円形脱毛症とステロイド塗り薬 [医学・医療短信]
円形脱毛症治療で評価が上がったステロイド塗り薬
齊藤典充 / 横浜労災病院皮膚科部長
「円形脱毛症」と「男性型脱毛症」には、日本皮膚科学会の診療ガイドラインがあり、どちらも7年ぶりの改訂となる2017年版が公開されています。
診療ガイドラインは、現時点でのエビデンス(科学的根拠)に基づく最善の治療とその推奨度を提示したものです。
これらの作成には、私も委員の一人として参加しています。
17年版ガイドラインでは、それぞれ何が変わったのか--。
まず円形脱毛症について新たに評価された治療などを取り上げてみましょう。
推奨度がランクアップした治療法
診療ガイドラインでは、科学的な根拠に基づいて治療の推奨度がA~Dに分類されています。
最も評価が高いのはA「行うように強く勧める」。
次はBで「行うよう勧める」。
C1は「行ってもよい」、C2は「行わないほうがよい」、
Dは「行うべきではない」という評価になります。
円形脱毛症の治療には残念ながらAと評価されるものがなく、最も高い評価がBで、4項目あります。
ステロイド局所注射や、一時的にかぶれを起こさせる局所免疫療法は、推奨度が変わらずBです。
今回の改訂では「ステロイド外用療法」がC1からBにランクアップし、新たに最高評価になりました。
ステロイド外用療法は、ステロイドの塗り薬を用いる治療です。
湿疹やアトピー性皮膚炎などによく処方される薬なので、いまさら円形脱毛症の治療として“評価”されることは、意外に思われたのではないでしょうか。
なぜランクアップしたのでしょうか。
効果は知られていたが、根拠が足りなかった
円形脱毛症は、アトピー性皮膚炎を合併している人が多く、湿疹を治すためにステロイドの塗り薬を処方することがあります。
すると薬を塗っていた頭皮から髪の毛が生えてくることがあり、円形脱毛症に効果があることは、皮膚科医の間では知られていました。
しかし、ステロイド外用薬はあまりになじみのある治療のため、皮肉なことに科学的な根拠となる研究報告がなかなか集まらなかったのです。
診療ガイドラインでは、「使ったら効きました」では有効とは評価されません。
前回の改訂以降、ステロイド外用薬とプラセボ(偽薬)を比較した二重盲検法の報告がいくつか出てきたことで、ようやく効果が証明され、今回の評価につながりました。
新しい治療ではありませんが、自信をもって勧められる治療が一つ増えたことになります。
副作用が少なく効果があるステロイド外用薬
ステロイド外用薬は、塗り過ぎると皮膚が薄くなる副作用があります。
使用には注意が必要ですが、それを守れば効果のある治療です。
ステロイドの内服薬より副作用が少なく、さらに、地域の皮膚科クリニックでも治療が受けやすいこともよい点だと思います。
ちなみにその他の治療は、前回の評価と変わらないものが多く、ステロイド内服療法、静脈注射によるステロイドパルス療法、紫外線療法は、ともにC1になっています。
B評価になったかつらの使用
17年版の診療ガイドラインでは、推奨度がBになったものがもう一つあります。
それは、「かつら(ウイッグ)の使用」についてです。
かつらは治療ではありませんが、着用によって見た目が回復すると、患者さんの生活の質が大きく改善するという研究報告が多数出てきたことで、評価が上がりました。
円形脱毛症は、再発しやすく、脱毛の状態もそのたびに変わります。
ですから、髪が生えてくるかどうか治療のことばかり考えるのではなく、「日常生活がふつうに送れる」「楽しいと思って過ごす」「病気によって変わった見た目を改善し、自信を取り戻す」ことが大事です。
かつらはそのためのアイテムであり、つけることは恥ずかしいことではありません。
各社から販売されているかつらは、質が良くなり、値段も高価なものからそうでないものまで幅広く、選びやすくなっています。
必要になった時だけレンタルを利用する、部分的なウイッグで脱毛した箇所をカバーするという選択肢もあります。
特別なものと思い込まずに、おしゃれのためのグッズという感覚で前向きに活用してみませんか。 【聞き手=医療ライター・阿部厚香】
<毎日新聞 医療プレミア>による
齊藤典充 / 横浜労災病院皮膚科部長
「円形脱毛症」と「男性型脱毛症」には、日本皮膚科学会の診療ガイドラインがあり、どちらも7年ぶりの改訂となる2017年版が公開されています。
診療ガイドラインは、現時点でのエビデンス(科学的根拠)に基づく最善の治療とその推奨度を提示したものです。
これらの作成には、私も委員の一人として参加しています。
17年版ガイドラインでは、それぞれ何が変わったのか--。
まず円形脱毛症について新たに評価された治療などを取り上げてみましょう。
推奨度がランクアップした治療法
診療ガイドラインでは、科学的な根拠に基づいて治療の推奨度がA~Dに分類されています。
最も評価が高いのはA「行うように強く勧める」。
次はBで「行うよう勧める」。
C1は「行ってもよい」、C2は「行わないほうがよい」、
Dは「行うべきではない」という評価になります。
円形脱毛症の治療には残念ながらAと評価されるものがなく、最も高い評価がBで、4項目あります。
ステロイド局所注射や、一時的にかぶれを起こさせる局所免疫療法は、推奨度が変わらずBです。
今回の改訂では「ステロイド外用療法」がC1からBにランクアップし、新たに最高評価になりました。
ステロイド外用療法は、ステロイドの塗り薬を用いる治療です。
湿疹やアトピー性皮膚炎などによく処方される薬なので、いまさら円形脱毛症の治療として“評価”されることは、意外に思われたのではないでしょうか。
なぜランクアップしたのでしょうか。
効果は知られていたが、根拠が足りなかった
円形脱毛症は、アトピー性皮膚炎を合併している人が多く、湿疹を治すためにステロイドの塗り薬を処方することがあります。
すると薬を塗っていた頭皮から髪の毛が生えてくることがあり、円形脱毛症に効果があることは、皮膚科医の間では知られていました。
しかし、ステロイド外用薬はあまりになじみのある治療のため、皮肉なことに科学的な根拠となる研究報告がなかなか集まらなかったのです。
診療ガイドラインでは、「使ったら効きました」では有効とは評価されません。
前回の改訂以降、ステロイド外用薬とプラセボ(偽薬)を比較した二重盲検法の報告がいくつか出てきたことで、ようやく効果が証明され、今回の評価につながりました。
新しい治療ではありませんが、自信をもって勧められる治療が一つ増えたことになります。
副作用が少なく効果があるステロイド外用薬
ステロイド外用薬は、塗り過ぎると皮膚が薄くなる副作用があります。
使用には注意が必要ですが、それを守れば効果のある治療です。
ステロイドの内服薬より副作用が少なく、さらに、地域の皮膚科クリニックでも治療が受けやすいこともよい点だと思います。
ちなみにその他の治療は、前回の評価と変わらないものが多く、ステロイド内服療法、静脈注射によるステロイドパルス療法、紫外線療法は、ともにC1になっています。
B評価になったかつらの使用
17年版の診療ガイドラインでは、推奨度がBになったものがもう一つあります。
それは、「かつら(ウイッグ)の使用」についてです。
かつらは治療ではありませんが、着用によって見た目が回復すると、患者さんの生活の質が大きく改善するという研究報告が多数出てきたことで、評価が上がりました。
円形脱毛症は、再発しやすく、脱毛の状態もそのたびに変わります。
ですから、髪が生えてくるかどうか治療のことばかり考えるのではなく、「日常生活がふつうに送れる」「楽しいと思って過ごす」「病気によって変わった見た目を改善し、自信を取り戻す」ことが大事です。
かつらはそのためのアイテムであり、つけることは恥ずかしいことではありません。
各社から販売されているかつらは、質が良くなり、値段も高価なものからそうでないものまで幅広く、選びやすくなっています。
必要になった時だけレンタルを利用する、部分的なウイッグで脱毛した箇所をカバーするという選択肢もあります。
特別なものと思い込まずに、おしゃれのためのグッズという感覚で前向きに活用してみませんか。 【聞き手=医療ライター・阿部厚香】
<毎日新聞 医療プレミア>による