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日本人前立腺がんの特徴 [医学・医療短信]

剖検標本から見た日本人前立腺がんの特徴

 ラテントがん研究の最前線

 生前、臨床的に前立腺がんの徴候が認められず、死後の解剖により初めて前立腺がんの存在を確認した症例と定義されるラテントがん。

 ラテントがんは前立腺がんの真の罹患率を知る手がかりといわれている。

 従来、日本人は欧米人と比べて前立腺がんの罹患率が低いとされてきたが、近年は増加しており、その原因は明らかでない。

 前立腺がんに人種差が存在するか否かを明らかにするためには、統一のプロトコル(手順、規約)に基づく検討が必要となる。

 東京慈恵会医科大学泌尿器科講師の木村高弘氏は、ラテント癌研究に基づく日本人前立腺がんの特徴について第106回日本泌尿器科学会で解説した。

 日本人の前立腺がんは白人並みに増えている

 2008年からラテントがんの調査を行っている木村氏らは、白人とアジア人の前立腺がん罹患率の比較を、カナダ・トロント大学と共同で実施。

 前立腺特異抗原(PSA)検診の普及率が同等である日本人とロシア人剖検例を対象に、統一プロトコルおよび中央病理診断でラテントがんの頻度を検討した。

 その結果、ラテントがんの頻度はロシア人37.3%(220例中82例)、日本人35.0%(100例中35例)と同等であった。

 一方、ラテントがん症例の詳細を見ると、日本人では白人と比べて高齢で前立腺重量が軽く、悪性度が高いことが明らかになった。

 日本人の前立腺がんは増えているのか。

 同氏は東京慈恵会医科大学病院における1983〜87年の剖検例501例と、2008〜13年の剖検例127例でのラテントがんの頻度を比較。

 ラテントがんの割合は1983〜87年では20.8%、2008〜13年では43.3%と増加、その比率は全ての年齢層において約20%増加していた。

 また、前立腺重量はどの年齢層でも2008〜13年の剖検例において有意に増加しており、70歳代以降に大きな増大傾向を示した。

 腫瘍体積も有意に増加しており、特に70歳代以降で急激に増加していた。

 このことから同氏は、日本人の前立腺がんが増えているのはおそらく事実であり、しかも「有意な(臨床上問題となる)がん」が増えていると述べ、日本では人種的変動が少ないことから、罹患率の上昇は環境要因(食生活の欧米化など)が示唆されると考察した。

 日本人の前立腺がん局在の特徴はapex-anterior cancer(前立腺尖部側の前方がん)

 それでは、白人並みに増えた前立腺がんは、欧米型になったのか。

 従来、欧米人ではほとんどが尿道の後面に位置する後方がん(posterior cancer)であるのに対し、日本人の前立腺がんは移行領域(TZ)、尿道の前面に位置する前方がん(anterior cancer)が多いとされている。

 木村氏が2007〜16年の東京慈恵会医科大学病院における剖検例171例のうち、ラテントがんと診断された68例を対象に前立腺がんの局在を検討したところ、前立腺尖部側の前方がん(apex-anterior cancer)が多いという日本人の前立腺がんの特徴が、現在も保持されていることが明らかになった。

 日本人に多いanterior cancerは、腫瘍が大きいが転移は少なく予後が良好といわれている。

 以前は、前立腺全摘症例のうち、ほぼanteriorに位置するTZ(移行領域)では術後の再発も少なく予後が良好とされていた。

 しかし、最近の全摘標本での検討によると、anterior cancerとposterior cancer(後方がん)の腫瘍容量に差はなく、切除断端陽性率も同等であるという。

「以前は直腸診が診断の中心であったため、前方がんの発見が遅れていたが、今ではMRIや生検方法の進歩によって前方がんがより早期に見つかっていることを反映している」と同氏は考察した。

 日本人前立腺がんは分子学的にも欧米人と異なる

 さらに木村氏は、日本人前立腺がんの分子学的特徴を検討した。

 前立腺がん特異的融合遺伝子TMPRESS2-ERGが欧米人では約50%の前立腺がん症例に認められる。

 一方、日本人ではこの頻度が低い特徴があるが、同氏らの日本人前立腺全摘症例においても16.3%にとどまったという。

 関連分子としてSPINK1の過剰発現があるが、欧米人におけるSPINK1の発現の頻度は5.9〜15.3%である。

 そこで、膀胱全摘検体で発見された偶発がんと生検時に転移を認めた転移がんを対象に、日本人前立腺がんのフェノタイプを検討したところ、ERGの発現は偶発がん、転移がんといった病期にかかわらず15%程度と欧米人よりも低く、SPINK1の発現は偶発がん6.5%、転移がん12.2%とおおむね欧米人と同等であった。

 このことから同氏は、日本人前立腺がん特有の特徴は分子学的にも保持されていると述べた。

 化学療法未施行の去勢抵抗性前立腺がん

(CRPC)に対するアビラテロンの第Ⅲ相試験COU-AA-302に参加した患者を対象に、生検時の前立腺がんにおけるTMPRESS2-ERG遺伝子変異の状況と予後を比較した成績によると、ERGの発現量だけでなく融合遺伝子コピー数の増加などがアビラテロンの有効性に関係しているとの報告がある。

 また、同氏の研究結果からSPINK1の発現が転移性前立腺がんに対するホルモン療法導入からCRPCとなるまでの期間と相関することが分かった。

 これらのことから同氏は、日本人前立腺がんの治療戦略について「日本人特有のTMPRESS2-ERG遺伝子変異の頻度、ERGやSPINK1の状態が薬物療法の効果に影響を与えている可能性があり、今後の検討が必要だ」とまとめた。(長谷川愛子)

医学新聞「MedicalTribune」による
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