SSブログ

アルツハイマー病vs音楽 [医学・医療短信]

アルツハイマー病患者の興奮や不安、音楽で軽減か

 アルツハイマー病患者の焦燥性興奮(アジテーション)や不安などの軽減に、患者が好む音楽を聴かせる治療法が有効である可能性を示した研究結果が、「The Journal of Prevention of Alzheimer's Disease(アルツハイマー病予防誌)のオンライン版に発表された。

 アルツハイマー病患者に自分で選んだ音楽を聴いてもらい、機能的MRI(fMRI)を用いた脳画像検査を実施した結果、脳の全領域において機能的回路の伝達度が高まっていることが確認された。

 アルツハイマー病などの認知症患者は、それまで経験したことのない状況に直面することで自分を失い、不安を抱くようになりやすい。

 今回の研究グループの一員で米ユタ大学医学部放射線学のJeff Anderson氏によると、アルツハイマー病患者では徐々に記憶力が低下しても、脳内の「顕著性ネットワーク(サリエンスネットワーク)」と呼ばれる機能は維持される場合が多い。

 顕著性ネットワークは、感動を誘う音楽を聴いたときなどに心が揺さぶられるような状態になることと関連する脳機能的回路であり、今回の研究では比較的機能が保たれやすい同回路を音楽によって刺激できる可能性が示されたと同氏は説明している。

 Anderson氏らのグループは、以前の研究で音楽をベースとした治療によってアルツハイマー病患者の焦燥性興奮や不安、行動症状が改善することを既に確認していたが、そのメカニズムは不明だった。

 今回の研究ではアルツハイマー病の患者17人を対象に、好きな音楽を聴いたときの脳活動の変化をfMRIによる脳画像検査で調べた。

 患者にとって特別な歌を複数、自分で選んでもらい、それらの歌を携帯型プレーヤーにダウンロードした上で、患者と介護者にプレーヤーの操作方法を教えた。

 選んだ音楽を20秒間聴いてもらったときと、無音の状態のときにfMRIによる脳画像検査を実施して脳活動の変化について比較検討した。

 結果、患者が選んだ音楽を聴いたときには脳内の顕著性ネットワークや視覚ネットワーク、遂行機能ネットワークといった皮質-皮質および小脳皮質ネットワークにおける脳領域間の機能的回路の伝達度が高まっていることが分かった。

 研究グループの一員で論文の筆頭著者である同大学のJace King氏は、

「患者の耳にヘッドフォンを装着し、患者にとって親しみのある音楽を流した途端、彼らは生き返ったように見えた。音楽は患者を現実社会につないでおく錨のようなものだ」と話した。

 一方、研究論文の最終著者で同大学アルツハイマー病ケアセンターのNorman Foster氏は、

「それぞれの患者にとって意味のある音楽が、患者とのコミュニケーションの橋渡し役となることを示す、脳画像に基づいた客観的なエビデンスが得られた」と説明している。

 また、「アルツハイマー病患者では早期に言語や視覚性記憶が障害されるが、個人個人向けにアレンジした音楽プログラムによって、特に見当識を失っている患者の脳を活性化させる可能性がある」との見方を示している。

 Anderson氏も、

「認知症の診断例は劇的に増えつつあり、そのために莫大な資源が投じられている。

音楽によってアルツハイマー病が治るわけではないが、アルツハイマー病の症状をより管理しやすくし、治療費の削減や患者のQOL向上につなげることもできるかもしれない」と期待を寄せている。

「毎日新聞 医療プレミア」より
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:健康

大人のADHD [医学・医療短信]

かくれた大人のADHDを正しく理解する
 
 生まれつき、脳の働きの一部の偏りのために、子どものときから生活面でさまざまなつまずきを引き起こす場合、発達障害の存在が疑われます。

ADHD=Attention Deficit Hyperactivity Disorder(注意欠陥多動性障害)も発達障害のひとつです。


 12歳より前から、不注意や多動性、衝動性が強く現れ、生活にさまざまな困難を来したときに診断されます。

 ADHDの子どもには、「授業中に席を離れる」「会話に割り込む」「順番が待てない」「話しかけられても聞いていない」などといった特徴的な行動が見られます。

 ただし、これらの言動は、一般的には「わがまま」や「反抗的」などと理解され、親や先生から叱られてしまうことが少なくありません。

 子どものころから、「時間が守れない」「忘れ物が多い」などの失敗を繰り返す場合、ADHDが考えられます。

 ADHDによって、大人になってもさまざまな困難を抱えている人は少なくありません。

 ただし、適切な治療や日常生活の工夫で、生きづらさを改善することが可能です。

 大人になってから初めて気づかれるケースも

 ADHDの特徴があまり強くない場合や、本人の努力や周囲の理解と協力である程度生活がうまくいっている場合、ADHDと気づかれないことも少なくありません。

 症状の柱である不注意、多動性、衝動性にも個人差がありますし、成長とともに変化が見られます。

 例えば多動性は、成長とともに目立ちにくくなりますし、もともと多動性が弱い人もいます。

 一方、不注意や衝動性は、大人になっても続くことが少なくありません。

 忘れ物、なくし物といった不注意が目立つ場合は、日々の生活に支障を来しやすく、その結果、周囲にうまくなじめなかったり、失敗を繰り返したりしてしまい、初めてADHDが疑われることもあります。

 ADHDの症状による日常への影響

 ADHDの症状によって問題視されたり、失敗が続くと、大人の場合、仕事や家庭生活に支障を来すようになります。

 ときには退職を選択せざるをえないことや、いくつかの理由が重なり、離婚に至るケースもあります。

 劣等感や挫折感を抱きやすく、精神的に落ち込んでうつ状態になったり、自暴自棄になってギャンブルやアルコールなどに依存してしまったりするケースも見られます。

 ADHDのチェックリスト

 個人差がありますが、大人の場合、日常で次のような困難を感じる場合は、ADHDが原因かもしれません。

<多動性が原因で起こりやすいこと>

□貧乏ゆすりや机を指で叩くなどのクセがやめられない

□仕事中や会議中などに落ち着かず、そわそわする

<衝動性が原因で起こりやすいこと>

□思ったことをすぐに口にしてしまい、失言が多く、時に口論になることもある

□話し始めると止まらない、人の会話に割り込む

□自分のことばかりしゃべってしまう

□衝動買いをしてしまう

□金銭や時間の管理が苦手

<不注意が原因で起こりやすいこと>

□仕事などでケアレスミスが多い

□忘れ物が多い、物をなくすことが多い

□約束や期限が守れない・間に合わない

□順序立てて行うことが苦手で、先延ばしにする

□ひとつの仕事を最後まで仕上げることが難しい

□家事をしているときに、別のことに気をとられ、進まない

□片付けが苦手

□車の運転などで事故を起こしやすい

どこに相談したらいいの?

 上のような言動で生活のしづらさを感じて、精神的なつらさや困っている状況がある場合、大人の発達障害に詳しい医師がいる医療機関(精神科や精神神経科、心療内科)を探したほうがよいでしょう。

 医療機関によっては「大人(成人)の発達障害外来」「ADHD外来」などを設けています。

 日本では大人の発達障害を専門に扱う医師が少ないため、まずは身近な精神科を受診して、必要に応じて専門の医療機関を紹介してもらうという方法もあります。

 また、地域の保健所や保健福祉センターに相談すると、ADHDに詳しい医療機関を紹介してもらうことができます。

 気になる言動があるものの、医療機関を受診することに抵抗がある場合、まずは発達障害者支援センターや民間の支援団体、地域療育センターなどに相談しましょう。

ADHDの診断・治療・セルフケア

 ADHDを疑って医療機関を受診するときは、日常生活の悩みや困っている状況をあらかじめメモにまとめておくと、問診の際に医師にまとまった内容を伝えることができます。

 また、ADHDの診断で特に重要なのが、子どものときの情報(生育歴)です。

 母子手帳、保育園や幼稚園のときの連絡帳、小学生のときの通知票、親が記録していた育児日記などがあれば、持参してください。

 家族や生活を共にする方に同伴してもらうとよいでしょう。

 ADHDは、他の発達障害や精神疾患が合併していると、見極めが難しいこともあります。
そのため、診断は慎重に行われます。

 どんな治療をするの?

 ADHDの治療では、その症状によって生じる困難やトラブルを軽減し、その人らしい充実した社会生活を送れるようにすることを目指します。

 まずは、自分の長所や得意な面を明らかにし、さらに苦手なことや短所も調べます。

 そのうえで、長所を活かし短所を補うために生活環境を見直す「環境調整」を提案します。

 同時に、認知行動療法などによって、物事を計画的に処理する能力や、コミュニケーションスキルなどを身につける「心理社会的療法」も検討します。

 脳に直接働きかける薬を服用する「薬物療法」を組み合わせて行うこともあります。

 薬については担当する医師の相談が必要です。

 ◇生活上の困りごとにうまく対処するには?

 ADHDのある大人は、日常で次のような工夫を重ねることで、ミスや人間関係のトラブルなどをできるだけ小さくします。

 <用事を先送りにすることを防ぐ>

 複数の作業や仕事があるときは、作業を小分けにしたあと、優先順位を書き出します。

 そして、一つひとつ順番に仕上げていきましょう。最初は同僚、先輩と一緒にやるのもよいでしょう。

 <忘れ物やなくし物を防ぐ>

 毎日持っていく必需品は家の玄関に置くなど定位置を決めると、忘れ物を減らせます。

 最近では、カギや財布、スマートフォンなどの、紛失すると困る物に取り付けて、ブザーや振動などで置き場所を探知できる「キーファインダー」という便利なアイテムもあります。

 <約束や期限を忘れるのを防ぐ>

 携帯電話やスマートフォン・パソコンのリマインダー機能を活用する、キッチンタイマーを設定する、身近な人に頼んで知らせてもらうことなどが有効です。

 <うっかりミスを防ぐ>

 聞いたことをメモ帳に書き残しておくと、忘れにくくなります。

 メモ帳は、服のポケットに入るサイズで、ペンとセットになっているものが便利です。

 また、仕事の指示や約束などは、メモや文書にして渡してもらう、メールのやりとりで文面に残しておくなどすると、ミスを防げます。

 メモ帳に書くのが面倒なときは、ボイスメモなども活用できます。

 <失言を防ぐ>

 まずは頭に浮かんだことをメモにとり、内容を見直す機会を設けると、相手に自分の考えを上手に伝えることができます。

 これも最近は、スマートフォンのメモや音声メモで代用できます。

 監修:田中康雄(こころとそだちのクリニックむすびめ院長)

「みんなの健康ライブラリー」=(C)保健同人社

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:健康

友人の数と糖尿病、関係あるの? [健康短信]

「友人が多いほど糖尿病になりにくい」は本当か

 中高年から高齢になると社会的に孤立している人よりも、付き合いのある友人が多い人ほど2型糖尿病になりにくい可能性があることが、オランダで行われた新たな研究で報告された。

 査読つき OA(open access=オープンアクセス )ジャーナル専門の出版社BMC (BioMed Central=バイオメド・セントラル)の「 Public Health(公衆衛生)」オンライン版に掲載された論文の著者らは、社会的なネットワークを広げて孤立を防ぐことは、2型糖尿病の予防策の一つになると強調している。

 この研究は、オランダに在住する40~75歳の男女を対象とした観察研究(Maastricht Study)に参加した2861人のデータを解析したもので、交友関係の広さや社会的な交流への参加頻度と糖尿病リスクとの関係を調べた。

参加者の平均年齢は60歳、半数は女性であり、56.7%は血糖値が正常で、15%は糖尿病前症、28.3%は2型糖尿病患者(既往例が24.4%、新規診断例が3.9%)であった。

 解析の結果、付き合いのある知り合いが多い方が、少ない人よりも2型糖尿病の発症リスクが低かった。

 こうした知り合いが1人減るごとに、男女で糖尿病リスクは5~12%高まっていた。

 また、女性では独居であるかどうかは糖尿病リスクに影響しなかったが、男性では一人暮らしをする人で糖尿病リスクが94%高まっていた。

 研究を主導したマーストリヒト大学のStephanie Brinkhues 氏は、

「社会的ネットワークはその範囲が広いほど、個人のライフスタイルに重要な影響を与えるようになる。

 ネットワークが広いということは、必要な時に社会的支援を受けやすく、自宅の外に出る機会が多いことを意味する。

 こうした活動は健康的な食習慣や運動習慣を促し、ライフスタイルに改善をもたらす」と述べており、

 社会的なネットワークを広げることは運動不足や肥満を主たる原因とする2型糖尿病を予防するのに重要なステップになると強調している。

 また、1人暮らしの男性で2型糖尿病リスクが高かった理由について、論文の責任著者を務める同大学准教授のMiranda Schram氏は、

「男性は一人になると、女性よりも自分自身の事に無頓着になり、新鮮な野菜や果物を食べなくなったり、運動をしなくなるなど不健康な生活習慣に陥りやすくなると考えられる」と指摘する。

 そのため、2型糖尿病のリスクが高い人には、新しい友人を作って交流したり、ボランティアや趣味の集まりに積極的に参加することが勧められるとしている。

 両氏はともに、この研究は社会的ネットワークの広さと2型糖尿病リスクとの関連を示したに過ぎないが、これまで他の研究で、独居や社会的サポートの不足が2型糖尿病リスクを高める可能性が報告されていることから、

「これらの2つの因子は2型糖尿病の発症に大きく影響する可能性が高い」との考えを示している。

 一方、米モンテフィオーレ医療センター臨床糖尿病センター長を務めるJoel Zonszein氏は専門家の立場から、この研究は大規模で印象的なものではあるが、数々の限界点があると指摘する。

 その一つは、研究デザイン自体の問題で、人生のある時期だけを検討したに過ぎず、人生の中で起こった個々人の変化を考慮していない点にあるという。

 また、糖尿病の発症には多くの因子が関連しており、それぞれの影響の大きさを正確に測るのは難しく、今回の結果を再現するにはさらに多くの研究を行う必要があるとしている。

 同氏は、社会的ネットワークが2型糖尿病の発症に何らかの役割を果たすにしてもその影響は小さく、

「友人の多さや社会的な孤立の有無で糖尿病の発症や進行に影響があるとは考えにくい」と話している。

「HealthDay News 」Copyright [コピーライト] 2018 HealthDay. All rights reserved.
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:健康

脳卒中リスク、葉酸で軽減 [医学・医療短信]

高血圧患者の脳卒中リスクを葉酸が軽減

 葉酸投与により血小板低値、総ホモシステイン(tHcy)高値の高血圧患者の脳卒中リスクが大幅に軽減されると、中国などのグループがJ Am Coll Cardiol(2018; 71: 2136-2146)に発表した。

 ホモシステイン=必須アミノ酸のメチオニンの代謝における中間生成物。「血中ホモシステイン値が高いと動脈硬化になりやすい」、「葉酸不足だとホモシステイン値が上がって心疾患に罹りやすい」といわれている。

 同グループは、中国人高血圧患者(平均年齢59.5歳)1万789例を対象に実施したランダム化比較試験でエナラプリル10mg+葉酸0.8mg連日投与群に5,408例、エナラプリル10mg連日投与群に5,381例を割り付け、脳卒中の予防効果を比較した。

 エナラプリル(Enalapril)=高血圧やうっ血性心不全の治療に用いられるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬の一つ。

 今回の報告は同試験のサブ解析で、血小板低値とtHcy高値が脳卒中のリスクを高めるかどうか、また、そうした条件下で葉酸が脳卒中の予防に効果的か否かを検討した。

 4.2年間の追跡期間中に371例が脳卒中を発症した。脳卒中の発症率は、エナラプリル単独群では血小板高値(第2~第4四分位)かつtHcy低値(15μmol/L未満)の患者が最も低く3.3%、血小板低値(第1四分位)かつtHcy高値(15μmol/L以上)の患者が最も高く5.6%であった。

 葉酸併用群では、血小板低値かつtHcy高値の高リスク患者で脳卒中の発症率が73%低下した(ハザード比0.27、95%CI 0.11~0.64、P=0.003)。

 一方、低リスク患者では有意な影響は見られなかった。

 脳卒中予防のため、「葉酸不足」にご注意を!
 アルコールの摂り過ぎも葉酸不足の原因に
 医学博士  大西睦子

 食、医療など“健康”にまつわる情報は日々更新され、あふれています。

 現在米国ボストン在住の大西睦子氏が、ハーバード大学における食事や遺伝子と病気に関する基礎研究の経験、論文や米国での状況などを交えながら、健康や医療に関するさまざまな疑問や話題を、グローバルな視点で解説します。

 妊娠を望む女性や妊婦が摂取するとよいと推奨されている葉酸ですが、男女の別なく高血圧症の成人にも重要な役割を果たすことが分かってきました。

 葉酸の摂取は、脳卒中や心臓発作のリスクを下げる効果もある。

 葉酸は、妊娠を望む女性や妊娠中の女性だけが気にすればいいものと思っている人もいるかもしれませんね。

 ところが、米国医師会雑誌(The Journal of the American Medical Association:JAMA)に、北京大学第一医院(Peking University First Hospital)の研究者らが、ある報告をしました。

 これによると、高血圧症に対して降圧剤(エナラプリル、商品名:レニベースほか)に葉酸のサプリメントを組み合わせると、エナラプリル単独と比べて、初回の脳卒中のリスクが減るというのです。

 降圧剤と葉酸サプリメントの併用で脳卒中予防に効果あり

 研究は2008年5月19日から2013年8月24日まで、中国の江蘇(こうそ)省と安徽(あんき)省の32の地域において、脳卒中や心筋梗塞の既往のない高血圧の患者2万702人(45歳~75歳)を対象に行われました。

 参加者は、
・エナラプリル10mg+葉酸0.8mg投与グループ:1万348人
・エナラプリル10mg単独投与グループ:1万354人
 にランダムに分けられ、その経過を観察していきました。

 4年半の観察期間中、初めて脳卒中を起こした人が、エナラプリルと葉酸を併用したグループでは282人(2.7%)、エナラプリルを単独で投与したグループでは355人(3.4%)となりました。

 全体を解析すると、併用グループは単独グループに比べて、脳卒中のリスクが21%低いという結果が出ました。

 特に虚血性脳卒中と、複合心血管イベント(心筋梗塞+脳卒中+心血管死)のリスクが相対的に低下しました。

 このことから高血圧で葉酸不足の成人が、葉酸サプリメントを利用すると、脳卒中予防になるという結果が示されたのです。

 米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)は、ウェブサイト上で葉酸に関する情報を提供しています。

 この情報を参考に、葉酸不足のリスクを考えてみましょう。

 葉酸は動脈の内壁に損傷を与える物質の分解に役立つ

 この報告は、ハーバード公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)のニュースレターにも紹介されました。
 
 何十年も前から葉酸が心血管にもたらすメリットについては知られており、1970年代にハーバード公衆衛生大学院で始まった疫学研究では、葉酸を多く摂取した人は、摂取の少ない人より脳卒中や心臓発作のリスクが低いと報告されています。

 動脈の内壁に損傷が加わると、脳卒中や心臓発作のリスクが高まりますが、葉酸は、他のビタミンB群とともに、損傷を与えるアミノ酸のホモシステインを分解するのに役立つのです。

 葉酸不足の人は全世界で数十億人

 ところが米国での臨床試験で、プラセボのグループと葉酸サプリメントのグループを比較したところ、葉酸サプリメントを服用した効果は認められませんでした。

 その原因の1つとして考えられるのは、サプリメントは、通常の食事で葉酸を十分に摂取していない人に対して有用だということ。もともと葉酸不足でなければ効果を発揮しにくいわけです。

 1998年以前の米国人は、約4分の1が葉酸不足状態でした。

 ところが1998年初頭、米国食品医薬品局は強化された穀類への、葉酸添加を決定。

 この政策により、1年経たずして葉酸不足の米国人は激減し、これがカナダ、コスタリカ、チリ、南アフリカなどにまで広まったのです。

 今回の中国の研究でも、脳卒中に対する葉酸の予防効果は高血圧で葉酸不足の人に表れています。

 つまり研究結果は食品の葉酸を強化(葉酸添加)していない国の、葉酸不足の人に、大きな関係があるわけといえます。

 では私たちは、普通の食生活を送っていて、十分に葉酸を摂取できるのでしょうか?

 ハーバード公衆衛生大学院のウォルター・ウィレット教授は、

「葉酸摂取のためには、誰もが果物と野菜をたっぷり食べる必要がありますし、高血圧性を持つ人は特にそうです。また大半の人にとって不足分を補うために、マルチビタミンやマルチミネラルのサプリメントを毎日服用することは合理的です」と述べています。

 また、北京大学第一医院の報告が掲載されたのと同日の米国医師会雑誌の論説で、ウィレット教授は「この研究は世界的な脳卒中予防のために重要な意味を持ちます。

 中国北部、バングラデシュ、スカンジナビア諸国など、葉酸不足の人が世界に数十億人はいるのです」と述べています。

 アルコールなどが原因で、男性も葉酸不足になる

 前述のように米国ではほとんどの人が、十分に葉酸を摂取できています。

 では日本人はどうでしょう? 2013年の国民栄養調査によれば、1日の葉酸摂取量は20歳以上の男性で平均306μg、20歳以上の女性では平均283μg(15~19歳:229μg、20~29歳:217μg、30~39歳:233μg)でした。

 日米で葉酸の1日あたりの摂取基準量は異なりますが、両国とも妊娠の可能性があったり、妊娠を計画している女性には、1日あたり400μgの葉酸の摂取を推奨しています。

 冒頭でも述べましたが、葉酸は胎児の神経系や脳の発達に重要な役割を果たしているからです。

 また、葉酸の摂取が少ないと、貧血、衰弱、疲労、集中できない、いらいら、頭痛、動悸、息切れなどの症状が出現します。舌や口腔内の粘膜への障害、皮膚、毛髪、または爪の色の変化も起こります。

 日本人女性は、まだまだ葉酸の摂取が不足しています。

 葉酸摂取のタイミングは非常に重要です。

 妊娠を計画している段階で、食品やサプリメントで葉酸の摂取を心がけましょう。

 日本では、男性の葉酸摂取量は推奨量の240μgに達しています。

 ただし、栄養の吸収障害のある人(例えば、セリアック病および炎症性腸疾患など)、アルコール依存症の人は、葉酸が不足するリスクが高まります。

 アルコールは、葉酸の吸収と代謝を妨げ、分解を加速させます。

 次に挙げるような食品から葉酸を摂取するのが基本ですが、必要に応じてサプリメントでの補充をしていきましょう。

 葉酸を含む食品

[1]野菜(特にアスパラガス、芽キャベツ、ほうれん草や高菜などの濃い緑の葉野菜)
[2]果物やフルーツジュース(特にオレンジやオレンジジュース)
[3]ナッツ、豆類
[4]全粒穀物
[5]牛肉のレバー。ただし、コレステロールが高いので、食べ過ぎは注意
 肉、鶏肉、魚介類、卵、乳製品など他の動物性食品にも、少量の葉酸が含まれます。

 葉酸の摂取過剰による発がんのリスクは?

 自然の食品に含まれる葉酸は、いくつかのがんのリスクを減らすことが示唆されています。

 ただし、いつ、どれだけ葉酸を摂取するかによって、がんのリスクは変わります。

 がん発症前の適度な量の葉酸の摂取は、がんのリスクを下げる可能性がありますが、一方でがん発症後、とくに大腸がんの発症後は、多量の葉酸の摂取が、がんの進行を速めるリスクがあります。特に1000μgを超える、高用量サプリメントの摂取は注意が必要です。

 サプリメントや強化食品中の葉酸は、医療従事者によって推奨されない限り、上限を超えて摂取するべきではないのです。

 葉酸不足の問題は、住んでいる地域、時代、年齢やアルコール摂取の有無や既往歴によって大きく異なります。

 ぜひ、ご自身の状況を見直してくださいね。基本は、食品から葉酸を摂取し、サプリメントは必要に応じての“補充”に使うとよいですよ。

大西睦子(おおにし むつこ)
東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:健康

ビールだ! ビールだ! [健康小文]

 父の日はビールを飲むによい季節   史朗

 大阪の川柳結社「番傘」を主宰した岸本水府(1892~1965)監修『番傘川柳一万句集』で見つけた句だ。

 今日はどうもちと肌寒く、ビールより吟醸酒がうれしい感じだけど、ま、せっかくだからビールの話。

 快汗―と呼ぶにふさわしい健康的な汗をかいた一日が暮れて、カラカラに乾いたのどに、キーンと冷えたビールを流し込む。ふっと気の遠くなるような快感だ。

 むろん夏の夕べに限らず、ビールはいつ飲んでもうまい、うれしい酒だ。おまけに、体にもよい。

 こんなデータがある。

 カナダの研究者らが約2万人の成人を対象に、飲酒の習慣と、病気で休んだ日数などを調査したレポートによると、

 「ビールを週4~7缶飲んでいる人」は、酒を飲まない人も含めた全平均に比べて、病気にかかる割合が28%も低かった。

 ビールを飲むと、お叱呼がよく出る。ビールの利尿作用と、ビールの水分の相乗作用だ。
 
 成人の1日の尿量は1・2~1・5リットルだが、ビールを1本(大瓶=633ミリリットル)飲めば2㍑以上にふえる。

 これについての最も早い知見を提示した一人は森鴎外だろう。

 早熟の秀才だった鴎外は、19歳にして東京帝国大学医学部を卒業、陸軍病院に勤務中の1884(明治17)年、衛生学研究を命ぜられ、ドイツに留学した。

 ドイツ留学中、ミュンヘン大学衛生学研究所で教授に勧められて、「ビールの利尿作用について」というドイツ語の論文を書いた。

 被験者の6人に、1日10回、ほかに何も飲食せず、ビール、水、ホップ煮汁、アルコール溶液を摂取してもらうという実験を行った。

 結果、アルコールに利尿作用があることが判明。ドイツの学会に発表したところ、大いに喝采をあびたという記録が残っている。

 そのビール熱は帰国後もさめず、「東京醫事新誌」の第520号(明治21年3月17日発行)から531号(6月2日)に、「陸軍一等軍醫醫學士 森林太郎」の署名で、「麥酒ノ利尿作用」なる論文を7回にわたって連載した。

 ビールの利尿作用は、鴎外が指摘したアルコールのほか、ビールに含まれるカリウムにもあるし、『汎用生薬便覧』(2000年刊)には、ホップの薬効の一つに利尿があげられている。

 といったわけで、尿路結石(腎臓から膀胱までの尿の通り道にできる結石)ができやすい人は、「ビールを飲んでダンスをしなさい」と泌尿器科の先生は勧める。

 尿量をふやして、体をよく動かせば、小さい結石なら自然に流れ出ることが多いからだ。

 ビールは胆石を防ぐという研究報告もある。適度のアルコールが胆汁中のコレステロール(胆石の主要成分)を少なくするらしい。

 ビール大瓶1本に含まれるくらいのアルコールは、血液中のHDL(いわゆる善玉コレステロール)をふやし、動脈硬化の進行を抑える。

 1日1合程度の晩酌をしている人には狭心症、心筋梗塞などの心臓病が少ないことが、疫学調査(統計学的手法を用いて病気や健康状態などについて調べる医学)で明らかにされている。

 ビールの「発がん抑制作用」についても多くの研究発表がある。

 米イリノイ大学医学部のR・ネルソン教授らが行った発がん実験では、常にビールを薄めた水を飲ませていたネズミ群は、ほかのネズミ群に比べて、大腸ガンの発生率が半分以下だった。

 日本大学薬学部の滝戸道夫教授(現・名誉教授)らは、ビールの発がん抑制作用の主役は、ホップの中のフムロンという苦みの成分であることを突き止めた。

 滝戸教授は、天然の物質から「ガンの予防薬」を探し出す研究を長年続けている。

 たとえば、カキノタネやカマボコに塗られる赤い色素(アザフィロン系色素)の発がん抑制効果を確認したのは、その成果の一例だ。

 ならば、ガンの予防は、カキノタネをつまみながらビールを......と言ったら、

「それはあまり科学的な話ではありませんね」と笑われてしまったが。

 ホップには植物性の女性ホルモンが含まれている。

 そのため「ビールは女性をセクシーにする」ともいわれる。ビールは女性をより女性的に美しくする酒でもある。

 ─というようなわけで、ビールは元気と美容のクスリ、「百薬の長」の中の長、といえるようだ。

 ただし、そうしたビールの効用は、あくまで「適量」を飲んだ場合の話─。

 ヤボなつけたしだが、飲み過ぎると、薬が毒に変わることもあるのは、ほかのあらゆる酒類と同じである。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:健康

「前向きコホート研究」と「ランダム化比較試験」 [医学・医療短信]

介入せず対象集団を見守る~前向きコホート研究
北澤京子 / 医療ジャーナリスト/京都薬科大学客員教授

 コホート=ある期間追跡される集団

 「コホート」とは聞き慣れない言葉ですが、疫学研究では「ある期間追跡される、特定の目的のために選ばれた個人の集まり」(「ロスマンの疫学:科学的思考への誘い」篠原出版新社)と定義されています。

 もとは古代ローマ時代の歩兵隊を意味する言葉だそうです。

 具体例で説明します。2000年に某診療所を受診した成人患者が1000人いたとしましょう(これがコホートです)。

 この1000人に対して食事の調査を行い、牛乳を飲む量によって、「牛乳を飲まない(300人)」、「牛乳を少し飲む(300人)」、「牛乳を多く飲む(400人)」の3群に分けました。

 2000年時点では当然ながら全員が生存しており、18年後に生きているか死んでいるかは分かりません。

 この1000人を18年間追跡し、2018年になりました。

 途中で亡くなった人もいたため、18年時点の生存者は900人でした。

 その内訳は、「牛乳を飲まない(240人)」、「牛乳を少し飲む(270人)」、「牛乳を多く飲む(390人)」でした。この結果から、生存者の割合を計算すると、

牛乳を飲まない人    (240人÷300人)×100=80.0%
牛乳を少し飲む人    (270人÷300人)×100=90.0%
牛乳を多く飲む人    (390人÷400人)×100=97.5%

 となり、「牛乳を多く飲む人は、飲まない人に比べて、18年後も生存している可能性が高い」、つまり「牛乳は健康に良い」と言えそうです。

 実際にはもっと複雑な調整が必要ですが、こういった方法で牛乳の影響を調べるのが前向きコホート研究です。

「前向き」とは、00年の現在から18年の未来に向かって追跡するという意味です。

 ランダム化比較試験と前向きコホート研究の違い

 ランダム化比較試験と前向きコホート研究は、被験者を現在から未来に向かって追跡する点では同じです。

 違うのは、研究者の被験者へのかかわり方です。

 ランダム化比較試験では、1000人を「牛乳をたくさん飲んでもらう」群、「牛乳を少し飲んでもらう」群、「牛乳を飲ませない」群の三つにランダムに割り付け、被験者には指示通りの量の牛乳を飲んでもらいます。

 つまり、研究者が被験者に“介入”します。

 ランダム化比較試験のメリットは、被験者をランダム化に割り付けるというプロセスをはさむことにより、各群間の背景が均等になることが期待でき、結果(生存割合)の違いは介入(牛乳を飲む量)の違いによると見なせる点です。

 一方、前向きコホート研究では、研究者は被験者に介入はせず、牛乳を飲む量を“見守る=観察する”だけです。

 ランダム化が行われないので、各群間の背景は均等にはならないことが見込まれ、結果(生存割合)の違いに暴露(牛乳を飲む量)以外の因子(交絡因子)が紛れている可能性が否定できません。

 年齢や性別といった既知の交絡因子は解析時に調整できても、未知の交絡因子までは対応できません。

 そのため、科学的根拠(エビデンス)のレベルとしては一般に、前向きコホート研究はランダム化比較試験よりワンランク劣ると考えられています。

 とはいえ、多数の被験者に介入し、長期間追跡するのには膨大な労力・費用がかかるため、事実上、ランダム化比較試験ができない分野もたくさんあります。

 特に、喫煙や飲酒といった(悪い)生活習慣の健康への影響を調べるには、前向きコホート研究が重要です。被験者に意図的に悪い生活習慣をさせることは倫理的にできませんから。

 きょうの 話のデザート

 日本における代表的な前向きコホート研究の一つに、福岡県久山町と九州大学が行っている「久山町研究」があります。

 同研究のウェブサイトによると、久山町研究は、1961年(今から57年前!)に、住民を対象とした脳卒中の実態調査としてスタートしたそうです。

 研究は途切れることなく続き、現在では脳卒中だけでなく、心疾患、がん、認知症などの病気の原因や予防法を明らかにするために、住民データを利用した多くの研究が行われています。

 今のところ期限は2022年10月末までとなっていますが、さらなる延長が計画されています。

「毎日新聞 医療プレミア」より。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:健康

耳の中にカビ? [医学・医療短信]

耳の中にカビ? 外耳道真菌症とは

 耳の中にカビが繁殖する外耳道真菌症。

 耳掃除のしすぎや、イヤホンやヘッドホンの使用で外耳道に湿気がこもることが感染の引き金になるといわれます。

 いったいどんな病気なのでしょうか?

 外耳道真菌症は、外耳道に真菌(カビ)の一種が繁殖することで起こります。

 注:真菌症(英: mycosis)=真菌がヒトや動物の体の障壁を越えて定着することに起因する感染症。
 代表的な真菌症として白癬菌による白癬(水虫、たむし、およびしらくも)、
 カンジダによるカンジダ症、クリプトコックスによるクリプトコックス症、
 アスペルギルスによるアスペルギルス症などが知られている。

「耳の中にカビが生える」と聞くと驚くかもしれませんが、外耳炎のうち1割以上に見られる、決して珍しくない病気です。

 もともと真菌は空気中に無数に存在しており、私たちの皮膚表面の常在菌でもあります。

 真菌が体内に入ってきても、通常は免疫機能の働きで自然に撃退していますが、なんらかの原因で免疫機能の働きが弱まり抵抗力が落ちていると、真菌に感染し増殖してしまうのです。

 外耳道真菌症の場合、耳かき棒や綿棒で耳掃除をしすぎたり、爪で耳の中を掻いたりすることで外耳道に傷がつき、そこから真菌に感染するケースが多く見られます。

 また、こうした傷や炎症に気づかないままイヤホンやヘッドホンを常用していると、耳の中に湿気がこもり真菌が好む環境になってしまうため、発症しやすくなります。

 代表的な症状は、耳の中のしつこいかゆみ・痛み、耳だれ、耳垢(白色や黒色)、耳の詰まった感じです。

 外耳道の皮膚に付着した耳垢は、感染した真菌の落屑物(らくせつぶつ/皮膚の表層が剥がれ落ちたもの)で、真菌の増殖に伴って増えます。

 これが外耳道の奥にある鼓膜近くでたまると耳が聞こえづらくなることもあります。

 かゆみや閉塞感といった症状があるので、つい耳掃除をしたくなりますが、新たな傷をつくる原因になるうえ、落屑物を奥へ押し込んでしまう危険もあるので、安易な耳掃除は禁物です。

 むやみに耳を触らずに耳鼻咽喉科を受診しましょう。

 原因となる真菌にはいろいろな種類がありますが、検査で特定できます。

 多いのは、カンジダとアスペルギルスです。

 治療は顕微鏡を使って行います。

 吸引器具などで外耳道内の真菌を含む落屑物をきれいに取り除き、必要に応じてピオクタニンという真菌にも効果のある消毒薬などで局所を殺菌、少し乾燥させてから抗真菌薬を塗ります。

 最近はブロー液(13%酢酸アルミニウム液)という効力の強い局所消毒剤が使用されることがありますが、作成が煩雑などの理由により一部の医療機関にしかないのが難点です。

 多くの場合、落屑物の除去と抗真菌薬の塗り薬で治ります。

 軽快しない場合は、真菌が皮膚の奥まで入り込んでいることが考えられるため、抗真菌薬の飲み薬が追加される場合があります。

 いずれにしても、一度の通院ですべての落屑物を取り除くのは困難なので、通常は数回の通院が必要です。

 かゆみや痛みが消えるとつい通院するのをやめてしまいがちですが、落屑物が残っていると真菌が再び繁殖し、再発することがあるので、医師のOKが出るまでは根気よく治療を続けましょう。

 監修:生井明浩(はくらく耳鼻咽喉科・アレルギー科クリニック院長)
「ケータイ家庭の医学」2018年3月掲載より (C)保健同人社

「毎日新聞 医療プレミア」による
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:健康

奇想天外! ?  糖尿病・肥満の新治療 [医学・医療短信]

「十二指腸-空腸バイパスライナー」のメタ解析
 山田 悟 北里研究所病院 糖尿病センター長。

研究の背景:十二指腸粘膜焼灼術は治療効果が減退

 以前、内視鏡下で十二指腸粘膜を焼灼することにより糖尿病や肥満の改善効果が得られたという試験を紹介した。

 しかし、この治療法では、焼灼された粘膜が自然治癒する過程の中で徐々に機能も復活し、おのずとリバウンドしてしまうらしい。

 このたび、物理的に十二指腸粘膜をフィルムのようなもので覆ってしまい、結果として十二指腸-空腸バイパスを作るに等しい新しい治療(十二指腸-空腸バイパスライナー)についてのメタ解析が米国糖尿病学会(ADA)の機関誌に掲載された。

 現在の糖尿病・肥満治療においては、心理的アプローチや面接技法を駆使した専門医の治療が求められることが多い。

 しかし、将来的には非専門医が食欲をアゴニストのような〕薬物で容易に管理できるようになったり、内視鏡医がこのようなライナーを留置することにより患者を薬物なしで容易に管理できるようになったりする日が訪れるのかもしれない。

 そんな期待(患者にとってはハッピーである)と不安(糖尿病専門医にとっては失職の危機である)の入り混じった気持ちでこの研究を紹介したい。

 研究のポイント1:十二指腸下行部から空腸にかけて食物が粘膜に触れずに通過

 肥満手術において、わが国で保険適用があるのは袖状胃切除術であるが、欧米ではRoux-en-Y胃バイパス術の方がよく選択されており、実際その方が治療効果が大きい可能性がある。

 バイパス術の方が効果が大きくなりえるメカニズムとしては、栄養素吸収の遅延・抑制や、回腸に由来し食欲を抑制する作用を持つ消化管ペプチドの分泌の亢進などが考えられている。

 しかし、バイパス術は、袖状胃切除術と同等かそれ以上に手技的に高度な技術を要し、侵襲も相応に大きい。

 そこで、バイパス術を模倣すべく考えられたのが、十二指腸-空腸バイパスライナーである。

 このバイパスライナーは長さ60㎝のポリマー素材でできた筒状の構造物で、十二指腸球部に引っかけるためのアンカー(錨)部分を近位端に持っている。

 内視鏡下でアンカー部分を球部に留置して筒状構造をその先で広げれば、十二指腸下行部から空腸にかけては食物が粘膜に触れずに通過するようになるのである。

 本研究は、このバイパスライナーを用いて糖尿病患者を対象に実施された臨床試験の結果をメタ解析して、HbA1cや体重に対する効果を検証したものである。

 研究のポイント2:バイパスライナーの試験14件を抽出

 本研究は、米ハーバード大学のグループ(ブリガム・ウィメンズ病院の消化器内科と内分泌内科のグループ)が共同で実施したメタ解析である。

 データベースとしてはMEDLINE、Embase、Web of Scienceの3種を対象とし、その開始から2017年6月1日までに報告された研究を、言語や研究デザインの制限をかけずに抽出した。

 検索用語は、"Endobarrier" "duodenal sleeve" "jejunal sleeve" "gastrointestinal liner" "bypass liner" "duodenal jejunal bypass sleeve" "GI dynamics sleeve" "GI dynamic"の8語であり、HbA1cや体重について検討している研究を検索した。

 その結果、一次検索で1,064件(MEDLINE 719件、Embase 134件、Web of Science 211件)がヒットし、重複しているものを除外すると917件が残った。

 抄録を見た上でバイパスライナーと関係のない論文、動物を対象とした論文、オリジナルデータのないレビュー論文を削除すると176件が残った。

 さらに、全文を読んだ上でバイパスライナーと関係のない論文、HbA1cも体重もアウトカムとしての報告がない論文などを除外すると、最終的に17件の論文が抽出された。

 17件の論文のうち、14件が肥満合併2型糖尿病患者のHbA1cに対する影響を報告しており、これを主たる解析に用いた(症例数412例)。

 14件のうち5件がランダム化比較試験(RCT)であり、9件は観察研究(前後比較試験)であった。

 残る3件の試験はバイパスライナー抜去後の血糖状況、体重、消化管ペプチドの変化についての報告をしているものであった。

 14件のメタ解析に際しては、RCTにおいてもバイパスライナー群での手技前後のアウトカムの変化を解析に用いた。

 一方、RCT5件だけを集めたメタ解析も行い(ただし、1件は対照群の糖尿病症例が1例のため除外)、その場合には対照群〔偽手技(内視鏡だけ実施してバイパスライナーを留置しない)群あるいは生活習慣指導群〕との比較データを解析に用いた。

 研究のポイント3:バイパスライナーはHbA1cを1.3%、体重を11.3kg改善

 14件の試験の412例中388例でバイパスライナーの留置に成功していた(成功率94.2%)。

 留置に失敗した理由はポリープ、鋭角過ぎる胃角部、短過ぎる球部、麻酔に伴う副作用などであった。これらの研究の概要を表1、2に示す。

 Betzelらの研究を除くと症例数はかなり少ない状況ではあるが、これらの研究をメタ解析してHbA1cに対する効果を示した。

 平均でバイパスライナー留置後8.4カ月の時点で、HbA1cは1.3%低下していた(P<0.0001)。

 また、空腹時血糖値は44.6mg/dL(P<0.0001)、インスリン抵抗性指数(HOMA-IR)は4.6(P<0.0001)改善していた。

 4件のRCTに限定しても、平均でバイパスライナーそうにゅう留置後4.5カ月の時点で、HbA1cは0.9%(P<0.0001)改善していた。

 バイパスライナーを抜去した後のフォローアップのデータをまとめると、HbA1cはベースラインより抜去後3カ月(2試験、46例)で2.2%(P<0.0001)、抜去後6カ月(4試験、120例)で0.9%(P<0.0001)低下していたが、抜去後12カ月(2試験、80例)では有意な低下は認められなかった。

 また、体重に対する影響を見ると(10試験、352例)、バイパスライナー留置後、平均で9.2カ月の時点で11.3kg低下していた(P<0.0001)。これをBMIで表現すると(9試験、340例)、4.1の改善であった(P<0.0001)。

 バイパスライナー抜去後のフォローアップのデータでは、ベースラインと比べ6カ月(3試験、104例)で7.1kg(P<0.0001)、12カ月(2試験、80例)で10.7kg(P<0.0001)の改善を維持していた。

 さらに、消化管ペプチドへの影響を検討している7件(124例)の試験からは、表3のような結果が得られた。総じて、空腹感をつくるグレリンが低下し、それ以外の満腹感にかかわる消化管ペプチドは上昇していたが、空腸を中心に分布するK細胞から分泌されるGIPは例外的に低下していた。

 なお、9試験(350例)がバイパスライナーの有害作用を報告しており、最も頻度の高いものは、腹痛、嘔気、嘔吐であった。これらはいずれもバイパスライナー留置後すぐに生じたという。

 重症の有害作用は350例中55例に生じており、消化管出血(16例)、低血糖発作(8例)、急性膵炎(6例)、バイパスライナーの位置異常(5例)、重症の腹痛(4例)、肝膿瘍(4例)、アンカー部分の破裂(4例)、バイパスライナーの閉塞(3例)などであった。

 私の考察:長期留置が必要か、重症有害作用も思ったより多い

 このバイパスライナーの有効性については、既にメタ解析がなされ(Diabetes Obes Metab 2016;18:300-305)、体重については有意差があったが、HbA1cについては有意差がないことが示されていた。

 本研究がバイパスライナーのHbA1cに対する有効性を確認した初めてのメタ解析となろう。

 あらためて結果を要約すると、バイパスライナーはHbA1cの1.3%もの改善に寄与していた。

 その一方で、抜去後6カ月まではHbA1cの改善効果を維持していたものの12カ月後にはベースライン(留置前)との有意差がなくなっていた。

 大変興味深いことに、抜去後12カ月後の時点で、10.7kgもの体重の有意な低下効果が残存していたにもかかわらず、HbA1cの改善は認められなかったのである。

 このことは、極端なエネルギー制限食を実施しても、罹病年数の長い糖尿病患者ではHbA1cの改善が得られないことがあるとの既報(関連記事「カロリー制限食の有効性と限界」)と通じるところがある。

 そして、長期にわたり糖尿病患者の血糖管理を改善するためにはバイパスライナーの長期の留置が必要であることを示唆するだろう。

 一方で、あまりに長期にバイパスライナーを留置することは、アンカー部分の破裂、バイパスライナーの位置異常、閉塞などの重症の有害作用につながるかもしれない。

 実際、350例中55例(15.7%)という有害作用の頻度は思ったよりも高い。

 以前紹介した内視鏡下十二指腸粘膜焼灼術では、手技に伴う一過性の腹痛が40例中8例(20.0%)に生じたものの、十二指腸狭窄のような問題は3例(7.5%)にしか生じていなかった(Diabetes Care 2016;39:2254-2261)。

 可逆的であるとはいえ、バイパスライナーにはまだ課題が残されているようである。

 バイパスライナーに長期の有効性と安全性の課題が残る限り、糖尿病専門医が職にあぶれる懸念は低そうである。
nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:健康

がんと糖尿病、どんな関係? [医学・医療短信]

がんは糖尿病の独立したリスク因子
韓国・52万人超の研究

 糖尿病はがん発症のリスク因子であるが、がんが糖尿病発症のリスク因子となるかどうかはまだ結論が出ていない。

 韓国・National Cancer CenterのYul Hwangbo氏らは、韓国人52万人超を対象に、がんが糖尿病の発症リスク因子となるかどうかを検討した。

 その結果、がんは糖尿病発症の独立したリスク因子であるとJAMA Oncol(米国医師会雑誌 腫瘍学)で報告した。

 9種類のがんが関連

 韓国には単一支払者制度による医療制度が存在し、全ての入院、外来患者記録はNational Health Insurance Service(NHIS)が管理している。

 Hwangbo氏らは今回、NHISの記録を用いて韓国国民の2.2%を代表するサンプルのデータから2003年1月1日~13年12月31日に最低1回検診を受けた患者のうち、ベースライン時に糖尿病がなく、がんの既往がない52万4,089人(年齢20~70歳)を抽出し、がん発症と将来の糖尿病発症リスクの上昇との関連を検討した。

 349万2,935.6人・年(追跡期間中央値7.0年、四分位範囲4.0~10.0年)の追跡期間中に1万5,130例ががんを発症した。

 がん発症者は非発症者よりも高齢で、女性、毎日飲酒、BMI高値、併存症の割合が高かった。

 追跡期間中に2万6,610例が糖尿病を発症した。

 このうち、がん発症後に糖尿病を発症した者は834例(発症率17.4/1,000人・年)で、2万5,776例はがん発症前に糖尿病を発症またはがん非発症者であった(同7.5/1,000人・年)。

 年齢、性、がん/糖尿病リスク因子、内分泌因子、併存症を調整後、がんに関連した糖尿病のハザード比(HR)は1.35(95%CI 1.26~1.45、P<0.001)だった。

 がん発症後の糖尿病発症のHRは、1~2年後が1.47 (95%CI 1.35~1.60)、3~5年後が1.14(同 0.97~1.33)、6~10年後が1.19 (同1.00~1.43)と、2年後までの上昇幅の度合いが最も高く、その後も高値を維持していた。

 糖尿病発症リスクの上昇と有意に関連したがんは9種類で、膵がん(HR 5.15、95%CI 3.32~7.99)が最も高く、次いで腎がん(同2.06、1.34~3.16)、肝がん(同1.95、1.50~2.54)、胆囊《環境依存文字・記:注意》がん(同1.79、1.08~2.98)、肺がん(同, 1.74、 1.34~2.24)、血液がん(同1.61、1.07~2.43)、乳がん(同1.60、1.27~2.01)、胃がん(同1.35、1.16~1.58)、甲状腺がん(同1.33、1.12~1.59)の順だった。

 精巣がんと脳腫瘍の発症は糖尿病発症リスクの上昇と関連していたが、症例数が少なく、統計学的に有意ではなかった。

 子宮、卵巣、大腸、頭頸部、食道、前立腺がんの発症は糖尿病発症リスクの上昇とは関連していなかった。

 Hwangbo氏らは、

「今回の研究から、一部のがんは既存のリスク因子とは独立して、将来の糖尿病発症リスクの上昇に関連していることが分かった。

 がん患者はそうでない人よりも糖尿病を発症するリスクが高いことを認識し、ルーチンに糖尿病のスクリーニングを行うことを考慮すべきである」と結論している。(大江 円)

 医学新聞「Medical Tribune」による。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:健康

要注意!「臭い」「回数が多い」 [健康短信]

おならが「臭い」「回数が多い」ときは要注意!

 「毎日新聞 医療プレミア」 ヘルスデーニュース

 おならは、口から入った空気と、腸内で食べ物が分解されるときに発生するガスが混ざったものです。

 腸の動き(蠕動<ぜんどう>運動)が低下しているとおならは出ません。

 そのため、おならが出るのは悪いことではないのです。

 しかし、やたらと回数が増えたり、おならが臭くなったりするときは原因があるはずです。

 おならが増える原因として、ひとつに「口から飲み込む空気の増加」が考えられます。

 その場合「呑気症(どんきしょう)/空気嚥下(えんげ)症」が疑われます。

 私たちは緊張したときなどストレスがかかると、無意識につばを飲み込んでいます。

 そのとき同時に空気も取り込んでしまっているのです。

 呑気症の症状は、頻繁なおならのほかに、ゲップがでる、胃腸の不快感がある、おなかのはりがある、息苦しいなどの症状がみられます。

 食事はゆっくりとるなどの生活習慣の改善とともに、ストレス緩和が必要となります。

 とはいえ、頻繁に出るおならの原因の多くは、「腸内ガスの大量発生」と考えられます。

 ガスの発生には、腸内の善玉菌/悪玉菌が大きく関わっています。

 善玉菌は食物繊維や炭水化物を分解します。

 そのときにガスが発生しますが、このガスは二酸化炭素やメタンで、においはほとんどありません。

 たとえば、サツマイモなど食物繊維を多く含む食品を食べたあと、あまり臭くないおならが一時的に増えます。

 腸が元気に働いている証拠なので心配はいりません。

 一方、悪玉菌は肉類などのたんぱく質や脂質を分解します。

 そのときに発生するガスは、アンモニアや硫化水素、スカトールといったにおいのあるもの。

 肉類を多くとっている、食生活が乱れている、便秘をしているなど、悪玉菌が増える生活を続けていると、臭いおならが出やすくなります。

 また、悪玉菌の増殖によって発生するガス(有毒ガス)は、腸の粘膜から血管に入り、血液によって全身に運ばれると、肌荒れ、口臭、体臭の原因にもなります。

 有毒ガスは腸壁を傷つけるだけでなく、大腸がんの原因物質を発生することもわかっています。

 さらには、腸内の免疫機能に悪影響を及ぼすため、アレルギー疾患を発症しやすくなることが明らかになっています。

 したがって、「臭いおなら」を我慢すると、有毒ガスを腸内にため込むことになり、ますます腸内環境を悪化させてしまいます。

 そもそも、おならは生理現象の一つです。トイレに行って出すなど、できるだけ我慢しないようにしましょう。

 おならの悩みは腸内環境を整えることで改善できます。

 ヨーグルト・チーズ・納豆などの乳酸菌食品や、野菜・海藻・きのこ類など食物繊維を積極的に食べるようにしましょう。

 また、便秘解消には、ストレッチなど軽い運動のほか、休息をとるなどストレス対策が有効です。

 監修:南雲久美子(目黒西口クリニック院長)
 「ケータイ家庭の医学」2018年3月掲載より (C)保健同人社
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:健康

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。