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動脈硬化予防指針 [医学・医療短信]

動脈硬化予防指針、5年ぶりに改訂

日本動脈硬化学会は、5年ぶりに改訂する「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」(以下、2017年版)の骨子が固まったとして、動脈硬化教育フォーラムで作成委員長の木下誠氏(帝京大学客員教授)が概要を発表した。

今回、クリニカルクエスチョン(CQ=臨床的疑問)とシステマチックレビュー(文献をくまなく調査しデータの偏りを除き、分析を行うこと)の部分的な導入や絶対リスクの評価法の変更、冠動脈疾患の二次(再発)リスクが高い病態の追加などが盛り込まれる。

 2017年版における脂質異常症の診断基準は、2012年に発行した現行のガイドライン(以下、現行GL)と同様、高LDL-C血症はLDL-C値140mg/dL以上(境界型は120~139mg/dL)、低HDL-C血症は40mg/dL未満、高トリグリセライド(TG)血症は150mg/dL以上となる。

 ただし、TG 400mg/dL以上や食後採血の場合の基準値としてnon-HDLコレステロール値が付記される。

 注=LDL-C(悪玉コレステロール)血症 HDL-C(善玉コレステロール)血症

 またLDL-Cの測定法については、Friedewald(フリードワルド)式と直接法の両方を挙げているが、エビデンスのほとんどがFriedewald式を用いていることから、Friedewald式がやや優位であるという。

 注=Friedewald(フリードワルド)式。かつてLDL-コレステロールは、総コレステロール、中性脂肪、HDL-コレステロール値から、LDL-コレステロール=総コレステロール−HDLコレステロール−(中性脂肪/5)の計算式(フリードワルドの式)で算出されていた。

 絶対リスク評価:死亡から発症に変更

 木下氏によると、今回の主な変更点のつはCQとシステマチックレビューの導入であるという。しかし、全ての項目で導入するわけではなく、エビデンス(科学的証拠)がある「危険因子の評価」「絶対リスク評価」「食事療法」「薬物療法」の項目に限定される。

 エビデンスレベルは、臨床試験では5段階(1+~4)に、疫学研究では4段階(E-Ⅰa~E-Ⅲ)に分け、推奨レベルは「グレードA(強い推奨)」と「グレードB(弱い推奨)」の2段階とする。

 その他の主な改訂点として、絶対リスク評価方法の変更、動脈硬化性疾患の危険因子の追加、高リスクの病態の追加が挙げられている。

 冠動脈疾患の一次(初発)予防におけるリスク区分の評価は、現行GLのNIPPON DATA 80に基づく「冠動脈疾患の死亡」から、吹田研究に基づく「発症率」に変更される。その背景には、スタチン使用の普及により冠動脈疾患死が減少したことが挙げられる。

 国内のさまざまな疫学研究の中から吹田研究を選定した理由について木下氏は、同研究のアウトカムが冠動脈疾患発症であること、LDL-CおよびHDL-Cの測定データがあることなどを挙げた。

 これらを踏まえ、発症リスクの予測ツールとして吹田研究での吹田スコアが採用される。

 同スコアの評価項目は、年齢、性、喫煙、血圧値、HDL-C値、LDL-C値、耐糖能異常、早発性冠動脈疾患の家族歴で構成され、これらの合計点が40点未満は「低リスク」(予測される10年間の発症リスク2%未満)、41~55点であれば「中リスク」(同2~8%)、56点以上であれば「高リスク」(同9%以上)にそれぞれ分類するというもので、同スコアの簡易版も作成される。

 木下氏らは、現行GLにおける10年間の冠動脈疾による死亡率と2017年版の発症率に齟齬はないとの認識を示している。

 初発予防の管理目標値:変更なし

 初発予防におけるリスク区分別の脂質管理目標値は現行GLと変わりはなく、低リスク:LDL-C160 mg/dL未満、中リスク:140mg/dL未満、高リスク:LDL-C120 mg/dL未満をそれぞれ目指す。

 しかし、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患(PAD)のいずれかがあれば、同スコアにかかわらず「高リスク」となる。

 なお、同スコアは、家族性高コレステロール血症(FH)患者には用いない。

 リスク管理:腹部大動脈瘤、動脈硬化性腎動脈狭窄症などを追加

 動脈硬化性疾患予防に対する包括的リスク管理として、2017年版では現行GLにある脂質異常症、高血圧、糖尿病、喫煙、CKD、冠動脈疾患の家族歴、動脈硬化性疾患の既往(冠動脈疾患、非心原性脳梗塞、PAD)、加齢、性などの危険因子に加え、「腹部大動脈瘤」「動脈硬化性腎動脈狭窄症」「高尿酸血症」「睡眠時無呼吸症候群」が追加される。

 また再発予防において、より厳格な管理を要する高リスクの病態も大きく変わり、①急性冠症候群②喫煙③糖尿病④CKD⑤非心原性脳梗塞・PAD⑥メタボリックシンドローム⑦主要危険因子の重複⑧FH-となった。

 再発予防の管理目標値は、現行GLのLDL-C100mg/dL未満であることに変わりはない。

 しかし、上記の高リスク病態を有する既往例では「目標値LDL-C 70mg/dL未満が妥当と考えられる」とする一文を本文に入れる予定だと木下氏は述べた。

 FHの治療:新規薬剤や第一選択薬を変更

 FHの診断基準値は、小児(15歳未満)および成人(15歳以上)ともに現行GLと変わりない。

 しかし、2017年版では成人FHヘテロ接合体およびホモ接合体、小児ヘテロ接合体における治療フローチャートが加わる。

 いずれも薬物療法の追加・変更があり、成人例ではPCSK9阻害薬、ホモ接合体のみの適応ではあるがMTP阻害薬の2剤を追加。小児では第一選択薬がレジンからスタチンに変更される。

 動脈硬化予防指針:PCSK9阻害薬、MTP阻害薬を付記

 2017年版における薬物療法については、現行GLにあるスタチン、陰イオン交換樹脂、小腸コレステロールトランスポーター阻害薬、フィブラート、ニコチン酸誘導体、プロブコール、EPA製剤に加え、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬が付記される。

 ただしMTP阻害薬については前述の通り、投与患者が限定されることから、一般的に用いられる脂質異常症治療薬とはならない。

 なお、2017年版の発行スケジュールについては、今後募集するパブリックコメントを経て、ことし7月に開かれる日本動脈硬化学会までの発行を予定している。

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