薪をはこべ [エッセイ]
未曾有の厄災を重たく引きずりながら年がくれようとしている。
少し前の企業情報誌に寄稿した拙文(原題は「秋から冬へ、シニアの備え」)をここに再録したい。
秋です。
ことしはひとしお秋風が身にしみるようです。
秋が来ると、思い出す詩があります。
三好達治の『汝(なれ)の薪(まき)をはこべ』という詩です。
春逝き
夏去り
今は秋 その秋の
はやく半ばを過ぎたるかな
──と、はじまり、
薪をはこべ
ああ汝
汝の薪をはこべ
─略─
いまはや冬の日はまぢかに逼(せま)れり
──と、つづき、
やがて雪ふらむ
汝の国に雪ふらむ
きびしき冬の日のためには
炉(ろ)をきれ
竈(かまど)をきづけ
孤独なる 孤独なる 汝の住居を用意せよ ─略─
汝の薪をとりいれよ
ああ汝
汝の冬の用意をせよ
──と、結ばれるやや長い詩です。
いまなお30万人を超える人が避難生活を続ける、北の被災地に雪ふる冬が迫っています。
「どじょう内閣」よ、薪をはこべ、冬の用意をせよ、北の地へ、薪をはこべ。
*
……冬への備え、みなさまも、しっかりなさってください。
冬の病気といえば、まず風邪、インフルエンザ、そして肺炎(これが最大の難敵)です。
肺炎は、日本人の三大死因といわれた、がん、心臓病、脳卒中に次ぐ4位でしたが、2012年に脳卒中を追い抜き、第3位になりました。
肺炎で亡くなる人の95%は高齢者で、超高齢者の死因を見ると、がんよりも、心臓病と肺炎のほうが多く、百歳以上では優にがんの3倍を超えています。
百寿達成を目指すなら、心臓と肺に気をつけなければいけません。
肺炎は、細菌やウイルスによる肺の炎症で、元気な人が風邪をこじらせたりしてなる「市中肺炎」と、入院治療中の人が合併症として起こす「院内肺炎」があり、高齢者では気管や肺の中に異物が入り込む「誤嚥(ごえん)性肺炎」も、かなり多くみられます。
市中肺炎の原因となる病原体は、肺炎球菌、インフルエンザウイルス、レジオネラ菌……など十指に余るほどですが、ダントツに多いのが、肺炎球菌です。
しかし、これは肺炎球菌ワクチンの接種で防ぐことができます。
日本呼吸器学会は、65歳以上の人、糖尿病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、ぜんそくなどをもっている人は年齢に関係なく、肺炎球菌ワクチンの接種(1回接種で5年以上効果持続)を ──と、勧めています。
2009年に発足した「肺炎予防推進プロジェクト」は、「肺炎で死にかけた」という俳優の中尾彬さんが「肺炎予防大使」となり、65歳以上の肺炎予防の重要性と予防法の啓発活動を展開してきました。
結果、活動前と比べて、肺炎球菌ワクチンの接種者数は約2倍に増加したそうです。
でも全国平均の推定接種率はまだ約12%でしかないのが現状です。
本年からは、加賀まりこさんを新肺炎予防大使に迎え、シニアのライフスタイルをより積極的にサポートする「シニアの備え」普及運動を進めています。
先ごろ行われた記者発表の就任式で、加賀さんは、
「私は女優という職業柄、からだのメンテナンスには人一倍気を使ってきましたが、中尾さんの肺炎体験談を聞くまで肺炎球菌ワクチンの存在は全く知りませんでした。
知らないのはもったいないことだと思います。
早速私もワクチンを接種しましたが、今後、肺炎予防大使として、肺炎予防の重要性と肺炎球菌ワクチンを認知してもらえるよう頑張っていきたいと思います」と話しました。
*
シニアと同じように肺炎予防の重要性が高いのは、乳幼児です。
乳幼児を襲う「細菌性髄膜炎」は、発症すると、約3割が死亡または後遺症を負う怖い病気です。
細菌性髄膜炎の主な原因菌は、インフルエンザ菌b型(ヒブ)と肺炎球菌です。
ヒブワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンで予防できます。
接種は生後2カ月から受けられます。
小児科医などで作る『「VPD(ワクチンで防げる病気)を知って、子どもを守ろう。」の会』によると、小児の予防接種のポイントは、「受けられる時期がきたらすぐ受ける」ことです。
優先すべきは、ヒブ、肺炎球菌の2種と、三種混合(ジフテリア+破傷風+百日ぜき)、そして感染力の強い胃腸炎を起こすロタウイルスのワクチン接種といわれます。
ぜひ早めに小児科の先生にご相談なさってください。
(『絆』vol31掲載「平成養生訓30:秋から冬へ シニアの備え」=株式会社心美寿有夢発行より)
少し前の企業情報誌に寄稿した拙文(原題は「秋から冬へ、シニアの備え」)をここに再録したい。
秋です。
ことしはひとしお秋風が身にしみるようです。
秋が来ると、思い出す詩があります。
三好達治の『汝(なれ)の薪(まき)をはこべ』という詩です。
春逝き
夏去り
今は秋 その秋の
はやく半ばを過ぎたるかな
──と、はじまり、
薪をはこべ
ああ汝
汝の薪をはこべ
─略─
いまはや冬の日はまぢかに逼(せま)れり
──と、つづき、
やがて雪ふらむ
汝の国に雪ふらむ
きびしき冬の日のためには
炉(ろ)をきれ
竈(かまど)をきづけ
孤独なる 孤独なる 汝の住居を用意せよ ─略─
汝の薪をとりいれよ
ああ汝
汝の冬の用意をせよ
──と、結ばれるやや長い詩です。
いまなお30万人を超える人が避難生活を続ける、北の被災地に雪ふる冬が迫っています。
「どじょう内閣」よ、薪をはこべ、冬の用意をせよ、北の地へ、薪をはこべ。
*
……冬への備え、みなさまも、しっかりなさってください。
冬の病気といえば、まず風邪、インフルエンザ、そして肺炎(これが最大の難敵)です。
肺炎は、日本人の三大死因といわれた、がん、心臓病、脳卒中に次ぐ4位でしたが、2012年に脳卒中を追い抜き、第3位になりました。
肺炎で亡くなる人の95%は高齢者で、超高齢者の死因を見ると、がんよりも、心臓病と肺炎のほうが多く、百歳以上では優にがんの3倍を超えています。
百寿達成を目指すなら、心臓と肺に気をつけなければいけません。
肺炎は、細菌やウイルスによる肺の炎症で、元気な人が風邪をこじらせたりしてなる「市中肺炎」と、入院治療中の人が合併症として起こす「院内肺炎」があり、高齢者では気管や肺の中に異物が入り込む「誤嚥(ごえん)性肺炎」も、かなり多くみられます。
市中肺炎の原因となる病原体は、肺炎球菌、インフルエンザウイルス、レジオネラ菌……など十指に余るほどですが、ダントツに多いのが、肺炎球菌です。
しかし、これは肺炎球菌ワクチンの接種で防ぐことができます。
日本呼吸器学会は、65歳以上の人、糖尿病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、ぜんそくなどをもっている人は年齢に関係なく、肺炎球菌ワクチンの接種(1回接種で5年以上効果持続)を ──と、勧めています。
2009年に発足した「肺炎予防推進プロジェクト」は、「肺炎で死にかけた」という俳優の中尾彬さんが「肺炎予防大使」となり、65歳以上の肺炎予防の重要性と予防法の啓発活動を展開してきました。
結果、活動前と比べて、肺炎球菌ワクチンの接種者数は約2倍に増加したそうです。
でも全国平均の推定接種率はまだ約12%でしかないのが現状です。
本年からは、加賀まりこさんを新肺炎予防大使に迎え、シニアのライフスタイルをより積極的にサポートする「シニアの備え」普及運動を進めています。
先ごろ行われた記者発表の就任式で、加賀さんは、
「私は女優という職業柄、からだのメンテナンスには人一倍気を使ってきましたが、中尾さんの肺炎体験談を聞くまで肺炎球菌ワクチンの存在は全く知りませんでした。
知らないのはもったいないことだと思います。
早速私もワクチンを接種しましたが、今後、肺炎予防大使として、肺炎予防の重要性と肺炎球菌ワクチンを認知してもらえるよう頑張っていきたいと思います」と話しました。
*
シニアと同じように肺炎予防の重要性が高いのは、乳幼児です。
乳幼児を襲う「細菌性髄膜炎」は、発症すると、約3割が死亡または後遺症を負う怖い病気です。
細菌性髄膜炎の主な原因菌は、インフルエンザ菌b型(ヒブ)と肺炎球菌です。
ヒブワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンで予防できます。
接種は生後2カ月から受けられます。
小児科医などで作る『「VPD(ワクチンで防げる病気)を知って、子どもを守ろう。」の会』によると、小児の予防接種のポイントは、「受けられる時期がきたらすぐ受ける」ことです。
優先すべきは、ヒブ、肺炎球菌の2種と、三種混合(ジフテリア+破傷風+百日ぜき)、そして感染力の強い胃腸炎を起こすロタウイルスのワクチン接種といわれます。
ぜひ早めに小児科の先生にご相談なさってください。
(『絆』vol31掲載「平成養生訓30:秋から冬へ シニアの備え」=株式会社心美寿有夢発行より)
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