頸動脈プラークの進展、待っているのは? [医学・医療短信]
吹田研究が世界に示した頸動脈エコーの意義
頸動脈プラークの進展が循環器病発症を予測
国立循環器病研究センター予防健診部医長 小久保喜弘
われわれは、地域住民を対象にした吹田研究において、頸動脈プラークの進展が循環器病〔脳卒中、冠動脈疾患(CHD)〕の発症に関連することを世界で初めて明らかにした。
この研究のポイントと臨床的意義について解説したい。
研究の背景:現行GLでは「根拠がないので勧められない」
頸動脈エコーは、頸動脈壁の内膜と中膜の複合体の厚さ(intima-media thickness;IMT)を定量的に測定する検査である。
IMTと循環器病との関連を検討した代表的な研究としては、PROG-IMT共同研究による16論文のメタ解析がある。
それによると、総頸動脈平均IMTと循環器病の発症に関連が見られたが、総頸動脈平均IMTの進展と循環器病の発症リスクとの間には関連が見られなかった(Lancet 2012;379:2053-2062)。
日本脳神経超音波学会によるガイドライン(GL)『超音波による頸動脈病変の標準的評価法 2017』では、IMTを予後指標の代用マーカーとすることについて、一般住民に対しては「C2:根拠がないので勧められない」となっている。
研究のポイント: 総頸動脈最大IMT 1.1mm超群で発症リスク増加
今回の吹田研究では、1994年4月~2001年8月に健診時に頸部超音波検査を実施し、追跡可能な4,724人を解析対象とした。
頸部超音波検査は総頸動脈、分岐部、内頸・外頸動脈の測定可能な全ての領域を計測した。
平均12.7年の追跡期間中に脳卒中発症が221人、CHD発症が154人で観察された。
総頸動脈平均IMT、総頸動脈最大IMT、全頸動脈最大IMTのいずれも、大きいほど循環器病発症リスクが高かった。
10年後のCHD発症リスクを予測するアルゴリズムである「吹田スコア」に各種頸動脈IMT値を加え、C統計量と純再分類改善度を用いて検討すると、総頸動脈と全頸動脈の最大IMTで有意な予測精度の向上が認められた。
次に、総頸動脈最大 IMT1.1mm超を頸動脈プラークと定義し、ベースラインで頸動脈プラークを有さない追跡可能な2,722人に対して、頸動脈エコー検査を2年ごとに行って2005年3月まで追跡したところ、193人が追跡中に新たに頸動脈プラークに進展した。
それ以降2013年12月(平均8.7年の追跡期間)までに、脳卒中69人、CHD 43人の発症が観察された。
頸動脈プラークに進展した群では進展しなかった群と比べて、循環器病と脳卒中の発症リスクの上昇が見られた。
さらに、追跡期間5年当たりに総頸動脈最大IMTが 1mm進展(肥厚)すると、循環器病発症のハザード比(HR)は2.9、脳卒中発症のHRは3.1と有意なリスク上昇を示したが、全頸動脈最大IMTが1.7mm進展する場合の循環器病の発症リスクは有意でなかった。
また、追跡期間5年当たりの総頸動脈最大IMTの進展が最も大きかった群(上位25%、第4四分位)と最も小さかった群(下位25%、第1四分位)を比較すると、5年間に両群とも糖尿病の増加、喫煙率の低下が見られた。
一方、最も小さかった群では、高コレステロール血症治療薬(主にスタチン)および降圧薬の服用率の上昇、過剰飲酒の減少、拡張期血圧の低下が見られ、最も大きかった群ではBMIの増加が見られた。
研究の臨床的意義:集約的で有効な予防法となる
今回の研究により、循環器病の予防における頸動脈エコー検査の意義を示すことができたと考えている。
すなわち、頸動脈エコー検査を実施して、分岐部や内頸・外頸動脈の狭窄や潰瘍などを確認し、総頸動脈最大IMTが1.1mmを超えるかどうかを判定することが集約的で有効な予防法となる。
今後、頸動脈硬化症のリスクスコアを開発することが可能となった。
「Medical Tribune 」 6月22日 による。
頸動脈プラークの進展が循環器病発症を予測
国立循環器病研究センター予防健診部医長 小久保喜弘
われわれは、地域住民を対象にした吹田研究において、頸動脈プラークの進展が循環器病〔脳卒中、冠動脈疾患(CHD)〕の発症に関連することを世界で初めて明らかにした。
この研究のポイントと臨床的意義について解説したい。
研究の背景:現行GLでは「根拠がないので勧められない」
頸動脈エコーは、頸動脈壁の内膜と中膜の複合体の厚さ(intima-media thickness;IMT)を定量的に測定する検査である。
IMTと循環器病との関連を検討した代表的な研究としては、PROG-IMT共同研究による16論文のメタ解析がある。
それによると、総頸動脈平均IMTと循環器病の発症に関連が見られたが、総頸動脈平均IMTの進展と循環器病の発症リスクとの間には関連が見られなかった(Lancet 2012;379:2053-2062)。
日本脳神経超音波学会によるガイドライン(GL)『超音波による頸動脈病変の標準的評価法 2017』では、IMTを予後指標の代用マーカーとすることについて、一般住民に対しては「C2:根拠がないので勧められない」となっている。
研究のポイント: 総頸動脈最大IMT 1.1mm超群で発症リスク増加
今回の吹田研究では、1994年4月~2001年8月に健診時に頸部超音波検査を実施し、追跡可能な4,724人を解析対象とした。
頸部超音波検査は総頸動脈、分岐部、内頸・外頸動脈の測定可能な全ての領域を計測した。
平均12.7年の追跡期間中に脳卒中発症が221人、CHD発症が154人で観察された。
総頸動脈平均IMT、総頸動脈最大IMT、全頸動脈最大IMTのいずれも、大きいほど循環器病発症リスクが高かった。
10年後のCHD発症リスクを予測するアルゴリズムである「吹田スコア」に各種頸動脈IMT値を加え、C統計量と純再分類改善度を用いて検討すると、総頸動脈と全頸動脈の最大IMTで有意な予測精度の向上が認められた。
次に、総頸動脈最大 IMT1.1mm超を頸動脈プラークと定義し、ベースラインで頸動脈プラークを有さない追跡可能な2,722人に対して、頸動脈エコー検査を2年ごとに行って2005年3月まで追跡したところ、193人が追跡中に新たに頸動脈プラークに進展した。
それ以降2013年12月(平均8.7年の追跡期間)までに、脳卒中69人、CHD 43人の発症が観察された。
頸動脈プラークに進展した群では進展しなかった群と比べて、循環器病と脳卒中の発症リスクの上昇が見られた。
さらに、追跡期間5年当たりに総頸動脈最大IMTが 1mm進展(肥厚)すると、循環器病発症のハザード比(HR)は2.9、脳卒中発症のHRは3.1と有意なリスク上昇を示したが、全頸動脈最大IMTが1.7mm進展する場合の循環器病の発症リスクは有意でなかった。
また、追跡期間5年当たりの総頸動脈最大IMTの進展が最も大きかった群(上位25%、第4四分位)と最も小さかった群(下位25%、第1四分位)を比較すると、5年間に両群とも糖尿病の増加、喫煙率の低下が見られた。
一方、最も小さかった群では、高コレステロール血症治療薬(主にスタチン)および降圧薬の服用率の上昇、過剰飲酒の減少、拡張期血圧の低下が見られ、最も大きかった群ではBMIの増加が見られた。
研究の臨床的意義:集約的で有効な予防法となる
今回の研究により、循環器病の予防における頸動脈エコー検査の意義を示すことができたと考えている。
すなわち、頸動脈エコー検査を実施して、分岐部や内頸・外頸動脈の狭窄や潰瘍などを確認し、総頸動脈最大IMTが1.1mmを超えるかどうかを判定することが集約的で有効な予防法となる。
今後、頸動脈硬化症のリスクスコアを開発することが可能となった。
「Medical Tribune 」 6月22日 による。