虫刺されの対応と予防 [医学・医療短信]
アウトドアシーズンは要注意! 虫刺されの対応と予防
志賀隆 / 国際医療福祉大学准教授/同大学三田病院救急部長
虫刺されかな…と思ったら?
結論からいいますと、確率的にほとんどの虫刺されは軽症で、命に関わるような場合は極めてまれです。
虫刺されそのものは非常によくあることなので、症状が激しくなければ自宅で手当てをして医療機関を受診する必要がないことがほとんどです。
しかし、虫刺されによる症状が激しいため受診した場合に、医療機関ではどのようにアプローチをしているのでしょうか?
まずは患者さんに「虫に刺された可能性」についてうかがいます。
大抵の患者さんは虫に刺されたことを自覚していることが多いからです。
次に、生じることが最も多い皮膚の症状についてうかがいます。
刺されたときに麻酔薬の成分をもった虫の唾液が入ったり、刺された人が眠っていたりすることがあるため、症状に気付くのに時間がかかることもあります。
そして、旅行などで衛生のよくない環境で過ごしたりした場合にはトコジラミ(南京虫)や寄生虫に暴露される可能性があるため旅行や環境面の質問をします。
次に診察で、皮膚を観察します。
刺された周囲の症状としては、かゆみ、痛み、赤み、圧痛(押したときの痛み)、熱感や腫れが起こることが多いです。
そして症状は悪化することは少なく、次第に良くなっていくことがほとんどです。
血液検査や顕微鏡検査などが有用である場合はほとんどなく、大抵の場合には患者さんのお話などの情報と症状などの時間経過と診察にて診断します。
ただ、まれなのですが、虫刺されの中には皮膚だけの症状にとどまらず、全身の症状にいたることがあるため、皮膚の症状が強く、腫れ、皮疹などの範囲が広い、もしくは全身に広がっていくような場合には注意が必要です。
特に、刺された場所以外にかゆみが出た、おなかが痛い、息が苦しいなどの症状が出た場合には要注意です。
重症のアレルギー症状である「アナフィラキシー」に進んでいる可能性があるからです。
その場合は、皮膚の症状だけにはとどまりません。皮膚の症状に加えて以下の症状のうち一つでも該当する場合にはアナフィラキシーを考えます。
・消化器の症状(腹痛、下痢、など)
・呼吸器症状(喉が腫れる、息が苦しくなる、ヒューヒューと音がする「喘鳴(ぜいめい)」など)
・低血圧(ふらつき、ふだんの血圧から30%以上低下、年齢の下限値を下回る場合など)
・終末臓器障害を示す症状(失神、失禁、虚脱など)
アナフィラキシーの場合、一般的な虫刺されの治療では対応は困難です。
すぐに救急車を呼んで医療機関で迅速な対応をすることが望まれます。
単純な虫刺されではないかも?
頻度は高くないのですが、虫刺されの部位から細菌が侵入して皮膚の感染症である蜂窩織炎(ほうかしきえん)になることがあります。
刺された周囲の皮膚に
・赤みがひかない/広がる
・腫れがひかない/広がる
・熱感が出てきた
・熱が出てきた
--などの症状がある場合には医療機関の受診を考えてください。
ダニにかまれたら要注意
他に注意すべきなのは、「ダニにかまれた可能性」です。
数週間程度は症状に注意し、特に発熱や皮疹が出現した際には医療機関を受診するようにしてください。
以下にダニによる特有の感染症を簡単にご紹介します。
△ツツガムシ病、日本紅斑熱
かまれた周囲が赤くなり、中心部がかさぶたになっていることがあります。
かまれた後数日から10日程度経過して、高い熱とともに赤い発疹が全身に広がっていきます。
抗菌薬による治療が可能ですが、遅れると命の危険が出ることがあります。
△ライム病
刺された周囲に特徴的な「ダーツの的」のような皮疹が出ます。
また、倦怠(けんたい)感、筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒--など、風邪・インフルエンザのような症状も出ます。
こちらも抗菌薬で治療可能ですが、進行すると神経、心臓、関節などさまざまな部位に広がるので早めの医療機関受診が必要です。
△重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
6日~2週間の潜伏期を経て、発熱や消化器症状(食欲低下、吐き気、嘔吐<おうと>、下痢、腹痛)が多くの症例で認められます。
また、頭痛、筋肉痛、意識障害や失語などの神経症状、リンパ節腫脹(しゅちょう)、皮下出血や下血などの出血症状などを起こします。
重症化や死亡の報告のある病気です。
ダニは吸血を始めてから1~2週間も皮膚にとりついたままになることもあります。
吸血中のダニを取る際には専用の器具が必要です。
自分で取ると「口器」という部分が皮膚に刺さったまま残ってしまいますから、医療機関を受診して取ってもらいましょう。
予防にはどうしたらいい?
虫刺されによる被害はどの地域でも起こりうることです。ただ予防法もありますので以下に解説いたします。
△定期的な殺虫剤散布
自宅や職場の周辺に虫の巣や発生しやすい場所(水たまりや河川など)がある場合には定期的な殺虫剤の散布が虫刺され予防に有効な可能性があります。
△衣服の種類
夏の暑いときには大変なのですが、やはり野外で活動をする際には長袖・長ズボンがおすすめです。
ほとんどの虫が衣服を通して刺したりかんだりすることが難しいからです。
また、蚊を含め多くの虫にとって、白やベージュ系統の色の薄い衣服の方が魅力が低くなると考えられています。
反対に避けるべきなのは、黒などの暗い系統の色や赤などの鮮明な色で、花柄は控えた方がいいでしょう。
また、サンダルなど露出の多い履物は避けて、足首まで保護されている靴をはくことがおすすめです。
△香水など
虫をひき付ける可能性があるので、香水やにおいの強いせっけん、ヘアスプレー、化粧水などは避けたほうがいいでしょう。
避けるべき環境としては植物が密生している場所がありますね。
また、ノミやダニを持つ動物(野良犬や野良猫などの哺乳類、鳥類)との接触は避けたほうがいいですね。
清涼飲料水などのフタが開いたままになっているとハチなどが入ってしまうことがあるので注意が必要です。
△虫よけ
使用上の注意を守って使用しましょう。
塗る際にムラがあるとその部分を刺されてしまう可能性があります。
塗るタイプのものは、塗ってから3時間程度たってしまうと効果が弱まることも多いので、再度塗るようにしましょう。
日焼け止めなどと併用する際には一番最後に虫よけを塗るようにして、効果が減らないようにしましょう。
志賀隆 / 国際医療福祉大学准教授/同大学三田病院救急部長
虫刺されかな…と思ったら?
結論からいいますと、確率的にほとんどの虫刺されは軽症で、命に関わるような場合は極めてまれです。
虫刺されそのものは非常によくあることなので、症状が激しくなければ自宅で手当てをして医療機関を受診する必要がないことがほとんどです。
しかし、虫刺されによる症状が激しいため受診した場合に、医療機関ではどのようにアプローチをしているのでしょうか?
まずは患者さんに「虫に刺された可能性」についてうかがいます。
大抵の患者さんは虫に刺されたことを自覚していることが多いからです。
次に、生じることが最も多い皮膚の症状についてうかがいます。
刺されたときに麻酔薬の成分をもった虫の唾液が入ったり、刺された人が眠っていたりすることがあるため、症状に気付くのに時間がかかることもあります。
そして、旅行などで衛生のよくない環境で過ごしたりした場合にはトコジラミ(南京虫)や寄生虫に暴露される可能性があるため旅行や環境面の質問をします。
次に診察で、皮膚を観察します。
刺された周囲の症状としては、かゆみ、痛み、赤み、圧痛(押したときの痛み)、熱感や腫れが起こることが多いです。
そして症状は悪化することは少なく、次第に良くなっていくことがほとんどです。
血液検査や顕微鏡検査などが有用である場合はほとんどなく、大抵の場合には患者さんのお話などの情報と症状などの時間経過と診察にて診断します。
ただ、まれなのですが、虫刺されの中には皮膚だけの症状にとどまらず、全身の症状にいたることがあるため、皮膚の症状が強く、腫れ、皮疹などの範囲が広い、もしくは全身に広がっていくような場合には注意が必要です。
特に、刺された場所以外にかゆみが出た、おなかが痛い、息が苦しいなどの症状が出た場合には要注意です。
重症のアレルギー症状である「アナフィラキシー」に進んでいる可能性があるからです。
その場合は、皮膚の症状だけにはとどまりません。皮膚の症状に加えて以下の症状のうち一つでも該当する場合にはアナフィラキシーを考えます。
・消化器の症状(腹痛、下痢、など)
・呼吸器症状(喉が腫れる、息が苦しくなる、ヒューヒューと音がする「喘鳴(ぜいめい)」など)
・低血圧(ふらつき、ふだんの血圧から30%以上低下、年齢の下限値を下回る場合など)
・終末臓器障害を示す症状(失神、失禁、虚脱など)
アナフィラキシーの場合、一般的な虫刺されの治療では対応は困難です。
すぐに救急車を呼んで医療機関で迅速な対応をすることが望まれます。
単純な虫刺されではないかも?
頻度は高くないのですが、虫刺されの部位から細菌が侵入して皮膚の感染症である蜂窩織炎(ほうかしきえん)になることがあります。
刺された周囲の皮膚に
・赤みがひかない/広がる
・腫れがひかない/広がる
・熱感が出てきた
・熱が出てきた
--などの症状がある場合には医療機関の受診を考えてください。
ダニにかまれたら要注意
他に注意すべきなのは、「ダニにかまれた可能性」です。
数週間程度は症状に注意し、特に発熱や皮疹が出現した際には医療機関を受診するようにしてください。
以下にダニによる特有の感染症を簡単にご紹介します。
△ツツガムシ病、日本紅斑熱
かまれた周囲が赤くなり、中心部がかさぶたになっていることがあります。
かまれた後数日から10日程度経過して、高い熱とともに赤い発疹が全身に広がっていきます。
抗菌薬による治療が可能ですが、遅れると命の危険が出ることがあります。
△ライム病
刺された周囲に特徴的な「ダーツの的」のような皮疹が出ます。
また、倦怠(けんたい)感、筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒--など、風邪・インフルエンザのような症状も出ます。
こちらも抗菌薬で治療可能ですが、進行すると神経、心臓、関節などさまざまな部位に広がるので早めの医療機関受診が必要です。
△重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
6日~2週間の潜伏期を経て、発熱や消化器症状(食欲低下、吐き気、嘔吐<おうと>、下痢、腹痛)が多くの症例で認められます。
また、頭痛、筋肉痛、意識障害や失語などの神経症状、リンパ節腫脹(しゅちょう)、皮下出血や下血などの出血症状などを起こします。
重症化や死亡の報告のある病気です。
ダニは吸血を始めてから1~2週間も皮膚にとりついたままになることもあります。
吸血中のダニを取る際には専用の器具が必要です。
自分で取ると「口器」という部分が皮膚に刺さったまま残ってしまいますから、医療機関を受診して取ってもらいましょう。
予防にはどうしたらいい?
虫刺されによる被害はどの地域でも起こりうることです。ただ予防法もありますので以下に解説いたします。
△定期的な殺虫剤散布
自宅や職場の周辺に虫の巣や発生しやすい場所(水たまりや河川など)がある場合には定期的な殺虫剤の散布が虫刺され予防に有効な可能性があります。
△衣服の種類
夏の暑いときには大変なのですが、やはり野外で活動をする際には長袖・長ズボンがおすすめです。
ほとんどの虫が衣服を通して刺したりかんだりすることが難しいからです。
また、蚊を含め多くの虫にとって、白やベージュ系統の色の薄い衣服の方が魅力が低くなると考えられています。
反対に避けるべきなのは、黒などの暗い系統の色や赤などの鮮明な色で、花柄は控えた方がいいでしょう。
また、サンダルなど露出の多い履物は避けて、足首まで保護されている靴をはくことがおすすめです。
△香水など
虫をひき付ける可能性があるので、香水やにおいの強いせっけん、ヘアスプレー、化粧水などは避けたほうがいいでしょう。
避けるべき環境としては植物が密生している場所がありますね。
また、ノミやダニを持つ動物(野良犬や野良猫などの哺乳類、鳥類)との接触は避けたほうがいいですね。
清涼飲料水などのフタが開いたままになっているとハチなどが入ってしまうことがあるので注意が必要です。
△虫よけ
使用上の注意を守って使用しましょう。
塗る際にムラがあるとその部分を刺されてしまう可能性があります。
塗るタイプのものは、塗ってから3時間程度たってしまうと効果が弱まることも多いので、再度塗るようにしましょう。
日焼け止めなどと併用する際には一番最後に虫よけを塗るようにして、効果が減らないようにしましょう。