夜型の子、成績悪い。なぜ? [医学・医療短信]
夜型の子はなぜ成績が悪くなるのか?
柴田重信 / 早稲田大学教授
田原優 / カリフォルニア大学ロサンゼルス校助教
遺伝子検査で分かる朝型・夜型
遺伝子解析技術が向上し、ヒトの遺伝子検査が安価で行える時代が到来しているのはご存じでしょうか?
米国のベンチャー企業「23andMe」では、1人99ドルから解析が頼めます。
より詳細なプランでも199ドルという価格設定になっています。
日本でもいくつかのベンチャー企業が、1人1万円程度から解析してくれるサービスを提供しています。
また、ヨーロッパのUK Biobankではさまざまな疾患患者を含む50万人分もの遺伝子情報を解析、蓄積し、研究者向けに公開しています。
現在、一般向けに行われている遺伝子検査で分かることは、それぞれ個人の持つ遺伝子の特性(変異、SNPと呼ぶ)です。
遺伝子はA、T、G、Cという四つの記号で表される物質(ヌクレオチド)がつながって配列を作り、暗号化されていますが、その配列=暗号の一部が個々人で変化していることがよくあります。
その暗号の変化=配列の違いを読み取ることで、あなたは肥満になりやすい、またはある病気になるリスクが高い、といった情報が得られます。
これは、実際に病気にかかった人の遺伝子を調べ、どこに変化があるかを調べた膨大なデータベースが既に蓄積されているからです。
そして昨年(2016年)、23andMeやUK Biobankにより蓄積された膨大な個人の遺伝子情報を解析することで、朝型の人と夜型の人の遺伝子の違いについて調べた研究結果が報告されました。
米欧それぞれのデータベースから得られた結果は多少異なるものの、朝型の人に特有の遺伝子変化として、二つの遺伝子(Per2、Rgs16)が両方のデータベースから検出されました。
この二つの遺伝子は体内時計にかかわる非常に重要な遺伝子として知られていたものです。
つまり、これらの時計遺伝子に、特徴的な暗号の変化が見られた場合、その人は朝型になりやすいと考えられるわけです。
また、朝型の人は肥満やうつ病のリスクが低いことも同時に示されました。
ただし、この二つの研究での朝型・夜型の判定方法は、遺伝子検査と共に行ったアンケートで、「あなたは朝型ですか?夜型ですか?」と聞いたのみであり、朝型-夜型質問紙を使ってきっちりと判定したものではありません。
それでも、二つのデータベースから同様の結果が導き出されたわけですから、信頼できる結果だと思います。
体内時計の進みの速さが朝型・夜型を決める?
一方で、中間型と夜型の人を集めて、その人たちの体内時計の進み具合、遅れ具合を調べた研究があります(国立精神神経医療研究センターの肥田晶子先生、三島和夫先生による研究)。
中間型と夜型の被検者17人の皮膚から、線維芽細胞という細胞を取り出し、培養しながら細胞の中で働く時計遺伝子の様子を観察しました。
その結果、皮膚細胞の体内時計の進み具合、遅れ具合と、前回紹介した質問紙(MCTQ)で調べた中間型・夜型の結果が相関しました。
つまり、夜型の人の細胞は、中間型の人に比べ、体内時計の進み方が遅れていることが分かったのです。
人の体内時計は24時間より少し長く、毎日その分を早めて24時間に合わせる必要があることは以前、この連載の第1回でお伝えした通りです。
この研究の結果から、夜型の人は、他の人よりもさらに遅れやすい体内時計を持っており、油断するとすぐに夜型になってしまう体質だということが分かりました。
また、朝型・夜型は休日の睡眠時刻によって決まるのですが、休日に夜更かし・朝寝坊しがちな方は、夜型かつ遅い体内時計の持ち主なのだろうと言うことができます。
夜型より朝型の方が、学校の成績が良い?
夜食ばかりだと記憶力悪くなり、朝食を食べない子供は、成績が悪いという研究あります。
朝型、夜型のタイプ別に、学校の成績(小学生~大学生)との相関を調べた研究も多数報告されています。
それらの研究計31報の文献をまとめて解析(メタ解析)した結果が公開されています。
まず全体的な結論として、夜型の子供は、小・中学生、高校生、大学生のどの年代でも成績が悪い、という結果が出ました。
その差は大学よりも小学生~高校生においてより顕著でした。
大学生は小中高生に比べ、自立しており、時間割も自分で決めることができ、さらに授業への出席も厳しくないので、夜型の学生も適応しやすいからではないかと考えられます。
それに対し、小中高生は授業開始も早く、夜型の子供がより社会的時差ボケを経験しやすく、それに伴う睡眠不足や睡眠の質の低下、午前中の授業の不適応などが、成績低下につながっているのではないかと推測できます。
朝活は良いのか?個人に合った生活リズムとは
夜型の人は遅れやすい体内時計を持っているにもかかわらず、社会生活に適応するために、平日は朝型生活を強制し、休日にたまった睡眠不足を解消すべく寝だめする傾向にあります。
その結果、肥満、過食、うつ、成績低下、などなどさまざまなネガティブなものと結びついてしまうようです。
一方で近年、早起きして「朝活」をする方や、仕事の開始時刻を早め仕事終わりに自由な時間を作る「ゆう活」といった生活スタイルが注目されています。
夜型の人がもし朝活をするのであれば、必ず平日だけではなく休日も朝活をしてください。
平日に早寝・早起きをし、休日に普段通りの夜型生活するのでは、社会的時差ボケを悪化させるので要注意です。
また、その際に夜の光を暗めの暖色系にする、朝食をしっかり食べるなどの工夫も、「体内時計の朝活」状態を維持するために効果的でしょう。
いかに時差ボケをしないか、そして質の良い睡眠をしっかり取れるか、これは生活全般、多くの疾患にかかわる健康維持の重要なカギなのです。
柴田重信 / 早稲田大学教授
田原優 / カリフォルニア大学ロサンゼルス校助教
遺伝子検査で分かる朝型・夜型
遺伝子解析技術が向上し、ヒトの遺伝子検査が安価で行える時代が到来しているのはご存じでしょうか?
米国のベンチャー企業「23andMe」では、1人99ドルから解析が頼めます。
より詳細なプランでも199ドルという価格設定になっています。
日本でもいくつかのベンチャー企業が、1人1万円程度から解析してくれるサービスを提供しています。
また、ヨーロッパのUK Biobankではさまざまな疾患患者を含む50万人分もの遺伝子情報を解析、蓄積し、研究者向けに公開しています。
現在、一般向けに行われている遺伝子検査で分かることは、それぞれ個人の持つ遺伝子の特性(変異、SNPと呼ぶ)です。
遺伝子はA、T、G、Cという四つの記号で表される物質(ヌクレオチド)がつながって配列を作り、暗号化されていますが、その配列=暗号の一部が個々人で変化していることがよくあります。
その暗号の変化=配列の違いを読み取ることで、あなたは肥満になりやすい、またはある病気になるリスクが高い、といった情報が得られます。
これは、実際に病気にかかった人の遺伝子を調べ、どこに変化があるかを調べた膨大なデータベースが既に蓄積されているからです。
そして昨年(2016年)、23andMeやUK Biobankにより蓄積された膨大な個人の遺伝子情報を解析することで、朝型の人と夜型の人の遺伝子の違いについて調べた研究結果が報告されました。
米欧それぞれのデータベースから得られた結果は多少異なるものの、朝型の人に特有の遺伝子変化として、二つの遺伝子(Per2、Rgs16)が両方のデータベースから検出されました。
この二つの遺伝子は体内時計にかかわる非常に重要な遺伝子として知られていたものです。
つまり、これらの時計遺伝子に、特徴的な暗号の変化が見られた場合、その人は朝型になりやすいと考えられるわけです。
また、朝型の人は肥満やうつ病のリスクが低いことも同時に示されました。
ただし、この二つの研究での朝型・夜型の判定方法は、遺伝子検査と共に行ったアンケートで、「あなたは朝型ですか?夜型ですか?」と聞いたのみであり、朝型-夜型質問紙を使ってきっちりと判定したものではありません。
それでも、二つのデータベースから同様の結果が導き出されたわけですから、信頼できる結果だと思います。
体内時計の進みの速さが朝型・夜型を決める?
一方で、中間型と夜型の人を集めて、その人たちの体内時計の進み具合、遅れ具合を調べた研究があります(国立精神神経医療研究センターの肥田晶子先生、三島和夫先生による研究)。
中間型と夜型の被検者17人の皮膚から、線維芽細胞という細胞を取り出し、培養しながら細胞の中で働く時計遺伝子の様子を観察しました。
その結果、皮膚細胞の体内時計の進み具合、遅れ具合と、前回紹介した質問紙(MCTQ)で調べた中間型・夜型の結果が相関しました。
つまり、夜型の人の細胞は、中間型の人に比べ、体内時計の進み方が遅れていることが分かったのです。
人の体内時計は24時間より少し長く、毎日その分を早めて24時間に合わせる必要があることは以前、この連載の第1回でお伝えした通りです。
この研究の結果から、夜型の人は、他の人よりもさらに遅れやすい体内時計を持っており、油断するとすぐに夜型になってしまう体質だということが分かりました。
また、朝型・夜型は休日の睡眠時刻によって決まるのですが、休日に夜更かし・朝寝坊しがちな方は、夜型かつ遅い体内時計の持ち主なのだろうと言うことができます。
夜型より朝型の方が、学校の成績が良い?
夜食ばかりだと記憶力悪くなり、朝食を食べない子供は、成績が悪いという研究あります。
朝型、夜型のタイプ別に、学校の成績(小学生~大学生)との相関を調べた研究も多数報告されています。
それらの研究計31報の文献をまとめて解析(メタ解析)した結果が公開されています。
まず全体的な結論として、夜型の子供は、小・中学生、高校生、大学生のどの年代でも成績が悪い、という結果が出ました。
その差は大学よりも小学生~高校生においてより顕著でした。
大学生は小中高生に比べ、自立しており、時間割も自分で決めることができ、さらに授業への出席も厳しくないので、夜型の学生も適応しやすいからではないかと考えられます。
それに対し、小中高生は授業開始も早く、夜型の子供がより社会的時差ボケを経験しやすく、それに伴う睡眠不足や睡眠の質の低下、午前中の授業の不適応などが、成績低下につながっているのではないかと推測できます。
朝活は良いのか?個人に合った生活リズムとは
夜型の人は遅れやすい体内時計を持っているにもかかわらず、社会生活に適応するために、平日は朝型生活を強制し、休日にたまった睡眠不足を解消すべく寝だめする傾向にあります。
その結果、肥満、過食、うつ、成績低下、などなどさまざまなネガティブなものと結びついてしまうようです。
一方で近年、早起きして「朝活」をする方や、仕事の開始時刻を早め仕事終わりに自由な時間を作る「ゆう活」といった生活スタイルが注目されています。
夜型の人がもし朝活をするのであれば、必ず平日だけではなく休日も朝活をしてください。
平日に早寝・早起きをし、休日に普段通りの夜型生活するのでは、社会的時差ボケを悪化させるので要注意です。
また、その際に夜の光を暗めの暖色系にする、朝食をしっかり食べるなどの工夫も、「体内時計の朝活」状態を維持するために効果的でしょう。
いかに時差ボケをしないか、そして質の良い睡眠をしっかり取れるか、これは生活全般、多くの疾患にかかわる健康維持の重要なカギなのです。
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