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たばこの安全レベルは? [ひとこと養生記]

喫煙に安全なレベルは存在しない

 全世界で約10億人の成人が喫煙している。

 英国では喫煙者の26%が禁煙ではなくて喫煙量を減らしたいと希望し、2013年と2014年に喫煙者の40〜41%が以前より喫煙量を減らしたという報告がなされた。

 2009~14年に全喫煙者に占める1日にたばこを1〜5本しか喫煙しない人の割合が18.2%から23.6%に増加した。

 米国でも2005~15年に全喫煙者に占める1日の喫煙量が10本未満の人の割合が16%から27%に増加した。

 一般的にニコチンやタール含有量の少ないたばこ(軽いたばこ)では、喫煙本数が少なければ比較的安全であると信じられているが、実際は間違っている。

 米国の成人2万4,658人の10%が「軽いたばこは有害ではない」と答え、軽いたばこの喫煙者のうち「喫煙習慣が多くの害に関連している」と考えていたのはわずか35%であった。

 わが国でも「喫煙量を減らした量に比例して害が減る」と考える喫煙者が多く、「喫煙本数を減らす」、「軽いたばこに変更する」、最近では「加熱式たばこに変更する」ことで喫煙による害を減らそうとするケースがよく見受けられる。

 実際、肺がんでは喫煙本数を1日20本から1本に減らすことでリスクは5%に減少する、と報告されている(それでもかなりリスクが高い)。

 しかし、これまでの研究で、喫煙本数と心血管疾患の関係は非線形であり、喫煙本数を減らしても減らした量に比例してリスクは減らないことが示されている。

 今回取り上げた論文では、1日1〜5本の少ない喫煙本数における冠動脈疾患と脳卒中のリスクを定量化するために喫煙量と心血管疾患の関連を検討した。

 研究のポイント:1日1本のみの喫煙でも、冠動脈疾患や脳卒中のリスクが予想以上に高い。

 喫煙未経験者に対する冠動脈疾患の相対リスクは、男性では1日1本で1.48倍、1日20本で2.04倍。

 女性では1日1本で1.57倍、1日20本で2.84倍であった。

 1日20本の喫煙によって増加するリスクに対する1日1本の喫煙によって増加するリスクの割合(過剰相対リスク)は、男性で46%、女性で31%(同38%)であった。

 喫煙未経験者に対する脳卒中の相対リスクは、男性では1日1本で1.25倍、1日20本で1.64倍、女性ではそれぞれ1.31倍、2.16倍であった。

 1日20本の喫煙によって増加するリスクに対する1日1本の喫煙によって増加するリスクの割合(過剰相対リスク)は、男性で41%、女性で34%であった。

 結論として、1日1本のみの喫煙でも、冠動脈疾患や脳卒中のリスクが予想以上に高い(1日20本喫煙による増加リスクの約半分)という結果となった。

 心血管疾患に関して安全なレベルの喫煙は存在しないので、喫煙者はこれらの疾患のリスクを有意に減らすためには喫煙本数を減らすのではなくて、喫煙を止めるべきである。

 健康のためには禁煙は必須

1.1日1箱(20本)の喫煙に比べて1日1本の喫煙では脳卒中リスクは半減するのみ

 前述の通り、肺がんでは喫煙量を減らした比率に応じてリスクが減る(喫煙量を1日20本から1本にすればリスクは5%に減少)ことが報告されている。

 同様に心血管疾患でも、喫煙量を1日20本から1本に減らすと心臓発作や脳卒中リスクが5%(20分の1)に減ると考えがちだが、今回のメタ解析では1日1本では20本に比べてリスクの増加が半減するだけであることが示された。

 また過去には、たばこ煙曝露量と虚血性心疾患の用量反応関係は線形ではないと報告されており、今回、冠動脈疾患とともに脳卒中でも同様の結果が示された。

 多くの喫煙者は、軽いたばこに変更する、喫煙本数を減らすことでたばこの害を減らせる、と信じているようだが、禁煙を推奨する心血管疾患領域の専門家の間では軽いたばこへの変更や喫煙本数の減少は、喫煙者が期待しているほどのリスク軽減にならないと考えられてきたことが、さらに確実になった。

 1日1本のたばこでも冠動脈疾患と脳卒中の発症リスクが非常に高くなることを喫煙者に理解してもらう必要がある。

 医学誌『Medical Tribune』掲載の論文を要約・転載。
 筆者は、橋本 洋一郎・熊本市民病院神経内科医師。

 橋本 洋一郎 1981年鹿児島大学医学部卒・熊本大学第一内科入局、1984年国立循環器病センター、1987年熊大第一内科、1993年熊本市民病院神経内科。
 専門は脳梗塞、頭痛、禁煙支援、リハビリテーション、医療連携。
 急性期病院の医師として脳卒中診療ネットワーク構築の中で色々な活動を行っている。
 日本脳卒中学会・日本頭痛学会・日本禁煙学会の理事。
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