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フグの話 [健康雑談]

 フグの季節だ。

 中国ではフグは河でとれ、豚肉のようにうまいので「河豚」と名づけられたらしい。

 フグのうまさはだれでも知っている。

 同じように―あるいはそれ以上に素人調理のフグの怖さはよく知られている。

 フグの別名「テッポウ」は、ご存じのとおり当たると命がないというシャレだが、長崎県島原地方ではフグを「ガンバ」と呼ぶそうだ。

 ガンバとは棺桶のこと。鉄砲よりオッカナイじゃないか。

 夏目嗽石の『吾輩は猫である』のなかに、天道公平なる人物が苦沙弥先生に呈した手紙にこんな一節がある。

「始めて海鼠(なまこ)を食い出せる人は其膽力に於て敬すべく、始めて河豚を喫せる漢(おとこ)は其勇気に於て重んずべし。
 
 海鼠を食へるものは親鸞の再来にして、河豚を喫せるものは日蓮の分身なり」

 苦沙弥先生は、

「中中意味深長だ。何でも余程哲理を研究した人に違ない。天晴な見識だ」

 と感服しているが、この天道説はおかしい。

 感服した苦沙弥先生もお粗末ではないか。

 ナマコの姿形の気色のよくないのは目で見ればわかる。

 だがフグに毒があることは、先にそれを食って当たった人がいたからわかったわけである。

 毒があることを知らない「漢」がフグを食ったからといって、どうして「其勇気」が重んじられるのか。

 この論理には欠陥があると思う。

 フグ毒の本体は明治42年、東京衛生試験所の田原良純博士によって明らかにされた。

 フグの学名テトロドンと毒のトキシンをくっつけて「テトロドトキシン」と名づけたのも同博士である。

 テトロドトキシンは無色・無味・無臭。純粋のものだと青酸カリの200倍という猛毒だ。

 一種の神経毒で、当たると、早くて30分、遅くとも5時間で手足がしびれ、口がきけなくなり、最後には呼吸困難に陥り、死ぬ。

 毒は、肝臓と皮の裏の粘膜、そして卵巣に最も多く含まれる。

「つまり、フグでさえメスのほうが余分に毒を持ってるわけだな」と発言したところ、

「ところが、精巣と卵巣と両方あるフグもいて、白子だと思って食べたら卵巣が混じっていて当たった人がいる」と、物知りの友人に教えられた。

 なかには身からなにから体中に毒のあるフグもある。厚生労働省は、トラフグ、マフグなど販売できるフグ21種類と、その部位を決めた通知を出している。

 フグの毒は、フグ自身が体の中で作るという「内因説」と、原因はエサにあるという「外因説」が競い合っていた。

 しかし、養殖フグには毒性がほとんどないことから外因説に軍配が上がった。

 フグが好んで食べるヒトデにフグ毒があること、ヒトデがエサにする巻き貝の一種(ボウシュウボラ)の消化管からも同じフグ毒が検出されたことで、いわゆる「食物連鎖」が明らかにされた。

 フグの毒は、フグにとって一種の生体防御物質の役目を果たしている。

 外敵に出遭うと、フグは胃腸の一部に水や空気を入れ腹を膨らませて威嚇し、このとき、皮膚から毒を放出する。

 養殖のフグには毒がないが、味は天然ものに遠く及ばないそうである。

 このことについて、

「きれいなバラにはトゲがある。うまいフグには毒がある」

 と友人は言うが、天然もののフグは、その毒よりも勘定書のほうが怖い。

 いま、フグを食うのには別種の勇気を必要とするようだ。

 新ことわざ=フグは食いたし。おカネは惜しし

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