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あほんだら日本語格闘記(2) [プロテスト]

 2011年7月2日
 バカばかハゲ論争

 26年余もつづけてきたコラムの連載を、経費面で成り立たない(「配信するごとに赤字になる」)という理由で、打ち切りを通告された。
 では、赤字にならないような原稿料での継続を…と、いささか卑屈な申し入れをした。それに対する返答は、

「今まででも安価で原稿を書いていただいているのに、その半額近くで書いていただくのは申し訳ないし、逆にその値段では失礼になる、継続してもその値段では、テンションの維持は難しいなどの意見が出ました。ご提案いただいたのにもかかわらず、お力添えできなくて申し訳ないのですが、やはり6月で終了することとなりました。」というものだった。

「今までも安価」とは、この期に及んでよく言ってくれるではないか。以前に一度、原稿料を上げてくれと要請したとき、「あなたの原稿料はけっして安いほうではありません」と突っぱねたことを忘れたのか。なんと便利な口であることか。

「その値段ではテンションが下がる」というのは、原稿を書くことを知らない人間の台詞としか思えない。

 原稿を書くときに念頭にあるのは、無能ながら(むしろそれゆえ)少しでも完成度の高い作品にしたいという思いだけで、原稿料の額が「テンションの維持」(ひいては原稿の質)にかかわるというようなことは、決してない。それが原稿を書くということの本質だと思う。

 日常、原稿を書き、読むことを仕事としている編集者でありながら、そんなこともわからないのだろうか。
 しかし、赤字にならない程度に原稿料を切り下げても中止したいというのだから、中止の理由は経費面のことだけではない、それ以外に大きな理由があることが推察される。それは、なんなのか?

 思い当たる理由は、ただ一つ。当方と編集者(つまりはG通信社)との間でしばしば繰り返されてきた、原稿の文章(用字・用語)についての意見の相違である。
 どのような用字・用語について、意見が違ったのか、いくつか具体例をあげると、「バカ」「ハゲ」「肥満児」などがいけない、というのが、それである。

 原稿に書いた「バカな話」が、送られてきた掲載紙では「ばかな話」になっている。どうして? と聞いたら、「バカ」は「侮蔑的な表現なので…」という返事だった。

 カタカナだと「侮蔑的」で、ひらがなならよしとされるのも、わかりにくい理屈だが、偶然にもその前の日のある新聞の紙面には、まさにその「バカ」が、見出しに使われていたのである。

 作家の吉岡忍氏の、「人々が個々ばらばらに暮らすようになった現実」を指摘した論説のなかに、
 ─取引先や同僚のものわかりが悪い、とけなすビジネスマンの言葉、友だちや先輩後輩の失敗をあげつらう高校生たちのやりとり、ファミレスの窓際のテーブルに陣取って、幼稚園や学校をあしざまに言いつのる母親同士の会話、相手の言い分をこき下ろすだけのテレビの論客や政治家たち……。
 ここには共通する、きわだった特徴がある。はしたない言い方をすれば、どれもこれもが、「自分以外はみんなバカ」と言っている─という一節があり、その記事につけられた、ゴシック文字の三段見出しが、
「自分以外はバカ」の時代 ─だった。(朝日新聞2003年7月9日夕刊)

「そんなことを言うんだったら、昨日の朝日の文化面を見てよ。あれはどうなの?」と言ったら、
「全国紙と地方紙は違います。うちは地方紙に記事を提供する通信社ですから、『記者ハンドブック』に準拠します」と言い張る。

『記者ハンドブック』というのは、共同通信社発行の「新聞用字用語集」だ。それを見ると、
 ばか (馬鹿、莫迦)→ばか 火事場のばか力、ばかげた、ばか正直、ばかにする、ばかばかしい、ばか話、ばからしい、ばか笑い[注]「ばかでもチョンでも」「ばかチョンカメラ」「ばかの一つ覚え」などの表現は使わない。 ─とある。

 なるほど、「バカ」という表記はどこにもない。だからダメなんだと言うのだろう。なんだかまるで規則一点張りの小役人みたいではないか。

 では、ハゲ」はどうか?
『記者ハンドブック』には、
 はげる (禿げる)→はげる とあるが、ハゲはよくないとは、どこにも書いてない。その小文は、自分自身の頭髪の過疎状況について記したものだったから、
「ハゲ本人が、自分で〝ハゲ〟と言うのがなぜいけない」とジョークまじりで言ってやったら、
「『ハゲ』は不快用語です。いかに自分のことでも記事を読んだら『ハゲ』という言葉を不快に思う読者がいるので、配信できないと判断しました」というのである。

 これには思わず笑ってしまった。ハゲが、不快用語だなんて、ハゲに失礼ではないか。
 だったら、次のような文例はどう受け取ったらいいのだ。
 これも朝日新聞2004年3月8日夕刊の「生活面」の記事で、のっけからこんなふうに始まっている。

「最近ハゲが気にならない?」。同僚の女性記者(30)が聞いてきた。─略─「かっこいいハゲ。多いよね」。確かに。サッカーW杯で来日したハゲの外国人選手はみな強くて格好よかった。俳優ではブルース・ウィルス、ショーン・コネリー、エド・ハリス。日本にも竹中直人、西村雅彦がいる。きっと「ラブハゲ」は街中にいるはずだ。
 ─中略─
 女性はどう見ているのか。
 人気漫画「ハゲまして!桜井くん」(講談社)の作者、高倉あつこさん(41)は「男の魅力は髪のあるなしではなく、自信のあるなし。髪の量は関係ない」。フリーライターのUMIKOさん(36)もサイトで熱く応援する。「ハゲがかっこよくなれば、日本はもっと元気になる!」
 ─で、この記事の見出しは、
「髪がある? だから何なんだ ラブ ハゲ」というのである。

「ハゲ」は「不快用語」だから、使ってはいけないというのだったら、このような記事は成立しないではないか。

 石橋を叩いて渡らない自主規制もここまでくると、コッケイというほかない。

 そして、肥満児がなぜいけないか。それについてのメールのやりとりは、こうである。

 ─さて、先日いただいた、原稿につきまして、「小児メタボ」「やせの問題」のなかに「肥満児」「低体重児」という言葉が出て来ます。

 しかし、「記者ハンドブック」によりますと新聞では「○○児」という言葉は、差別につながるのでなるべく使わないで下さいと記してあります。ですので、新聞社に出す前に「肥満の子ども」「低体重の子ども」に直させて頂きますがよろしいでしょうか?
 なお、「肥満傾向児」という言葉は文部科学省の言葉なのでそのまま引用させて頂きます。

 ─と、お決まりの「記者ハンドブック」が出てきたので、それを開いてみたら、こうある。
 私生子、私生児→非嫡出子
{注}歴史的な記述でも「私生児」は使用しない。「非嫡出子」も法律上のケース以外は「○○さんの子」などとする。
 混血児、合いの子→使用を避ける。なるべく「父が日本人で母がドイツ人という国際児童」などと具体的に書くよう心掛ける。
{注}「鍵っ子」「もらいっ子」「精薄児」など「○〇っ子」「○○児」は子どもにレッテルを貼ることになりがちなので安易に使わない。「ちびっ子」もなるべく使わない。

 なるほど。これを読めば、一も二もなく、「肥満児」「低体重児」はいけないということになるのだろう。
 だが、それを「肥満の子ども」や「低体重の子ども」に変えると、なぜ「レッテルを貼る」ことや「差別につながる」ことにはならないのか? よけい差別やレッテルの感じが強調されるのではないか? 肥満児や低体重児が差別語だったら、「肥満の子ども」「低体重の子ども」は差別表現ではないか。納得できなかったので、次のような返信メールを送った。

 ○○さま。
 肥満児、低体重児は、記者ハンドブックのいう「○○児」のカテゴリーからは外れた用語だと思います。
 手元の朝日新聞4月2日朝刊の一面トップ記事、「子供にメタボ基準」の前文には「……小中学生でも肥満児なら5~20%はあてはまる可能性があるという」とあり、本文には、「肥満児(身長と体重から換算する肥満度が20%以上の子ども)と、肥満児も含めた一般の子どもを数百人ずつ調べたところ、病院や地域などにより肥満児の5~20%、一般の子の0.5~3%が同症候群と診断された。」と、終始「肥満児」で通しています。
 なお、低体重児は、医学的慣用語です。以上、お返事まで。原稿は元に戻してください。
 ─というようなやりとりが、何度も何度も繰り返された結果、とうとう耐えられなくなったのだろう。

「大変心苦しいのですが、上半期が終わる6月下旬をもちまして、『健康歳時記』の配信を中止することとなりました。」と言ってきた。
 なにが「心苦しい」ものか。うるさいライターと縁が切れて、サバサバしているだろう。だが、こっちはそうはいかないよ。
 この話、つづけます。次回は7月7日。


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