死に方の研究 [エッセイ]
求ム! 美女刺客
久里洋二さんが、こないだ、フェイスブックに、書いていた。
全文、下のごとし。
(死を考える)
後3年で90歳、そろそろ死を考える年になった。
我が家のベッドで死にたくない。できたら銀座四丁目の交差点で美女に心臓を刺されて死にたいな。
さあ、後の始末はどうなるか想像してください。
面白いですよ。
ええ、ええ、じつに面白い!
久里さんらしい洒脱な達観に感服し、なるほど、この手があったか、と、教えられ、わるくないな、と、首肯した。
当方もしばらく前から同じテーマについて熟慮思案中であったからだ。
結果、小生が到達したのは、
一にポックリ、二に肺炎、三、四がなくて五に野垂れ死に。──である。
しかし、考えてみるとこれが案外難しい。
一を実現するには、超重症の脳卒中か心臓病、あるいは中枢性睡眠時無呼吸症といった病気の急性発作の先行が必要だが、必ずうまくいくとは限らない。
ヘタすると、寝たきりの植物状態になりかねない。進歩いちじるしい現代医術のおせっかいというか、ありがた迷惑というか。
これを回避すべく健康保険証のケースには「いかなる延命治療も拒否します」と記したカードを同封してある。
人事不省の患者の意思が尊重されることを願うのみである。
二はうまく風邪をひいて、うまく肺炎になれると、わりあい達成率は高いようだ。
長く寝込むこともなく、痛くもかゆくもなく、安らかな永眠が得られる。絶好の昇天術である。
年寄は風邪引き易し引けば死す 草間時彦
肺炎は老人の最後の友である ウイリアム・オスラー
ところが、当方、南方生まれ(屋久島・永田村)の希代の寒がり、冬になると股引き3枚、毛糸の五本指靴下重ねばき、綿入りどてらにくるまり、よんどころない外出のさいは衣類に貼るカイロ、毛糸の頭巾、襟巻き、オーバーコートでもって完全武装、よたよた歩き、タクシーが来るとつい手を挙げてしまう。貧乏も寒さには勝てない。
そんなワケでなかなか風邪をひくチャンスがないのである。
実さいこの何年か、風邪ひいてない。薬箱には「葛根湯」がどっさり残っている。
残るは五だが、これを成就するには本物の哲人、宗教家の大悟がなくては叶うまい。
見栄っ張りの小心、臆病、年中心細くおどおどと生きている小男じじいにその覚悟が自得できるわけがない。百まで生きても無理だろう。
となると、俄然、久里さん方式への願望が激しく強くなる。
それがうまくいったら、テレビ・ラジオ・新聞・週刊誌、あらゆるマスメディアに、わが名が生まれて初めて登場するだろう。
家門の誉れ、死に花咲かせる、とは、このことだろう。
求む! 銀座四丁目美女刺客!
ただ、ここに問題が一つ、いや二つ、あるんだよね。
一つは費用(彼女への謝礼)の問題。久里さんと違って、当方は極貧の身、彼女のご要望に応じられるか、どうかである。
さいわい、哀れな当方の事情を、無欲で慈悲深い美女がご理解くださり、快諾が得られたとして、さらなる難題は、久里さんも懸念しておられる「後の始末」である。
腕も知恵も人並みすぐれた彼女のことゆえ、首尾よくその場を脱し、現行犯逮捕を免れたとしても、警視庁には特命係の杉下右京がいるではないか。
果たして右京の目からも逃げおおせて、めでたし、めでたしとなるのなら言うことないのだが、万が一、「犯人は、あなたです!」ってなことになったら、一巻の終りだ。
まさに恩を仇で返すようなもので、万死に値するとはこのことだけど、もう死んじゃってるんだから、死んでお詫び、ってわけにもいかない。
うまく死ねたなあ! なんて、天上でうかうか昼寝などしていられない。
なんのためにコロしてもらったのか、わからなくなる。
さあ、どうする!?
いやあ、難しい! 難しい!
どうも、いましばらくは生き恥さらして生きるしかないのかなあ。
久里洋二さんが、こないだ、フェイスブックに、書いていた。
全文、下のごとし。
(死を考える)
後3年で90歳、そろそろ死を考える年になった。
我が家のベッドで死にたくない。できたら銀座四丁目の交差点で美女に心臓を刺されて死にたいな。
さあ、後の始末はどうなるか想像してください。
面白いですよ。
ええ、ええ、じつに面白い!
久里さんらしい洒脱な達観に感服し、なるほど、この手があったか、と、教えられ、わるくないな、と、首肯した。
当方もしばらく前から同じテーマについて熟慮思案中であったからだ。
結果、小生が到達したのは、
一にポックリ、二に肺炎、三、四がなくて五に野垂れ死に。──である。
しかし、考えてみるとこれが案外難しい。
一を実現するには、超重症の脳卒中か心臓病、あるいは中枢性睡眠時無呼吸症といった病気の急性発作の先行が必要だが、必ずうまくいくとは限らない。
ヘタすると、寝たきりの植物状態になりかねない。進歩いちじるしい現代医術のおせっかいというか、ありがた迷惑というか。
これを回避すべく健康保険証のケースには「いかなる延命治療も拒否します」と記したカードを同封してある。
人事不省の患者の意思が尊重されることを願うのみである。
二はうまく風邪をひいて、うまく肺炎になれると、わりあい達成率は高いようだ。
長く寝込むこともなく、痛くもかゆくもなく、安らかな永眠が得られる。絶好の昇天術である。
年寄は風邪引き易し引けば死す 草間時彦
肺炎は老人の最後の友である ウイリアム・オスラー
ところが、当方、南方生まれ(屋久島・永田村)の希代の寒がり、冬になると股引き3枚、毛糸の五本指靴下重ねばき、綿入りどてらにくるまり、よんどころない外出のさいは衣類に貼るカイロ、毛糸の頭巾、襟巻き、オーバーコートでもって完全武装、よたよた歩き、タクシーが来るとつい手を挙げてしまう。貧乏も寒さには勝てない。
そんなワケでなかなか風邪をひくチャンスがないのである。
実さいこの何年か、風邪ひいてない。薬箱には「葛根湯」がどっさり残っている。
残るは五だが、これを成就するには本物の哲人、宗教家の大悟がなくては叶うまい。
見栄っ張りの小心、臆病、年中心細くおどおどと生きている小男じじいにその覚悟が自得できるわけがない。百まで生きても無理だろう。
となると、俄然、久里さん方式への願望が激しく強くなる。
それがうまくいったら、テレビ・ラジオ・新聞・週刊誌、あらゆるマスメディアに、わが名が生まれて初めて登場するだろう。
家門の誉れ、死に花咲かせる、とは、このことだろう。
求む! 銀座四丁目美女刺客!
ただ、ここに問題が一つ、いや二つ、あるんだよね。
一つは費用(彼女への謝礼)の問題。久里さんと違って、当方は極貧の身、彼女のご要望に応じられるか、どうかである。
さいわい、哀れな当方の事情を、無欲で慈悲深い美女がご理解くださり、快諾が得られたとして、さらなる難題は、久里さんも懸念しておられる「後の始末」である。
腕も知恵も人並みすぐれた彼女のことゆえ、首尾よくその場を脱し、現行犯逮捕を免れたとしても、警視庁には特命係の杉下右京がいるではないか。
果たして右京の目からも逃げおおせて、めでたし、めでたしとなるのなら言うことないのだが、万が一、「犯人は、あなたです!」ってなことになったら、一巻の終りだ。
まさに恩を仇で返すようなもので、万死に値するとはこのことだけど、もう死んじゃってるんだから、死んでお詫び、ってわけにもいかない。
うまく死ねたなあ! なんて、天上でうかうか昼寝などしていられない。
なんのためにコロしてもらったのか、わからなくなる。
さあ、どうする!?
いやあ、難しい! 難しい!
どうも、いましばらくは生き恥さらして生きるしかないのかなあ。
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