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問題あり? 糖尿病の食事療法。 [医学・医療短信]

糖尿病の食事療法「カロリー制限」で栄養不足に?
  成田崇信 / 管理栄養士

 糖質制限食を、糖尿病の食事療法の一つとするかどうか、国内では議論が続いています。

 糖質制限食には、長期的な安全性や有効性などについて批判がありますが、実は、従来のエネルギー(カロリー)制限による糖尿病の食事療法にも大きな問題があります。

 その問題を詳しく解説したいと思います。

 糖尿病の人の適切なエネルギー摂取量とは

 糖尿病の食事療法と言えば、エネルギーを制限したバランスのよい食事をイメージする人が多いでしょう。

 実際に肥満がある場合は、減量によって血糖値を下げるホルモンであるインスリンの効きがよくなり、血糖値を適切な範囲に保つ「血糖コントロール」を改善するケースが多いことが知られています。

 ただ、厳しいエネルギー制限はつらいため、流行している「エネルギー制限はせずに糖質をとる量を減らす」糖質制限食に興味を持っている患者も多いようです。

 実際のところ、糖尿病であっても肥満傾向がなければ体重を減らす必要はなく、消費するエネルギーに見合った栄養量をとることが目標になります。

 このことは糖尿病の診療指針を定めた「糖尿病の診療ガイドライン2016」にも書かれています。

 しかし病院では、肥満傾向のない人にもエネルギー制限のある糖尿病食が提供されたり、栄養指導でもエネルギー摂取量を減らすように教育されたりすることが多いようです。

糖尿病の人は「エネルギー消費量が2割少ない」は根拠がある?

 なぜ、必要のない人にもエネルギー制限が指示されるのか。

 その理由の一つに、糖尿病の食事療法で用いられる、「摂取すべき総エネルギー量の算出式」の問題が考えられます。

 この算出式は上述の診療ガイドラインにも記載されています。

 問題点を明らかにするために、身長170cm、体重63.6kg(体格を示す指数BMIは糖尿病診療ガイドラインによる目標値の22)の男性を例に、糖尿病診療ガイドラインに基づいて、摂取すべき総エネルギー量を計算します。

 そして、国民の摂取すべきエネルギーや栄養素を定めた「日本人の食事摂取基準2015」に基づいて、エネルギー消費量を計算して、両者を比較します。

 目標の体格にもかかわらず、糖尿病診療ガイドラインの総エネルギー量は、食事摂取基準のエネルギー消費量に比べ、20%ほど低くエネルギー量を算出してしまいます。

 これを「適切なもの」とするには、「糖尿病患者は糖尿病でない人に比べて、エネルギー消費量が2割ほど少ない」というデータが必要です。

 糖尿病の人のエネルギー消費量は「普通の人と変わらない」という報告

 本当に糖尿病の人はエネルギー消費量が少ないのでしょうか。

 これについては「日本人の食事摂取基準2015」に次のような記載があります。

「糖尿病者の基礎代謝量は、健康な人に比べて差がないか5~7%程度高いとする報告が多い」

「糖尿病患者で二重標識水法(※日常生活でのエネルギー消費量を、現時点で最も正確に調べられるとされる測定法)により総エネルギー消費量を見た研究は少ないが、やはり、糖尿病患者と耐糖能(体内の糖分を処理する能力)正常者の間で総エネルギー消費量に差を認められていない」

 つまり、「糖尿病の人のエネルギー消費量は、糖尿病でない人と変わらないか、むしろ5~7%高い」と報告されているのです。

 ここで根拠として採用されている論文は日本人を対象としたものではありません。

 そのためこれまで、「日本人ではどうなのか」という議論の余地はありました。

 しかし最近、日本人を対象とした2型糖尿病患者の男性12人と、体格がほぼ同じ糖尿病でない男性10人に対し、二重標識水法を用いた総エネルギー消費量を測定した論文が公表されました。

 結果は、糖尿病の人のグループと、糖尿病でない人のグループの総エネルギー消費量には、統計的に有意な差はなかったと報告されました。海外で過去に行われた研究とも矛盾しない結果です。

 標準的な糖尿病の食事療法で栄養不足に陥る危険性も

 糖尿病の治療は、食事療法と並び運動習慣を持つことが大切です。

 しかし、必要なエネルギーをとることのできないエネルギー制限食を処方されていては、運動のためのエネルギーを確保できないでしょう。

 私の知人の糖尿病の人から、「医師に指示された食事量をきちんと守り、BMI20を切るぐらいの体格でがんばっているのに、一向に血糖コントロールが改善しない。十分に食べていないので運動に必要な筋肉も落ちてしまう」という悩みを打ち明けられたことがあります。

 これまで糖尿病のエネルギー制限食の問題があまり指摘されてこなかった理由として、厳しい制限のため、厳密に食事制限をする人が少なく、結果的に望ましい食事をとっていた可能性が挙げられます。

 実は、食事の記録などから割り出したエネルギー摂取量は、過少申告によって実際より少なくなることが分かっています。

 ただし、前述したように真面目に食事制限を守る患者や、病院で標準的なエネルギー制限食を食べている人は、本当に栄養不足に陥ってしまう危険性があるのです。

 真面目にエネルギー制限食に取り組んでも思ったような効果が得られなかった人が、注目したのが糖質制限食だったのでしょう。

 実行した人が「食事をしっかり食べても血糖コントロールが悪化せず、同時に運動できる体力も戻ってきた」などとブログや掲示板などで伝えたことが、糖質制限食が広がる一つのきっかけであったと考えられます。

糖尿病の食事療法は検証が必要な時期では

 糖尿病学会は「糖尿病診療ガイドライン2016」の中で、

「総エネルギー摂取量を制限せずに、炭水化物のみを極端に制限することによって減量を図ることは、その本来の効果のみならず、長期的な食事療法としての遵守性や安全性など重要な点についてこれを担保するエビデンス(根拠)が不足しており、現時点では勧められない」としています。

 しかし、標準的な糖尿病の食事療法であるエネルギー制限食は、効果や安全性について明確な根拠があって実施されてきたのでしょうか。検証が必要な時期が来ていると思います。

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