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血圧を下げる外来 [医学・医療短信]

血圧を下げる「減塩外来」

 簡単そうで難しい「減塩」を無理なく続けることはできないだろうか。

 千葉県内の病院に日本で初めて「減塩外来」を開設した渡辺尚彦(よしひこ)医師は独自の方法で指導している。

 ●徐々に慣れる食事

 高血圧を中心とした循環器病が専門の渡辺先生は、普段の生活を少し工夫するだけで血圧を下げるさまざまな方法を提唱し「ミスター血圧」と呼ばれる。

 1987年8月から携帯型の血圧計を装着し、血圧の動きを記録し続けている。

「減塩は患者側はもちろん、医師や管理栄養士といった指導者側にも『難しい』という意識の人が多い。まずその先入観を変えなければいけません」

 減塩の指導歴は30年以上。患者の食や生活習慣を把握し、丸1日(24時間)に排出された尿を全て集めて尿中成分を調べる「蓄尿」を実施しながら生み出したのが「反復1週間減塩法」だ。

 最初の1週間はしっかりと減塩し、次の1週間は以前に摂取していたのと同じ塩分量(=いつもと同じ食事)に戻す。これを繰り返すことで、徐々に減塩食に慣れていく。

 減塩期間中は塩やしょうゆ、ソースといった類いを一切取らない。

 例えば刺し身はワサビを付けるだけ。料理は素材そのものをしっかり味わう。

 減塩外来はこれを軸に、患者に合った指導を心掛けている。

 厳しくもみえるが、塩分を控え続けるほうがハードルが高いという。

 例えるなら中学や高校の試験勉強と同じだ。

「入学から卒業までずっと試験勉強を続けるのはエリートしかできない。テスト前にだけドンと勉強するのを繰り返すことで、学力が少しずつ上がるようになるのと一緒です」と渡辺先生。
 
 減塩生活からいつもの食事に戻った時に、しょっぱいと感じることで味覚の変化が自分で分かり、減塩への意識が高まっていく。

「要は外食になじんだ舌の味覚のリセットです」。

 塩分摂取量は徐々に減り、1桁台になるという。蓄尿検査では、1日の塩分排出量からほぼ同等の塩分摂取量が把握できる。

 これまでの経験から、治療中に外食をおいしく感じている人は1日あたり14グラム、おいしくないと感じる人は7グラムほどの塩分摂取量になっている。

 ●動脈硬化の予防に

 厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」(2015年版)では、1日あたりの塩分摂取量の目標値を18歳以上の男性で8・0グラム、女性で7・0グラムとしている。

 一方、国民健康・栄養調査(16年)によると、摂取量の平均は20歳以上の男性は10・8グラム、女性9・2グラムと高いままだ。

 世界保健機関(WHO)が5グラム未満を推奨し、減塩先進国のイギリスが25年までに3グラムに引き下げる予定の中、日本の取り組みは遅れている。

 日本人は人口の3分の1近い約4000万人が高血圧と推計されている。

 高血圧は動脈硬化を進行させ、脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞などの原因になる。

 交感神経は緊張状態となり、ちょっとしたことで血圧はさらに上昇する。

 血圧を下げるには減塩以外に運動などさまざまな方法があるが、どれも継続するには強い意志が必要だ。
 
 渡辺先生は「手っ取り早く下げられるのが減塩です」と力を込める。

 ●置き換え法も一手

 反復1週間減塩法に加え、渡辺さんが指導するのは、朝食をシリアルの一種「グラノーラ」に置き換えること。

 みそ汁1杯や梅干し1個にはそれぞれ約2グラムの塩分量がある。

 6枚切りのトースト1枚も0・8グラムある。

 一方、グラノーラは1食分(50グラム)にヨーグルト(200グラム)を加えてもわずか0・5グラム。

 1日の摂取量を大幅に減らせる。

 朝に摂取した塩分はアルドステロンというホルモンが体内にため込んでしまう。

 だからこそ3食のうち、朝食が最も効果が高いと指摘する。

 渡辺先生は聖光ケ丘病院(千葉県柏市)に開設した減塩外来に加え、東京女子医科大東医療センター(東京都荒川区)や日本歯科大付属病院(千代田区)など計7カ所で減塩指導をしている。

 ●栄養バランスのよい「グラノーラ」

 グラノーラは、オーツ麦やライ麦、玄米などの穀物に蜂蜜などを混ぜて焼いたもの。

 ドライフルーツやナッツ類などが入ったものも多く、ザクザクとした食感が楽しめる。

 2016年のシリアルの国内市場規模(生産額)は約600億円。

 シリアルといえばコーンフレークをイメージしやすいが、約7割をグラノーラが占める。

 カルビー、日本ケロッグ、日清シスコの大手3社を中心にさまざまな商品が販売されている。

 もともと米国で一般家庭に浸透しており、1991年にカルビーが「フルーツグラノーラ」(現在の「フルグラ」)として商品化。

 当時は認知度も低く売り上げは伸びなかったが、12年ごろから若い女性の朝食向けにPR戦略を展開。

 30億円規模で推移していた売り上げは16年度は292億円にまで増加した。

 現在はファミリー層を中心に定着したうえ、「減塩」を前面に出し、中高年層にもアプローチしている。

 フルグラ事業本部は「食物繊維が豊富で栄養バランスに優れている。忙しい朝にもササッと食べられるので、朝食として受け入れられた」と分析。

 健康志向の高まりを受け、市場の更なる拡大を目指している。

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簡易塩分摂取量テスト

 次の1~5に答えてください。各回答の点数を合計した数値が、1日の大体の塩分摂取量(グラム)と同じになります。

Q1 料理の味付けは?

 (1)薄い味付けを好む 6点
 (2)どちらともいえない 8点
 (3)濃い味付けを好む 14点

Q2 1日にみそ汁、すまし汁、スープを飲む量は?

 (1)ほとんど飲まない 0点
 (2)1杯程度 2点
 (3)2杯程度 4点
 (4)3杯程度 6点

Q3 麺類をよく食べますか?

 (1)ほとんど食べない 0点
 (2)ときどき食べる 2点
 (3)よく食べる 3点

Q4 しょっぱいもの(塩ザケ、塩辛、つくだ煮など)を食べますか? 

 (1)ほとんど食べない 0点
 (2)ときどき食べる 1点
 (3)よく食べる 2点

Q5 漬物類をよく食べますか?
 (1日にキュウリ1/2本程度として)

 (1)ほとんど食べない 0点
 (2)ときどき食べる 1点
 (3)よく食べる 2点

 (渡辺尚彦医師への取材に基づき作成)

 「毎日新聞 医療プレミア」より転載
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