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あってもなくてもいい臓器? [健康短信]

─あってもなくてもいい臓器?

「五臓六腑」ということばがあります。

 古代の中国医学(漢方)で人間の内臓全体を
言い表すのに用いた成句です。

 五臓は、肝・心・脾・肺・腎。

 六腑は、胃・大腸・小腸・胆・膀胱・三焦。

 それぞれに深遠な解釈が加えられています。

 しかし、それらはどれも現代医学の知見とは遠く隔たったものでしかありません。

 一例を今回の主題でもある「脾」で見てみましょう。

 ①営気を臓する。

 ②昇清を主(つかさど)る。

 ③津液の生成を主る。

「営気」とは、血液と共に脈の中を流れる「気」のこと。

「昇清」とは、消化・吸収された滋養物=清を上方の肺に送る機能。

「津液」は唾液。

 これが漢方の「脾」。西洋医学(つまり現代医学)の脾臓とはまつたく異なる概念です。
 
「卑」なる臓器のやわな役割

 脾臓の脾は、からだに関する文字をつくる「月(にくづき)」と「卑」を組み合わせた常用漢字です。

 脾臓はまさにそのような臓器です。

 脾臓は左の上腹部にあり、上方は横隔膜に、内側は左の腎臓と接しています。

 前方には胃があり、肋骨の下に隠れているので、体表からは触れません。

 大きさは、長さ12cm、幅7.5cm、厚さ5cm、重量100~200g。

 やわらかくて、腎臓のようなソラマメに似た形をしています。

 色は、暗赤色、赤紫色、煉瓦色─と、内部に流れ込んだ血液量で変化します。

 脾臓は英語では「スプリィーン(spleen)」。

 この語は、不機嫌、癇癪、憂鬱といった意味にも用いられます。

 脾臓が気力や感情の宿るところと考えられていたからです。

 脾臓の機能は、①免疫機能、②血球の破壊、③血液貯蔵、とされています。

 しかし、仮に脾臓を摘出しても生存上なんら差し支えありません。

 脾臓が失われても、他の臓器(主に肝臓)によってその機能を補うことができるからです。

 つまり脾臓はなければなくてもよい臓器なのです。

 シェイクスピアも悩んだ?

 ただ、ときたま脾臓の存在を強く感じることがあります。

 急激な運動をしたときに生じる脇腹の痛みです。

 あれの大きな一因は、脾臓の中の血液がいっせいに体内に送り出され虚血(血液不足)が起
きるためです。

 あの痛み、英語では「スティッチ(Stitch)」と表現するようです。

 縫い物・刺繍、手術創の縫合などの「ひと針」を意味する単語です。

 シェイクスピアにもその痛みが描写されている作品があると聞き、全集をめくってみましたが、残念ながら見つけることができませんでした。

 脾臓の病気はそんなに多いものではありません。

 ただし、脾臓を摘出することによって、別の病気が改善する場合があります。

 特発性血小板減少性紫斑病や遺伝性球状赤血球症です。

 特発性血小板減少性紫斑病は血小板が減少し、出血の危険が高まる病気です。

 治療は、ヘリコバクター・ピロリ菌除菌療法や副腎皮質ステロイド療法がありますが、手術で脾臓を取り除くのも効果的な一法です。

 遺伝性球状赤血球症は、遺伝的異常により赤血球が破壊され、貧血をきたす疾患です。

 貧血が重症の場合、脾臓摘出術が唯一の治療法です。

 このほか、脾臓が何らかの原因で大きくなった「脾腫」では、脾臓の機能が亢進し、貧血や出血が出現します。

 手術によって脾臓を摘出することがあります。

 むろん、そのことによる不都合はなにも起こりません。

 くり返します。脾臓がなくても、人間は生きていくことができます。

 脾臓を摘出すると、感染を防御する抗体をつくったり、望ましくない微生物を血液から取り除いたりする体の能力がある程度失われます。

 結果、感染に対する防御能力が低下してしまいます。

 脾臓には、肺炎球菌、髄膜炎菌、インフルエンザ菌といった特定の種類の細菌に対する防御の役割があるため、脾臓を摘出した場合は、感染リスクが特に高くなります。

 このようなリスクがあるため、これらの微生物の感染から体を守るためにワクチンを接種します。

 インフルエンザワクチンの接種も必ず毎年受ける必要があります。

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