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前立腺がん、骨転移マネジメントが重要 [ひとこと養生記]

 日本における前立腺がんの罹患者数は右肩上がりに増加しており、2015年には男性の部位別罹患者数で第1位となり、さらに世界における部位別新規罹患者数でも第1位となった。

 前立腺がんは治療後、転移後でも生存期間が長く、治療戦略と転移のマネジメントが重要となってくる。

 佐藤威文前立腺クリニック(東京都)院長の佐藤威文氏は、前立腺がんの現状と骨転移マネジメントの重要性についてプレスセミナーで解説した。

 高齢になるほど死亡率上昇
 
 2012年時点における日本人男性の部位別がん罹患患者数の将来予測(がん・統計白書2012)では、当時第4位であった前立腺がんの罹患数は2020年に第1位になると予測されていた。

 しかし、2015年には早くも第1位になり、翌2016年も第1位であった(国立がんセンター資料)。

 2017年には第3位に下がったものの、依然として男性のがんでは上位を占めている。

 2017年に発表された1990〜2015年における世界のがん患者数統計によると、前立腺がんの新規罹患者数は2012年には110万人で第2位、2015年には160万人で第1位となっていた。

 前立腺がんは診断後の生存期間が長いといわれるが、臓器別のがん死亡率を見ると、加齢に伴い同がんで死亡する患者が増加することもわかった。

 地域がん登録(2016年)における部位別5年生存率では、前立腺がんは遠隔転移があっても他の部位に比べて5年相対生存率が高く、50%を超えていた。

 佐藤医師は、
「前立腺がんは遠隔転移があっても、治療によって生存期間が延長できる特異的ながんといえる。積極的に治療すべきがん種である」と話した。

 40歳以上の年齢別、部位別のがん死亡者数割合では、高齢者になるほど死亡率が低下する乳腺などとは異なり、前立腺では高齢者になるほど死亡率が上昇することが特徴である。

 後期高齢者・超高齢者に対する骨転移治療は重要なポイントといえる。

 骨関連事象の有無で医療費に差

 ホルモン療法で効果が得られない去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)では特に骨転移が起こりやすく、約90%で骨転移が見られる。

 ホルモン療法を行うと骨密度が低下し、骨粗鬆症を発症しやすくなり、さらに前立腺がんの再燃が生じる。

 その段階ではホルモン抵抗性のがん細胞が増加し、骨転移も進行しており、骨関連事象(SRE)や症候性骨関連事象(SSE)なども起こる。

 前立腺がんでは、5〜10年という長いスパンで骨の健康に取り組む必要があり、その際はSREやSSEのマネジメント(病的骨折、骨への外科的処置、骨髄圧迫による神経損傷、骨への緩和照射など)が非常に重要となる。

 骨転移に伴うSREやSSEでは、

① 移動能力の低下
② QOLの低下
③ 医療費の増加
④ 生存期間への影響−などが問題となる。

 日本の実臨床においても、SREとSSEの頻度や医療費の増加などが問題視されている。

 佐藤医師らは、2005年10月〜16年3月のデータを用いて、骨転移を有するCRPC患者の1年ごとの医療費やSREの頻度などについて報告している。

 その結果、CRPC患者4,001例のうち771例(19.3%)でSREが出現していた。

 SREは1回だけとは限らず、同じ患者に反復して起こる。

 また、SREの有無による年間医療費の比較では、年間直接医療費(平均)はSREがない患者の65万9,006円に対しSREがある患者では107万4,885円と、有意差が認められた。

 放射線核種治療はQOL維持効果も高い

 骨転移のマネジメントとして推奨されているのは、まず緩和照射(放射線療法)、次いで骨修飾薬(BMA)による薬物療法。

 さらに、骨転移に対する放射線核種治療があり、骨転移の疼痛緩和を目的とするストロンチウム、
SSEの発現抑制と生存期間の延長を目的とする塩化ラジウムの2種類が用いられる。

 放射線核種治療では、放射線が骨転移層に直接取り込まれ、そこでβ線またはα線を放出することによって、がん細胞DNAの二重らせん構造を分断し、転移を抑制する。

 α線はβ線と比べて殺細胞効果が強い。

 α線は治療効果が高く、CRPC患者を対象としたランダム化比較試験では、SSE発生までの期間、全生存期間とも有意な延長が認められた。

 佐藤医師は、「これまで医療従事者は、がん治療において優先すべきはOS(全生存期間)の延長であるとの教育を受けてきた。

 しかし、近年は世界的にも質調整生存年を重視する方向に変化している」と指摘した。

 α線治療はQOLの点でも効果が高いことが示され、治療後12カ月以内の平均入院期間を短縮させることもわかった。

 骨転移ではALP値のモニターが重要

 α線治療においては、骨転移により上昇するALP(アルカリホスファターゼ)値が大きく上昇するが、その後に同値が改善した(下がった)患者と上がったままの患者では生存期間(中央値)に差が認められた。

 また、転移を有するCRPCにおける初回化学療法からの生存期間予測モデルによると、前立腺特異抗原(PSA)値に比べてALP値は大きく生存期間延長に寄与することが分かった。

 佐藤医師は、

「前立腺がんの治療では、PSA値を下げることを目標にしがちだが、骨転移においてはALP値をモニターすることが重要となる。

 また、骨転移治療は疼痛緩和だけでなく生存期間の延長を狙う標的へと変化してきた」と説明。

「前立腺がんの自然史は、外科手術後の再発から転移までの中央値が8年、転移からがん死までの中央値が5年と、長期間のがんコントロールが可能である。

そのため、諦めないで治療を継続することが重要である」と強調した。
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