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ケトン食に抗がん作用? [ひとこと養生記]

糖尿病治療食として糖質制限食が広がりつつある

その極端な形であるケトン産生食(ケトン食)に対する関心が世界的に高まっている。

摂取エネルギーの60~90%を脂肪で摂る糖質制限食。

糖・炭水化物の摂取を極端に減らすことにより、体内でエネルギー源として通常使われている糖が枯渇し、代わりに脂肪が分解されてケトン体(体内の脂肪が分解されてできる産物)が生じ、これをエネルギー源として利用する。

ケトン食の治療効果は、難治性てんかんに対してはすでに確立されている。

がんに対しても有効性があるのではないかと、研究が盛んに行われている。

以下は、糖尿病の専門医、山田 悟・北里研究所病院糖尿病センター長が、医学専門紙「Medical Tribune」の最新号へ寄稿した論文の要約。

研究のポイント1:臨床研究での有効性判定は当面不可能か

がん患者に対するケトン食の臨床試験についてシステマチックレビューを実施したのは、韓国・ソウルの崇義女子大のグループである。

研究グループは、PubMed, MEDLINE, Springer Linkといったデータベースに対して、ケトン食、ケトン、がん、腫瘍、腫瘍学といった用語を掛け合わせ、言語制限をかけずに1985年以降の年代限定をつけて検索を行った。

ランダム化比較試験(RCT)、コホート研究を採用し、症例報告や動物実験は除外することとした。

当初、468件の論文がヒットしたが、上記の基準に照らし合わせ、最終的に選択されたのは10件の論文であった。

これらの論文の中に明確なRCTはなく、ほとんどが少人数のcase seriesになっている。

また多くの研究で、既に他の治療法による加療が困難になった末期がん患者が対象とされており、有効性について判定することは不可能だという印象を持たざるをえない。

わが国でもステージIVの進行した大腸がん、乳がんの患者を対象に、前後比較で糖質制限食の有効性を検証しようとする多摩南部地域病院における臨床試験がUMIN-CTRに登録されているが、有効性を検証することは難しいのではなかろうか。

このシステマチックレビューでは、clinicalTrials.gov(米国におけるUMINに当たるもの)に登録されて実施中の臨床試験が13件掲載されているが、当面結論は出なさそうに思われる。

研究のポイント2:基礎研究ではケトン体に対する反応はがん種により異なる

さて、実際の臨床におけるケトン食のがんに対する効果が不確定な中、中国の研究グループががん種によってケトンに対する反応が異なることを示す基礎的なデータを発表した(J Lipid Res2018年2月5日オンライン版)。

研究グループは、33種のがんのモデル細胞を用いて、ケトン体をエネルギー源にするための酵素のmRNAの発現を検討した。

その結果、がん種によって酵素発現に差異があり、最も発現が少なかったのが膵がんのモデル細胞の1つであるPANC-1であり、最も発現が多かったのが子宮頸がんのモデル細胞Helaであった。

そこで研究グループは、培養液のブドウ糖濃度を54mg/dLとやや低めにしておいた中で、0, 5, 10mMでケトン体であるβヒドロキシ酪酸を添加する培養実験をPANC-1とHelaで行った。

その結果、ブドウ糖濃度100mg/dLで通常通りに培養した場合に比較し、PANC-1では細胞増殖が抑制されていたのに対し、Helaでは抑制がβヒドロキシ酪酸濃度依存性に細胞増殖が向上していた。

また、マウスにPANC-1細胞あるいはHela細胞を移植し、その後のマウスの飼育において通常食あるいはケトン食を食べさせたところ、PANC-1を移植されたマウスはケトン食で寿命が延長されたが、Helaを移植されたマウスはケトン食で寿命が短縮してしまった。

こうしたことから、研究グループはケトン体を利用できないがん種に対してのみケトン食の効果を期待できるであろうと結論している。

私の考察:ケトン体利用酵素発現の有無は確認すべき

がん細胞はミトコンドリアでのTCA回路を用いず、細胞質での解糖系からエネルギーを生み出していることをWarburgが報告して以来、極端に糖質を制限して腫瘍のエネルギー源を断つことで抗腫瘍効果が期待できるとされてきた。

しかし、韓国のグループのシステマチックレビューを見ると、臨床現場におけるケトン食の意義は未確立である。

一方、今回の中国のグループのデータは、腫瘍細胞でもケトン体→アセチルCoAという反応さえ生じれば、アセチルCoA→TCA回路というミトコンドリアでの反応を起こせることを示している。

ケトン体→アセチルCoAという反応を起こせるかどうかがケトン体に対するがん細胞ごとの反応性の相違を生むので、がん種によってはケトン食ががんを進行させる可能性すら存在することになる。

実際、がんは必ずしもミトコンドリアを使えないのではなく、増殖の過程で血管新生を起こせるまで低酸素環境下にさらされることが多く、そうした環境に適応しているだけという仮説もあるようである。

今後、臨床研究においてケトン食を取り扱う際には、少なくともがん種がケトン体利用酵素(BDH、OXCT)を発現しているかどうかを確認する必要があるように思われる。

ケトン食のがんに対する有効性:1926年、Warburgは腫瘍細胞が通常の酸素濃度下でもミトコンドリアでのTCA回路を利用せず、細胞質での解糖系でエネルギーを確保していること(Warburg効果と呼ぶ)を報告した。

腫瘍細胞にはミトコンドリアの利用障害があるのではないかと考えられ、健常細胞には脂質やケトン体といったミトコンドリアでエネルギーを得られる栄養素を与え、がん細胞には糖質を届けないようにすればがん治療になるとの仮説が生じ、ケトン食のがんに対する有効性に期待が持たれている。
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