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徹夜⇒認知症? [医学・医療短信]

「一度の徹夜」はアルツハイマー病への第一歩?

大西睦子 / 内科医

 世界でも有名な、睡眠不足の日本人。

 子供も大人も、睡眠時間を削っては、勉強、仕事や飲み会など深夜まで忙しくしています。

 ところが睡眠は「未来への投資」と言われるほど大切な時間です。

 米国立衛生研究所の国立心肺血液研究所(NHLBI)は「睡眠は一生を通して、私たちの健康と幸せに重要な役割を果たす」と訴え、必要な睡眠時間は人それぞれだとしながらも一般論として、高齢者を含めて18歳以上の人には「1日平均7~8時間の睡眠」を勧めています。

「そんなことはわかっているけど、寝ている時間はない」という読者もいらっしゃるかもしれません。

 それではさらに、短期間の睡眠不足でも、アルツハイマー病につながりかねないとしたらどうでしょう? 

 今回は、米国立衛生研究所(NIH)の薬物乱用研究所(NIDA)所長のノラ・ボルコウ博士らが、今年4月に科学雑誌「米国科学アカデミー紀要」(PNAS)に発表した論文https://などを参考に、「睡眠とアルツハイマー病」のお話です。

 睡眠不足だと脳の中で「ゴミ」が増える!?

 脳の間質液(脳細胞の間にある液体)に含まれる、「アミロイドβ」というたんぱく質は、脳の活動に伴う老廃物、つまり「ゴミ」だと考えられています。

 アルツハイマー病の人の脳では、この「ゴミ」がたまっています。

 アミロイドβが塊状に蓄積すると、脳の組織に染みついて、「老人斑」(アミロイド斑)と呼ばれる染みを作ります。

 老人斑は、アルツハイマー病の人の脳にみられる特徴の一つで、神経細胞の働きを妨げるのです。

 そして、この「ゴミ」はどうも、寝不足だとたまりやすいようです。

 人為的にアルツハイマー病に似た状態にしたショウジョウバエでの実験では、慢性の睡眠不足で、脳内のアミロイドβの蓄積が高まるという結果が出ています。

 また米ウィスコンシン・アルツハイマー病研究センターの研究者らは、脳とつながっている脊髄(せきずい)の内部の液体(脊髄液)の成分を、101人(平均年齢63歳、女性65.3%)で検査し、2017年に「米神経学会」誌で論文として発表しました。

 検査の結果、101人のうちで睡眠の質が悪く睡眠障害や日中の眠気が深刻だった人たちは、睡眠障害のない人たちに比べて、アミロイドβなどアルツハイマー病に関連するとみられる物質が、脊髄液中に多いことが分かりました。

 脳内のゴミは睡眠中に掃除される!? 

 一方、動物実験では▽マウスなどを強制的に慢性の睡眠不足にすると、脳の間質液に含まれるアミロイドβが増える▽アミロイドβが脳から取り除かれるのは、主に睡眠中である――との結果が出ています。

 人間の場合、アミロイドβが脳から取り除かれるメカニズムは完全にはわかっていませんが、最近、やはり睡眠が重要な役割を果たしているという報告があります。

 一晩だけの徹夜でも

 このようにアミロイドβと睡眠について、次々と新しい報告が発表される中、ボルコウ博士たちは、慢性ではなくわずか一晩の睡眠不足が、脳内のアミロイドβを増やしてしまうことを示しました。

 博士たちは、22〜72歳(平均40歳)の健常者20人に協力してもらいました。

 そして、眠り方が脳内のアミロイドβの量に与える影響を調べるための実験を、全員に2回ずつ行い、実験のたびに研究所に1泊してもらいました。

 実験のうち1回では、20人はそれぞれ「好きなだけ眠ってよい」といわれました。

 泊まった晩の午後10時から翌日の午前7時までは、睡眠中かどうかを1時間ごとに看護師が確かめ、実際の睡眠時間を測りました。

 もう1回の実験では、全員が、眠らないように指示され、徹夜して翌日の午後まで約31時間起き続けました。

 本当に眠っていないかどうかは、看護師が監視していました。

 そしてボルコウ博士たちは、この20人を「好きなだけ寝た」翌日と「徹夜した」翌日にそれぞれ、陽電子放射断層撮影(PET)で検査し、脳内のアミロイドβの量を調べました。

 その結果、徹夜明けの日のアミロイドβの量は、よく寝た翌日の量と比べて、平均で約5%増えていました。

(詳しくいうと、徹夜明けの方が約0.6%減った、という人が1人だけいましたが、残りの19人はみな増え、最高は16.1%増でした。)

 また、脳内のどこでアミロイドβが増えたかをみると、主に右の「海馬」や「視床」だと分かりました。

「海馬」は記憶を担う場所、「視床」は、目や耳などから入ってきた情報の中継点となる場所です。

 いずれもアルツハイマー病の初期に、アミロイドβがたまりやすく、傷つきやすいところです。

 さらに、20人にアンケートして気分を聞いてみると、徹夜明けでは疲労感が増し、幸福感が下がるなど、よく眠った後に比べて気分が悪化していることが分かりました。(これは当たり前かもしれません)。

 そして徹夜明けの日に、海馬の部分でアミロイドβが大きく増えた人ほど、よく寝た翌日に比べて、気分の悪化が激しくなっていました。

 海馬や視床の働きが、気分と関係していることは従来から知られており、今回はこうした知識とうまく合う結果になりました。

 この結果から、睡眠不足がアミロイドβの蓄積のリスクを高める可能性が示されました。

 また、良い睡眠の習慣がアルツハイマー病を予防することも考えられます。
 
 実験結果について、博士たちは「眠らないことで、アミロイドβが脳から取り除かれにくくなり、結果として量が増えたのではないか」と推測しています。

 一方で、起き続けている間に、脳内でアミロイドβが作られる量が増えた可能性も否定はできないそうです。

 また「アルツハイマー病の高齢者は、健康な高齢者に比べ、脳内のアミロイドβの量が4割余り増えている」という別の研究結果を引用し「一晩の徹夜での増加(平均5%)はこれに比べ少なかった」と指摘。

 現段階では、徹夜で増えたアミロイドβが、後から十分に眠れば元に戻るのかどうかは、はっきりしないとしています。

 なお、この研究では、睡眠不足とアルツハイマー病との関係について、結論を下すことまではできません。

 まず、脳内に固体となって染みついたアミロイドβ(不溶性)と、脳内の液体に溶けて洗い流されるアミロイドβ(可溶性)の違いは、PET検査ではわかりません。

 ですから、徹夜の結果、脳内でアミロイドβの染み(老人斑)が増えたのかどうかは不明です。

 また、そもそもアミロイドβのレベルが、1日のうちで、時間とともにどのように変化するかは、まだ分かっていません。

 アミロイドβの短期的な変化が、アルツハイマー病の発症リスクと関連しているかも不明です。

 さらに▽睡眠不足と良い睡眠を長期的に繰り返すと、どのくらいアミロイドβのレベルが変化するか▽睡眠不足で増えたアミロイドβの量が、週末の寝だめで元のように減るか――など、さまざまな疑問が残っています。今後の研究が楽しみです。

睡眠不足を軽視しないで

 ところでボルコウ博士は、この論文を発表した後の今年5月末に、米ハーバード大学で講演しました。

 講演の内容の一部を、ハーバード大のホームページなどから紹介します。

 博士は最初に書いた通り「薬物乱用研究所」の所長です。「あれ、なぜ薬物じゃなくて睡眠の研究を?」と不思議に思われる方もいるでしょう。

 博士はもともと、脳の画像を用いて、薬物の毒性や依存性を調べる研究のパイオニアで、薬物中毒が脳の病気であることを実証してきました。

 そして講演で「薬物の研究が睡眠パターンの調査につながった」と説明しました。

 たとえば、コカインは睡眠を妨げる薬です。

 博士は講演で「動物にコカインを与えると眠れなくなり、最終的には生き残れず死亡しました」と語りました。

 一方でコカインなしでも睡眠が欠けると、薬物で起きるのと同様な「記憶の破壊」「覚醒の抑制」「肥満」などが生じるそうです。

 博士は、今回紹介した研究結果にも触れ「一晩の徹夜で生じたアミロイドβの増加は、一晩ぐっすり眠れば元に戻るかもしれない。しかし、睡眠不足が続けば危険なレベルになる可能性がある」と警告しました。
 
 そして「臨床研究は、あまりにもしばしば、睡眠の重要性を無視してきた」と指摘し「睡眠は脳の回復に重要な役割を果たす。その証拠は明らかだ」と訴えました。

 年末忙しくなる方も多いと思いますが、しっかり睡眠時間をとって、良いお年をお迎えください。

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