「体がさびる」酸化ストレス [医学・医療短信]
「体がさびる」酸化ストレスから身を守る方法
鉄がさびるのと同じように体も「さび」ます。
この「酸化ストレスによる体の変化」について、抗加齢医学研究の第一人者、米井嘉一・同志社大学教授(抗加齢医学)の解説をご紹介します。
老化を促進する危険因子
酸化ストレスとは「フリーラジカル」や「活性酸素」と呼ばれる不安定な物質が、体内の他の物質から電子を奪って酸化させることです。
全ての物質は原子からできており、原子は原子核とその周りをぐるぐる回る電子で構成されます。
通常は二つの電子がペア(対電子)になって安定状態を保っています。
しかし、電子が一つ欠けてしまう(不対電子)ことがあります。
こうなると物質は非常に不安定な状態になり、周囲の分子から電子を奪って安定化しようとするのです。
フリーラジカルとは不対電子を持つ原子や分子の総称です。
そして、活性酸素は反応性の高い酸素のことで、一部はフリーラジカルです。
酸化ストレスの原因
日常生活の中で生じる酸化ストレスの原因として一番に挙げられるのは、たばこの影響です。
喫煙者だけでなく、他人のたばこの煙(副流煙)でも同様の健康被害があります。
太陽光の紫外線も酸化ストレスを起こします。
肌の老化は7割ぐらいが紫外線による酸化ストレスが原因だといわれています。
大量の飲酒や大気汚染物質、食品添加物や残留農薬も酸化ストレスの原因になります。
無呼吸や心身ストレスも原因になる
あまり知られていませんが、睡眠時無呼吸症候群や心身ストレスによっても酸化ストレスは生じます。
睡眠中に無呼吸になると、血中の酸素濃度が低下して低酸素状態に陥ります。
呼吸が復活して血中に酸素が急激に戻ってくると、フリーラジカルが爆発的に発生します。
心身ストレスが過剰な時は、体のさまざまな働きを調整する自律神経の活動に乱れが生じ、血液の流れが不規則になります。
血液が流れない虚血状態とそこに血液が流れ込む再還流が繰り返されると、フリーラジカルが大量発生するのです。
また、一般的に運動は健康にいいといわれていますが、これはあくまでも適度な運動の場合です。
過激な運動はフリーラジカルが大量に発生して、酸化ストレスによって重篤な病気を起こすことがあります。何事も適度が一番です。
酸化ストレスにより起こる病気
フリーラジカルや活性酸素による攻撃で細胞膜が酸化すると、細胞膜の表面センサーの機能や物質の出し入れを行う機能が低下します。
つまり、細胞の生命を営む力が失われていくのです。
また、主に古くなったたんぱく質や脂質は酸化ストレスの影響で変化し、老廃物となって細胞内にたまっていきます。
このように、酸化ストレスは細胞に障害を与え、死滅時期を早めてしまうのです。
酸化ストレスはがんも起こしやすくするといわれています。
DNAは酸化ストレスによって傷つけられます。
細胞の分裂・増殖に重要な役割を果たすDNAには、傷が付くとがん化しやすくなる領域が存在します。
酸化ストレスが強いとDNAのあちこちに傷が生じ、その領域を傷つける確率が高まります。
また、LDLコレステロールが酸化すると酸化LDLとなり、動脈硬化の原因となります。
アルツハイマー病やパーキンソン病など高齢者に多い脳の病気では、酸化したたんぱく質や脂質が脳内にたまっています。
酸化ストレスがどれほど体に悪影響を与えるかがお分かりいただけると思います。
生殖組織に備わる抗酸化システム
タラコはタラの卵巣です。
タラコには抗酸化作用のあるビタミンEが豊富に含まれています。
もちろん、このビタミンEは人間に食べてもらうためにあるのではありません。
タラの卵巣を酸化による障害から守るためにあるのです。
生物は長い歴史の中で紫外線や放射線、毒物から発生する酸化ストレスと闘ってきました。
その結果、酸化ストレスに対する防御機構が発達しました。
卵子や精子は酸化ストレスに特に弱いので、ヒトを含めた生物の生殖組織にはとりわけ強力な抗酸化システムが備わっています。
前述しましたが、たばこは酸化ストレスの大きな発生源です。
喫煙者は非喫煙者に比べて卵子や精子のダメージが大きくなることを覚えておきましょう。
適度な運動が作り出す抗酸化酵素
これまでお話ししてきたように、酸化ストレスはヒトに大きな害を及ぼします。
ですから、ヒトは酸化ストレス防御機構がよく発達しています。
ここからは、その防御機構について説明しましょう。
防御機構は3段階に分けられます。
第1段階は過度な活性酸素やフリーラジカルの発生を抑える「抗酸化酵素」による分解・除去です。
抗酸化酵素にはスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)、カタラーゼ、ペルオキシダーゼがあり、適度な運動で活性化させることができます。
これはからだに備わっている、酸化ストレスに対する予防システムです。
実は、運動をすると少量のフリーラジカルが発生するのですが、その刺激によって抗酸化酵素の活性が上がるのです。
適度な運動によって自分自身の予防システムの防御力を高めることができます。
適度な運動というのは、15分~1時間の散歩、1~5kmのジョギング、15~30分程度の水泳です。
運動時間(量)にだいぶ幅があるように思うかもしれませんが、「適度」は人によって異なります。
この範囲で、自分に合った量の運動を実践してください。運動初心者は15分余分に歩くことから始めましょう。
抗酸化物質を食べ物から取る
第2段階は活性酸素やフリーラジカルが発生し、細胞などが攻撃を受けた際の抗酸化物質による消去です。
抗酸化物質は食べ物から取ることができます。
ナッツや植物油に多く含まれるビタミンEは代表的な抗酸化物質です。
また、色とりどりの野菜などにはさまざまな抗酸化物質が含まれています。
例えば、トマトのリコピン、緑茶のカテキン、緑黄色野菜のβカロテン、小豆やブドウのアントシアニン、サケのアスタキサンチンなどです。
しかし、一つの成分を大量に取るのは禁物です。
一般的に、抗酸化物質は酸化されやすい性質があります。
活性酸素やフリーラジカルによって、抗酸化物質が酸化された物質が大量に発生すると、今度はその物質が体に害を与えてしまいます。
何事も極端なことをしないのが鉄則です。
ダメージ修復機能
第3段階は、組織や細胞(DNAを含む)が活性酸素やフリーラジカルによってダメージを受けた際の修復機能です。
酸化たんぱく分解酵素やDNA修復酵素がダメージを受けた所を修復してくれます。
ただし、これにも限度がありますので、酸化ストレスの原因を取り除くことがとにかく大切です。
酸化ストレス対策のまとめ
最後に酸化ストレス対策をまとめます。
以下の三つを実践し、酸化ストレスに負けないようにしましょう。
1:酸化ストレスの原因を避ける
2:適度な運動により抗酸化酵素の活性を高める
3:食事から抗酸化物質を摂取する
酸化ストレスの原因は、たばこ、紫外線、大量の飲酒、心身ストレス、睡眠時無呼吸症候群です。
思い当たる方は克服していきましょう。
そして、適度な運動で抗酸化酵素の活性を高めましょう。
怠けて何もしないことが一番よくありません。
また、食事から積極的に抗酸化物質を摂取しましょう。
色とりどりの野菜や果実にはさまざまな抗酸化物質が含まれています。
献立に悩んだら、最近食べた料理の彩りを思い出してみましょう。
足りていない色の食材を選ぶといいでしょう。
不足しがちの抗酸化物質をサプリメントで補充することもできますが、特定の物質が過剰になる状況は避けましょう。
鉄がさびるのと同じように体も「さび」ます。
この「酸化ストレスによる体の変化」について、抗加齢医学研究の第一人者、米井嘉一・同志社大学教授(抗加齢医学)の解説をご紹介します。
老化を促進する危険因子
酸化ストレスとは「フリーラジカル」や「活性酸素」と呼ばれる不安定な物質が、体内の他の物質から電子を奪って酸化させることです。
全ての物質は原子からできており、原子は原子核とその周りをぐるぐる回る電子で構成されます。
通常は二つの電子がペア(対電子)になって安定状態を保っています。
しかし、電子が一つ欠けてしまう(不対電子)ことがあります。
こうなると物質は非常に不安定な状態になり、周囲の分子から電子を奪って安定化しようとするのです。
フリーラジカルとは不対電子を持つ原子や分子の総称です。
そして、活性酸素は反応性の高い酸素のことで、一部はフリーラジカルです。
酸化ストレスの原因
日常生活の中で生じる酸化ストレスの原因として一番に挙げられるのは、たばこの影響です。
喫煙者だけでなく、他人のたばこの煙(副流煙)でも同様の健康被害があります。
太陽光の紫外線も酸化ストレスを起こします。
肌の老化は7割ぐらいが紫外線による酸化ストレスが原因だといわれています。
大量の飲酒や大気汚染物質、食品添加物や残留農薬も酸化ストレスの原因になります。
無呼吸や心身ストレスも原因になる
あまり知られていませんが、睡眠時無呼吸症候群や心身ストレスによっても酸化ストレスは生じます。
睡眠中に無呼吸になると、血中の酸素濃度が低下して低酸素状態に陥ります。
呼吸が復活して血中に酸素が急激に戻ってくると、フリーラジカルが爆発的に発生します。
心身ストレスが過剰な時は、体のさまざまな働きを調整する自律神経の活動に乱れが生じ、血液の流れが不規則になります。
血液が流れない虚血状態とそこに血液が流れ込む再還流が繰り返されると、フリーラジカルが大量発生するのです。
また、一般的に運動は健康にいいといわれていますが、これはあくまでも適度な運動の場合です。
過激な運動はフリーラジカルが大量に発生して、酸化ストレスによって重篤な病気を起こすことがあります。何事も適度が一番です。
酸化ストレスにより起こる病気
フリーラジカルや活性酸素による攻撃で細胞膜が酸化すると、細胞膜の表面センサーの機能や物質の出し入れを行う機能が低下します。
つまり、細胞の生命を営む力が失われていくのです。
また、主に古くなったたんぱく質や脂質は酸化ストレスの影響で変化し、老廃物となって細胞内にたまっていきます。
このように、酸化ストレスは細胞に障害を与え、死滅時期を早めてしまうのです。
酸化ストレスはがんも起こしやすくするといわれています。
DNAは酸化ストレスによって傷つけられます。
細胞の分裂・増殖に重要な役割を果たすDNAには、傷が付くとがん化しやすくなる領域が存在します。
酸化ストレスが強いとDNAのあちこちに傷が生じ、その領域を傷つける確率が高まります。
また、LDLコレステロールが酸化すると酸化LDLとなり、動脈硬化の原因となります。
アルツハイマー病やパーキンソン病など高齢者に多い脳の病気では、酸化したたんぱく質や脂質が脳内にたまっています。
酸化ストレスがどれほど体に悪影響を与えるかがお分かりいただけると思います。
生殖組織に備わる抗酸化システム
タラコはタラの卵巣です。
タラコには抗酸化作用のあるビタミンEが豊富に含まれています。
もちろん、このビタミンEは人間に食べてもらうためにあるのではありません。
タラの卵巣を酸化による障害から守るためにあるのです。
生物は長い歴史の中で紫外線や放射線、毒物から発生する酸化ストレスと闘ってきました。
その結果、酸化ストレスに対する防御機構が発達しました。
卵子や精子は酸化ストレスに特に弱いので、ヒトを含めた生物の生殖組織にはとりわけ強力な抗酸化システムが備わっています。
前述しましたが、たばこは酸化ストレスの大きな発生源です。
喫煙者は非喫煙者に比べて卵子や精子のダメージが大きくなることを覚えておきましょう。
適度な運動が作り出す抗酸化酵素
これまでお話ししてきたように、酸化ストレスはヒトに大きな害を及ぼします。
ですから、ヒトは酸化ストレス防御機構がよく発達しています。
ここからは、その防御機構について説明しましょう。
防御機構は3段階に分けられます。
第1段階は過度な活性酸素やフリーラジカルの発生を抑える「抗酸化酵素」による分解・除去です。
抗酸化酵素にはスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)、カタラーゼ、ペルオキシダーゼがあり、適度な運動で活性化させることができます。
これはからだに備わっている、酸化ストレスに対する予防システムです。
実は、運動をすると少量のフリーラジカルが発生するのですが、その刺激によって抗酸化酵素の活性が上がるのです。
適度な運動によって自分自身の予防システムの防御力を高めることができます。
適度な運動というのは、15分~1時間の散歩、1~5kmのジョギング、15~30分程度の水泳です。
運動時間(量)にだいぶ幅があるように思うかもしれませんが、「適度」は人によって異なります。
この範囲で、自分に合った量の運動を実践してください。運動初心者は15分余分に歩くことから始めましょう。
抗酸化物質を食べ物から取る
第2段階は活性酸素やフリーラジカルが発生し、細胞などが攻撃を受けた際の抗酸化物質による消去です。
抗酸化物質は食べ物から取ることができます。
ナッツや植物油に多く含まれるビタミンEは代表的な抗酸化物質です。
また、色とりどりの野菜などにはさまざまな抗酸化物質が含まれています。
例えば、トマトのリコピン、緑茶のカテキン、緑黄色野菜のβカロテン、小豆やブドウのアントシアニン、サケのアスタキサンチンなどです。
しかし、一つの成分を大量に取るのは禁物です。
一般的に、抗酸化物質は酸化されやすい性質があります。
活性酸素やフリーラジカルによって、抗酸化物質が酸化された物質が大量に発生すると、今度はその物質が体に害を与えてしまいます。
何事も極端なことをしないのが鉄則です。
ダメージ修復機能
第3段階は、組織や細胞(DNAを含む)が活性酸素やフリーラジカルによってダメージを受けた際の修復機能です。
酸化たんぱく分解酵素やDNA修復酵素がダメージを受けた所を修復してくれます。
ただし、これにも限度がありますので、酸化ストレスの原因を取り除くことがとにかく大切です。
酸化ストレス対策のまとめ
最後に酸化ストレス対策をまとめます。
以下の三つを実践し、酸化ストレスに負けないようにしましょう。
1:酸化ストレスの原因を避ける
2:適度な運動により抗酸化酵素の活性を高める
3:食事から抗酸化物質を摂取する
酸化ストレスの原因は、たばこ、紫外線、大量の飲酒、心身ストレス、睡眠時無呼吸症候群です。
思い当たる方は克服していきましょう。
そして、適度な運動で抗酸化酵素の活性を高めましょう。
怠けて何もしないことが一番よくありません。
また、食事から積極的に抗酸化物質を摂取しましょう。
色とりどりの野菜や果実にはさまざまな抗酸化物質が含まれています。
献立に悩んだら、最近食べた料理の彩りを思い出してみましょう。
足りていない色の食材を選ぶといいでしょう。
不足しがちの抗酸化物質をサプリメントで補充することもできますが、特定の物質が過剰になる状況は避けましょう。
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