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酒は肝臓病の「主犯」ではない [「健康常識ウソ・ホント」再録]

健康常識ウソ・ホント(39)

酒は肝臓病の「主犯」ではない


むかしは肝臓病で亡くなると、きまって酒が「犯人」扱いされた。

「あの人、よく飲んだからなあ」

それがもし酒飲みとはいえない人だったら、「飲まない人だったのにねえ…」と不思議がられたりもした。

いや、いまでもその古い通念はりっぱに残っているようだ。近刊の小説のなかにこんな会話を見つけた。

「確か昨年お亡くなりになったとか」
「そうなんです。肝臓癌でした。お酒をそんなに飲む人ではなかったんですけど、なぜかやられてしまったんです」(林真理子作『マイストーリー』)

肝臓がんは、肝臓に初発する原発性肝臓がんと、ほかの臓器のがんが肝臓に移ってきた転移性肝臓がんに分けられる。

原発性肝臓がんの原因は90%以上、肝炎ウイルスである。

まだA型肝炎とB型肝炎のウイルスしか見つかってなく、未発見のウイルスを「非A・非B型」と呼んでいた1970年代初めからそのことはわかっていた。

アルコール性脂肪肝炎(ASH=アッシュ)や非アルコール性脂肪肝炎(NASH=ナッシュ)、薬剤性肝炎などが進行した肝硬変や肝臓がんもあるが、日本人ではそれは10%程度にすぎない。

肝炎の原因となる肝炎ウイルスは、A型からE型まで5種類ある(F型、G型、TT型の発見も報告されているが確定してない)。

A型とE型は、ウイルスに汚染された水や食物から経口感染する。

発熱、全身倦怠感、食欲低下などの症状や黄疸が出るが、一度かかると免疫ができて二度とかからない。

B型、C型、D型は血液や体液を介して感染する。

が、D型は日本には存在しない特殊なウイルスなので、日本人にとって実際的な問題となる肝炎はB型とC型である。

B型肝炎は、乳幼児期に感染するとキャリア(ウイルスの持続感染者)になる確率が高い。

成人の感染の多くはA型などと同じ一過性で終わるが、まれに劇症肝炎を発症、命にかかわる。

キャリアの母親からの感染を防ぐための赤ちゃんへのワクチン接種が1986年に始まり、キャリアになる子はいなくなった。

2016年からはすべての0歳児へのB型肝炎ワクチンの定期接種が実施される。

近い将来、B型肝炎ウイルスが原因の肝臓病は消滅するだろう。

残るはC型のみで、これが最も厄介だ。

感染した人の70%が慢性肝炎になり、適切な治療を受けないと、10年から30年の間に肝硬変、肝臓がんへと進行する。

原発性肝臓がんの原因の70%以上がC型、20%がB型である。

現在、C型肝炎ウイルスの感染者は約190万人~230万人と推定され、その8割以上が40歳以上、高齢者ほど感染率が高いことがわかっている。

そのうち約150万人は、自分が感染していることを知らず、治療の機会を逃していると考えられている。

高齢者ほど感染率が高いのは、献血時のウイルスのチェックが行われるようになったのが、B型は1972年、C型は92年からなので、それ以前の輸血による感染者が多いためである。

92年以前に輸血や血液製剤の治療を受けた人は、ウイルス検査を受けて感染の有無を確かめるべきである。

結果が陽性なら早期治療の機会が得られるし、陰性だったら肝臓がんの心配はまずしなくてもよい。

─というところで、話は戻る。

酒が肝臓病の「主犯」とされたのは、長きにわたる誤解であった。

では、多くの肝臓病に関して、酒は無罪なのか? 残念ながらそうではないようだ。

適量を超える飲酒を長く続けていると、最初は脂肪肝になり、それでも飲み続けていると肝炎になり、さらに飲み続けると肝硬変になり、ついには肝臓がんになる。

C型肝炎ウイルスに感染した肝細胞にアルコールを加えると、特殊なたんぱく質の遺伝子が活性化し、ウイルスの増殖が起こり、肝炎が発症することが実験で確かめられている。

酒の飲み過ぎがC型肝炎を発症させたり、病状を悪化させたりするわけだ。

酒は重大な「共犯」といわねばならない。

肝炎ウイルス検査が陽性であったら、C型肝炎はもとよりB型肝炎の人も、禁酒すべきだと専門医は強調している。


健康総合ニュースサイト「One's Life」2015年3月28日掲載の「コラム」より再録。
 同サイトは、美容・ヘルスケア・妊娠・介護福祉に関するニュースや体によい食事のレシピなど、健康・医療に関する情報を日々発信している。
拙稿の過去の掲載分は同サイトの「特集」→「コラム」でお読みいただけます。
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