快適睡眠の三つの法 [医学・医療短信]
寒い冬の夜も快適に眠るための三つの法則
内村直尚 / 久留米大学教授
暑さによる寝つきにくさ、寝苦しさを訴える人は、四季の中では夏に多いものですが、気温が低下する冬においても「ぐっすり眠れない」と訴える方は少なくありません。
この理由は何だと思いますか?
多分多くの方が「寒いから」と答えるでしょう。
これは一部正解です。
冬の眠りにくさの原因と解決法についてお話しします。
だらだらと寝床にいるのは禁物
冬は朝の冷え込みのために目覚めた後も布団から出るのがおっくうな人は少なくないと思います。
また、夜もやはり寒さを回避するために布団を暖房代わりに早々と潜り込んで横になったままテレビを見ている人の話もよく聞きます。
こうした「布団とお友達」という状態が睡眠の質を下げることをご存じでしょうか?
2009年度厚生労働科学研究「睡眠習慣と不眠に関する研究」(分担研究者:内山真・日本大学医学部精神医学系教授)では、成人2559人の面談調査から寝床にいる時間(床上時間)と夜中に目が覚めて、睡眠の質を下げてしまう「中途覚醒」の関係を明らかにしています。
それによると、中途覚醒の頻度は床上時間が6時間未満の人が25.2%、6時間~8時間台の人が24.8%でしたが、9時間以上の人では44.3%と急上昇しました。
つまり、寝床にいる時間が長いほど中途覚醒を認め、睡眠の質が悪くなるという結果が示されたのです。
なぜこのようなことが起こるのかについて、簡単に解説しましょう。
人が日中に眠気を感じずに日常生活を送る睡眠時間は、各種調査では成人の場合で6~7時間ぐらいが最も多いものです。
そして人には体内時計があるため、個々人により望ましい睡眠時間は異なりますが、このそれぞれの望ましい睡眠時間は、体内時計が記憶し調整しています。
体内時計は、寝床にいる時間についても睡眠時間として扱うため、望ましい睡眠時間を超えて過度に長く寝床にいると、余分に寝床にいた時間の一部を中途覚醒という状態に置き換え、調整してしまう可能性があるということです。
また、床上時間が長くなれば活動する時間が減少するため、その結果、夜間の睡眠の質が低下し、中途覚醒も増えます。
寝床に早く入った割には、かえってよく眠れなかったということになりかねません。
とはいえ、人は寝床に入ってから眠りにつくまで一定の時間は要します。
その時間はおおむね30分以内です。
一方、目が覚めてから寝床を出るまでは、あまり時間を要しません。
このように考えると、床上時間は自分にとっての適切な睡眠時間プラス1時間程度にとどめた方が睡眠の質を下げずにすむのです。
実際、不眠を訴える方に対し、私たちが睡眠改善薬などを使用せずに治療する場合、床上時間を短めにする認知行動療法が一般的です。
冬こそ積極的に日光浴を
一方、人の体内には、脈拍・体温・血圧などを低下させ、人を眠りに導くメラトニンと呼ばれるホルモンが存在します。
メラトニンの分泌量は体内時計の作用で1日の中で変動しています。
起床後に太陽光を浴びると分泌量が低下し始め、その約15~16時間後に分泌量が増加し始めます。
つまり人の体は、起きてから15時間たたないと眠くならない仕組みだということです。
一方で、太陽光を浴びると、体内時計の働きで人は心身とも活動性が上昇します。
ところが冬は日の出が遅く、日照時間が短いのが特徴です。
これに加え、冬に天気の悪い時は短い日照時間で浴びることができる太陽光も弱くなるので、他の季節と比べてメラトニンの分泌調整がうまくいかなくなります。
その結果、就寝予定時刻とメラトニン分泌が増える時間が一致せず、眠りにくくなるのです。
これを防ぐには、まずは日の出が遅いことや寒いことを理由に、他の季節よりも起床時間を遅めにしないことです。
それに加え、起床直後に軽く散歩するなど積極的に太陽光を浴びることを心掛けることです。
寝室の室温は15度前後に
さらに寝室の室温も重要になります。
夜になると、人の体内では心身をリラックスさせる副交感神経が活発になります。
この結果、一時的に末梢(まっしょう)の血管が拡張して皮膚の表面から放熱し、体の中心の温度である深部体温を低下させます。この過程が入眠には必須です。
ところが寝室の室温があまりに低いと、人の体は体温を保持しようとして末梢血管が収縮し、深部体温の低下に向けた皮膚表面からの放熱がうまく行われず、入眠しにくくなります。
睡眠に最適な室温は季節によって異なり、経験的に冬の場合は約15度と言われています。
そのため就寝30分前ぐらいから寝室に暖房を入れ、寝室の室温を15度程度に保つことが必要になります。
ただ暖房を入れっぱなしにすると、放熱後の体温低下がうまくいかないばかりか、睡眠中に体温が上昇し、中途覚醒を起こしやすくなるのでお勧めできません。
暖房にタイマー機能があれば、それを利用して、眠ってからスイッチが切れるようにすれば良いでしょう。
ただし、タイマーが切れた後、急速に室温が低下してしまうと、それが原因で深部体温の低下が行えず、中途覚醒を引き起こすこともありますので注意が必要です。
では、温度調節をするにはどうすれば良いのでしょうか。
入眠に合わせてより緩やかに温度が低下していく睡眠に適した暖房器具があります。
それは「湯たんぽ」です。
世代によっては大きい銀の小判のような古典的な湯たんぽを思い浮かべる方もいるようですが、最近では湯たんぽカバーの種類も豊富で、ぬいぐるみ形のものや手触りもいいおしゃれなものもあるようです。
このように三つの条件を整えるだけでも、寒い冬に快適な睡眠を得られることでしょう。
ぜひ試していただきたいと思います。【聞き手=ジャーナリスト・村上和巳】
内村直尚 / 久留米大学教授
暑さによる寝つきにくさ、寝苦しさを訴える人は、四季の中では夏に多いものですが、気温が低下する冬においても「ぐっすり眠れない」と訴える方は少なくありません。
この理由は何だと思いますか?
多分多くの方が「寒いから」と答えるでしょう。
これは一部正解です。
冬の眠りにくさの原因と解決法についてお話しします。
だらだらと寝床にいるのは禁物
冬は朝の冷え込みのために目覚めた後も布団から出るのがおっくうな人は少なくないと思います。
また、夜もやはり寒さを回避するために布団を暖房代わりに早々と潜り込んで横になったままテレビを見ている人の話もよく聞きます。
こうした「布団とお友達」という状態が睡眠の質を下げることをご存じでしょうか?
2009年度厚生労働科学研究「睡眠習慣と不眠に関する研究」(分担研究者:内山真・日本大学医学部精神医学系教授)では、成人2559人の面談調査から寝床にいる時間(床上時間)と夜中に目が覚めて、睡眠の質を下げてしまう「中途覚醒」の関係を明らかにしています。
それによると、中途覚醒の頻度は床上時間が6時間未満の人が25.2%、6時間~8時間台の人が24.8%でしたが、9時間以上の人では44.3%と急上昇しました。
つまり、寝床にいる時間が長いほど中途覚醒を認め、睡眠の質が悪くなるという結果が示されたのです。
なぜこのようなことが起こるのかについて、簡単に解説しましょう。
人が日中に眠気を感じずに日常生活を送る睡眠時間は、各種調査では成人の場合で6~7時間ぐらいが最も多いものです。
そして人には体内時計があるため、個々人により望ましい睡眠時間は異なりますが、このそれぞれの望ましい睡眠時間は、体内時計が記憶し調整しています。
体内時計は、寝床にいる時間についても睡眠時間として扱うため、望ましい睡眠時間を超えて過度に長く寝床にいると、余分に寝床にいた時間の一部を中途覚醒という状態に置き換え、調整してしまう可能性があるということです。
また、床上時間が長くなれば活動する時間が減少するため、その結果、夜間の睡眠の質が低下し、中途覚醒も増えます。
寝床に早く入った割には、かえってよく眠れなかったということになりかねません。
とはいえ、人は寝床に入ってから眠りにつくまで一定の時間は要します。
その時間はおおむね30分以内です。
一方、目が覚めてから寝床を出るまでは、あまり時間を要しません。
このように考えると、床上時間は自分にとっての適切な睡眠時間プラス1時間程度にとどめた方が睡眠の質を下げずにすむのです。
実際、不眠を訴える方に対し、私たちが睡眠改善薬などを使用せずに治療する場合、床上時間を短めにする認知行動療法が一般的です。
冬こそ積極的に日光浴を
一方、人の体内には、脈拍・体温・血圧などを低下させ、人を眠りに導くメラトニンと呼ばれるホルモンが存在します。
メラトニンの分泌量は体内時計の作用で1日の中で変動しています。
起床後に太陽光を浴びると分泌量が低下し始め、その約15~16時間後に分泌量が増加し始めます。
つまり人の体は、起きてから15時間たたないと眠くならない仕組みだということです。
一方で、太陽光を浴びると、体内時計の働きで人は心身とも活動性が上昇します。
ところが冬は日の出が遅く、日照時間が短いのが特徴です。
これに加え、冬に天気の悪い時は短い日照時間で浴びることができる太陽光も弱くなるので、他の季節と比べてメラトニンの分泌調整がうまくいかなくなります。
その結果、就寝予定時刻とメラトニン分泌が増える時間が一致せず、眠りにくくなるのです。
これを防ぐには、まずは日の出が遅いことや寒いことを理由に、他の季節よりも起床時間を遅めにしないことです。
それに加え、起床直後に軽く散歩するなど積極的に太陽光を浴びることを心掛けることです。
寝室の室温は15度前後に
さらに寝室の室温も重要になります。
夜になると、人の体内では心身をリラックスさせる副交感神経が活発になります。
この結果、一時的に末梢(まっしょう)の血管が拡張して皮膚の表面から放熱し、体の中心の温度である深部体温を低下させます。この過程が入眠には必須です。
ところが寝室の室温があまりに低いと、人の体は体温を保持しようとして末梢血管が収縮し、深部体温の低下に向けた皮膚表面からの放熱がうまく行われず、入眠しにくくなります。
睡眠に最適な室温は季節によって異なり、経験的に冬の場合は約15度と言われています。
そのため就寝30分前ぐらいから寝室に暖房を入れ、寝室の室温を15度程度に保つことが必要になります。
ただ暖房を入れっぱなしにすると、放熱後の体温低下がうまくいかないばかりか、睡眠中に体温が上昇し、中途覚醒を起こしやすくなるのでお勧めできません。
暖房にタイマー機能があれば、それを利用して、眠ってからスイッチが切れるようにすれば良いでしょう。
ただし、タイマーが切れた後、急速に室温が低下してしまうと、それが原因で深部体温の低下が行えず、中途覚醒を引き起こすこともありますので注意が必要です。
では、温度調節をするにはどうすれば良いのでしょうか。
入眠に合わせてより緩やかに温度が低下していく睡眠に適した暖房器具があります。
それは「湯たんぽ」です。
世代によっては大きい銀の小判のような古典的な湯たんぽを思い浮かべる方もいるようですが、最近では湯たんぽカバーの種類も豊富で、ぬいぐるみ形のものや手触りもいいおしゃれなものもあるようです。
このように三つの条件を整えるだけでも、寒い冬に快適な睡眠を得られることでしょう。
ぜひ試していただきたいと思います。【聞き手=ジャーナリスト・村上和巳】
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