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爆発的にふえるPADへの対応 [ひとこと養生記]


 爆発的に増えるPADへの対応を考える
 慶應義塾大学循環器内科専任講師 香坂 俊


 PAD(末梢動脈疾患)は足の血管に動脈硬化が起こって、十分な血液が流れなくなることで発症します。

 かつてはASO(閉塞性動脈硬化症)などとも呼ばれていましたが、罹病者数がふえるにつれて「大血管の閉塞」ばかりでなく「狭窄」や「中・小血管」でも臨床的に問題になることがふえてきたことを受けてPADという用語が多く使われるようになってきています。

 心臓の冠動脈と違い、足は血管が何本も末梢に向けて流れています。

 大腿動脈に対応して深大腿動脈などの細かい枝が何本かあります。

 膝下ではさらに前脛骨、後脛骨、腓骨動脈の3本に分かれ、それぞれが枝を出しています。

 ですので、1本や2本閉塞したとしても心臓のようにすぐに心筋梗塞になるということはないのですが、最近は患者さんの高齢化に伴い、1本がすでに狭くなっていたところに、さらにもう1本も閉塞してしまうということが起こるようになり、米国では55歳以上の成人の10%程度にPADがあると推計されています。

 PADに対する治療法

  虫食いのように狭窄や閉塞が多発しているPAD患者さんに対して、現場はどう対応しているかといえば、

 片っ端から病変をカテーテルで開ける

 リハビリテーションを積極的に行う

 たまに血管バイパス手術を行ったりすることもあり

 という感じかと思います。

 この辺りの対処法は冠動脈疾患(CAD)の治療と似ているのですが、PADについてはこれが有効!という明確な指針がまだ示されておらず、施設やドクターによってやっていることはずいぶん違います。

 最近の報告ですが、ズバリ「末梢動脈疾患の予防法及びカウンセリングの活用不足について」という論文も出ており、PADに対する方針の徹底というところは国際的にも問題になっています。

 この論文では米国のナショナルデータを使ってPAD患者に対する外来での対応の仕方をデータ化していますが、抗血小板薬やスタチンの使用が35~40%以下にとどまるというさんたんたる結果を示しており(これに対してCAD患者での使用率はいずれも90%以上)、PADの対応にはなにかブレイクスルーが必要と長年言われ続けてきました。

 足の血管障害に抗凝固薬?

 そこに一石を投じる研究が昨年(2017年)秋に公表されました。

 ① CADまたはPAD患者を登録

 ② 登録患者を下記の3群にランダム化

 (ア) 標準治療である抗血小板薬単剤投与(アスピリン単剤)

 (イ) 低用量抗凝固薬投与(リバーロキサバン10mgx2)

 (ウ) 両者併用投与

 ③ 予後平均2年間追跡し主要心血管イベント(MACE)を検証

 ④ 結果として(イ)と(ウ)の低用量抗凝固薬を併用した群でMACE(心血管イベント)の有意な改善が認められた。

 抗凝固薬について、これまでCADでもPADでも「強過ぎる」ということが問題でした。

 2002年のWARIS試験では心筋梗塞患者に対してワルファリンがダメ[出血リスク増加]

 2012年のATLAS TIMI 52試験ではPCI(経皮的冠動脈形成術)後の患者さんで低用量の新規抗凝固薬がダメ[同じく出血リスク増加]

 しかし、このCOMPASS試験では低用量抗凝固薬群のトータルベネフィットが抗血小板薬単剤群を上回り、ようやく「動脈系疾患での理想的な抗凝固薬の投与量が提示できたかのか?」というブレイクスルーを示すことに成功しました。

 しかし、トータルのMACEでの結果は良好であったものの、非致死的な出血(特に消化管出血)は低用量抗凝固薬使用群で多く、もっとこの積極的治療の良い適応となる患者群を絞り切れないのか?というところが課題として残ったわけです。
 
 そこで今回のサブ解析の論文は、PADの患者に限定したらCOMPASS試験の結果はどうなるかということを示したものです。

 結論から書きますが、CADの患者に限定したサブ解析(全体のおおよそ7割)と比較し、PAD群(全体のおおよそ3割)ではより明確に低用量抗凝固薬使用のベネフィットが得られています。

 さらに重要なポイントとして、PAD患者では低用量抗凝固薬使用群において【脚切断】というハードエンドポイントのリスクも下がるということもこのサブ解析で示されています。

 私の考え:PADの薬物療法に関する議論がようやく始まる

 これまでPADに関しては「何をしていいかよく分からない」というのが正直なところであったかと思います。

 ですが患者さんの数はふえ続け、おそらく近い将来幅広い科でABIを測ってスクリーニングを行っていくことになるのではないでしょうか?そうしたときに、まず治療法として提示できるのがアスピリンだけでは寂しいので、明確にPADと認識された方には低用量抗凝固療法を試み、次にカテーテルインターベンションなどを考えていくというステップに応じた治療戦略を今後考えることができるようになるのではないでしょうか?

  NOACやDOACと呼ばれる新規経口凝抗固薬の導入に伴い、かなり心房細動や深部静脈血栓症患者に対する治療法の理解が進んだが、同じようなことがPAD患者に関しても起こることを期待したいと思います。

 あす2月10日は「フットケアの日」。

 糖尿病や末梢動脈疾患による足病変の予防・早期発見・早期治療の啓発を目的に、日本フットケア学会、日本下肢救済・足病学会、日本メドトロニックが制定、日本記念日協会が認定した。

 2と10でフット(足)の語呂合わせから決められた。 

(医学誌『Medical Tribune』による)
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