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猫・無駄話 [エッセイ]

 漱石&文彦&龍之介の猫

猫と聞いて、すぐ頭に浮かぶのは、夏目漱石の「吾輩は猫である」だ。

「名前はまだ無い」と登場し、ついに名無しのまま、最後はいたずらで飲んだビールに酔っぱらって、水がめに落ちて昇天した。

 後にも先にもあれくらい有名な猫はいないだろう。

 もうひとつ、猫で思い出す挿話─。

 日本最初の国語辞典『言海』の猫の語釈は、

「ねコ 猫[ねこまノ下略。寝高麗ノ義ナドニテ、韓国渡来ノモノカ。─略─。]人家ニ畜ウ小サキ獣、人ノ知ル所ナリ。温柔ニシテ慣レ易ク、又能ク鼠ヲ捕フレバ畜フ。然レドモ窃盗ノ性アリ。形、虎ニ似テ、二尺ニ足ラズ、性、睡リヲ好ミ、寒ヲ畏(おそ)ル。毛色、白、黒、黄、駁等、種々ナリ。─略─」というものだった。

 これを、漱石の弟子の芥川龍之介が面白がった。

 ─成程猫は膳の上の刺身を盗んだりするのに違ひはない。が、これおしも「窃盗ノ性アリ」と云ふならば、犬は風俗壊乱の性あり、燕は家宅侵入の性あり、蛇は脅迫の性あり、蝶は浮浪の性あり、鮫は殺人の性ありと云つても差支へない道理であらう。按ずるに「言海」の著者大槻文彦先生は少くとも鳥獣魚貝に対する誹譭の性を具へた老学者と見える。(1924=大正13=年刊『澄江堂雑記』)。

 文彦先生、これを気にされたのか、『言海』を増補した『大言海』(1932~37年刊)からは、

「然レドモ窃盗ノ性アリ」というユーモラスな1行は削られている。ニャンとも惜しい!

 大槻文彦が16年にわたる心血を注いだ『言海』の刊行は、1889~91(明治22~24)年、漱石が「猫」を書いたのは1905(明治38)年から翌年にかけてだ。

 机上には『言海』が載っていたはずだが、「ねコ」の項は見なかったのか?

 見ていたら、漱石流の鋭い諧謔が読めただろうに、これまたニャンとも惜しいことではある。
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