膵臓は消化酵素を作る工場 [医学・医療短信]
人体のみごとなしくみ 「膵臓」
「隠れた臓器」は消化酵素を作る工場
言うまでもないことですが、漢字は中国から渡来しました。
そして、これまた言うまでもないことですが、日本の漢方も元をたどると中国医学に行きつきます。
しかし、膵臓はそのどちらとも無関係です。
膵臓の「膵」の字は漢字ではないし、漢方の「五臓六腑」に膵臓は含まれていないからです。
「膵」の字は日本でつくられた「国字」で、「膵臓」は日本人がかんがえた臓器の名称です。
「膵臓」は日本語、重要な働きが二つ
膵臓は、胃の裏側にある長さ15~20㌢の細長い臓器です。
右側が太く、左側が細くなったオタマジャクシのような形をしています。
古代ギリシャでは、膵臓は「胃のクッションとなる肉の塊」と考えられ、「パンクレアス(pancreas)」と呼ばれました。
panは「すべて」、creasは「肉」という意味です。
英語のパァンクリィアス(pancreas)もフランス語のパンクレアース(Pancréas)もドイツ語のパンクリアス(Pankreas)も、どれももとはそれです。
もちろん、日本語の「膵臓」も。
膵臓の膵の字は、身体を表わす「月(にくづき)」と、すべてを表わす「萃」を組み合わせて作られた文字です。
余談になりますが、月(にくづき)と月(つきへん)は見分けができないほど酷似していますが、まったくの別字です。
月(にくづき)は、もとが「肉」なので、すべて体にかかわる文字をつくります。胃、脳、胸、肩、肝、膵、胆などなど……。
月へんは欠けた月の形を表わし、暦にも関係しているので、漢和辞典を開いてみると、朝、期、朔、朧(おぼろ)など「時・気象」にかかわる文字が散見されます。
膵臓の話には戻ります。
膵臓は、けっして単なる「胃のクッション、肉の塊」ではありません。
膵臓には人間の身体を守るための重要な働きが二つあります。
一つは膵液の分泌、もう一つはインスリン、の分泌です。
膵液は、膵臓から十二指腸に外分泌される消化液で、トリプシンなどのたんぱく質分解酵素、リパーゼなどの脂肪分解酵素、アミラーゼなどの炭水化物分解酵素,ヌクレアーゼなどの核酸分解酵素が含まれています。
つまり、三大栄養素(糖質、脂質、たんぱく質)のすべてが消化できるのです。
膵液の分泌が低下すると、消化・吸収不良をおこし、下痢や脂肪便になります。
インスリンは、血糖値を下げる働きをするホルモンです。
インスリンは、すい臓のランゲルハンス島にあるΒ(ベーター)細胞で作られます。
食事によって血液中のブドウ糖がふえると、すい臓からインスリンが分泌されて、ブドウ糖は筋肉などへ送り込まれ、エネルギーとして利用されます。
インスリンの作用が不足すると、血糖は細胞内に取り込まれず、血液中に血糖がだぶつきます。
つまり高血糖=糖尿病になります。
この病態はひとたび発症するともう元には戻りません。不治の病でした。
多飲多尿。ひっきりなしに水を飲み、とめどなく甘い尿を排せつするこの病気は、エジプトやインド、中国の最古の文献にも記載されています。
1921年、インスリンが発見される前と後では時代は明確に二分されます。
発見前には死を待つしかなかった何百万人もの人々が生き永らえ、現代生活を享受できるようになりました。
この発見を成し遂げたのは、二人の若い医師─研修医とその助手─でした。
研究を主導した研修医、バンティングはのちにノーベル医学・生理学賞を得ています。
インスリン治療は、インスリンを、体外から注射で補い、本来、体にそなわった血糖値を下げる作用を取り戻す治療法です。
膵臓の三大病気
膵臓の病気は、急性膵炎、慢性膵炎、膵がんの三つに集約されます。
急性膵炎は、膵臓の急性炎症で、他の臓器にまで影響を及ぼします。
原因は、アルコールと胆石です。
最も多い症状は、上腹部痛ですが、背部まで痛みが広がることもあります。
嘔吐、発熱などの症状や、状態が悪化すると、意識障害やショック状態など重症化することもあります。
治療は、絶飲食による膵臓の安静と、十分な量の輸液投与です。
慢性膵炎は、膵臓の正常な細胞が壊れ、膵臓が線維化する病期です。
原因は、男性では飲酒が最も多く、女性では原因不明の特発性が多くみられます。
治療は、膵液に含まれるたんぱく分解酵素を阻害し、膵臓の炎症による腹痛、吐き気などを改善する薬を使用します。
膵がんは膵臓にできる悪性の腫瘍です。
肺がん、大腸がん、胃がんについで死因の第4位。
毎年3万人以上が膵がんで亡くなっています。60歳ごろからふえ始め、高齢になるほど多くなります。
すい臓がんは「がんの王様」とも称されるほど生存率が低く、恐ろしいがんとして知られています。
星野仙一・元監督や九重親方・元横綱千代の富士など、有名人がこの病気で亡くなられたニュースは記憶に新しいところです。
仲代達矢さんの夫人で演出家の宮崎恭子さんは、1996年の初夏、膵臓がんで亡くなりました。
がんが肝臓に転移したことを知らされたとき、「あとどれくらいですか」とたずね、
「抗がん剤が効けば2年、効かなかったら半年」という医師の答えに、
「あらあら、半年、せわしないわね」と笑ったそうです。
そして、死のほとんど直前まで主宰する無名塾の塾生の稽古を指導したそうです。
膵臓がんと聞くと、すぐそのみごとな挿話を思い出します。
話がそれました。
膵臓がんの予防は、適度な運動をし、肥満を防いで、喫煙や食生活の改善を心がけることでリスクを減らすことが大切です。
「隠れた臓器」は消化酵素を作る工場
言うまでもないことですが、漢字は中国から渡来しました。
そして、これまた言うまでもないことですが、日本の漢方も元をたどると中国医学に行きつきます。
しかし、膵臓はそのどちらとも無関係です。
膵臓の「膵」の字は漢字ではないし、漢方の「五臓六腑」に膵臓は含まれていないからです。
「膵」の字は日本でつくられた「国字」で、「膵臓」は日本人がかんがえた臓器の名称です。
「膵臓」は日本語、重要な働きが二つ
膵臓は、胃の裏側にある長さ15~20㌢の細長い臓器です。
右側が太く、左側が細くなったオタマジャクシのような形をしています。
古代ギリシャでは、膵臓は「胃のクッションとなる肉の塊」と考えられ、「パンクレアス(pancreas)」と呼ばれました。
panは「すべて」、creasは「肉」という意味です。
英語のパァンクリィアス(pancreas)もフランス語のパンクレアース(Pancréas)もドイツ語のパンクリアス(Pankreas)も、どれももとはそれです。
もちろん、日本語の「膵臓」も。
膵臓の膵の字は、身体を表わす「月(にくづき)」と、すべてを表わす「萃」を組み合わせて作られた文字です。
余談になりますが、月(にくづき)と月(つきへん)は見分けができないほど酷似していますが、まったくの別字です。
月(にくづき)は、もとが「肉」なので、すべて体にかかわる文字をつくります。胃、脳、胸、肩、肝、膵、胆などなど……。
月へんは欠けた月の形を表わし、暦にも関係しているので、漢和辞典を開いてみると、朝、期、朔、朧(おぼろ)など「時・気象」にかかわる文字が散見されます。
膵臓の話には戻ります。
膵臓は、けっして単なる「胃のクッション、肉の塊」ではありません。
膵臓には人間の身体を守るための重要な働きが二つあります。
一つは膵液の分泌、もう一つはインスリン、の分泌です。
膵液は、膵臓から十二指腸に外分泌される消化液で、トリプシンなどのたんぱく質分解酵素、リパーゼなどの脂肪分解酵素、アミラーゼなどの炭水化物分解酵素,ヌクレアーゼなどの核酸分解酵素が含まれています。
つまり、三大栄養素(糖質、脂質、たんぱく質)のすべてが消化できるのです。
膵液の分泌が低下すると、消化・吸収不良をおこし、下痢や脂肪便になります。
インスリンは、血糖値を下げる働きをするホルモンです。
インスリンは、すい臓のランゲルハンス島にあるΒ(ベーター)細胞で作られます。
食事によって血液中のブドウ糖がふえると、すい臓からインスリンが分泌されて、ブドウ糖は筋肉などへ送り込まれ、エネルギーとして利用されます。
インスリンの作用が不足すると、血糖は細胞内に取り込まれず、血液中に血糖がだぶつきます。
つまり高血糖=糖尿病になります。
この病態はひとたび発症するともう元には戻りません。不治の病でした。
多飲多尿。ひっきりなしに水を飲み、とめどなく甘い尿を排せつするこの病気は、エジプトやインド、中国の最古の文献にも記載されています。
1921年、インスリンが発見される前と後では時代は明確に二分されます。
発見前には死を待つしかなかった何百万人もの人々が生き永らえ、現代生活を享受できるようになりました。
この発見を成し遂げたのは、二人の若い医師─研修医とその助手─でした。
研究を主導した研修医、バンティングはのちにノーベル医学・生理学賞を得ています。
インスリン治療は、インスリンを、体外から注射で補い、本来、体にそなわった血糖値を下げる作用を取り戻す治療法です。
膵臓の三大病気
膵臓の病気は、急性膵炎、慢性膵炎、膵がんの三つに集約されます。
急性膵炎は、膵臓の急性炎症で、他の臓器にまで影響を及ぼします。
原因は、アルコールと胆石です。
最も多い症状は、上腹部痛ですが、背部まで痛みが広がることもあります。
嘔吐、発熱などの症状や、状態が悪化すると、意識障害やショック状態など重症化することもあります。
治療は、絶飲食による膵臓の安静と、十分な量の輸液投与です。
慢性膵炎は、膵臓の正常な細胞が壊れ、膵臓が線維化する病期です。
原因は、男性では飲酒が最も多く、女性では原因不明の特発性が多くみられます。
治療は、膵液に含まれるたんぱく分解酵素を阻害し、膵臓の炎症による腹痛、吐き気などを改善する薬を使用します。
膵がんは膵臓にできる悪性の腫瘍です。
肺がん、大腸がん、胃がんについで死因の第4位。
毎年3万人以上が膵がんで亡くなっています。60歳ごろからふえ始め、高齢になるほど多くなります。
すい臓がんは「がんの王様」とも称されるほど生存率が低く、恐ろしいがんとして知られています。
星野仙一・元監督や九重親方・元横綱千代の富士など、有名人がこの病気で亡くなられたニュースは記憶に新しいところです。
仲代達矢さんの夫人で演出家の宮崎恭子さんは、1996年の初夏、膵臓がんで亡くなりました。
がんが肝臓に転移したことを知らされたとき、「あとどれくらいですか」とたずね、
「抗がん剤が効けば2年、効かなかったら半年」という医師の答えに、
「あらあら、半年、せわしないわね」と笑ったそうです。
そして、死のほとんど直前まで主宰する無名塾の塾生の稽古を指導したそうです。
膵臓がんと聞くと、すぐそのみごとな挿話を思い出します。
話がそれました。
膵臓がんの予防は、適度な運動をし、肥満を防いで、喫煙や食生活の改善を心がけることでリスクを減らすことが大切です。
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