結核健在 高齢での発症 [医学・医療短信]
結核健在 日本、高齢での発症多く
厚生労働省によると2016年に国内で新たに結核を発症した人は前年比655人減の1万7625人。
戦中・戦後に猛威をふるい1950年代には年に60万人近くが発症していたが、結核予防法(現在は感染症法)を定め、発症の際の届け出の徹底や、医療費の公費負担の充実を図ることで世界的にも速いペースで抑え込みに成功してきた。
ただ、直近の人口10万人あたりの新規患者数を見ると、米国(2.8人)、オランダ(5人)などに比べて、日本は13.9人と依然として多い。
欧米諸国が19世紀に発症のピークを迎えたのに対し、日本は遅れたためで、若い頃に感染した人が高齢になって発症するケースが今も多く、16年の集計でも発症者の7割以上が60歳以上だった。
同省は東京五輪が開かれる20年までに人口10万人あたりの新規患者数が10人以下の「低まん延国」となることを目標に、結核の早期診断、治療強化などに力を入れている。
結核はけっして過去の病気などではなく、いまも流行が続く主要な感染症の一つなのだ。
注目すべき点が三つある。
1 70歳以上の高齢結核患者が新登録結核患者の半数以上を占め、さらに増加傾向にあること。
2 大都市での罹患率が高いこと。
大阪市=47.4、名古屋市=31.5、堺市=28.5、東京都特別区=26.0の罹患率(人口10万人対)は、それぞれ長野県=9.1(全国最低)の5.2倍、3.5倍、3.1倍、2.9倍である。
3 毎年ざっと40件の集団感染が発生していること。
感染場所は、病院、職場、パチンコ店、学習塾、ネットカフェ、スクールバス......などさまざま。
世界に目を向けると、事態はいっそう深刻だ。
世界保健機関(WHO)は1995年、全世界の成人の死因の第1位は結核で、今後10年間に3000万人が結核で死亡すると予測した報告書を発表した。
報告書は「現在、全人類の3分の1が結核菌に感染しており、1秒間に1人の割合で感染者が増加している」と指摘している。
患者は圧倒的に発展途上国に多く、先進国には少ないが、日本は「結核中進国」だ。
日本の罹患率(18.2)は、米国(4.1)の4.4倍、カナダ(4.9)の3.7倍、スウェーデン(5.6)の3.3倍、オーストラリア(6.4)の2.8倍である。
結核予防対策が進んだことにより、若い世代では、未感染(ツベルクリン反応陰性)の免疫力をもたない人が増え、職場などで開放性結核の患者に接した場合、結核菌の直撃を受け、容易に感染・発病するケースが多い。
一方、高齢者は、若いころ(結核の流行が続いていた50年代の半ばごろ)に感染して、肺の中に潜在的に結核菌を持っていても発病していなかったが、その人たちが加齢とともに体力が弱まり、冬眠していた菌が復活し、発症するケースが多い。
若いときにかかって完治したはずの結核の再発例もあるようだ。
胃かいようや糖尿病、がんなどのために免疫力が落ちている人が、重症の結核を発病する例もある。
つまり、結核というのは「免疫ができない病気なのだ。
免疫(病原体に対する体の力)は、ウイルスのような小さなものに対しては、とても利口で強い。
だから、たとえば麻疹(はしか)のようなウイルスの感染で起こる病気は、一度かかると、もう二度とかからない。
ワクチンで免疫力をつけることもできる。
だが、結核菌のような大きい(ウイルスの何億倍もある)ものに対しては、「免疫はバカで弱い」と、免疫学者の奥村康先生は話した。
「結核菌に対するワクチンといわれているのがBCGですが、BCGの注射で結核が防げるか?
防げません。
BCGを打っても、ツベルクリン反応陽性でも、せきの飛沫感染で簡単に感染します。結核菌に対してBCGは全く無力です。BCGなんてやっているのは、サミット参加国のなかでは日本だけです」
──であるから、結核に対して安全な人は、いない。
結核は、決して「ひとごと」ではない。
結核の症状は、風邪と似ている。
初めはせきやたん、微熱が続き、そのうち寝汗、全身倦怠感、息切れなどが生じ、やせてくる。そして、たんに血がまじり、血を吐く(喀血)。
そうなる前に治療を始めると、治りも早い。2週間以上、せきやたん、微熱が続くときはぜひ病院へ──。
呼吸器内科がよい。
厚生労働省によると2016年に国内で新たに結核を発症した人は前年比655人減の1万7625人。
戦中・戦後に猛威をふるい1950年代には年に60万人近くが発症していたが、結核予防法(現在は感染症法)を定め、発症の際の届け出の徹底や、医療費の公費負担の充実を図ることで世界的にも速いペースで抑え込みに成功してきた。
ただ、直近の人口10万人あたりの新規患者数を見ると、米国(2.8人)、オランダ(5人)などに比べて、日本は13.9人と依然として多い。
欧米諸国が19世紀に発症のピークを迎えたのに対し、日本は遅れたためで、若い頃に感染した人が高齢になって発症するケースが今も多く、16年の集計でも発症者の7割以上が60歳以上だった。
同省は東京五輪が開かれる20年までに人口10万人あたりの新規患者数が10人以下の「低まん延国」となることを目標に、結核の早期診断、治療強化などに力を入れている。
結核はけっして過去の病気などではなく、いまも流行が続く主要な感染症の一つなのだ。
注目すべき点が三つある。
1 70歳以上の高齢結核患者が新登録結核患者の半数以上を占め、さらに増加傾向にあること。
2 大都市での罹患率が高いこと。
大阪市=47.4、名古屋市=31.5、堺市=28.5、東京都特別区=26.0の罹患率(人口10万人対)は、それぞれ長野県=9.1(全国最低)の5.2倍、3.5倍、3.1倍、2.9倍である。
3 毎年ざっと40件の集団感染が発生していること。
感染場所は、病院、職場、パチンコ店、学習塾、ネットカフェ、スクールバス......などさまざま。
世界に目を向けると、事態はいっそう深刻だ。
世界保健機関(WHO)は1995年、全世界の成人の死因の第1位は結核で、今後10年間に3000万人が結核で死亡すると予測した報告書を発表した。
報告書は「現在、全人類の3分の1が結核菌に感染しており、1秒間に1人の割合で感染者が増加している」と指摘している。
患者は圧倒的に発展途上国に多く、先進国には少ないが、日本は「結核中進国」だ。
日本の罹患率(18.2)は、米国(4.1)の4.4倍、カナダ(4.9)の3.7倍、スウェーデン(5.6)の3.3倍、オーストラリア(6.4)の2.8倍である。
結核予防対策が進んだことにより、若い世代では、未感染(ツベルクリン反応陰性)の免疫力をもたない人が増え、職場などで開放性結核の患者に接した場合、結核菌の直撃を受け、容易に感染・発病するケースが多い。
一方、高齢者は、若いころ(結核の流行が続いていた50年代の半ばごろ)に感染して、肺の中に潜在的に結核菌を持っていても発病していなかったが、その人たちが加齢とともに体力が弱まり、冬眠していた菌が復活し、発症するケースが多い。
若いときにかかって完治したはずの結核の再発例もあるようだ。
胃かいようや糖尿病、がんなどのために免疫力が落ちている人が、重症の結核を発病する例もある。
つまり、結核というのは「免疫ができない病気なのだ。
免疫(病原体に対する体の力)は、ウイルスのような小さなものに対しては、とても利口で強い。
だから、たとえば麻疹(はしか)のようなウイルスの感染で起こる病気は、一度かかると、もう二度とかからない。
ワクチンで免疫力をつけることもできる。
だが、結核菌のような大きい(ウイルスの何億倍もある)ものに対しては、「免疫はバカで弱い」と、免疫学者の奥村康先生は話した。
「結核菌に対するワクチンといわれているのがBCGですが、BCGの注射で結核が防げるか?
防げません。
BCGを打っても、ツベルクリン反応陽性でも、せきの飛沫感染で簡単に感染します。結核菌に対してBCGは全く無力です。BCGなんてやっているのは、サミット参加国のなかでは日本だけです」
──であるから、結核に対して安全な人は、いない。
結核は、決して「ひとごと」ではない。
結核の症状は、風邪と似ている。
初めはせきやたん、微熱が続き、そのうち寝汗、全身倦怠感、息切れなどが生じ、やせてくる。そして、たんに血がまじり、血を吐く(喀血)。
そうなる前に治療を始めると、治りも早い。2週間以上、せきやたん、微熱が続くときはぜひ病院へ──。
呼吸器内科がよい。
日本人のがんワースト5 [健康短信]
9月の「がん征圧月間」が始まったのは、1960(昭和33)年だった。
この年のがん死亡者は9万3773人、日本人の死因2位だった(1位は脳卒中=死亡数15万5966人)。
以来、年ごとにがんはふえ続け、1981(昭和56)年、脳卒中を抜いて、1位になった(死亡数16万6399人)。
2009年、がんで死亡した人は34万4105人(全死亡者の約3分の1)、日本人の2人に1人が、生涯何らかのがんになり、3人に1人はがんで死ぬ──と言われる。
死亡率の高いがんの部位ワースト5は、男性では肺、胃、大腸、肝臓、膵臓。女性では大腸、肺、胃、膵臓、乳房。
これに、胆嚢、食道、男では前立腺、女では卵巣、子宮──のがんを加えると、日本人のがん死亡の8割以上を占める。
一方、罹患数の多いがんの部位は、男性では胃、大腸、肺、前立腺、肝臓、女性では乳房、大腸、胃、肺、子宮だ。
あらゆるがんから身を守るには、大別して二つの方法がある。第一の方法は、がんの原因を除いたり、是正したりして、がんにかからないようにすること。「1次予防」という。
第二の方法は、早期発見・早期適正治療によってがんを完全に治し、がんで死ぬことを防ぐ「2次予防」だ。
男女ともに死亡率ワースト3の胃がん、肺がん、大腸がんの1次予防のポイントを簡単に記す。
胃がんの予防は、塩分を取り過ぎず、カビの生えたもの、熱過ぎるもの、焼け焦げたものをなるべく避けるようにする。
また、ある種の食品のもつ発がん性が、ほかの食品と一緒に食べると消失したり、反対に二つの食品を一緒に食べると胃の中で発がん物質ができたりすることもある。
同じ物を長期間食べ続けるなど、食事内容がワンパターンにならないようにしたほうがよい。
肺がんの予防は、いうまでもなく、まず、非喫煙。これはもう人類の常識だ。
いまだにたばこを吸っている人は、禁煙が無理ならせめて節煙を心がけるべきだろう。
それとともに酒を飲み過ぎないこともだいじな条件だ。
酒(アルコール)に発がん性があるわけではないが、発がん性物質はアルコールに溶けやすく、体の組織の中に入りやすい。
酒は、いわばがんの運び屋の役目をする。たばこを吸いながら酒を飲むのは、がんを招き寄せているようなものなのだ。
大腸がん予防の第一条件は野菜(食物繊維)をたくさん食べることだ。
この年のがん死亡者は9万3773人、日本人の死因2位だった(1位は脳卒中=死亡数15万5966人)。
以来、年ごとにがんはふえ続け、1981(昭和56)年、脳卒中を抜いて、1位になった(死亡数16万6399人)。
2009年、がんで死亡した人は34万4105人(全死亡者の約3分の1)、日本人の2人に1人が、生涯何らかのがんになり、3人に1人はがんで死ぬ──と言われる。
死亡率の高いがんの部位ワースト5は、男性では肺、胃、大腸、肝臓、膵臓。女性では大腸、肺、胃、膵臓、乳房。
これに、胆嚢、食道、男では前立腺、女では卵巣、子宮──のがんを加えると、日本人のがん死亡の8割以上を占める。
一方、罹患数の多いがんの部位は、男性では胃、大腸、肺、前立腺、肝臓、女性では乳房、大腸、胃、肺、子宮だ。
あらゆるがんから身を守るには、大別して二つの方法がある。第一の方法は、がんの原因を除いたり、是正したりして、がんにかからないようにすること。「1次予防」という。
第二の方法は、早期発見・早期適正治療によってがんを完全に治し、がんで死ぬことを防ぐ「2次予防」だ。
男女ともに死亡率ワースト3の胃がん、肺がん、大腸がんの1次予防のポイントを簡単に記す。
胃がんの予防は、塩分を取り過ぎず、カビの生えたもの、熱過ぎるもの、焼け焦げたものをなるべく避けるようにする。
また、ある種の食品のもつ発がん性が、ほかの食品と一緒に食べると消失したり、反対に二つの食品を一緒に食べると胃の中で発がん物質ができたりすることもある。
同じ物を長期間食べ続けるなど、食事内容がワンパターンにならないようにしたほうがよい。
肺がんの予防は、いうまでもなく、まず、非喫煙。これはもう人類の常識だ。
いまだにたばこを吸っている人は、禁煙が無理ならせめて節煙を心がけるべきだろう。
それとともに酒を飲み過ぎないこともだいじな条件だ。
酒(アルコール)に発がん性があるわけではないが、発がん性物質はアルコールに溶けやすく、体の組織の中に入りやすい。
酒は、いわばがんの運び屋の役目をする。たばこを吸いながら酒を飲むのは、がんを招き寄せているようなものなのだ。
大腸がん予防の第一条件は野菜(食物繊維)をたくさん食べることだ。
認知症と胆泥の関係 [医学・医療短信]
認知症患者で胆泥が生じる原因は?
米国において、認知症に罹患している施設入所高齢者の約8割が摂食嚥下障害を呈し、1年半の観察期間中に約半数の入所者が発熱を来し、死亡しているとの報告があるが、死因の詳細は不明である。
一方、臨床現場における高度認知症の患者では、胆囊に胆汁が滞留して生じる胆泥(たんでい)が高頻度に認められる。
胆泥=濃厚な胆汁の貯留(胆泥症)。肝臓で生成される消化液(胆汁)中の成分が変化し胆泥→胆砂→胆石と成長。
加齢や長期絶食による胆囊運動の低下を胆泥形成促進因子とする報告はあるが、認知症高齢者における研究はまだない。
杏林大学高齢医学(主任教授:神﨑恒一氏、研究責任者:海老原孝枝氏) の宮本孝英氏らは、こうした背景を踏まえ、進行した認知症の高齢者における胆泥形成促進因子を検討し、第60回日本老年医学会(6月14~16日)で報告した。
胆泥を有する患者はほぼ絶食状態
宮本氏らは2016年7月~17年8月に杏林大学病院高齢診療科に入院したアルツハイマー病(AD)または血管性認知症(VaD)に罹患した75歳以上の高齢者122例を対象に
①胆泥の有無および胆囊の体積の調査(腹部超音波検査)
②認知症診断〔Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(DSM)-V、Functional Assessment Staging(FAST)、画像検査など〕
③高齢者総合機能評価〔Barthel Index、障害高齢者の日常生活自立度(JABC)〕④摂食状態調査―を行った。
結果、約4分の1に胆泥の存在が確認され、男性に多く認められた(P<0.05)。
胆囊の体積は胆泥あり群で有意に大きく、抗コリン薬の使用は胆泥あり群で有意に少なかった(P<0.05)。
胆泥の有無別の摂食状態は、胆泥なし群の中央値が、栄養補助食品を用いた経口摂取可能レベルであったのに対し、胆泥あり群の中央値はほぼ絶食状態だった。
認知症の病期と経口摂取レベルとの関連においては、中等度までの認知症群では経口摂取可能例が多い一方、高度認知症群では絶食状態例が多かった。
認知症病期と摂食能には負の相関が認められた(P<0.05)。
また、胆泥の存在が認められることを目的変数としたロジスティック解析においては、絶食状態が有意な胆泥形成促進因子であった(P<0.05)。
認知症進行による経口摂取能力低下で胆汁がうっ滞
以上の結果より、経口摂取不能状態が認知症高齢者における胆泥形成の危険因子である可能性が示唆された。
これについて、宮本氏は「食物が十二指腸に入ると、コレシストキニンの作用により胆囊が収縮して胆汁が排出されるが、経口摂取不能状態では胆囊が収縮せず、胆汁がうっ滞することで胆泥が形成される」と考察。
抗コリン薬内服者では胆泥を認める割合が少なかったことについては、
「総胆管が十二指腸に開口するファーター乳頭の開閉を調整するオッディ括約筋が、抗コリン薬による迷走神経刺激の不活化で弛緩し、胆汁が十二指腸に排出されるためとみられる」と述べた。
その上で「認知症高齢者において、認知症病期の進行とともに経口摂取能力の低下が認められ、絶食状態は胆泥形成を促進すると考えられる」と結論した。(今手麻衣)
「Medical Tribune」2018年07月12日配信
米国において、認知症に罹患している施設入所高齢者の約8割が摂食嚥下障害を呈し、1年半の観察期間中に約半数の入所者が発熱を来し、死亡しているとの報告があるが、死因の詳細は不明である。
一方、臨床現場における高度認知症の患者では、胆囊に胆汁が滞留して生じる胆泥(たんでい)が高頻度に認められる。
胆泥=濃厚な胆汁の貯留(胆泥症)。肝臓で生成される消化液(胆汁)中の成分が変化し胆泥→胆砂→胆石と成長。
加齢や長期絶食による胆囊運動の低下を胆泥形成促進因子とする報告はあるが、認知症高齢者における研究はまだない。
杏林大学高齢医学(主任教授:神﨑恒一氏、研究責任者:海老原孝枝氏) の宮本孝英氏らは、こうした背景を踏まえ、進行した認知症の高齢者における胆泥形成促進因子を検討し、第60回日本老年医学会(6月14~16日)で報告した。
胆泥を有する患者はほぼ絶食状態
宮本氏らは2016年7月~17年8月に杏林大学病院高齢診療科に入院したアルツハイマー病(AD)または血管性認知症(VaD)に罹患した75歳以上の高齢者122例を対象に
①胆泥の有無および胆囊の体積の調査(腹部超音波検査)
②認知症診断〔Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(DSM)-V、Functional Assessment Staging(FAST)、画像検査など〕
③高齢者総合機能評価〔Barthel Index、障害高齢者の日常生活自立度(JABC)〕④摂食状態調査―を行った。
結果、約4分の1に胆泥の存在が確認され、男性に多く認められた(P<0.05)。
胆囊の体積は胆泥あり群で有意に大きく、抗コリン薬の使用は胆泥あり群で有意に少なかった(P<0.05)。
胆泥の有無別の摂食状態は、胆泥なし群の中央値が、栄養補助食品を用いた経口摂取可能レベルであったのに対し、胆泥あり群の中央値はほぼ絶食状態だった。
認知症の病期と経口摂取レベルとの関連においては、中等度までの認知症群では経口摂取可能例が多い一方、高度認知症群では絶食状態例が多かった。
認知症病期と摂食能には負の相関が認められた(P<0.05)。
また、胆泥の存在が認められることを目的変数としたロジスティック解析においては、絶食状態が有意な胆泥形成促進因子であった(P<0.05)。
認知症進行による経口摂取能力低下で胆汁がうっ滞
以上の結果より、経口摂取不能状態が認知症高齢者における胆泥形成の危険因子である可能性が示唆された。
これについて、宮本氏は「食物が十二指腸に入ると、コレシストキニンの作用により胆囊が収縮して胆汁が排出されるが、経口摂取不能状態では胆囊が収縮せず、胆汁がうっ滞することで胆泥が形成される」と考察。
抗コリン薬内服者では胆泥を認める割合が少なかったことについては、
「総胆管が十二指腸に開口するファーター乳頭の開閉を調整するオッディ括約筋が、抗コリン薬による迷走神経刺激の不活化で弛緩し、胆汁が十二指腸に排出されるためとみられる」と述べた。
その上で「認知症高齢者において、認知症病期の進行とともに経口摂取能力の低下が認められ、絶食状態は胆泥形成を促進すると考えられる」と結論した。(今手麻衣)
「Medical Tribune」2018年07月12日配信
子どもの食中毒、外食か、自宅か、 [医学・医療短信]
子どもの食中毒、外食が自宅の2倍
米全国調査
食中毒は食物中の細菌またはウイルスによって引き起こされるが、細菌やウイルスはしばしば人を介して食品に移り、それらに適した温度の環境で増殖する。
米国では年間7,500万人超に影響を及ぼしている。
米・ミシガン大学C.モット子供病院が行った「小児の健康に関する全国調査」によると、子を持つ親の約10人に1人が、腐敗または汚染された食品により子供が食中毒を起こした経験があると回答。
食中毒を起こした場所はレストランが自宅の2倍以上と多かったが、親は外食より自宅での安全対策に尽力していることが分かった。
親の10人に1人が子供の食中毒を報告
同調査は昨年(2017年)、ランダムに抽出された18歳以上の親を対象に行われた。
調査の結果、11%が腐敗または汚染された食品により子供が食中毒を経験したと回答しており、18%は子供の体調不良が食中毒によるものかは不明と回答していた。
子供が食中毒を経験した親のうち、原因はレストランでの外食によると考えている親が68%と最も多く、自宅(31%)、学校(21%)、友人の家(14%)、持ち寄り料理(11%)などが原因と考える親は少なかった。
しかし、この結果と子供を食中毒から守るための親の行動は一致していなかった。
食中毒の最も一般的な原因と考えられるレストランにおいて、食事の前に保健衛生調査の結果を確認した親は25%のみであった。
一方、ほぼ同数の親(27%)は子供と持ち寄りディナーに参加する際に、卵やマヨネーズを含む料理を避けると答えていた。
親は自宅での食品安全に対してさらに尽力していた。
多くの親(87%)が食事の支度前に手を洗うと答えており、果物や野菜を洗うのは80%、冷凍食品の賞味(消費)期限を確認しているのは84%であった。
また、冷凍食品が賞味期限を2日以上過ぎていた場合、57%がにおいや味で食べられるかどうか確認し、43%はそのまま捨てるとしていた。
外食時には保健衛生調査の確認を
今回の調査では、食中毒の原因は自宅と比べて外食が2倍超と多いにもかかわらず、親は自宅での食物の安全性には注意を払っても、外食については慎重でないことが分かった。
同調査の共同ディレクターで同大学教授のGary L. Freed氏は「小児の食中毒はほとんどの場合、迅速に回復するが、一部のケースでは衰弱する。
食中毒から小児を完全に守るのは不可能だが、腐敗または汚染された食物を摂取するリスクを減らすための対策はある」と述べている。
食中毒の原因となる汚染は、食品の収穫から梱包、流通、調理などさまざまな段階で起こりうる。
まな板を常に清潔に洗っておき、適切な温度で食品を保存し調理することが重要になる。
同氏は「調理前に手を洗わないために感染する代表的な微生物は、A型肝炎ウイルス(HAV)である。
しかし、1歳でHAVの予防接種が推奨されており、接種を受けていればほとんどのケースを防ぐことができる」と述べている。
食中毒の症状は、汚染された食品の摂取後1時間〜3日で現れる。
同氏は「食中毒の初期対策は、脱水症状を防ぐために多量の水を飲むこと。
通常は軽症で済むが、米国では毎年複数の入院例、死亡例がある。
原因食品の摂取後すぐに食中毒の症状を呈する場合もあり、特に免疫系が完全に発達していない幼児では、重大な合併症のリスクを高める可能性がある」と指摘。
「レストランでの保健衛生調査の確認や食品の調理・保管時の安全対策など、シンプルな予防策が家族の安全を守る」と述べている。
「MedicalTribune 」による
米全国調査
食中毒は食物中の細菌またはウイルスによって引き起こされるが、細菌やウイルスはしばしば人を介して食品に移り、それらに適した温度の環境で増殖する。
米国では年間7,500万人超に影響を及ぼしている。
米・ミシガン大学C.モット子供病院が行った「小児の健康に関する全国調査」によると、子を持つ親の約10人に1人が、腐敗または汚染された食品により子供が食中毒を起こした経験があると回答。
食中毒を起こした場所はレストランが自宅の2倍以上と多かったが、親は外食より自宅での安全対策に尽力していることが分かった。
親の10人に1人が子供の食中毒を報告
同調査は昨年(2017年)、ランダムに抽出された18歳以上の親を対象に行われた。
調査の結果、11%が腐敗または汚染された食品により子供が食中毒を経験したと回答しており、18%は子供の体調不良が食中毒によるものかは不明と回答していた。
子供が食中毒を経験した親のうち、原因はレストランでの外食によると考えている親が68%と最も多く、自宅(31%)、学校(21%)、友人の家(14%)、持ち寄り料理(11%)などが原因と考える親は少なかった。
しかし、この結果と子供を食中毒から守るための親の行動は一致していなかった。
食中毒の最も一般的な原因と考えられるレストランにおいて、食事の前に保健衛生調査の結果を確認した親は25%のみであった。
一方、ほぼ同数の親(27%)は子供と持ち寄りディナーに参加する際に、卵やマヨネーズを含む料理を避けると答えていた。
親は自宅での食品安全に対してさらに尽力していた。
多くの親(87%)が食事の支度前に手を洗うと答えており、果物や野菜を洗うのは80%、冷凍食品の賞味(消費)期限を確認しているのは84%であった。
また、冷凍食品が賞味期限を2日以上過ぎていた場合、57%がにおいや味で食べられるかどうか確認し、43%はそのまま捨てるとしていた。
外食時には保健衛生調査の確認を
今回の調査では、食中毒の原因は自宅と比べて外食が2倍超と多いにもかかわらず、親は自宅での食物の安全性には注意を払っても、外食については慎重でないことが分かった。
同調査の共同ディレクターで同大学教授のGary L. Freed氏は「小児の食中毒はほとんどの場合、迅速に回復するが、一部のケースでは衰弱する。
食中毒から小児を完全に守るのは不可能だが、腐敗または汚染された食物を摂取するリスクを減らすための対策はある」と述べている。
食中毒の原因となる汚染は、食品の収穫から梱包、流通、調理などさまざまな段階で起こりうる。
まな板を常に清潔に洗っておき、適切な温度で食品を保存し調理することが重要になる。
同氏は「調理前に手を洗わないために感染する代表的な微生物は、A型肝炎ウイルス(HAV)である。
しかし、1歳でHAVの予防接種が推奨されており、接種を受けていればほとんどのケースを防ぐことができる」と述べている。
食中毒の症状は、汚染された食品の摂取後1時間〜3日で現れる。
同氏は「食中毒の初期対策は、脱水症状を防ぐために多量の水を飲むこと。
通常は軽症で済むが、米国では毎年複数の入院例、死亡例がある。
原因食品の摂取後すぐに食中毒の症状を呈する場合もあり、特に免疫系が完全に発達していない幼児では、重大な合併症のリスクを高める可能性がある」と指摘。
「レストランでの保健衛生調査の確認や食品の調理・保管時の安全対策など、シンプルな予防策が家族の安全を守る」と述べている。
「MedicalTribune 」による
ダニアレルギーにも有効 [医学・医療短信]
ダニアレルギーにも舌下免疫療法が有効です
監修:はくらく耳鼻咽喉科・アレルギー科クリニック院長 生井明浩
スギ花粉症の治療法のひとつ、舌下免疫療法。
この治療法がダニアレルギーにも効果があることがわかっています。
1年を通じて、悩まされるダニアレルギー。
いったいどのような治療法なのでしょうか。
アレルギー疾患の代表的なものは、スギ花粉症です。
これは季節性のもので、スギのシーズンが終われば症状はおさまります。
一方、ダニ(ハウスダスト)アレルギーは、1年を通じて症状が現れ、QOL(生活の質)が低下してしまうケースも多くみられます。
ダニアレルギーは、ハウスダストに含まれる、ダニのフンや死骸によって引き起こされます。
主な症状は、くしゃみ、鼻水・鼻づまり、せき、目や皮膚のかゆみなどです。
ダニは、ヒトのアカやフケ、食べ物のカス、カビなどをエサとして繁殖します。
そのため、こまめに掃除をする、空気清浄機を利用する、防ダニ加工をした寝具を使うなど、室内を常に清潔にすることが大切です。
しかし、いくら清潔を保っていても、症状を抑えることは難しいものです。
そこで、治療法として注目されているのが「舌下免疫療法(アレルゲン免疫療法)」です。
スギ花粉症では2014年に保険適用になっていますが、ダニが原因のアレルギーにも2015年より適用となりました。
舌下免疫療法とは、アレルギーを起こす物質(アレルゲン)を少量体内に入れて、その量をゆっくり増やしていき、アレルギーを起こさない体質に変えていく治療法です。
ダニアレルギーでは、ダニのエキスが入った錠剤を使用します。
治療薬(錠剤)を1日1回、舌下に置き、しばらくしてから飲み込みます。
最初は1~2週間ごとの通院が必要ですが、副作用の有無を確認したうえで、1カ月に1度ですむようになります。
個人差はありますが、2~3カ月で効果がみられ、治療は3~5年と長期にわたります。
眠気など抗アレルギー薬にあるような副作用はありませんが、アレルギー反応を起こすリスクがあります。
口の中の腫れやかゆみ、のどの違和感などがみられることがありますが、多くは短期間で治まります。
まれに呼吸困難やアナフィラキシーショックという強いアレルギー反応が起こる危険性もあり、とくに治療開始から1カ月のあいだは副作用が出やすいとされています。
そのため、処方には十分な注意を払う必要があります。
現在、舌下免疫療法を行えるのは、日本アレルギー学会の講習を受け、資格を得た医師のみです。
また、現時点では12歳未満の子どもは使用できないのが現状です。
重症のぜんそく、心疾患、肺高血圧症、アトピー性皮膚炎、自己免疫疾患、妊婦・授乳婦の方、三環系抗うつ薬など服用している方などは、この治療法は受けられません。
舌下免疫療法薬は2種類あります。
いずれも保険適用の3割負担で、1カ月の薬代は約2000円。
治療開始から数か月は効果を感じにくい場合もあります。
その際は、アレルギー症状を抑える薬を併用してもかまいません。
なお、安全性を考慮し、ダニとスギ花粉、両方の舌下免疫療法を同時に行うことは認められていません。
日常生活への影響を考えて、どちらを優先するか決めましょう。
効果がみられれば、根治することが期待できます。
ただし、年単位で続ける必要があるうえ、中断してしまうとそれまでの治療がむだになります。
また、この治療をしても残念ながら効果が現れない方もいらっしゃいます。これらのことをよく理解し、医師と十分に相談して治療にのぞみましょう。
「ケータイ家庭の医学」2018年4月掲載より (C)保健同人社
「毎日新聞デジタル版 医療プレミア・2018年7月11日」による
監修:はくらく耳鼻咽喉科・アレルギー科クリニック院長 生井明浩
スギ花粉症の治療法のひとつ、舌下免疫療法。
この治療法がダニアレルギーにも効果があることがわかっています。
1年を通じて、悩まされるダニアレルギー。
いったいどのような治療法なのでしょうか。
アレルギー疾患の代表的なものは、スギ花粉症です。
これは季節性のもので、スギのシーズンが終われば症状はおさまります。
一方、ダニ(ハウスダスト)アレルギーは、1年を通じて症状が現れ、QOL(生活の質)が低下してしまうケースも多くみられます。
ダニアレルギーは、ハウスダストに含まれる、ダニのフンや死骸によって引き起こされます。
主な症状は、くしゃみ、鼻水・鼻づまり、せき、目や皮膚のかゆみなどです。
ダニは、ヒトのアカやフケ、食べ物のカス、カビなどをエサとして繁殖します。
そのため、こまめに掃除をする、空気清浄機を利用する、防ダニ加工をした寝具を使うなど、室内を常に清潔にすることが大切です。
しかし、いくら清潔を保っていても、症状を抑えることは難しいものです。
そこで、治療法として注目されているのが「舌下免疫療法(アレルゲン免疫療法)」です。
スギ花粉症では2014年に保険適用になっていますが、ダニが原因のアレルギーにも2015年より適用となりました。
舌下免疫療法とは、アレルギーを起こす物質(アレルゲン)を少量体内に入れて、その量をゆっくり増やしていき、アレルギーを起こさない体質に変えていく治療法です。
ダニアレルギーでは、ダニのエキスが入った錠剤を使用します。
治療薬(錠剤)を1日1回、舌下に置き、しばらくしてから飲み込みます。
最初は1~2週間ごとの通院が必要ですが、副作用の有無を確認したうえで、1カ月に1度ですむようになります。
個人差はありますが、2~3カ月で効果がみられ、治療は3~5年と長期にわたります。
眠気など抗アレルギー薬にあるような副作用はありませんが、アレルギー反応を起こすリスクがあります。
口の中の腫れやかゆみ、のどの違和感などがみられることがありますが、多くは短期間で治まります。
まれに呼吸困難やアナフィラキシーショックという強いアレルギー反応が起こる危険性もあり、とくに治療開始から1カ月のあいだは副作用が出やすいとされています。
そのため、処方には十分な注意を払う必要があります。
現在、舌下免疫療法を行えるのは、日本アレルギー学会の講習を受け、資格を得た医師のみです。
また、現時点では12歳未満の子どもは使用できないのが現状です。
重症のぜんそく、心疾患、肺高血圧症、アトピー性皮膚炎、自己免疫疾患、妊婦・授乳婦の方、三環系抗うつ薬など服用している方などは、この治療法は受けられません。
舌下免疫療法薬は2種類あります。
いずれも保険適用の3割負担で、1カ月の薬代は約2000円。
治療開始から数か月は効果を感じにくい場合もあります。
その際は、アレルギー症状を抑える薬を併用してもかまいません。
なお、安全性を考慮し、ダニとスギ花粉、両方の舌下免疫療法を同時に行うことは認められていません。
日常生活への影響を考えて、どちらを優先するか決めましょう。
効果がみられれば、根治することが期待できます。
ただし、年単位で続ける必要があるうえ、中断してしまうとそれまでの治療がむだになります。
また、この治療をしても残念ながら効果が現れない方もいらっしゃいます。これらのことをよく理解し、医師と十分に相談して治療にのぞみましょう。
「ケータイ家庭の医学」2018年4月掲載より (C)保健同人社
「毎日新聞デジタル版 医療プレミア・2018年7月11日」による
ビタミンDと大腸がん [健康短信]
ビタミンDが十分だと大腸がんリスク低下
骨の健康維持に欠かせない栄養素であるビタミンDは、食事から摂取できるだけでなく、紫外線を浴びると体内で生成される。
新たな研究で、ビタミンDの血中濃度が高いほど、大腸がんになるリスクは低減する可能性のあることが示された。
研究によると、これらの関連は特に女性で強かったという。詳細は「Journal of the National Cancer Institute」6月14日オンライン版に掲載された。
米国では、大腸がんはがんによる死亡原因の第3位を占めており、2018年には14万250人が新たに大腸がんと診断され、5万630人が大腸がんにより死亡すると推計されている。
また、生涯で大腸がんに罹患(りかん)する確率は、女性では24人に1人、男性では22人に1人といわれている。
米国がん協会(ACS)疫学研究部門長のMarjorie McCullough氏らは今回、17件のコホート研究に参加した計5706人のがん患者と、計7107人の健康な対照群のデータを用いて、血中25(OH)D濃度と大腸がん罹患との関連を調べた。
対象者の約3分の1では、血液サンプルを再分析して新たに血中25(OH)D濃度を測定した。
解析の結果、血中25(OH)D濃度が正常範囲だが低い(50~62.5nmol/L)場合に比べて、ビタミンDが不足または欠乏(血中25(OH)D濃度が30nmol/L未満)していると、大腸がんになるリスクが31%高いことが分かった。
一方で、血中25(OH)D濃度が十分であると(75~87.5nmol/Lおよび87.5~100nmol/L)、大腸がんになるリスクはそれぞれ19%、27%低下した。
また、血中25(OH)D濃度が25nmol/L上昇するごとに、大腸がんになるリスクは女性では19%、男性では7%低下することも明らかになった。
ただし、血中25(OH)D濃度が100nmol/L以上になると、この効果は頭打ちになった。
しかし、大腸がんを予防するために、わざわざ日焼けをする必要はないようだ。
McCullough氏によれば、大腸がんリスクが上昇するほどビタミンDが欠乏している米国人はわずかに過ぎないという。
ほとんどの人は普段の生活でビタミンDを十分に取れており、過剰摂取は逆に身体に悪影響を及ぼすため、サプリメントの摂取は勧められないとしている。
また、紫外線は皮膚がんの強いリスク因子になるため、「ビタミンDの血中濃度を上げるために日焼けすることは勧められない」と同氏は強調している。
ビタミンDは骨の健康に重要なことが知られているが、がんやそれ以外の疾患に対する有効性は十分に検討されていない。
2011年の米国医学研究所(IOM、現・米国医学アカデミー;NAM)による食事摂取基準に関する報告書でも、ビタミンDによるがん予防効果については十分なエビデンス(科学的根拠)はないことが記されている。
なお、ビタミンDががん予防に働く機序は明らかにされていないが、基礎研究で、ビタミンDには細胞の増殖を抑えたり、細胞死を促進する作用があることが示されている。
McCullough氏は「ビタミンDはこうした作用により異常ながん細胞の増殖を抑えるように働くのではないか」と話している。
(HealthDay News 2018年6月15日)Copyright 2018
「毎日新聞デジタル版 医療プレミア」2018年7月10日
骨の健康維持に欠かせない栄養素であるビタミンDは、食事から摂取できるだけでなく、紫外線を浴びると体内で生成される。
新たな研究で、ビタミンDの血中濃度が高いほど、大腸がんになるリスクは低減する可能性のあることが示された。
研究によると、これらの関連は特に女性で強かったという。詳細は「Journal of the National Cancer Institute」6月14日オンライン版に掲載された。
米国では、大腸がんはがんによる死亡原因の第3位を占めており、2018年には14万250人が新たに大腸がんと診断され、5万630人が大腸がんにより死亡すると推計されている。
また、生涯で大腸がんに罹患(りかん)する確率は、女性では24人に1人、男性では22人に1人といわれている。
米国がん協会(ACS)疫学研究部門長のMarjorie McCullough氏らは今回、17件のコホート研究に参加した計5706人のがん患者と、計7107人の健康な対照群のデータを用いて、血中25(OH)D濃度と大腸がん罹患との関連を調べた。
対象者の約3分の1では、血液サンプルを再分析して新たに血中25(OH)D濃度を測定した。
解析の結果、血中25(OH)D濃度が正常範囲だが低い(50~62.5nmol/L)場合に比べて、ビタミンDが不足または欠乏(血中25(OH)D濃度が30nmol/L未満)していると、大腸がんになるリスクが31%高いことが分かった。
一方で、血中25(OH)D濃度が十分であると(75~87.5nmol/Lおよび87.5~100nmol/L)、大腸がんになるリスクはそれぞれ19%、27%低下した。
また、血中25(OH)D濃度が25nmol/L上昇するごとに、大腸がんになるリスクは女性では19%、男性では7%低下することも明らかになった。
ただし、血中25(OH)D濃度が100nmol/L以上になると、この効果は頭打ちになった。
しかし、大腸がんを予防するために、わざわざ日焼けをする必要はないようだ。
McCullough氏によれば、大腸がんリスクが上昇するほどビタミンDが欠乏している米国人はわずかに過ぎないという。
ほとんどの人は普段の生活でビタミンDを十分に取れており、過剰摂取は逆に身体に悪影響を及ぼすため、サプリメントの摂取は勧められないとしている。
また、紫外線は皮膚がんの強いリスク因子になるため、「ビタミンDの血中濃度を上げるために日焼けすることは勧められない」と同氏は強調している。
ビタミンDは骨の健康に重要なことが知られているが、がんやそれ以外の疾患に対する有効性は十分に検討されていない。
2011年の米国医学研究所(IOM、現・米国医学アカデミー;NAM)による食事摂取基準に関する報告書でも、ビタミンDによるがん予防効果については十分なエビデンス(科学的根拠)はないことが記されている。
なお、ビタミンDががん予防に働く機序は明らかにされていないが、基礎研究で、ビタミンDには細胞の増殖を抑えたり、細胞死を促進する作用があることが示されている。
McCullough氏は「ビタミンDはこうした作用により異常ながん細胞の増殖を抑えるように働くのではないか」と話している。
(HealthDay News 2018年6月15日)Copyright 2018
「毎日新聞デジタル版 医療プレミア」2018年7月10日
食中毒になりやすい人 [医学・医療短信]
食中毒になりやすい人の6つの要因
食中毒の最盛期が始まった。
「食中毒になりやすい人」と「食中毒になりにくい人」には、どのような違うがあるのでしょう?
食中毒にならない「ハゲタカ」
ハゲタカ(コンドル)は死肉をあさる際、炭疽(たんそ)菌やクロストリジウム菌などの病原菌や毒素に身をさらすことになっても、病気になったり死んだりしないことが知られています。
デンマークと米国の科学者チームが発表した論文によると、その理由は「数百万年に及ぶ進化で磨き抜かれたハゲタカの消化管がのみ込んだ有害な細菌の大半を殺し、残った細菌と問題なく共存することができる」ということにあるようです。
デンマーク・コペンハーゲン大学のマイケル・ロゲンバック氏は、「ハゲタカが摂取する有毒細菌への対処について、体内で進化による強力な適応が起きたことを、われわれの研究結果は示している」と語っています。
私たちの生態内でもハゲタカほどではありませんが、感染防御の仕組みが備わっており、その違いにより同じものを食べても「食中毒になりやすい人」と「食中毒になりにくい人」がいることがわかっています。
ある調査では、同じ給食を食べ、検便でO-157が検出された児童の症状を調べたところ、入院が必要になった児童は全体の12%、下痢のみの軽い症状だった児童は全体の58%、何の症状も出なかった児童が30%いたという報告もあります。
「食中毒になりやすい人」と「食中毒になりにくい人」の違いとは、どのような点にあるのでしょう?
食中毒になりやすい人の6つの要因
食中毒になるには個人差があります。
要因は以下のように大きく6つに分けることができます。
1.腸内に善玉菌が少ない
2.ストレスが多い
3.胃酸が少ない
4.年齢や体調
5.食べる際の鮮度や量
6.血液型
どのような点が関係しているのか具体的に考えてみましょう。
食中毒になりやすい人の特徴とは
●1.腸内に善玉菌が少ない
悪玉の菌、例えばO-157のような悪玉の大腸菌は、善玉菌である乳酸菌やビフィズス菌が健全に活動していれば腸内で増殖しにくくなることということが実証されています。
腸内環境が整い善玉菌が優位な人は、腸管感染症が発症しにくいと考えられます。
善玉菌を優位にするには、動物性脂肪を控えて、食物繊維を多くとり、定期的に乳酸菌やビフィズス菌を含んだヨーグルトなどを取り入れるといいでしょう。
●2.ストレスが多い
ストレスがあると自律神経のバランスが崩れて、免疫力が下がるということが研究により証明されています。
また、ストレスは、腸内細菌のバランスを崩し悪玉菌を優勢にするということもわかっています。ストレス過剰な状態は、病気にかかるリスクが高い状態ともいえます。
●3.胃酸が少ない
胃酸は多すぎると胃潰瘍や逆流性食道炎の原因となることもありますが、逆に少なすぎると胃の中に入ってきた菌を殺す力が弱まるという欠点があります。
胃酸を抑える薬を飲んでいたりして極端に胃酸の量が少ない人は、腸管感染症をきたしやすい要因のひとつといわれています。
●4.年齢や体調
若年者や高齢者は免疫力が低下していることが多く、感染症にかかりやすく、さらに重症化しやすいとされています。
健康な人でも、過労や睡眠不足など体調不良があると免疫力が低下しているので要注意です。
●5.食べる際の鮮度や量
鮮度が悪い場合は菌が繁殖しやすい状況にあります。増殖速度の速い腸炎ビブリオは、栄養条件がいいと10分に1回分裂して2倍に増えます。
1時間で約32倍、3時間経つと約1万倍まで増殖します。食中毒菌の多くは75℃1分以上の加熱で死滅します。感染予防のためには十分に加熱しましょう。
また、体の中に入る菌の量でも食中毒を発症するかどうかが異なります。
通常は、食中毒菌を1~2個摂取しただけでは発症しません。
発症するにはある程度の菌量が必要ですが、少ない菌量で食中毒を発症するものと、多くの菌を摂取しないと発症しないものがあります。
腸管出血性大腸菌やノロウイルスは、少ない菌の量でも食中毒を発症する感染力が強いものです。
菌を多く取り入れると、それだけ食中毒を発症するリスクが高くなります。
●6.血液型
ノロウイルスには複数の種類が存在しますが、ノーウォーク類似型に関してはB型の血液型の人には感染しないことがわかっています。
理由は、ノロウイルスが結合するためのレセプターをB型の人は持っていないためのようです。
ただし、ノーウォーク類似型以外のノロウイルスには感染するので、まったくあたらないわけではありません。
以上のように、食中毒を発症するには様々な要因があります。
予防するには、体調が悪いときは生食は避け、もしも食べる場合には十分に加熱するよう心がけましょう。
食中毒の最盛期が始まった。
「食中毒になりやすい人」と「食中毒になりにくい人」には、どのような違うがあるのでしょう?
食中毒にならない「ハゲタカ」
ハゲタカ(コンドル)は死肉をあさる際、炭疽(たんそ)菌やクロストリジウム菌などの病原菌や毒素に身をさらすことになっても、病気になったり死んだりしないことが知られています。
デンマークと米国の科学者チームが発表した論文によると、その理由は「数百万年に及ぶ進化で磨き抜かれたハゲタカの消化管がのみ込んだ有害な細菌の大半を殺し、残った細菌と問題なく共存することができる」ということにあるようです。
デンマーク・コペンハーゲン大学のマイケル・ロゲンバック氏は、「ハゲタカが摂取する有毒細菌への対処について、体内で進化による強力な適応が起きたことを、われわれの研究結果は示している」と語っています。
私たちの生態内でもハゲタカほどではありませんが、感染防御の仕組みが備わっており、その違いにより同じものを食べても「食中毒になりやすい人」と「食中毒になりにくい人」がいることがわかっています。
ある調査では、同じ給食を食べ、検便でO-157が検出された児童の症状を調べたところ、入院が必要になった児童は全体の12%、下痢のみの軽い症状だった児童は全体の58%、何の症状も出なかった児童が30%いたという報告もあります。
「食中毒になりやすい人」と「食中毒になりにくい人」の違いとは、どのような点にあるのでしょう?
食中毒になりやすい人の6つの要因
食中毒になるには個人差があります。
要因は以下のように大きく6つに分けることができます。
1.腸内に善玉菌が少ない
2.ストレスが多い
3.胃酸が少ない
4.年齢や体調
5.食べる際の鮮度や量
6.血液型
どのような点が関係しているのか具体的に考えてみましょう。
食中毒になりやすい人の特徴とは
●1.腸内に善玉菌が少ない
悪玉の菌、例えばO-157のような悪玉の大腸菌は、善玉菌である乳酸菌やビフィズス菌が健全に活動していれば腸内で増殖しにくくなることということが実証されています。
腸内環境が整い善玉菌が優位な人は、腸管感染症が発症しにくいと考えられます。
善玉菌を優位にするには、動物性脂肪を控えて、食物繊維を多くとり、定期的に乳酸菌やビフィズス菌を含んだヨーグルトなどを取り入れるといいでしょう。
●2.ストレスが多い
ストレスがあると自律神経のバランスが崩れて、免疫力が下がるということが研究により証明されています。
また、ストレスは、腸内細菌のバランスを崩し悪玉菌を優勢にするということもわかっています。ストレス過剰な状態は、病気にかかるリスクが高い状態ともいえます。
●3.胃酸が少ない
胃酸は多すぎると胃潰瘍や逆流性食道炎の原因となることもありますが、逆に少なすぎると胃の中に入ってきた菌を殺す力が弱まるという欠点があります。
胃酸を抑える薬を飲んでいたりして極端に胃酸の量が少ない人は、腸管感染症をきたしやすい要因のひとつといわれています。
●4.年齢や体調
若年者や高齢者は免疫力が低下していることが多く、感染症にかかりやすく、さらに重症化しやすいとされています。
健康な人でも、過労や睡眠不足など体調不良があると免疫力が低下しているので要注意です。
●5.食べる際の鮮度や量
鮮度が悪い場合は菌が繁殖しやすい状況にあります。増殖速度の速い腸炎ビブリオは、栄養条件がいいと10分に1回分裂して2倍に増えます。
1時間で約32倍、3時間経つと約1万倍まで増殖します。食中毒菌の多くは75℃1分以上の加熱で死滅します。感染予防のためには十分に加熱しましょう。
また、体の中に入る菌の量でも食中毒を発症するかどうかが異なります。
通常は、食中毒菌を1~2個摂取しただけでは発症しません。
発症するにはある程度の菌量が必要ですが、少ない菌量で食中毒を発症するものと、多くの菌を摂取しないと発症しないものがあります。
腸管出血性大腸菌やノロウイルスは、少ない菌の量でも食中毒を発症する感染力が強いものです。
菌を多く取り入れると、それだけ食中毒を発症するリスクが高くなります。
●6.血液型
ノロウイルスには複数の種類が存在しますが、ノーウォーク類似型に関してはB型の血液型の人には感染しないことがわかっています。
理由は、ノロウイルスが結合するためのレセプターをB型の人は持っていないためのようです。
ただし、ノーウォーク類似型以外のノロウイルスには感染するので、まったくあたらないわけではありません。
以上のように、食中毒を発症するには様々な要因があります。
予防するには、体調が悪いときは生食は避け、もしも食べる場合には十分に加熱するよう心がけましょう。
「スーパー糖質制限食16年」の成果 [医学・医療短信]
糖尿病医師「スーパー糖質制限食16年」の成果は
江部康二 / 高雄病院理事長
「糖質制限食は短期的な効果は明確であるが、長期的なエビデンス(医学的根拠)がなく、安全性も担保されていない」という意見を見かけます。
そこで、エビデンス(科学的証拠)とは言えませんが、スーパー糖質制限食を16年間実践している私自身の体の状態と、検査データから、糖質制限食の有効性を考察します。
あくまで私個人のデータなので参考値としてお読みください。
アンチエイジング効果を実感
私は1950年生まれの68歳。
2002年6月、52歳の時に糖尿病であることが分かりました。
当時のHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー、糖化ヘモグロビン=ブドウ糖と結びついたヘモグロビンのこと)の値は6.7%。
基準値は4.6~6.2%ですから、高い値で糖尿病の基準を満たしていました。
この時、体重67kg、身長167cm。
内臓脂肪スキャン(腹部CT)は126平方cm (正常値は100平方cm未満)と、こちらも高い値でした。
血圧は普段、140~150/90mmHg(mmHgは血圧の単位を表す『ミリメートル水銀柱』のこと)前後ですが、忙しい外来の診療が終わった直後は、170~180/100~110程度に上昇していました。
この時はメタボリックシンドロームの診断基準もしっかり満たしていたことになります。
その後、スーパー糖質制限食を実践して、1カ月後にはHbA1cは基準値内に収まりました。
半年後には体重も10kg減って57kgとなり、血圧も正常化し、メタボ解消です。
現在もその時の血圧と体重を維持しています。
内臓脂肪CTは04年10月には71平方cmまで減りました。
スーパー糖質制限食を実践して私自身が強く実感しているのは、アンチエイジング効果です。
まず、自分の歯が全部残っています。聴力低下もありません。
目は裸眼で広辞苑が読めますし、夜間の頻尿もありません。
身長は縮まず、持病もなく、定期的に服用する薬はありません。
歯が全部残っている68歳は統計的には100人のうち2人ほど。
薬なしは10人に1人ほどです。
聴力、視力、身長、夜間尿のそれぞれの確率を5人に1人ぐらいとやや低めに見積もっても、すべて当てはまるのは約300万人に1人ほど。
私は、糖質制限食によるアンチエイジング効果と考えています。
18年6月の検査データから私の健康状態を解析すると
▽HbA1c(糖化ヘモグロビン):5.8%。
HbA1cの正常値は4.6~6.2%ですから、正常範囲内でやや高めです。
空腹時血糖値が正常範囲内でやや高めであることを反映しています。
糖尿病歴16年ですから仕方ありません。
▽GA(グリコアルブミン):14.3%(正常値11.6~16.0%)。
GAはブドウ糖と結びついたたんぱく質のことで、血糖の管理指標の一つで、食後高血糖をよく反映するのが特徴です。
値は正常範囲内で、上限にまで余裕があります。
これは、スーパー糖質制限食により食後高血糖がほとんどないためと思われます。
すなわち「糖化」は正常人並み、あるいはそれ以上に予防できていると考えられます。
▽空腹時インスリン:1.7mu(マイクロユニット)/ml(正常値3~15)。
インスリンは膵臓(すいぞう)から分泌されるホルモンの一種で、血糖を下げる働きがあります。基礎分泌がやや少なめですが、空腹時血糖値が基準値なので問題ありません。
少ないインスリン分泌量で血糖値が正常なので、好ましいパターンと言えます。
※マイクロユニット=濃度を表す単位
▽中性脂肪:49mg/dl(ミリグラム/デシリットル、正常値50~149)
▽総コレステロール:248mg/dl(正常値150~219)▽HDL-コレステロール(いわゆる善玉コレステロール):94mg/dl(正常値40~85)
▽LDL-コレステロール(いわゆる悪玉コレステロール):135mg/dl(正常値140未満)
総コレステロール値に心血管疾患との関連性はなく、また脂質異常症の07年以降のガイドラインからも外れているので、この値でも問題はありません。
HDL-コレステロールはやや多めで、LDL-コレステロールは基準値内です。
中性脂肪値が低く、HDL-Cが多いので、小粒子LDL-Cはほとんどない良好なパターンです。
▽尿酸:3.2mg/dl(正常値3.4~7.0)。
尿酸は新陳代謝で作られる老廃物で、体内に蓄積すると痛風などの原因になります。
私はスーパー糖質制限食実践で、高たんぱく・高脂質の食事を食べていますが、尿酸は基準値よりやや低めです。
尿酸は抗酸化物質ですが、私の体は糖質制限で酸化ストレスが極めて少ないため、尿酸も少ないと考えられます。
また、腎機能も大丈夫でした。
焼酎などよく飲む割には、肝機能の指標であるγGTPなども正常です。
一般的な血液と尿の検査はすべて問題ありませんでした。
糖質制限食が抗酸化作用を高める
▽総ケトン体:704μmol/L(マイクロモル/リットル。正常値26~122)。
糖質制限などで糖分摂取が相対的に減少すると、脂肪の分解が進んで肝臓がケトン体を作り、血液や尿の中に放出します。
私の血中総ケトン体は704μmol/Lと、一般的な値に比べればかなり高い値ですが、尿中のアセトン体(ケトン体の一種)は陰性でした。
これは、スーパー糖質制限食実践で、心筋や骨格筋などの体細胞が日常的に効率良くケトン体をエネルギー源として利用するため、尿中に排泄(はいせつ)されないのだと考えられます。
私の血中ケトン体値は、あくまで生理的範囲のもので、インスリン作用は確保されていて、血糖値も106mg/dlと正常です。
見方を変えれば、農耕文明以前、人類が糖質と縁遠かった狩猟・採集時代の700万年間は、私レベルの血中ケトン体値が当たり前で、人類の標準だったと考えられます。
江部康二 (えべ・こうじ) 京都大学医学部卒業。京都大学胸部疾患研究所などを経て、一般財団法人高雄病院理事長。内科医、漢方医。糖尿病治療の研究に取り組み、「糖質制限食」の体系を確立したパイオニア。
「毎日新聞 医療プレミア」による。
「プレミアム」と「プレミア」は意味が違います。
「premium」(プレミアム)は「賞、賞品」「割増金」「上等な、上質な」。
「premiere」(プレミア)は「初日、初演」「最初の、主要な」。
毎日新聞医療プレミアは、楽しく年齢を重ねるために役立つ健康情報を、全国の医師や研究者とタッグを組んで発信。紙面には掲載されない特別記事です。
江部康二 / 高雄病院理事長
「糖質制限食は短期的な効果は明確であるが、長期的なエビデンス(医学的根拠)がなく、安全性も担保されていない」という意見を見かけます。
そこで、エビデンス(科学的証拠)とは言えませんが、スーパー糖質制限食を16年間実践している私自身の体の状態と、検査データから、糖質制限食の有効性を考察します。
あくまで私個人のデータなので参考値としてお読みください。
アンチエイジング効果を実感
私は1950年生まれの68歳。
2002年6月、52歳の時に糖尿病であることが分かりました。
当時のHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー、糖化ヘモグロビン=ブドウ糖と結びついたヘモグロビンのこと)の値は6.7%。
基準値は4.6~6.2%ですから、高い値で糖尿病の基準を満たしていました。
この時、体重67kg、身長167cm。
内臓脂肪スキャン(腹部CT)は126平方cm (正常値は100平方cm未満)と、こちらも高い値でした。
血圧は普段、140~150/90mmHg(mmHgは血圧の単位を表す『ミリメートル水銀柱』のこと)前後ですが、忙しい外来の診療が終わった直後は、170~180/100~110程度に上昇していました。
この時はメタボリックシンドロームの診断基準もしっかり満たしていたことになります。
その後、スーパー糖質制限食を実践して、1カ月後にはHbA1cは基準値内に収まりました。
半年後には体重も10kg減って57kgとなり、血圧も正常化し、メタボ解消です。
現在もその時の血圧と体重を維持しています。
内臓脂肪CTは04年10月には71平方cmまで減りました。
スーパー糖質制限食を実践して私自身が強く実感しているのは、アンチエイジング効果です。
まず、自分の歯が全部残っています。聴力低下もありません。
目は裸眼で広辞苑が読めますし、夜間の頻尿もありません。
身長は縮まず、持病もなく、定期的に服用する薬はありません。
歯が全部残っている68歳は統計的には100人のうち2人ほど。
薬なしは10人に1人ほどです。
聴力、視力、身長、夜間尿のそれぞれの確率を5人に1人ぐらいとやや低めに見積もっても、すべて当てはまるのは約300万人に1人ほど。
私は、糖質制限食によるアンチエイジング効果と考えています。
18年6月の検査データから私の健康状態を解析すると
▽HbA1c(糖化ヘモグロビン):5.8%。
HbA1cの正常値は4.6~6.2%ですから、正常範囲内でやや高めです。
空腹時血糖値が正常範囲内でやや高めであることを反映しています。
糖尿病歴16年ですから仕方ありません。
▽GA(グリコアルブミン):14.3%(正常値11.6~16.0%)。
GAはブドウ糖と結びついたたんぱく質のことで、血糖の管理指標の一つで、食後高血糖をよく反映するのが特徴です。
値は正常範囲内で、上限にまで余裕があります。
これは、スーパー糖質制限食により食後高血糖がほとんどないためと思われます。
すなわち「糖化」は正常人並み、あるいはそれ以上に予防できていると考えられます。
▽空腹時インスリン:1.7mu(マイクロユニット)/ml(正常値3~15)。
インスリンは膵臓(すいぞう)から分泌されるホルモンの一種で、血糖を下げる働きがあります。基礎分泌がやや少なめですが、空腹時血糖値が基準値なので問題ありません。
少ないインスリン分泌量で血糖値が正常なので、好ましいパターンと言えます。
※マイクロユニット=濃度を表す単位
▽中性脂肪:49mg/dl(ミリグラム/デシリットル、正常値50~149)
▽総コレステロール:248mg/dl(正常値150~219)▽HDL-コレステロール(いわゆる善玉コレステロール):94mg/dl(正常値40~85)
▽LDL-コレステロール(いわゆる悪玉コレステロール):135mg/dl(正常値140未満)
総コレステロール値に心血管疾患との関連性はなく、また脂質異常症の07年以降のガイドラインからも外れているので、この値でも問題はありません。
HDL-コレステロールはやや多めで、LDL-コレステロールは基準値内です。
中性脂肪値が低く、HDL-Cが多いので、小粒子LDL-Cはほとんどない良好なパターンです。
▽尿酸:3.2mg/dl(正常値3.4~7.0)。
尿酸は新陳代謝で作られる老廃物で、体内に蓄積すると痛風などの原因になります。
私はスーパー糖質制限食実践で、高たんぱく・高脂質の食事を食べていますが、尿酸は基準値よりやや低めです。
尿酸は抗酸化物質ですが、私の体は糖質制限で酸化ストレスが極めて少ないため、尿酸も少ないと考えられます。
また、腎機能も大丈夫でした。
焼酎などよく飲む割には、肝機能の指標であるγGTPなども正常です。
一般的な血液と尿の検査はすべて問題ありませんでした。
糖質制限食が抗酸化作用を高める
▽総ケトン体:704μmol/L(マイクロモル/リットル。正常値26~122)。
糖質制限などで糖分摂取が相対的に減少すると、脂肪の分解が進んで肝臓がケトン体を作り、血液や尿の中に放出します。
私の血中総ケトン体は704μmol/Lと、一般的な値に比べればかなり高い値ですが、尿中のアセトン体(ケトン体の一種)は陰性でした。
これは、スーパー糖質制限食実践で、心筋や骨格筋などの体細胞が日常的に効率良くケトン体をエネルギー源として利用するため、尿中に排泄(はいせつ)されないのだと考えられます。
私の血中ケトン体値は、あくまで生理的範囲のもので、インスリン作用は確保されていて、血糖値も106mg/dlと正常です。
見方を変えれば、農耕文明以前、人類が糖質と縁遠かった狩猟・採集時代の700万年間は、私レベルの血中ケトン体値が当たり前で、人類の標準だったと考えられます。
江部康二 (えべ・こうじ) 京都大学医学部卒業。京都大学胸部疾患研究所などを経て、一般財団法人高雄病院理事長。内科医、漢方医。糖尿病治療の研究に取り組み、「糖質制限食」の体系を確立したパイオニア。
「毎日新聞 医療プレミア」による。
「プレミアム」と「プレミア」は意味が違います。
「premium」(プレミアム)は「賞、賞品」「割増金」「上等な、上質な」。
「premiere」(プレミア)は「初日、初演」「最初の、主要な」。
毎日新聞医療プレミアは、楽しく年齢を重ねるために役立つ健康情報を、全国の医師や研究者とタッグを組んで発信。紙面には掲載されない特別記事です。
アルツハイマー病とヘルペスウイルス、関係あり [医学・医療短信]
アルツハイマー病にヘルペスウイルスが関与か
アルツハイマー病の発症に、2種類のヒトヘルペスウイルス(HHV)が関与している可能性を示した研究結果が、医学誌「Neuron(神経細胞)」6月21日オンライン版に発表された。
研究を実施した米マウントサイナイ・アイカーン医科大学のJoel Dudley氏らによると、アルツハイマー病患者の脳では、そうでない人の脳と比べて、ヒトヘルペスウイルス6A(HHV-6A)とヒトヘルペスウイルス7(HHV-7)が約2倍に増加していることが分かった。
HHV-6やHHV-7は、ほとんどの人が主に乳幼児期に感染する身近なウイルスで、特にHHV-6は乳児期の突発性発疹の原因となることが知られている。
38度以上の発熱が3日間ほど続いた後、解熱とともに鮮紅色の斑丘疹が体幹を中心に顔面、四肢に 数日間出現する。
随伴症状としては、下痢、眼瞼浮腫、大泉門膨隆、リンパ節腫脹など。多くは発熱と発疹のみで経過する。予後は一般に良好。
これらのウイルスは、単純ヘルペスウイルスや水痘・帯状疱疹(ほうしん)ウイルス、エプスタイン・バー(EB)ウイルスなど他のヘルペスウイルスと同様に、感染後には体内で休眠状態となり、その後、ある時点で再活性化する可能性がある。
Joel Dudley氏によれば、これらのウイルスは特に神経毒性が強く、アルツハイマー病以外のさまざまな神経疾患との関連が認められているが、誰もがさらされるこれらのウイルスの働きは、十分に解明されていなかった。
同氏らは今回の研究で、まず、アルツハイマー病患者とアルツハイマー病ではない対照群から、死亡後に採取した600以上の脳組織を用いて遺伝子解析を実施し、データを比較した。
結果、HHV-6AとHHV-7の遺伝子はアルツハイマー病のリスクを高める遺伝子の活性化あるいは抑制に働き、複雑に相互に影響し合っている可能性があることを突き止めた。
さらに、米メイヨー・クリニックとラッシュ・アルツハイマー病センターで採取した約800の脳組織を用いて遺伝子解析を実施した。
アルツハイマー病患者の脳では、HHV-6AとHHV-7が増加していることが明らかになり、最初の結果を再現できた。
Dudley氏は
「今回の結果は、アルツハイマー病の原因解明につながる可能性があるほか、免疫系を標的とした新たな治療法の開発に向けた足掛かりとなるだろう」と期待を示している。
専門家の一人で、米アルツハイマー病協会のKeith Fargo氏も、
「アルツハイマー病に細菌やウイルスが関与する可能性はこれまでにも指摘されてきたが、今回の研究でその説の信頼性は高まった」と指摘。
「もしアルツハイマー病の発症にウイルスなどが関与しているのであれば、抗ウイルス療法や免疫療法を新たに開発できるかもしれない」と話している。
これらの関連についてはさらなる研究が必要だと付け加えている。
(HealthDay News 2018年6月21日)Copyright 2018
「毎日新聞 医療プレミア」2018年7月5日 による。
アルツハイマー病の発症に、2種類のヒトヘルペスウイルス(HHV)が関与している可能性を示した研究結果が、医学誌「Neuron(神経細胞)」6月21日オンライン版に発表された。
研究を実施した米マウントサイナイ・アイカーン医科大学のJoel Dudley氏らによると、アルツハイマー病患者の脳では、そうでない人の脳と比べて、ヒトヘルペスウイルス6A(HHV-6A)とヒトヘルペスウイルス7(HHV-7)が約2倍に増加していることが分かった。
HHV-6やHHV-7は、ほとんどの人が主に乳幼児期に感染する身近なウイルスで、特にHHV-6は乳児期の突発性発疹の原因となることが知られている。
38度以上の発熱が3日間ほど続いた後、解熱とともに鮮紅色の斑丘疹が体幹を中心に顔面、四肢に 数日間出現する。
随伴症状としては、下痢、眼瞼浮腫、大泉門膨隆、リンパ節腫脹など。多くは発熱と発疹のみで経過する。予後は一般に良好。
これらのウイルスは、単純ヘルペスウイルスや水痘・帯状疱疹(ほうしん)ウイルス、エプスタイン・バー(EB)ウイルスなど他のヘルペスウイルスと同様に、感染後には体内で休眠状態となり、その後、ある時点で再活性化する可能性がある。
Joel Dudley氏によれば、これらのウイルスは特に神経毒性が強く、アルツハイマー病以外のさまざまな神経疾患との関連が認められているが、誰もがさらされるこれらのウイルスの働きは、十分に解明されていなかった。
同氏らは今回の研究で、まず、アルツハイマー病患者とアルツハイマー病ではない対照群から、死亡後に採取した600以上の脳組織を用いて遺伝子解析を実施し、データを比較した。
結果、HHV-6AとHHV-7の遺伝子はアルツハイマー病のリスクを高める遺伝子の活性化あるいは抑制に働き、複雑に相互に影響し合っている可能性があることを突き止めた。
さらに、米メイヨー・クリニックとラッシュ・アルツハイマー病センターで採取した約800の脳組織を用いて遺伝子解析を実施した。
アルツハイマー病患者の脳では、HHV-6AとHHV-7が増加していることが明らかになり、最初の結果を再現できた。
Dudley氏は
「今回の結果は、アルツハイマー病の原因解明につながる可能性があるほか、免疫系を標的とした新たな治療法の開発に向けた足掛かりとなるだろう」と期待を示している。
専門家の一人で、米アルツハイマー病協会のKeith Fargo氏も、
「アルツハイマー病に細菌やウイルスが関与する可能性はこれまでにも指摘されてきたが、今回の研究でその説の信頼性は高まった」と指摘。
「もしアルツハイマー病の発症にウイルスなどが関与しているのであれば、抗ウイルス療法や免疫療法を新たに開発できるかもしれない」と話している。
これらの関連についてはさらなる研究が必要だと付け加えている。
(HealthDay News 2018年6月21日)Copyright 2018
「毎日新聞 医療プレミア」2018年7月5日 による。
足のタコと魚の目 [健康短信]
気になる足のタコと魚の目の原因は
回答者 高山かおる先生(埼玉県済生会川口総合病院・皮膚科)
【Q】20代から足裏にタコと魚の目があります。硬くなると歩けないほど痛くて、月に1回削っています。原因は立ち方ですか、体質ですか。(福岡県みやこ町、女性、52歳)
【A】原因で最も多いのは、足に合わない靴を履き続けたケースです。
タコや魚の目は、どちらも物理的な刺激が過剰に加わることでできます。
骨の上にできるタコは丘状に盛り上がり、骨と骨の間の軟らかい部分などにできる魚の目は、皮膚の下に向かってくさび形に増殖します。
硬くなった部分を削るのは痛みの緩和になりますが、自己流で削りすぎると皮膚を傷める可能性があります。皮膚科などで削ってもらうのをお勧めします。
原因で最も多いのは、足に合わない靴を履き続けたケースです。
サイズが小さいと指先が強く当たったり、幅が狭くて左右から圧迫されたりします。
逆に大きいのもよくありません。歩く度に靴の中で足が滑り、刺激となるからです。
歩き方や姿勢の問題もあります
歩き方や姿勢の問題もあります。
タコや魚の目ができる人はよく、甲が高くて土踏まずが大きくくぼんでいる「凹足(おうそく)」や、足の指が浮いて踏ん張ることができない「浮き指」などのトラブルを抱えています。
合わない靴を履き、痛みをかばうような歩き方の癖が付くと、腰痛にもつながります。
女性の患者が圧倒的に多いのは、ハイヒールを履いていた経験などが関係しています。
足の形に合う靴を探すために専門家(シューフィッター)のいる店で試着し、足の長さや幅を確認してもらってください。
フットケアサロンやスポーツジムで、インストラクターが指導をしてくれるところもあります。
また整形外科医院によっては、足の状態を診て公的健康保険を使ってリハビリテーションをしてくれることもあるので、相談するといいでしょう。
「毎日新聞 医療プレミア」による。
回答者 高山かおる先生(埼玉県済生会川口総合病院・皮膚科)
【Q】20代から足裏にタコと魚の目があります。硬くなると歩けないほど痛くて、月に1回削っています。原因は立ち方ですか、体質ですか。(福岡県みやこ町、女性、52歳)
【A】原因で最も多いのは、足に合わない靴を履き続けたケースです。
タコや魚の目は、どちらも物理的な刺激が過剰に加わることでできます。
骨の上にできるタコは丘状に盛り上がり、骨と骨の間の軟らかい部分などにできる魚の目は、皮膚の下に向かってくさび形に増殖します。
硬くなった部分を削るのは痛みの緩和になりますが、自己流で削りすぎると皮膚を傷める可能性があります。皮膚科などで削ってもらうのをお勧めします。
原因で最も多いのは、足に合わない靴を履き続けたケースです。
サイズが小さいと指先が強く当たったり、幅が狭くて左右から圧迫されたりします。
逆に大きいのもよくありません。歩く度に靴の中で足が滑り、刺激となるからです。
歩き方や姿勢の問題もあります
歩き方や姿勢の問題もあります。
タコや魚の目ができる人はよく、甲が高くて土踏まずが大きくくぼんでいる「凹足(おうそく)」や、足の指が浮いて踏ん張ることができない「浮き指」などのトラブルを抱えています。
合わない靴を履き、痛みをかばうような歩き方の癖が付くと、腰痛にもつながります。
女性の患者が圧倒的に多いのは、ハイヒールを履いていた経験などが関係しています。
足の形に合う靴を探すために専門家(シューフィッター)のいる店で試着し、足の長さや幅を確認してもらってください。
フットケアサロンやスポーツジムで、インストラクターが指導をしてくれるところもあります。
また整形外科医院によっては、足の状態を診て公的健康保険を使ってリハビリテーションをしてくれることもあるので、相談するといいでしょう。
「毎日新聞 医療プレミア」による。