糖尿病、緊急事態? [健康短信]
糖尿病患者は緊急手術を受けられなくなる?
先ごろ米国内科学会が、薬物療法中の糖尿病のHbA1c(ヘモグロビン エーワンシー)の管理目標は7%以上8%未満にすべきという声明を出した。
これに関連して、HbA1cが7%未満でないと大手術はできないのか、と懸念する向きがある。
高血糖が術後のアウトカム(成果)に悪い影響を与えることはよく知られている。
以前はHbA1c 7%超では大手術(全身麻酔が必要な開腹・開胸術など)は避けるべきとされていた。
今もHbA1c 7%超の糖尿病患者の抜歯やインプラント手術に当たって、血糖管理の面で実施可能かどうか、歯科医から問い合わせを受ける糖尿病担当医は多い。
実際、日本歯周病学会の「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン(改訂第2版)」では、観血的処置を行う際の血糖管理について、
「直接的な血糖コントロール値の基準はない。
しかし、歯周外科治療ではHbA1c 6.9%前後を参考値としてよいと考えられる」と記載されている。
今後、薬物療法中の糖尿病患者の血糖管理目標が7%台になるとすれば、ほとんどの例では緊急の大手術を行うのは難しくなるのではないか?
米デューク大学のグループが15年間の手術データを後ろ向きに解析し、術前のHbA1cおよび周術期の平均血糖値と術後30日間の死亡率との関係について報告した。
研究は、デューク大学の統計学部門、麻酔学部門、内分泌栄養部門、神経生物学の研究者たちが行った。
同大学の1999~2013年の手術記録のデータベースを後ろ向きに検討したものである。
計24万6,650人に計43万1,480件の手術が実施されていた。
その中で、記録が不十分(どんな手術がなされたか不明)であったり、1年以内に同じ手術が繰り返されていたり、HbA1cが測定されていなかったりしたものを除外し、最終的に1万3,077件の手術データを採用した。
除外の最大の理由は、術前90日以内にHbA1cが測定されていないことであった。
研究者らが注目したのは、周術期の血糖管理と術後30日間の死亡率との関係である。
周術期の平均血糖値は、手術当日から術後3日までの全血糖測定値の平均値と定義した。
また、術前90日以内の直近のHbA1cと死亡率との関係も検討した。
記録を2015年まで下って検討することにより、術後3年までの死亡率や時間制約を付けない形での死亡率も検討した。
一方、入院期間などの指標はベッド管理状況などの影響を受ける可能性があるため、治療成績を見るための指標として採用しなかった。
術前HbA1c高値は術後の予後悪化に関連せず
HbA1cのデータがない症例も合わせて検討すると、術後の死亡率は心臓手術(1万2,199件、30日間死亡率2.2%)と非心臓手術(16万7,376件、同0.9%)とで異なっていたため、解析は両者を分けて行った。
結果、1万3,077件のうち心臓手術が6,393件、非心臓手術が6,684件であった。
心臓手術では術後30日間死亡率に差異はなかったが、非心臓手術では大きく上昇していた。
周術期平均血糖値、術前HbA1c、術後30日間死亡率の3者の関係性を検討すると、術前HbA1cと周術期平均血糖値との間に正の相関はあるものの、術前HbA1cと術後30日間死亡率については、心臓手術では相関がなく、非心臓手術に関しては、有意な負の相関を示した。
一方、周術期平均血糖値については、心臓手術では高血糖および低血糖が、非心臓手術では高血糖が術後30日間死亡率と有意に関連していた。
周術期平均血糖値と術後30日間死亡率の関係性は心臓手術と非心臓手術で異なっており、前者ではU字、後者では線形の関係性を持っている。
心臓手術においては周術期平均血糖値120~160mg/dLで、死亡率が低かった。
なお、死亡率を見る期間を術後30日間でなく、3年あるいは期間の限定をなくす形で検討しても、術前HbA1cと非心臓病手術後死亡率との負の相関は残っていたという。
HbA1cが高いことは手術延期の理由にならない
現在の日本糖尿病学会の手術前血糖管理目標は、
① 尿ケトン陰性。
② ②空腹時血糖値100~140mg/dLまたは食後血糖値200mg/dL以下
―というような内容であり、HbA1cに関しての制約はない。
また、現在、周術期血糖管理についてさまざまな学会が似たようなガイドラインを出している。
例えば、米国糖尿病学会は80~180mg/dLが望ましいとし、
カナダ糖尿病学会では90~180mg/dLが望ましいとしている。
そうした意味では、現時点でもHbA1c高値というだけで手術を月単位で延期する必要はなさそうである。
それどころか、本研究の結果からは、心臓手術ではHbA1cと30日間死亡率に相関はなく、非心臓手術においてはなんと負の相関であった。
HbA1cが高いことは、手術延期の理由にはならないようである。
しかし、本研究の結果で手術の可否に関してHbA1cに縛られなくてもよいということ以上に大切なのは、周術期血糖管理について心臓手術と非心臓手術を分けて考える必要があるかもしれないということである。
本研究では、心臓手術と非心臓手術において周術期平均血糖値と術後30日間死亡率との関係性が異なっていて、前者では明確にU字であり、後者では線形だったのである。
このことは、心臓手術の方が低血糖による死亡リスクの上昇が大きいことを示唆するだろう。
現時点では、周術期血糖管理目標について心臓手術と非心臓手術を明確に分離しているガイドラインはない。
むろん、HbA1cが臨床的に重要な指標であることは否定できないのはいうまでもないのだが。
先ごろ米国内科学会が、薬物療法中の糖尿病のHbA1c(ヘモグロビン エーワンシー)の管理目標は7%以上8%未満にすべきという声明を出した。
これに関連して、HbA1cが7%未満でないと大手術はできないのか、と懸念する向きがある。
高血糖が術後のアウトカム(成果)に悪い影響を与えることはよく知られている。
以前はHbA1c 7%超では大手術(全身麻酔が必要な開腹・開胸術など)は避けるべきとされていた。
今もHbA1c 7%超の糖尿病患者の抜歯やインプラント手術に当たって、血糖管理の面で実施可能かどうか、歯科医から問い合わせを受ける糖尿病担当医は多い。
実際、日本歯周病学会の「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン(改訂第2版)」では、観血的処置を行う際の血糖管理について、
「直接的な血糖コントロール値の基準はない。
しかし、歯周外科治療ではHbA1c 6.9%前後を参考値としてよいと考えられる」と記載されている。
今後、薬物療法中の糖尿病患者の血糖管理目標が7%台になるとすれば、ほとんどの例では緊急の大手術を行うのは難しくなるのではないか?
米デューク大学のグループが15年間の手術データを後ろ向きに解析し、術前のHbA1cおよび周術期の平均血糖値と術後30日間の死亡率との関係について報告した。
研究は、デューク大学の統計学部門、麻酔学部門、内分泌栄養部門、神経生物学の研究者たちが行った。
同大学の1999~2013年の手術記録のデータベースを後ろ向きに検討したものである。
計24万6,650人に計43万1,480件の手術が実施されていた。
その中で、記録が不十分(どんな手術がなされたか不明)であったり、1年以内に同じ手術が繰り返されていたり、HbA1cが測定されていなかったりしたものを除外し、最終的に1万3,077件の手術データを採用した。
除外の最大の理由は、術前90日以内にHbA1cが測定されていないことであった。
研究者らが注目したのは、周術期の血糖管理と術後30日間の死亡率との関係である。
周術期の平均血糖値は、手術当日から術後3日までの全血糖測定値の平均値と定義した。
また、術前90日以内の直近のHbA1cと死亡率との関係も検討した。
記録を2015年まで下って検討することにより、術後3年までの死亡率や時間制約を付けない形での死亡率も検討した。
一方、入院期間などの指標はベッド管理状況などの影響を受ける可能性があるため、治療成績を見るための指標として採用しなかった。
術前HbA1c高値は術後の予後悪化に関連せず
HbA1cのデータがない症例も合わせて検討すると、術後の死亡率は心臓手術(1万2,199件、30日間死亡率2.2%)と非心臓手術(16万7,376件、同0.9%)とで異なっていたため、解析は両者を分けて行った。
結果、1万3,077件のうち心臓手術が6,393件、非心臓手術が6,684件であった。
心臓手術では術後30日間死亡率に差異はなかったが、非心臓手術では大きく上昇していた。
周術期平均血糖値、術前HbA1c、術後30日間死亡率の3者の関係性を検討すると、術前HbA1cと周術期平均血糖値との間に正の相関はあるものの、術前HbA1cと術後30日間死亡率については、心臓手術では相関がなく、非心臓手術に関しては、有意な負の相関を示した。
一方、周術期平均血糖値については、心臓手術では高血糖および低血糖が、非心臓手術では高血糖が術後30日間死亡率と有意に関連していた。
周術期平均血糖値と術後30日間死亡率の関係性は心臓手術と非心臓手術で異なっており、前者ではU字、後者では線形の関係性を持っている。
心臓手術においては周術期平均血糖値120~160mg/dLで、死亡率が低かった。
なお、死亡率を見る期間を術後30日間でなく、3年あるいは期間の限定をなくす形で検討しても、術前HbA1cと非心臓病手術後死亡率との負の相関は残っていたという。
HbA1cが高いことは手術延期の理由にならない
現在の日本糖尿病学会の手術前血糖管理目標は、
① 尿ケトン陰性。
② ②空腹時血糖値100~140mg/dLまたは食後血糖値200mg/dL以下
―というような内容であり、HbA1cに関しての制約はない。
また、現在、周術期血糖管理についてさまざまな学会が似たようなガイドラインを出している。
例えば、米国糖尿病学会は80~180mg/dLが望ましいとし、
カナダ糖尿病学会では90~180mg/dLが望ましいとしている。
そうした意味では、現時点でもHbA1c高値というだけで手術を月単位で延期する必要はなさそうである。
それどころか、本研究の結果からは、心臓手術ではHbA1cと30日間死亡率に相関はなく、非心臓手術においてはなんと負の相関であった。
HbA1cが高いことは、手術延期の理由にはならないようである。
しかし、本研究の結果で手術の可否に関してHbA1cに縛られなくてもよいということ以上に大切なのは、周術期血糖管理について心臓手術と非心臓手術を分けて考える必要があるかもしれないということである。
本研究では、心臓手術と非心臓手術において周術期平均血糖値と術後30日間死亡率との関係性が異なっていて、前者では明確にU字であり、後者では線形だったのである。
このことは、心臓手術の方が低血糖による死亡リスクの上昇が大きいことを示唆するだろう。
現時点では、周術期血糖管理目標について心臓手術と非心臓手術を明確に分離しているガイドラインはない。
むろん、HbA1cが臨床的に重要な指標であることは否定できないのはいうまでもないのだが。
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