の花粉に泣かされる人が、国民の3割=4000万人にも達する。
いつからこんなことになったのか?
欧米ではヘイフィバー(枯草熱)という名で200年も昔から知られていた花粉症が、日本で最初に報告されたのは1960年、東大の荒木英斉医師によるブタクサ花粉症の症例だった。
次いで63年、東京医科歯科大の斎藤洋三医師がスギ花粉症を報告した。
だが当時の患者数はまだ微々たるものだった。
それが70年代末から80年代初めにかけて社会問題化するほど爆発的にふえた。
花粉症だけではない。アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、じんましん、アレルギー性鼻炎、気管支ぜんそく……、現代人はアレルギー軍団の大攻勢にさらされている。
どうしてこんなことになったのか?
食生活の欧米化、食品添加物の増加、大気汚染、林業の荒廃(スギ林の放置)による花粉の激増、家屋の気密性(ダニの増加)など、いくつもの原因説が指摘されている。
それぞれが一因であることはたしかだが、主因とするには充分ではない。
そこへ提起されたトレンドな説が、「衛生仮説」「寄生虫説」「蓄膿症説」である。
衛生仮説は、英国の疫学者、ストラカンが提唱した。
乳幼児期の生活環境が清潔でないほど(免疫系の発達を促し)アレルギーになりにくいという説だ。
それを裏づけるものとして、年上のきょうだいの多い子や、家畜を飼っている農家の子には、そうでない子に比べて、花粉症や湿疹が明らかに少なかった─などの大規模調査の結果が報告されている。
回虫などの寄生虫の感染率の減少が、花粉症の激増を招くことになった、と主張するのは藤田紘一郎・東京医科歯科大名誉教授らだ。
日本人の寄生虫感染率は、昔からずっと60~70%だったが、1950年ごろから急激に減少し、スギ花粉症が発見された63年は感染率が10%を切り、75年以降は0.1~0.02%とほとんどゼロ推移している。
花粉症などのアレルギー性疾患は、体内でスギ花粉のようなアレルゲン(抗原)に対する抗体=IgE(免疫グロブリンE)が産生されることが原因で起こる。
寄生虫に感染したときも同じようにIgEが産生される。が、そこに大きな違いがある。
アレルゲンに対する抗体=特異的IgEが、肥満細胞などの免疫系の細胞と結合すると、セロトニンやヒスタミンが放出されて、クシャミ、鼻水などのアレルギー症状が起こる。
寄生虫によって産生される抗体=非特異的IGEは、肥満細胞と結合してもヒスタミンを放出しない。活性のないIgEなのだ。
非特異的IgEが圧倒的に多く肥満細胞を埋めつくすと、仮に特異的IgEができても行き場がないから、アレルギーは起こらない。
三つめの蓄膿症説は、アレルギー性鼻炎の専門医、大橋淑宏・大阪市立大助教授(当時)に聞いた。
アレルギーを起こしやすい体質かどうかを決めるのは、免疫に関与する2種のヘルパーT細胞、Th1、Th2のバランスだ。
慢性副鼻腔炎(蓄膿症)のような細菌感染の機会が多いと、Th1がふえる。
衛生的な環境で育つと、アレルギーのもとになるTh2がふえる。
昔の子どもはみんな青っぱなを垂らしていたように蓄膿症がとても多かったが、いまはそんな子は見られず、アレルギー性鼻炎の子が激増した。
Th1とTh2のバランスが逆転したからだ。
以上、三つの説の共通点は、清潔過ぎる生活環境が免疫系に影響し、アレルギーが起こりやすくなったという、いわば「アレルギー=超清潔症候群」説だ。
しかし、だからといって、いまさら不潔な環境に戻せるわけでもないし、仮に戻したならばこんどは感染症がどっとふえて、乳幼児死亡率がぐんと上がるだろう。
痛しかゆし。文明とはやっかいなものだ。
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