「スーパー糖質制限食16年」の成果 [医学・医療短信]
糖尿病医師「スーパー糖質制限食16年」の成果は
江部康二 / 高雄病院理事長
「糖質制限食は短期的な効果は明確であるが、長期的なエビデンス(医学的根拠)がなく、安全性も担保されていない」という意見を見かけます。
そこで、エビデンス(科学的証拠)とは言えませんが、スーパー糖質制限食を16年間実践している私自身の体の状態と、検査データから、糖質制限食の有効性を考察します。
あくまで私個人のデータなので参考値としてお読みください。
アンチエイジング効果を実感
私は1950年生まれの68歳。
2002年6月、52歳の時に糖尿病であることが分かりました。
当時のHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー、糖化ヘモグロビン=ブドウ糖と結びついたヘモグロビンのこと)の値は6.7%。
基準値は4.6~6.2%ですから、高い値で糖尿病の基準を満たしていました。
この時、体重67kg、身長167cm。
内臓脂肪スキャン(腹部CT)は126平方cm (正常値は100平方cm未満)と、こちらも高い値でした。
血圧は普段、140~150/90mmHg(mmHgは血圧の単位を表す『ミリメートル水銀柱』のこと)前後ですが、忙しい外来の診療が終わった直後は、170~180/100~110程度に上昇していました。
この時はメタボリックシンドロームの診断基準もしっかり満たしていたことになります。
その後、スーパー糖質制限食を実践して、1カ月後にはHbA1cは基準値内に収まりました。
半年後には体重も10kg減って57kgとなり、血圧も正常化し、メタボ解消です。
現在もその時の血圧と体重を維持しています。
内臓脂肪CTは04年10月には71平方cmまで減りました。
スーパー糖質制限食を実践して私自身が強く実感しているのは、アンチエイジング効果です。
まず、自分の歯が全部残っています。聴力低下もありません。
目は裸眼で広辞苑が読めますし、夜間の頻尿もありません。
身長は縮まず、持病もなく、定期的に服用する薬はありません。
歯が全部残っている68歳は統計的には100人のうち2人ほど。
薬なしは10人に1人ほどです。
聴力、視力、身長、夜間尿のそれぞれの確率を5人に1人ぐらいとやや低めに見積もっても、すべて当てはまるのは約300万人に1人ほど。
私は、糖質制限食によるアンチエイジング効果と考えています。
18年6月の検査データから私の健康状態を解析すると
▽HbA1c(糖化ヘモグロビン):5.8%。
HbA1cの正常値は4.6~6.2%ですから、正常範囲内でやや高めです。
空腹時血糖値が正常範囲内でやや高めであることを反映しています。
糖尿病歴16年ですから仕方ありません。
▽GA(グリコアルブミン):14.3%(正常値11.6~16.0%)。
GAはブドウ糖と結びついたたんぱく質のことで、血糖の管理指標の一つで、食後高血糖をよく反映するのが特徴です。
値は正常範囲内で、上限にまで余裕があります。
これは、スーパー糖質制限食により食後高血糖がほとんどないためと思われます。
すなわち「糖化」は正常人並み、あるいはそれ以上に予防できていると考えられます。
▽空腹時インスリン:1.7mu(マイクロユニット)/ml(正常値3~15)。
インスリンは膵臓(すいぞう)から分泌されるホルモンの一種で、血糖を下げる働きがあります。基礎分泌がやや少なめですが、空腹時血糖値が基準値なので問題ありません。
少ないインスリン分泌量で血糖値が正常なので、好ましいパターンと言えます。
※マイクロユニット=濃度を表す単位
▽中性脂肪:49mg/dl(ミリグラム/デシリットル、正常値50~149)
▽総コレステロール:248mg/dl(正常値150~219)▽HDL-コレステロール(いわゆる善玉コレステロール):94mg/dl(正常値40~85)
▽LDL-コレステロール(いわゆる悪玉コレステロール):135mg/dl(正常値140未満)
総コレステロール値に心血管疾患との関連性はなく、また脂質異常症の07年以降のガイドラインからも外れているので、この値でも問題はありません。
HDL-コレステロールはやや多めで、LDL-コレステロールは基準値内です。
中性脂肪値が低く、HDL-Cが多いので、小粒子LDL-Cはほとんどない良好なパターンです。
▽尿酸:3.2mg/dl(正常値3.4~7.0)。
尿酸は新陳代謝で作られる老廃物で、体内に蓄積すると痛風などの原因になります。
私はスーパー糖質制限食実践で、高たんぱく・高脂質の食事を食べていますが、尿酸は基準値よりやや低めです。
尿酸は抗酸化物質ですが、私の体は糖質制限で酸化ストレスが極めて少ないため、尿酸も少ないと考えられます。
また、腎機能も大丈夫でした。
焼酎などよく飲む割には、肝機能の指標であるγGTPなども正常です。
一般的な血液と尿の検査はすべて問題ありませんでした。
糖質制限食が抗酸化作用を高める
▽総ケトン体:704μmol/L(マイクロモル/リットル。正常値26~122)。
糖質制限などで糖分摂取が相対的に減少すると、脂肪の分解が進んで肝臓がケトン体を作り、血液や尿の中に放出します。
私の血中総ケトン体は704μmol/Lと、一般的な値に比べればかなり高い値ですが、尿中のアセトン体(ケトン体の一種)は陰性でした。
これは、スーパー糖質制限食実践で、心筋や骨格筋などの体細胞が日常的に効率良くケトン体をエネルギー源として利用するため、尿中に排泄(はいせつ)されないのだと考えられます。
私の血中ケトン体値は、あくまで生理的範囲のもので、インスリン作用は確保されていて、血糖値も106mg/dlと正常です。
見方を変えれば、農耕文明以前、人類が糖質と縁遠かった狩猟・採集時代の700万年間は、私レベルの血中ケトン体値が当たり前で、人類の標準だったと考えられます。
江部康二 (えべ・こうじ) 京都大学医学部卒業。京都大学胸部疾患研究所などを経て、一般財団法人高雄病院理事長。内科医、漢方医。糖尿病治療の研究に取り組み、「糖質制限食」の体系を確立したパイオニア。
「毎日新聞 医療プレミア」による。
「プレミアム」と「プレミア」は意味が違います。
「premium」(プレミアム)は「賞、賞品」「割増金」「上等な、上質な」。
「premiere」(プレミア)は「初日、初演」「最初の、主要な」。
毎日新聞医療プレミアは、楽しく年齢を重ねるために役立つ健康情報を、全国の医師や研究者とタッグを組んで発信。紙面には掲載されない特別記事です。
江部康二 / 高雄病院理事長
「糖質制限食は短期的な効果は明確であるが、長期的なエビデンス(医学的根拠)がなく、安全性も担保されていない」という意見を見かけます。
そこで、エビデンス(科学的証拠)とは言えませんが、スーパー糖質制限食を16年間実践している私自身の体の状態と、検査データから、糖質制限食の有効性を考察します。
あくまで私個人のデータなので参考値としてお読みください。
アンチエイジング効果を実感
私は1950年生まれの68歳。
2002年6月、52歳の時に糖尿病であることが分かりました。
当時のHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー、糖化ヘモグロビン=ブドウ糖と結びついたヘモグロビンのこと)の値は6.7%。
基準値は4.6~6.2%ですから、高い値で糖尿病の基準を満たしていました。
この時、体重67kg、身長167cm。
内臓脂肪スキャン(腹部CT)は126平方cm (正常値は100平方cm未満)と、こちらも高い値でした。
血圧は普段、140~150/90mmHg(mmHgは血圧の単位を表す『ミリメートル水銀柱』のこと)前後ですが、忙しい外来の診療が終わった直後は、170~180/100~110程度に上昇していました。
この時はメタボリックシンドロームの診断基準もしっかり満たしていたことになります。
その後、スーパー糖質制限食を実践して、1カ月後にはHbA1cは基準値内に収まりました。
半年後には体重も10kg減って57kgとなり、血圧も正常化し、メタボ解消です。
現在もその時の血圧と体重を維持しています。
内臓脂肪CTは04年10月には71平方cmまで減りました。
スーパー糖質制限食を実践して私自身が強く実感しているのは、アンチエイジング効果です。
まず、自分の歯が全部残っています。聴力低下もありません。
目は裸眼で広辞苑が読めますし、夜間の頻尿もありません。
身長は縮まず、持病もなく、定期的に服用する薬はありません。
歯が全部残っている68歳は統計的には100人のうち2人ほど。
薬なしは10人に1人ほどです。
聴力、視力、身長、夜間尿のそれぞれの確率を5人に1人ぐらいとやや低めに見積もっても、すべて当てはまるのは約300万人に1人ほど。
私は、糖質制限食によるアンチエイジング効果と考えています。
18年6月の検査データから私の健康状態を解析すると
▽HbA1c(糖化ヘモグロビン):5.8%。
HbA1cの正常値は4.6~6.2%ですから、正常範囲内でやや高めです。
空腹時血糖値が正常範囲内でやや高めであることを反映しています。
糖尿病歴16年ですから仕方ありません。
▽GA(グリコアルブミン):14.3%(正常値11.6~16.0%)。
GAはブドウ糖と結びついたたんぱく質のことで、血糖の管理指標の一つで、食後高血糖をよく反映するのが特徴です。
値は正常範囲内で、上限にまで余裕があります。
これは、スーパー糖質制限食により食後高血糖がほとんどないためと思われます。
すなわち「糖化」は正常人並み、あるいはそれ以上に予防できていると考えられます。
▽空腹時インスリン:1.7mu(マイクロユニット)/ml(正常値3~15)。
インスリンは膵臓(すいぞう)から分泌されるホルモンの一種で、血糖を下げる働きがあります。基礎分泌がやや少なめですが、空腹時血糖値が基準値なので問題ありません。
少ないインスリン分泌量で血糖値が正常なので、好ましいパターンと言えます。
※マイクロユニット=濃度を表す単位
▽中性脂肪:49mg/dl(ミリグラム/デシリットル、正常値50~149)
▽総コレステロール:248mg/dl(正常値150~219)▽HDL-コレステロール(いわゆる善玉コレステロール):94mg/dl(正常値40~85)
▽LDL-コレステロール(いわゆる悪玉コレステロール):135mg/dl(正常値140未満)
総コレステロール値に心血管疾患との関連性はなく、また脂質異常症の07年以降のガイドラインからも外れているので、この値でも問題はありません。
HDL-コレステロールはやや多めで、LDL-コレステロールは基準値内です。
中性脂肪値が低く、HDL-Cが多いので、小粒子LDL-Cはほとんどない良好なパターンです。
▽尿酸:3.2mg/dl(正常値3.4~7.0)。
尿酸は新陳代謝で作られる老廃物で、体内に蓄積すると痛風などの原因になります。
私はスーパー糖質制限食実践で、高たんぱく・高脂質の食事を食べていますが、尿酸は基準値よりやや低めです。
尿酸は抗酸化物質ですが、私の体は糖質制限で酸化ストレスが極めて少ないため、尿酸も少ないと考えられます。
また、腎機能も大丈夫でした。
焼酎などよく飲む割には、肝機能の指標であるγGTPなども正常です。
一般的な血液と尿の検査はすべて問題ありませんでした。
糖質制限食が抗酸化作用を高める
▽総ケトン体:704μmol/L(マイクロモル/リットル。正常値26~122)。
糖質制限などで糖分摂取が相対的に減少すると、脂肪の分解が進んで肝臓がケトン体を作り、血液や尿の中に放出します。
私の血中総ケトン体は704μmol/Lと、一般的な値に比べればかなり高い値ですが、尿中のアセトン体(ケトン体の一種)は陰性でした。
これは、スーパー糖質制限食実践で、心筋や骨格筋などの体細胞が日常的に効率良くケトン体をエネルギー源として利用するため、尿中に排泄(はいせつ)されないのだと考えられます。
私の血中ケトン体値は、あくまで生理的範囲のもので、インスリン作用は確保されていて、血糖値も106mg/dlと正常です。
見方を変えれば、農耕文明以前、人類が糖質と縁遠かった狩猟・採集時代の700万年間は、私レベルの血中ケトン体値が当たり前で、人類の標準だったと考えられます。
江部康二 (えべ・こうじ) 京都大学医学部卒業。京都大学胸部疾患研究所などを経て、一般財団法人高雄病院理事長。内科医、漢方医。糖尿病治療の研究に取り組み、「糖質制限食」の体系を確立したパイオニア。
「毎日新聞 医療プレミア」による。
「プレミアム」と「プレミア」は意味が違います。
「premium」(プレミアム)は「賞、賞品」「割増金」「上等な、上質な」。
「premiere」(プレミア)は「初日、初演」「最初の、主要な」。
毎日新聞医療プレミアは、楽しく年齢を重ねるために役立つ健康情報を、全国の医師や研究者とタッグを組んで発信。紙面には掲載されない特別記事です。